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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第三章 戦王の咆哮

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第80話 賢者の力

 戦場に立つグロム・ザルガスの巨体は、まるで動く要塞だった。

 その目には、静かな興奮の色が宿っている。


「来たか……小僧ども」


 重く響く声に、俺は剣を構えながら応じた。


「ああ。お前に勝つための準備は整った。今度は、俺たちが仕留める」


 グロムの口元がつり上がる。


「なら見せてもらおうか……その備えとやらを」


 互いが武器を構え、戦いの合図を待っているようだった。


 その時、風が吹いた。


 空気が震えるほどの威圧感に包まれる中、セリスが動き出す。


 静かに一歩前に出たセリス。彼女は深く息を吸い、心の奥の波を静めていく。殺気を抑え、研ぎ澄まされた意識だけが残る。


(……訓練で的を斬りつけるように、鎧の隙間を目掛けて、無心に斬りつける)


 セリスは《風哭》を構え、ひとつ深く踏み込んだ。

 殺気がこもらぬ斬撃にグロムの反応がわずかに遅れる。カウンターをかぶせるように襲ってきた斧も今は防御にまわっていた。


「……恐怖せず、殺気も感じさせぬとは……見えぬものだな――」


 グロムの言葉が終わる前に、セリスの後方に控えていたルナが攻撃を開始する。


「よーし、ここで火の出番っ!」


 放たれた火炎魔法が、グロムの顔を目掛けて飛んでいく。

 飛んで行った火の玉はグロムの目の前で弾け、火の粉を舞い上げた。グロムの視界は歪んだように揺らめいてセリスを見失う。


「つまらん小細工だ……だが……」


 グロムは意識を集中させ、セリスの挙動を追った。

 俺の狙い通り、グロムの意識はセリスやルナに向けられたのだ。


 そのときだった。エルンと俺は握りしめていた魔石を触媒に詠唱を開始する。


「風の精霊シルフィードよ、我が魔力と魔石を代償とし、風の檻を成せ——《ウィンド・バインド》!」

「水精レヴィアよ、 我が魔力と魔石を代償とし、重たき水を纏わせろ! 流転のアクアオーブ


 エルンの詠唱とともに、竜巻のような風がグロムの脚元から立ち上がり彼を取り巻いた。さらにその中心から粘性のある水が現れ、魔力の粘流がグロムを包み込んだ。


 カインの魔法が風と絡み合い、渦と水の束縛がグロムの動きを封じていく。


「む……っ、……今後は強力な拘束魔法か」


 動きを制限されたグロムから発動魔法の気配が消え去っていく。


 セリスはその変化を見逃さなかった。


「斧の魔力が……薄れてる!」


 彼女は疾風のように駆け出し、《風哭》を振り抜いた。

 その一撃が、魔力の流れが乱れた斧の柄に叩き込まれ——。


「ガギィンッ!」


 金属が砕ける音が響いた。柄が折れ、斧は魔法の力を失って重い塊と化した。

 鎧の魔力も次第に鈍っていく。セリスは一気に間合いを詰め、胸元を狙って《風哭》を突き入れようとする。


「はぁあああっ!」


 だが、グロムの体が爆発的な力を解き放つ。拘束を部分的に引き剥がし、何とか利き腕だけを自由にする。


「まだだ!」


 グロムの胸に剣が突き刺さる直前、素手で刃を受け止めた。


「くっ……これ以上、押し切れない……!」


 セリスの腕が震える。それでも諦めない瞳が、グロムを見据える。


 その瞬間だった。


「エルン、いけるか!」

「もちろん!」


「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち、眼前の敵を撃て——《蒼閃》!」

「イルディアよ、終わりの光を束ね、獣魔を灰塵と化せ——《終光ラスト・レイ》!」


 蒼き斬光と紫の閃光、二つの魔法が交差する。


「……間に合わぬ……ッ!」


 グロムは掴んでいたセリスの剣を放り投げ、全身で拘束を振りほどこうとするが、完全には間に合わない。

 《蒼閃》が、わき腹を、《終光》が右肩を撃ち抜いた。


「ぐおおおおおおおおおっ!!!」


 肉がえぐれ、鎧を貫いた衝撃にグロムの膝が沈む。

 彼はしばしうずくまり、血と汗に塗れた顔をわずかに上げた。


「……見事だ、小僧ども……」


 その言葉には、誇りと敗北が混じっていた。


 斧は地面に落ち、鎧は音を立ててひび割れていた。


「……負けたのか……」


 戦場に、一瞬の静寂が訪れた。

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