第63話 穿つ光と蒼
影の嵐が渦巻く儀式の空間で俺たちは動いた。ルナが感知したヴァルディスの核——。それがやつの胸の奥、影の中心に存在しているという事実が戦況を変えた。
「セリスの援護は任せて。今はカインたちに道を開くわ!」
エルンが素早くセリスのもとへ駆け寄り、回復の詠唱を始める。
セリスは顔を上げ、小さくうなずいた。
「……ありがとう、でも私もまだ動けます。必ず援護に戻りますから」
「無理はしないで、でも期待してるよ!」
そして俺はヴァルディスの元へ向かうべく駆け出した。その横をルナが風のようにすり抜ける。
「ルナ、攻撃はしないのか?」
「うん。ルナは感知で囮になる。カインが核を狙いやすいように気を引くよ!」
そう言って、ルナはその小さな身体でヴァルディスの前に躍り出た。闇の中でも、すべてを見通すような青の瞳。その額に浮かぶ『感知の魔眼』が敵の魔力の流れを可視化している。
「こっちだよ……当たらないよっ!」
飛び交う影の触手を、するり、するりと紙一重で避けていく。その動きはまるで、影そのもののように軽やかだった。
「なんだ……小娘が、跳ね回るだけか……!」
ヴァルディスの注意がルナに向いた瞬間、俺は魔力を練り上げた。
「ウンディーヴァよ! 蒼き閃光を束ね影の心臓を貫け——蒼閃!」
水の精霊が応え、俺の手から解き放たれた青白い光の刃がヴァルディスの胸元を目がけて突き進む。
それを追うように、セリスの回復を終えたエルンが杖を掲げ詠唱する。
「イルディアよ、終焉の光で闇を断て! 導きの矢となりて——終光!」
魔法で束ねられた見えぬ光がヴァルディスの胸へと照射される。そして――。
二つの光が交差し、ヴァルディスの胸にある核を撃ち抜いた。
「が……ッ!!」
黒い霧が爆ぜ、空間に狂ったような魔力が渦巻く。
ヴァルディスの身体が震え、影の触手が暴走するように暴れた。そして、膝をつきながらゆっくりと頭を上げたその顔には明確な驚愕が浮かんでいた。
「この魔法……今までに見たことがない……精霊の変質……水の収束……こんなものが……」
低く呻くように言葉を漏らし、影の身体の表面がヒビのように割れ始める。
「……フッ。そうか……ならば、もういい」
彼の声が不思議と穏やかだった。
「これもまた、静けさの一つの形なのだろう。……永劫に続くものだけが平穏ではないか」
その言葉を最後にヴァルディスの体は崩れ落ちた。
黒い霧が煙のように空へ溶け、影の核は砕けたクリスタルの欠片となって床に散らばった。
異様な圧力が消え、空間に静けさが戻ってくる。
「終わったの……?」
ルナがそっと言った。彼女の声も、今はもう恐れではなく、確信に満ちていた。
「核は……完全に崩壊してる。もう、力を維持できるはずがないわ」
エルンが確認しながらそうつぶやく。
セリスが静かに剣を収めた。
「……私たちの勝ちで、いいんですよね?」
「ああ。勝ったよ」
俺は剣を下ろし、深く息を吐いた。
激戦だった。けれど誰も欠けなかった。それが、なによりの勝利だった。
少しの静寂が訪れる。だが、それは恐怖の静けさではない。確かな終わりの空気。
「みんな、おつかれさま」
俺がそう言うと、ルナがふわりと笑って俺の横に飛びついた。
「ルナ、がんばったよ! いっぱい避けた! 全部見えてたの!」
「ああ、すごかったよ。囮どころか主役だったな」
セリスも笑う。
「ふふっ……確かに。ルナの活躍がなければ、私たちは核に近づけませんでした」
「ルナ、えらい! ごほうびに……あとでおやつ!」
「わかった、好きなだけ用意してやるよ」
エルンは小さく笑いながら、力を失った魔法陣の中央を見つめた。
「……あれが静寂の理の結末。犠牲の上に立った平穏はきっと本物じゃないわ」
「うん。俺たちは……ちゃんと、自分たちの手で進む」
影の主が消えた儀式の間に仲間の声が響く。
この結末を機に世界が動き出す気配がした。ヴァルディス討伐の事実はきっと世界をざわつかせるだろう。




