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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第三章 戦王の咆哮

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第82話 静けさのなかの報せ

 グロム・ザルガス率いる獣魔族の撤退から一夜。俺たちは戦略拠点を後にし、ドワーフ都市グラムベルクへと向かっていた。


 勝利の余韻と、深い疲労が身体に残るなか、荷車に揺られて進む道すがら、セリスがふと空を見上げた。


「雲が、昨日よりも高く感じます」


 その呟きに、ルナが元気よく微笑みながら応えた。


「そりゃそうだよー! 勝ったんだから!」


 エルンも静かに頷き、笑みを浮かべる。


「でも、グラムベルクに着いたら、ちゃんと休まないとね。みんな、かなり消耗してるから」


 俺は目を細めながら、仲間たちを見回した。セリスの肩には疲労がにじみ、エルンやルナは眠たそうにしている。


 それでも、誰の表情にも満ち足りた達成感が浮かんでいた。


 グラムベルクの門が見えたとき、門兵たちが息を呑むように顔を上げた。


「おおっ……お戻りになったぞ!」

「カイン様たちがご無事で……!」


 程なくして、ギルド職員やロルディア軍の伝令が駆け出し、戦果が正式に報告される。


 冒険者ギルドのホールでは、カインたちの勝利の噂で賑わっていた。


「やったな……」「あのグロムを退けるなんて、本当に……」

「本物の英雄ってやつだ」


 俺たちはそのままギルド手配の治療室へと案内され、エルンとセリスは軽傷の手当てを、俺は魔力の反動を回復する施術を受ける。


 処置の終わった部屋で、ルナは俺の隣で丸くなり、満足そうに眠っていた。


 その夕刻、鍛冶王バルグラス・アイアンハートが訪れた。鍛冶装束のまま現れたその姿は、王である前に職人としての気迫を湛えていた。


「カインよ。よくぞ帰ってきた。獣魔族の王を退けたというのは、紛れもない事実だな?」


「はい。皆のおかげで、何とか……」


 俺の傍らでセリスが頭を下げる。


「ここで鍛えて頂いた《風哭》、本当に助けになりました」


 バルグラスは大きく頷き、満足げに笑った。


「ならばこそ、鍛冶王として誇らしい。お前たちの武具が歴史を刻んだ。それが何よりの誉れよ」


 バルグラスはそのままギルドへと戻っていったが、その背には確かな信頼が刻まれていた。


 その頃。


 ネフィラは、戦場から撤退したのち、魔族の隠れ里の一室で静かに座していた。蝋燭の火がちらちらと揺れ、彼女の顔に深い影を落としている。


「……まさか、グロムが退けられるなんて」


 誰に言うでもなく呟いたその声には、悔しさと苛立ちが滲んでいた。


「せっかく彼を動かしたというのに……あれほどの戦力でも足りなかったとは。やはりカイン……」


 手元の杯に指がかかる。だが飲むことはなく、ただ魔力のこもった瞳で火を見つめていた。


「愚かではない。だが、侮ってもいけない。次は——」


 彼女の中で、次なる策が静かに形を成していた。


 やがて、グロム・ザルガスが退けられたという報せは、人間領、そしてエルフ領へと広まっていった。


 ロルディアの都市では「獣魔族の襲撃を防いだ英雄」としてカインたちの名が賞賛され、冒険者たちは新たな伝説の誕生に沸いた。


 一方、エルフの森でもまた、ざわつきが広がっていた。


「……彼らを追放したのは、やはり間違いだったのでは?」


 穏健派の者たちがそう囁くと、長老派の中からすかさず反論の声が上がる。


「いや、カインが動けば争いが起こる。あの者は災いを引き寄せる。追放は妥当だった」


 森の中で意見は交錯し、静かなる対立の火種が再び灯りつつあった。


 戦いは終わった。しかし、それは新たな波紋の始まりだった。

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