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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第二章 ロルディアの影

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第60話 決裂の仮面

 影の異形を退け、倒れていた討伐隊の戦士たちを安全な場所へ移した直後だった。


 空気が、ねじれる。


 静寂を割くように、闇の中に歪んだ光が走り、ひとりの男が姿を現した。


 仮面の男。かつてスレイン丘陵で対峙した、ヴァルディスの使い魔。


「……再会を喜ぶべきか、否か。お前たちは、こちらの想定を超えすぎる」


 その声は機械のように冷たいが、仮面の奥の視線には、明確な殺意が宿っていた。


「やはりここにいたか」


 俺は一歩前に出て、剣に手をかける。


「素材として確保しようとしてたんじゃなかったのか? 急に殺意むき出しってのは、どういう風の吹き回しだ?」


「……状況が変わった。君たちエルフを確保する余裕は、もはやない。故に——排除する」


 仮面の男が手を掲げると、床の影から数体の影兵がせり上がるように現れた。


 だが俺たちは、もはや怯えない。


「カイン、行きましょう」


 エルンが杖を構え、後ろに立つセリスとルナも戦闘体勢に入る。


「全員で、倒すぞ!」


 先に動いたのはセリスだった。風をまとった剣が一閃し、迫ってきた影兵のうち一体を吹き飛ばす。


音消ミュートはまだ使わない。仮面の男に使うために温存します!」


「了解、無理はするな!」


 続けてルナが両手を広げ、目を閉じる。口元から漏れるのは、かすかに異なる響きの言葉だった。


「ソリュ・ミナ・フェイ、リュン……《感知の魔眼》!」


 魔法キツネの言語——柔らかく、精霊と魔力が共鳴するような独特の詠唱。ルナの額に淡く魔法陣が浮かび、視界の中に敵の動きが線のように現れる。


「右からくる、はやい!」


「任せろ!」


 俺は右に滑り込み、斜めに跳びかかってきた影兵を剣で迎え撃つ。刃が重く沈んだ感触の後、影が霧散する。


 その間に、エルンが詠唱を終える。


「光の精霊イルディアよ! すべてを灰塵へ導け——《終光ラスト・レイ》!」


 紫の閃光が仮面の男の肩をかすめ、その布を焼き焦がす。男は咄嗟に身を翻して回避に移るも、目に見えない『焼く光』の痛みに顔をしかめた。


「……これは……なんだ……?!」


 初見の魔法への対応が遅れたことが明らかだった。イルディアの力に導かれた終光ラスト・レイは、もはや代償すら必要としない強力な術となっていた。


 仮面の男が指を鳴らすと、背後から巨大な影の刃が生成され、俺たちに襲いかかる。


 その瞬間——


「カイン殿!」


 セリスが俺の前に出て、盾で斬撃を受け止めた。金属がぶつかる音と同時に、仮面の男が低く詠唱を始める声が響く。


「……影よ、我が内に満ち……すべてを呑みこみ——」


 セリスは反射的に目を細め、即座に行動に移った。


 剣の切っ先が仮面の男の口元を鋭く指し示す。


「音を断て——《音消ミュート》!」


 空間が歪み、沈黙の領域が生まれる。仮面の男の口が動いても、そこから声は出なかった。


「……!」


 詠唱を断たれた男の魔力が一瞬暴走しかけ、周囲に黒い霧が吹き荒れたが、術そのものは不発に終わった。


 その隙を逃さず、ルナが接近し、小さな手から放った火球が敵の衣を焼く。


「っ……!」


「いける……!」


 俺は全身の魔力を圧縮し、詠唱する。


「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち、敵を撃て——《蒼閃》!」


 青白い斬光が仮面の男の胸を貫く。


 衝撃が走り、男の身体が大きく後方へ吹き飛ぶ。


 膝をついた彼の仮面に、深々と亀裂が走った。


「……ふっ、想定以上……だったな」


 割れた仮面の隙間から見えた目には、もう冷静さも作為もなかった。ただ、敗北の色が濃く滲んでいた。


「……ヴァルディス様……申し訳、あり……ませ……ん」


 呟きと共に、男の体が影に飲まれるように崩れ、霧散した。


「……終わった、のか?」


 俺たちはしばらく無言で周囲を警戒していたが、もう新たな敵の気配は感じられなかった。


 残っていた影兵もすでに消滅しており、広間には静けさが戻っていた。


 ルナが耳を澄ませる。


「気配、うすくなった。……でも、ひとつだけ、すごく、こわいのが、奥にある」


 その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。


 ヴァルディスがいる、本丸——いよいよそこへ辿り着く。


「行こう。これが終われば……何かが変わる気がする」


「はい……」


「ついに、ですね」


「ルナも、がんばる!」


 俺たちは肩を並べ、闇の奥へと踏み出した。

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