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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第二章 ロルディアの影

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第46話 ヘルムガルドへの旅立ち

 朝日がフェルシアの里を照らし、静かな森の奥に柔らかな光が差し込んでいた。俺は広場の中央に立ち、深呼吸をすると、そっと手を掲げた。


「エルン、リゼリア。俺の修行の成果を見てくれ」


 二人のエルフは並んで立ち、俺の言葉を静かに受け止める。エルンは腕を組みながら観察し、リゼリアは真剣な眼差しで見守っていた。


「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち、眼前の岩を穿て——蒼閃!」


 詠唱と共に、俺の手から蒼く輝く刃が飛び出した。それは閃光のごとく空を切り裂き、正面の岩へと突き刺さる。鋭い水流が岩を抉り取り、深々とした傷を刻み込んだ。


 風が静かに吹き抜ける中、リゼリアが思わず息を呑んだ。


「これは……カイラン様の水魔法と同等か、それ以上のものかもしれない……」


 彼女は震える声で呟いた。エルンもまた、驚きの表情を浮かべながら俺を見つめる。


「カイン……ここまで成長するなんて思わなかった。これはただの水魔法じゃない。まるで剣のように研ぎ澄まされた魔法だわ……」


 俺は拳を握りしめ、満足げに頷いた。


「ようやく形になったってところだな。まだまだ改良の余地はあるが……」


「十分すごいわよ。精霊の加護を受けたことで、魔力の消耗も抑えられているはずだし、これは戦いの切り札になりそうね」


 エルンの言葉に、俺は感謝の念を込めて微笑んだ。彼女の助言と指導がなければ、ここまでたどり着くことはできなかった。


 その時——。


「カイラン様、お迎えにあがりました!」


 甲高い声が響き渡った。振り向くと、一人の若い女性エルフが里の入り口に立っていた。長い栗色の髪を背中に流し、軽装ながら戦士の風格を漂わせている。


「セリス……!」


 リゼリアが彼女の名前を呼ぶと、セリスは嬉しそうに頷いた。


「リゼリア様からの報せを受け、森の信仰派を代表して駆けつけました。賢者様と同行できる事、光栄でございます」


 俺はセリスの堂々とした態度に感心しながらも、少しばかり戸惑いを覚えた。


「俺を賢者様と呼ぶのはやめてくれ。俺はカイランじゃない。ただのカインだ」


「……ですが、あなたはカイラン様の力を受け継ぎ、新たな時代を築こうとしている方。それを否定しないでください」


 セリスの瞳は真っ直ぐに俺を見つめている。俺は苦笑しながら、軽く肩をすくめた。


「……まぁ、そう言われるのも慣れたけどな」


 エルンが小さく笑い、「素直じゃないわね」と呟いた。


「それで、セリス。ここまで来たということは、何か要件があるのよね?」


 エルンの問いに、セリスは一歩前に出ると真剣な表情で語った。


「リゼリア様より、お伝えしたいことがあります。ヘルムガルド廃村の調査をお願いしたいのです」


「ヘルムガルド廃村……?」


 俺はその名を聞き、リゼリアの方を見た。彼女は静かに頷き、説明を続ける。


「かつて、フェルシアの里の住人がさらわれた事件がありました。その時、彼らを救出しようと私たちはヘルムガルドの村へ向かいました。しかし、その村には、さらわれた者も人間の姿も見当たらず、そこに残されていたのは未知の闇の魔術の痕跡だけでした」


 俺は眉をひそめた。


「未知の闇の魔術……?」


「ええ。通常の魔法とは異なる、まるで生命力を吸い取るような不気味な術式が刻まれていたのです。カイラン様であれば、それがどのようなものなのか解明できるのではないかと思いまして……」


 俺は沈黙した。ヴァルディス・ノクターンの影が頭をよぎる。彼が行った実験の名残なのか、それとも——。


 エルンが不安げに俺を見つめた。


「……どうする、カイン?」


 俺は深く息を吸い、ゆっくりと頷いた。


「行こう、ヘルムガルドへ」


 その言葉に、セリスは嬉しそうに頷き、ルナも俺の足元で「キケン、でも、カインといく」と小さく鳴いた。


「カイン様、ありがとうございます!」


「カインでいいって言ってるだろ……」


 俺は頭を掻きながらも、彼女の気持ちはありがたく受け止めた。


 リゼリアは少し心配そうな表情を浮かべつつも、旅の準備を整えてくれた。


「道中、何が待っているかわからない。慎重に行動してね」


「わかってるさ。俺たちは必ず帰ってくる」


 俺、エルン、セリス、そしてルナ。四人はフェルシアの里を後にし、ヘルムガルド廃村へ向かって歩き出した。


 森の奥深く、エルフを誘拐した者が何かを企んだ地。その答えを求め、俺たちは未知の領域へと足を踏み入れる。


 不穏な風が森を揺らし、ざわめきが広がっていった——。

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