第34話 ギルドへの登録
ロルディアの朝は早い。
夜明けとともに商人たちは店を開き、通りには活気が満ちていた。
馬車が行き交い、行商人が客を呼び込み、街のどこからかパンを焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
俺たちは宿を出ると、早速、冒険者ギルド へと向かった。
「んっ……にんげん、おおい……」
ルナが戸惑ったように俺の後ろに隠れる。
エルフの森では見なかったほどの人間が行き交い、その雑踏の中にいるだけで、ルナには落ち着かないものがあったのだろう。
「大丈夫だ。ずっと俺たちと一緒にいれば、危険なことはない」
俺はルナの頭を軽く撫でて安心させた。
「それにしても、なかなかの人混みね」
エルンも少し眉をひそめながら、周囲を見渡す。
「冒険者ギルドはこの通りを抜けた先よ。ここは交易都市だから、ギルドも規模が大きいはず」
エルンに案内されながら、俺たちは市場を抜けていった。
やがて、ひときわ大きな建物が視界に入る。
「ロルディア冒険者ギルド」——それが、この都市における冒険者たちの拠点だった。
ギルドの扉を開けると、活気のある光景が広がっていた。
大勢の冒険者たちがカウンターで依頼を受けたり、酒を飲みながら情報を交換したりしている。
壁にはさまざまな依頼書が貼られ、受付の女性たちが手際よく対応していた。
「やっぱり人が多いわね」
エルンが周囲を見渡しながら言う。
俺もまた、興味深くギルド内を観察する。
——ここでなら、多くの情報が手に入るはずだ。
まずは、ギルドに正式に登録し、行動の自由を確保するのが先決だろう。
俺たちはギルドの受付へと向かった。
そこには、落ち着いた雰囲気の女性が座っていた。
「いらっしゃいませ。ギルドの登録をご希望ですか?」
「はい、俺と彼女で頼みたい」
俺が答えると、受付嬢は軽く頷きながら、必要な手続きを始めた。
「ギルド登録には、簡単な身元の確認と、試験を受けていただく必要があります」
「試験?」
「はい。冒険者としての 基本的な戦闘能力と知識を試す試験 です。合格すれば正式な冒険者として登録され、依頼を受けることができます」
「なるほど……どんな試験なんだ?」
「主に模擬戦になります。戦闘能力を見るため、ギルド所属の冒険者と戦っていただきます」
俺とエルンは顔を見合わせた。
「なるほど、これは楽しみね」
エルンが軽く笑いながら言う。
俺もまた、どんな相手が来るのか興味を抱き始めていた。
試験は、ギルドの奥にある訓練場で行われた。
広々とした空間で、周囲には数名の冒険者たちが見学していた。
「おい、今日は新入りの試験か?」
「どんな奴らが来たんだ?」
冒険者たちは俺たちを品定めするように眺めていた。
やがて、一人の男が前に出てくる。
がっしりとした体格に、腕には無数の傷跡。
彼は俺たちを見て、ニヤリと笑った。
「俺が試験官のガルフだ。模擬戦の相手をしてやる」
「よろしく頼む」
俺は短剣を構え、相手の動きを見定めた。
「では、始め!」
試験官の合図とともに、ガルフが動いた。
ガルフは大きな剣を振るい、俺へと襲いかかる。
——速い!
その一撃は見た目に反して鋭く、風を切る音が耳を打つ。
俺は紙一重でそれを避け、間合いを詰める。
しかし、ガルフはすぐに剣を横薙ぎに振り、俺を退かせた。
「ほう、なかなかやるな」
「お前もな」
俺はすぐに次の動きに移る。
——相手の動きを観察しろ。
——攻撃の軌道を見極めろ。
その時。
「カイン、援護するわ!」
エルンの詠唱が始まる。
「疾風の精霊シルフィードよ! 我が魔力を代償とし、仲間の動きを助けよ!」
「風速の翼!」
次の瞬間、俺の足元に風が巻き起こり、体が軽くなる感覚がした。
——動きが速くなる!
「いいぞ!」
俺は風の加護を受けながら、ガルフの攻撃を紙一重でかわし、逆にその隙を突く。
「ちっ、やるじゃねぇか!」
ガルフが後退しながら体勢を立て直す。
「……これなら、試験は問題なさそうね」
エルンは腕を組みながら見守っていた。
「おっと、そこまでだ!」
ギルドの試験官が試合を止めた。
「試験は合格だ。お前ら、なかなかの腕だな」
ガルフが剣を収め、俺とエルンを見て笑った。
試験を終えた俺たちは、正式にギルド登録を済ませた。
「おめでとうございます。これであなたたちは正式な冒険者です」
受付嬢がギルドカードを手渡す。
「明日から、依頼を受けることができます」
「さて、まずは適当な依頼を選ぶか」
「そうね。ここでの立ち回りを考えながら、最初の仕事を決めましょう」
俺たちは、新たな一歩を踏み出した。
ロルディアでの冒険が、ついに始まる——。




