48話
客室の前までようやく辿りつく。開けてもらった扉を潜り、三人の前へ。
「え、シリウス様・・・・・・・・・? 嘘・・・・・・・・・?」
「まぁ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・!?」
三者三様。変貌した自分に驚愕しているではないか。まさかこれでバッチリ! とおもっていたのは自分だけで本当はおかしく見えるのか? と不安になる。
「ど、どうかな・・・・・・・・・」
「し、シリウス様、素敵です!」
最初に口火を切ったのはルッタだ。テンションが高めになっていて、ぴょんぴょん飛び跳ねながらシリウスの周りをぐるりと巡る。
「かわいいです! どこからどう見ても女の子です! 素敵! シリウス様がもし女の子でも私全然いけることがわかりました!」
「あ、ありがとう。よかった」
いける。つまり扮装は成功で晩餐会に潜入できるというお墨付きだ。グッ! と握り拳を作ってやったぜ! と喜んだ。
「クローディア様、どうでしょうか?」
ス、と伸ばされた手が、頬にひんやりとした冷たさを伝える。だが、冷たさよりも自分に触れてきた行動に落ち着きがなくなる。
「でゅふ!? ふぅ、ふぅ、く、クローディアしゃみゃ!?」
「貴方、本当にシリウス?」
「ひゃ、ひゃい! いつでもどこでもあにゃたしゃまの騎士シリウスでしゅ!」
(ああ、クローディア様がこんな近くに睫長いお綺麗でございましゅ良い匂いも嗅げてああ、ああ・・・・・・ああ!!)
「とても綺麗よ」
「あ、ありぃぎゃどぉぎょじゃりぃみゃしゅうううううう・・・・・・・・・♪」
(産まれてきてよかった・・・・・・・・・ああ!)
「よかったわ。私も頑張った甲斐があったというものよ」
「姉上本当に本当にありがとうございます!」
がっしりと両手を握って感謝を示す。姉のおかげでまさかあそこまでクローディアに近づいてもらって触れてもらえるなんて。
「でも、シリウスだなんて信じられないわ。ねぇエリク?」
「あ? あ~~。んだな」
「な、なんだ。その反応は」
しかし、二人とは別にエリクは特別感心を寄せていない。夢見心地でふわふわと天に昇天しかけていた喜びに翳りが生じる。ムッとしたもやもやが胸で渦巻く。
「なに怒ってんだ」
「怒っちゃいない。君のケチの付け方が悪意しかないってことだ」
「なんなんだよ・・・・・・・・・」
「どうせおかしいって言うんだろ。そりゃ僕は男の子だし? 普段を知っている君からしたら気持ち悪いかもしれないけど・・・・・・・・・」
「誰もそんなこと言っちゃいねぇだろ・・・・・・・・・」
「いいや。君の態度が物語っているね。素直に言ったらどうだ、このへそ曲がり」
「あ~~~あ~~~めんどくせぇ! じゃあ正直に言ってやらぁ!」
そら見ろ。出るぞ出るぞ。どうせわかっていたさ、やっぱりこいつは褒めないんだろう。ああ、嫌だ嫌だ。そりゃあそうだろう、エリクからすれば僕は男、男が可愛い女の子になっていたってなんともないだろうさ、わかっていたからちっとも平気だけど?
そう唱えるが、何故か胸の中でイライラが強くなって仕方がない。
「男のくせによく似合ってるってな! どこからどう見ても女にしか見えねぇよ!」
「・・・・・・・・・ふぇ?」
「たく、こんなこと言わせんな。自分で言ってて鳥肌がたつぜ・・・・・・」
「な、な、な、」
ドクン! 今日一番胸がときめいた。
「しょ、しょ、しょ」
ドクンドクンドクン。ときめき続ける心臓が張り裂けそうだ。ぶわあああ! という熱が顔と頭に広がって脳が茹で上がり、視界が揺れる。
「だったら最初から素直に言えばいいじゃないか・・・・・・・・・あほう・・・・・・」
緩みそうになる顔をがっしりと押さえる。なんだかとろけそうで、だらしのない締まりのない表情になってしまうという予感があって。そしてエリクに見られていたくなくって。くるりと背中を向ける。
「男に綺麗だ可愛いなんて感想抱いて素直に言えるほうが阿呆だ」
「ぐぅぅぅ・・・・・・・・・!」
綺麗だ。可愛い。
今言われたことを知覚した途端、 心臓が爆発しそうになった。ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド。早鐘と化した鼓動が息苦しく、呼吸さえ困難になる。
なんだ。
なんだ。なんだ。なんだなんだ。
褒めたというにはあまりにも雑で色気がない。どちらかというと悪感情で占められた力強さだ。
(ふ、ふ、ふふふふ・・・・・・・・・)
クローディアに褒められた、触れられた。それと似ているようで違う。比べようのないようで比べられないのに。
何故こんなにときめいて仕方がないのだろう。
(な、なんだこれ・・・・・・ふへへ、いや、おかしい。あいつがただ褒めただけじゃないか・・・・・・いや、ただ素直な感想であって、そもそも女だってことも知らないのに、えへへ、なんで僕こんなに・・・・・・・・・)
「シリウス・・・・・・・・・あなた?」
「はぁはぁ・・・・・・・・・はい? なんでしょうか姉上・・・・・・・・・」
「いいえ。今はよしたほうがよさそうね・・・・・・・・・」
「へ?」
「とにもかくにも、これで後は晩餐会を待つだけということですね! 苦労した甲斐がありました・・・・・・」
カトレアの言ったとおり。全員のお墨付きが出たのだ。あとはすることなんてなにもない。ようやくこのドレスともおさらばできる。
もうこの場でドレスを脱いでしまいたくなった。ただ立っているだけ、いや。着ているだけでも疲れるのだ。
「いいえ。まだだめよ」
「え?」
「だってまだ貴方、姿勢もなっていないじゃない」
異を唱えたのはクローディアだった。
「それに、歩き方もぎこちないし、言葉遣いもそのまま。振る舞い方も身についていないでしょう?」
「え、え、え?」
シリウスは静かにゆっくりと仰天していく。まだやることがあるの? と。
「たしかに。そこもしっかりしなければ疑われるかもしれませんし」
まさかのルッタものってきたではないか。
「いいわ。私達がつきっきりで叩き込んであげる」
「頑張りましょうシリウス様!」
(ああ、やっぱり女の子って大変なんだな・・・・・・・・・)
ここからが本当の地獄。シリウスは天を仰いだ。




