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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第二章 ロルディアの影

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第38話 揺れる護衛任務

 森を抜け、再び街道に合流した俺たちは、敵の撤退後も周囲の警戒を緩めることなく、静かに商隊へと戻っていった。


 だが、戻ってみれば、そこにあったのは——別の意味での緊張だった。


「お、おい……あいつら、無事で戻ってきた……」

「いや、それより……さっきの敵、あいつらのこと狙ってたんじゃ……?」


 従者たちの視線が、あからさまに変わっていた。

 恐れ、距離感、警戒。

 護衛として迎えられた俺たちは、いまや厄介ごとを引き寄せる存在として見られていた。


「戻ったぞ」


 俺は短く言って馬車に近づくと、商人ハインズがぎこちなく笑みを作った。


「……無事で、なによりだ」


 その言葉の裏には、帰ってきたなという意味がにじんでいた。


「敵は姿を消した。だが次があるかもしれない」


 俺は馬車の周囲を一瞥して続けた。


「すぐに出発した方がいい。ここに長居はできない」


「……わかった」


 ハインズは短く頷いたものの、目を合わせることはなかった。


 馬車が再び動き出す。

 しかし、その空気は重かった。従者たちも口を閉ざし、誰一人として雑談すら交わさない。


「……わかりやすいほど、避けられてるな」


 俺は苦笑混じりに呟いた。


「まあ、当然といえば当然ね」


 エルンは淡々と答える。


「護衛のはずが、危険を呼び寄せている。そう思われても仕方ないわ」


「でも、カイン、わるくない……」


 ルナが小さな声で抗議のように言った。


「よくない、にんげんのにおいがした……あいつらが、わるい……」


 その言葉に、俺も少し救われた気がした。


「……ルナの言う通りだ。俺たちはただ、生きてるだけなのにな」


 やがて、森の木々が開け、目的地——ノルハイム村の集落が視界に入った。


「ついた……か」

 ハインズがぼそりと呟き、馬車が停止する。


 従者たちが荷の点検を始める中、俺たちはひとまず護衛の任務が完了したことを確認するため、ハインズに声をかけた。


「ここまでが依頼だったはずだ。問題なければギルドで報酬を受け取る」

「……ああ、そうだな」

 ハインズはどこか気まずそうに頷く。


「ロルディアに戻ったら、ギルドに報告する。今後の対策も必要だ」

「……ああ。考えておくよ」


 その答えに、俺は違和感を覚えた。

 考えておく——あまりにも曖昧すぎる。

 まるで、これ以上関わりたくないと言っているようだった。


 俺たちは敵から守った。護衛は果たした。

 にもかかわらず、向けられるのは感謝ではなく——拒絶に近い視線だった。


「……変わったな」

 俺は馬車を見送りながら呟く。


「ええ。私たちの立場がね」

 エルンもまた、肩越しに視線を向ける。


「このままだと、ギルドの中でも立ち位置が微妙になるかもしれないわよ」


「わかってる。だからこそ……」

 俺はゆっくりと、確かめるように言葉を紡いだ。


「この状況の裏に、何があるのかを突き止める必要がある」


 エルンが頷く。

「敵の動きは明らかだった。目的は私たち……エルフの身柄」


「しかも、撤退命令が出ていた。誰かが指揮してる」


「狩られてる……そんな感じ……」

 ルナの声が、霧のように残る風に消えた。


 俺たちの周囲には、まだ明かされていない意図が渦巻いている。

 その正体は見えずとも——確実に、どこかで、世界がざわつき始めていた。

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