熱烈な求婚をいただきましたが
「正気ですか? サバス様」
新婚旅行を兼ねて、サバス様の領地に到着した後。
彼はとんでもないことを言い出した。
「ああ、至って正気だとも、アリエル王女。いや、我が妻アリエル・ヨレンテ伯爵夫人。私がキミを愛することはない」
国境を越えて熱烈な求婚状を送ってきた、隣国のサバス・ヨレンテ伯爵。
彼は我が父である竜王の許可を得て、私の故国・竜人国で挙式した。
そして竜王十九番目の子である私は。
サバス様の花嫁として彼の伯爵領に入り、城に荷を運びこむ際、唐突に告げられた。
この結婚に愛はない、と。
彼の隣には、若く美しい見知らぬ女性。
「隣国から遠路はるばる来て貰ったが、キミの役目はここまで。今後私の妻役は、ここにいるニルダに務めて貰う事にするよ」
「……おっしゃる意味が、わかりません……」
そんな私の言葉に応えたのは、彼の愛人ニルダだった。
「鈍い方ね、奥方様。いいえ、今日からはあなたがニルダね。私が"アリエル"の名を貰うのだから」
彼女が挑発的に胸を張ると大きな双丘が揺れ、サバス様が私のなだらかな胸元と見比べた。
そんなことより。
「──私の名を使う?」
「だからぁ。サバス様が欲しかったのは、王女降嫁という事実と、竜王家とのご縁よ。そしたら後は、誰が成り代わろうと問題ないの」
何を言っているのだろう。
「問題ないわけないでしょう」
「だが今後キミが外に出なければ、"花嫁が違う"とバレることはない」
「……"竜の宴"はどうされるおつもりです?」
竜王家に繋がる者が招かれる祭宴。
「無論出席するさ。安心したまえ。このニルダと夫婦仲睦まじい姿で行く予定だよ。どうせ十九番目の王女なんて、誰も顔を覚えてないだろう?」
「……」
「サバスったら如才ないんだから」
得意そうに宣う彼に、ニルダが笑う。
「もともと"竜の宴"に参加するため、王女を求めた」
そう、サバス様が言った。
竜の宴は近隣諸国に聞こえるほど有名で、年に一度開かれる。
参加資格は王の親族、縁故関係にある者。
宴では"原初竜の恩恵"という多大な魔力を授かることが出来る。
魔力が国の豊かさを決める時代。
ヨレンテ伯爵家が竜王家の魔力を受ければ、自国での優位性が上がり、昇爵が望めるだろう。
「では結婚式での愛の誓いは、嘘だったということですか?」
「当然だろう? 初対面の、しかも日陰者の王女を誰が本気で愛するものか」
竜王家にはたくさんの妻と、たくさんの王子王女がいる。
だから目立たない子どもも数多く、私もその中のひとりだったのだけど。
それでもサバス様は私に"一目で惚れた"と求婚して来たくせに。
「箱入り王女を言いくるめるのは、赤子を攫うより簡単だったよ」
「──とんだ詐欺師ですね」
「何とでも。だが己が命を守りたいなら、抵抗はしないことだな」
サバス様の合図で、武装した兵たちが私を取り囲んだ。
「……サバス様、考え直さないと後悔されることになりますよ」
「ははは! どう後悔することになるのか、教えて貰いたいね。キミの国に、キミの言葉は届かないのに」
それはつまり、私を監禁して"通信手段を封じる"と言う意味だ。
「最低……!」
「何とでも」
愉快そうなサバス様の横から、ニルダが顔を出す。
「ねぇ、サバスぅ。私が王女様に成り代わるんですもの。ここにある嫁入り道具はすべて私の物になるのよね? 素敵な宝石がたくさんあって、目移りしちゃう」
「ああ、きっとどれもよく似合うよ、ニルダ」
「ふふふ。王女様より着こなしてみせるわ。あっ、王女様。私、あなたのお部屋もちゃあんと用意したの。このお城で一等高いお部屋。屋根裏部屋って言うの。きっとお気に召すわ」
「センスが良いね、ニルダ。キミに任せて良かったよ」
キャッキャウフフと身体をくっつけ、じゃれ合うふたりの笑い声が妙に響いて。
こうして私は屋根裏部屋に追いやられ、新婚早々、花嫁なのに捨てられた。
(愚かなサバス・ヨレンテ──)
月が見える天窓に目を遣り、狭い屋根裏部屋で私は思う。
(次の宴はすぐだもの。きっとあっという間に迎えが来る)
その後、宴の招待にいそいそと出かけて行ったサバス様とニルダが、伯爵領に戻ることはなかった。
代わりに。
近づく飛行音にずしりと屋根が沈むと、よく知る竜騎士が窓から顔をのぞかせた。
「アリエル殿下、お迎えに上がりました」
私の顔がぱっと華やぐ。
高揚する気持ちを抑えながら、窓に駆け寄り鍵を開けた。
