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青年と少年と少女と。  作者: シュレディンガーの羊
【本編】
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2/5

悪夢。



窓の外は闇に染まり、ほのかに輝く月がひとつ。

明かりの消えた部屋を、淡い月明かりが頼りなく照らす。

窓際の椅子には青年が腰掛けていた。

青年は夜の静寂に溶け込むように、ただ沈黙している。


「とても残酷な夢を見たわ」


不意に少女が呟いて、青年はそっと振り返った。

ベッドから体を起こし、少女は悲しげに微笑する。

目を覚ました彼女に彼が問う。


「どんな夢を見たの?」

「とても幸せな夢よ。現実だったらと心から思い願うほど満ち足りた夢……」


少女は目を伏せた。

青年に少女の顔が見えなくなる。

ほんの少し無言の時が広がった。

青年は目を細めて少女の言葉を待つ。

彼女は膝の上で手を握りしめ、自嘲気味に薄く笑った。


「ねぇ、これほど残酷な夢ってあるかしら」


華奢な肩が笑いに合わせて、震える。

それは泣いているようにも見えた。


「いっそ怖い夢ならよかった。早く目を覚ましたいと思える夢。幸せな、優しい夢なんて悲しいだけだわ」


いつもの少女らしくない酷く歪んだ声音。

嘲笑うように吐き出された台詞。

そんな少女を青年は静かに見つめる。

優しげな眼差しで口を挟まずに。

顔を上げた少女は、その優しい瞳と目があって――涙が頬を伝い、握りしめた拳に跳ねた。

震える唇が頼りない音を紡ぐ。


「本当は嫌なの。現実だったらよかったって心から願う私が嫌なの。目が覚めなければよかったと思った私が嫌なの。現実を拒絶しようとした自分が恐ろしいの……っ」


涙は次々と溢れ、白いシーツにいくつもの染みを作る。


「夢を愛おしく思う私が怖い。生きることは怖いわ。過去を忘れて生きるなんて私には出来ない。私はなんで一人で生き残ったの……!?」


少女は頭を抱えて泣き崩れた。

青年は何も言わない。

慰めも共感も今の彼女には届かないと知っているから。

泣きつづける少女を、青年は静かに見守っていた。

夜の帳がおりていく。

涙の少女の上にも、沈黙の青年の上にも。等しく訪れていく。




一話ずつのお話です。

番外編のようなものです。

いつか、本編が書けたらいいなと思っています。


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