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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第四章 双冠の英雄

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第95話 光届かぬ眠り

 朝になっても、エルンとルナは目を覚まさなかった。

 俺は布団のそばに座り込み、静かに彼女たちの手を取る。

 体温はある。脈も穏やかだ。まるで、ただ深く眠っているだけのように見える。


 ……だが違う。

 それは、昨日から感じている確信だった。


(この眠りは……何に囚われている?)


『落ち着いて観察するのだ。感情に走るな』


 カイランの声が、胸の奥に響く。

 俺は一度深く息を吸い、魔力の感覚に集中した。


(まずは、ルナからだ)


 彼女の胸元に軽く手を当て、呼吸にあわせて魔力を流す。

 術式の第一層を展開し、精神と肉体の接点に揺らぎがないかを探る。


 観測術式:意識同調〈ミラージュ・リンク〉


 魔法は即時詠唱ではなく、内なる操作のみで慎重に展開する。

 ルナの魔力は安定している。けれどその奥、ほんのわずかに沈殿のような気配がある。


(……これは)


 まるで、光の届かない深い水底。

 意識はそこにあるのに、声も手も届かない場所に沈んでいる。


『夢の深層だな。強制的に引き込まれたとすれば、本人の意志では脱出できない。

 外部から引き上げる力が必要だ』


 今度はエルンの方に向き直る。


(……同じように)


 彼女の魔力もまた、表面は安定していた。だが、さらに深く探っていくと――


 何かが絡みついているような不快な感覚があった。


(……これは……夢の中に何者かがいる?)


 震えるような波動。言葉にもならない、濁った感情のようなもの。


『下手に干渉すれば、相手に気付かれ、さらに深く引きずり込まれる危険もある』


 カイランの忠告が頭をよぎる。

 だが、いつまでも手をこまねいているわけにはいかない。


(光だ。光の魔法……)


 俺は立ち上がり、記憶を絞り出すようにぎゅっと目を閉じた。


(光の精霊、ルミナ。眠りに射し込む覚醒の光……記憶を辿れ。カイランの中に、術式が残っているはずだ)


 手をかざし、詠唱を開始する。


「光の精霊ルミナよ、我が魔力を代償とし、閉ざされた闇を祓え――《覚醒の閃光 (ルミナス・フレア)》!」


 ……だが。


 手のひらに集まった光が、形を成す前に霧のように霧散する。


(……失敗……?)


『……お前の覚悟が届いていない。願いが、術式の核に届いていないのだ』


「願い……か」


 俺は拳を握りしめた。

 カイランの記憶にある術式を使っても、それを自分の言葉にできていなければ発動はされない。


(俺は……彼女たちを、絶対に目覚めさせる)


 再び、詠唱を練り直す。

 術式の隙間、語彙の順番、精霊との交信ルート。すべてを、もう一度自分の中で言葉にする。


『焦るな。だが、急げ。ナイトメアの眷属が夢の奥で完全に巣を作れば、それは死と同義だ』


 夜が近づいてくる。

 俺の背に、風が吹き抜ける。


 俺はそっと目を閉じた。


(エルン……ルナ……もう少しだけ、待っていてくれ)


(今度こそ、ちゃんと届く光を……この手で紡いでみせる)


 俺の心は、焦りにざわついていた――

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