陰へと消えた彼女へ
視点があやふやに‥‥
すみません。
赤髪青年の方ぽいです。←
「――んな野蛮な奴らの言うことなんて聞くわけないじゃない。」
ボソッと私はそう漏らした声は以外とハッキリ聞こえた。
まさか城内でまでこんな言葉を吐くやからが居るなんて思わなかった。
こういう類いの者は十中八九卑劣なことしか考えていない。
だが、他の者の瞳が鈍よりと濁っている中、先頭を行く男のそれだけは濁っていなかった。
比較するものがあるからこそ、それは一目瞭然だ。
人の心は瞳に現れる。
良く耳にする言葉だ。
「ねえ。」
反応は――
――ない。
「ねえ。」
「‥‥‥?」
「あ〜もう。貴方のことよ。」
“貴方”の所を特に強調していった。
指された本人はビックリしている。
「先頭の人以外になら手を出していいから。どうにかしましょう。」
すっかり戦闘意欲丸出しだった彼に。
その言葉がよっぽど以外だったのだろう。
当然だ。
私は女性であって騎士ではない。それは外見で見ての通り。
しかし私の発した言葉は、彼に頑張って、とエールを送るものではなく、指示を出し、同じように戦闘意欲を剥き出していた。
嘘ではない証拠に、瞳に彼等に対する敵意が剥き出しにされていた。
「まさか、あいつらを相手にするつもりですか!?」
「あら、そう聞こえなかった?」
疑問を疑問で返す私。
「いえ。そう聞こえたから尋ねているんです。女性なら、普通身を隠すことを優先しますよ。」
普通の女性のような行動をしない私を前に、青年は敬語になってしまう。
「―――普通の女性、ならね。」
質問の問いに答えた私の表情は、どこか儚げで、陰をまとっていた。
「それより、貴方は右側をね。私左するから。ほら、直ぐそこよ。」
質問よりも辺りに気を配っていた私は、その言葉を言い切るか切らないかの内に走り出していた。
「あっ!!ちょっと―――」
「待って」口にしようとしていた彼は、口を閉じるしかなかった。
チッ、と短く舌打ちをすると、自分から見えにくい死角から襲ってきた剣を避け、相手の手首に手刀を落とす。
そして人体の急所である鳩尾に容赦なく拳を叩き込む。
「ぐ‥っ!」と、くもぐった声を出して男は地に倒れた。
しかし彼は、最期までそれを見届けることなく次へと向かった。
そして、蹴りを入れて何人かを地に沈めた所で、遠くを走り去る人影に気が付いた。
その正体は、私が手を出すな。と暗に言った、先頭を行っていた男。
それに気付いた青年は、それほど離れていない場所で男達の相手をしていた私に初めて顔を向けた。
すると偶然なのか、必然なのか。私が調度青年に顔を向けたのとは同時だった。
そしてもう遠くなった人影に目線を向け、私は首を振った。
それは追うな、と言うことなのか、諦めろ、と言うことなのか。青年には分からなかったのだろう。
だが、一つ頷きまた男の相手をし始めた様子を見れば、追うことだけは辞めたことが分かる。
そして、最期の一人を地に沈めたのはどちらが先だったか。それを確かめる前に、前方から駆け寄ってくる人だかりを二人は確認した。
「来るのが遅いのよ。」
誰に悪態をつくでもなく、私はため息を零した。
そして重要なことに今気付いた、という風に慌て、青年に一言言った。
「このことは内密にしてね。」
自身を指差しながら、私は口早にまくし立てた。
そして私は木陰に放置してあったゴミを手に、木々の合間を縫って駆け出した。
青年が口を開いた時には、時既に遅し。
私の姿はそこには無かった。