「ご苦労様、レジェス。でも玄関から来る選択肢はなかったの?」
「すみません。こいつが殿下のニオイに反応して、窓に突撃しちゃったもんで」
飛竜の頸をひと撫でして、レジェスが部屋の中に足をつく。
「でも俺も。一刻も早く、あなたにお会いしたかったから」
レジェスが言う。
私は染まった頬を隠すように、そっと手を添えそっぽを向いた。
「もう、相変わらずなんだから。……サバスたちはどうなったの?」
「殿下も予想されていたと思いますが、"竜の宴"で"餌"として狙われました。伴侶のニオイがついてませんでしたから」
「やっぱり」
竜人族は、その本性が竜。
そして"竜の宴"とは、竜たちが普段抑えてる食欲を解放する宴。
たらふく食べて、魔力を増強させる。
たくさんの肉が並べられる中、竜のニオイがついてない人間は──新鮮な御馳走と認識される。だから宴の参加者は厳しく制限されるのだ。部外者が紛れ込まないように。
サバスは、"キミを愛することはない"なんて言ってる場合ではなかった。
私を屋根裏に押し込め、接触を断っていたのも悪手だった。
サバスには私のマーキングがまるでない。ニルダは勿論。
二人は食欲剥き出しの竜たちに囲まれ、正気を失うほどの惨状だったようだ。
同時に、新婚王女を冷遇したこと。
愛人を妻と偽り、王族の名を騙ったこと。
そのすべてが竜人国に露見した。
「こちらの国に即、正式な抗議が送られ、殿下の返還と多額の賠償を請求。離婚も成立。迎えとして俺の飛竜が国境を越えることも承認済みです」
「そっか。我が国の利になったなら、私の嫁入りも無駄にならなかったね」
「俺は納得いきませんけどね。殿下の名誉を傷つけ、不遇な目に遭わせた結婚なんて」
「そうは言っても。十九番目の扱いなんてこんなものだし、私も育てて貰った恩は返さないとだし」
「ですが──」
不満そうなレジェスの瞳に、私は私を映し込む。
「いいの。作戦通りだもの。瑕疵ある出戻りの身なら、身分差婚も許されるでしょう?」
「!? 殿下、それは!」
うんと近づいて、彼の鼻先に熱い吐息を吹きかけた。
「例えば竜騎士と結婚したいと申し出ても……。父は許してくれると思うの」
レジェスは一代限りの騎士爵。普通、王族の降嫁はないけれど。
サバスは私を利用するために結婚したと言った。
驚いてみせたものの、彼の目的はわかっていたから。
軽薄な伯爵が打算で私に求婚した時、私もまた、賭けに出たのだ。
「大丈夫。私、あいつには指一本触れさせてないから。結婚式の口づけも、フリで済んだし」
終始、"白い結婚"だった。
両腕を回し、レジェスの広い肩を包み込む。
長身を曲げた彼の髪が、ふわりと頬に触れた。
「殿下……!」
「アリエルと呼んで」
「恋しかったです。俺のアリエル」
「レジェス、私も」
ぎゅっと抱き合い、彼の体温と脈打つ鼓動を全身で味わう。
「あなただけを、愛してる」
感極まった口づけが、一気に幸せを昂め。
私は夢中でレジェスを貪った。
(それにしても父上……。十九番めは息子だってことくらい、せめて覚えてて欲しかったな。まあ、いいか。おかげで国許でも堂々と結婚出来そうだし)
我が国では王の言葉に異は唱えられないから、誰か気づいても"性別が"と言えない。
それで嫁に出されちゃったわけだけども。
こうして捨てられた花嫁こと第十九王子アリエルは。
恋人の竜騎士と仲良く帰国したのだった。
お読みいただき有り難うございました!
あの…なんかすみません。どーしてもオチがいるような気がして、つい。
定期的に男の娘を書きたくなる癖…_| ̄|○;
無理な方は下の6行をなかったことにしてください。作者的にはそれでも大丈夫!
あと新解釈で感想欄に「竜騎士が男装女子」もいただきました( ゜Д゜) えっ、それも好き…! 作品執筆中に思い浮かばなかったのが残念~と思うくらい、そういうのも好物です! 有難うございます♪
IFパターン末尾置いときます(笑)
気軽に楽しんでいただけましたら嬉しいです♪
アリエルはスペインで男女兼用名だとか。女の子っぽいよねぇ。
16歳くらいのイメージです。
投稿日の4月17日は「恐竜の日」でした!
待って。今調べたら4月23日が「ドラゴンの日」だった。あっ……(゜д゜lll)←やっちまった感
お話を楽しんでいただけましたら、ぜひ下のお星様を「いいぞ、もっとやれー」と塗って応援してやってください!!ヾ(*´∀`*)ノ




