素直。
「俺、最低な奴なんだ」
少年は背を向けたまま、青年に言う。
その声は震えていた。
「あいつがいることで俺、救われたんだ。俺の悲しみなんて、こいつに比べたら大したことないって。どこかであいつを悲観してた。俺の」
少年が勢いよく振り返る。
今にも泣きだしそうな顔。
苦しげな声音。
「俺のあいつへの気持ちは優しさなんかじゃなかった。ただの、ただの同情だった」
静かに耳をかたむける青年の前で、少年は感情にまかせて早口で話す。
「あいつが必死で過去を背負って生きてるのに、その姿を可哀相だと思った。強いんだ、俺とは違うなって思ってた。ずっと、ずっと頑張ってたのに、無理してたのに。分かってやれなかった……っ」
「それでも、彼女は君を好いていたし、笑っていたよ」
囁くように諭すように青年が口を開く。
その優しさに触れるのを躊躇うように少年は顔を歪めた。
「……そんなこと」
「嘘だって?」
少年の言葉を先回りして、青年は問う。
「君を嫌いになるって?」
「このことを知ったら……」
「彼女はそんな人かな?」
少年は無言で首を振る。
それでも、その表情は暗いままだった。
「例え、彼女に嫌われたとしても、君が今そんなに苦しいのはどうして?それは彼女が大切な人だからじゃないのかい?」
唇を噛んで俯く少年に、ため息を零し青年は歩み寄る。
そしてその頭に手を置いた。
「何をそんなに自分を責めるのか理解に苦しむよ。ただね、最低だと自分を責めるぐらいなら、謝ればいい。正直に話せばいい。そう思ってしまったのは変わらないけど、今からなら変われるだろう?」
顔を上げた少年は目を瞬かせた。
青年はいたずらっぽく笑う。
「今頃、一人で淋しがってるよ」
早く行ってあげなきゃ――青年の言葉を聞く前に少年は走り出していた。
その背中に青年は苦笑しつつ呟く。
「本当に素直なんだから」