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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
千年目の邪神復活と滅亡する世界

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29.創世と破壊と

「――なんかずいぶん様変わりしちゃったなあ」


 サーリスが思わずといった風に呟いて、くしゃりと顔を歪めた。

 以前はどちらかというと白っぽい色合いの女神だった。豊穣の金、清浄の白、天空の青の三色を纏う、美しい女神だったはずだ。

 それが、今は二対の腕に破れた皮の翼、だらりと垂れ下がる長い尾に禍々しく黒い鱗に覆われた身体と、異形の邪神と成り果ててしまっている。


「女神さま、なんだよね?」


 カタリナが、本当にこれが神話に出てくるあの女神なのかと、不安げにロッサとザールを見回した。ふたりとも呆気にとられた顔のまま、空に浮かぶ女神をじっと見つめている。


「堕ちるところまで堕ちたからですよ」


 カシェルが吐き捨てた。以前、サーリスを攫った時はもう少しマシな姿だった。この百年で行き着くところまで行ってしまったということだろう。


『わたくしの世界を穢す、不埒なる者どもよ』


 邪神がゆっくりと腕を上げた。その手から、パチパチと何かが爆ぜるような音が聞こえる。


『お前たちをすべて滅して、わたくしは次こそ清らかな世界を創るのだ……!』

「全員散開!」


 サーリスの声に、全員が散る。一拍遅れてドンという爆発音と衝撃が来た。


「二作目のラスボスのアビリティ、知らないんだよねえ……」


 参ったなあと弓を構えながら、サーリスは独りごちる。


「仕方ないから、戦いながら対処するかあ……前線はカタリナちゃんとロッサくん、カシェルはヒール中心、ザールくんはデバフと攻撃ひと通り試してみて。私は前線フォローに回るから」

「わかりました!」



 * * *



「わー……えげつないくらい自動回復してる。さすが、モト回復方面に定評のある女神って感じー。攻撃スカるとみるみる治っちゃう」

「サーリス、どうしますか」

「前の時さ、魔力中和でハメたじゃん? あの時のこと、がっつり覚えてるみたいなんだよねえ……さすがに同じ手は食わないかあ」


 魔力中和を使えばもちろん自動回復のアビリティは使えなくなる。

 魔力あってこそ、回復が可能となるのが自動回復だからだ。

 だが、前回のサーリスたちとの戦いではカシェルに魔力中和フィールドでハメ殺されたせいか、女神は十分な警戒をしているようだった。

 何しろ、サーリスの撃つ魔力矢を、その効果が何であれ発揮する前――つまり、的に命中する前に全部落としてしまうのだから。


「相当ムカついてたんだろうな……」


 何度目かの魔法矢を落とされて、サーリスは小さく溜息を吐いた。「当たらなければどうということはない」を女神がやってくるとは想定外だった。


「自分らにできることはだいたい敵もやってくるって、その通りなんだけどさ」


 ついでに言えば「一度見た技は二度は食らわない」というのもセオリーだったなとサーリスは顔を顰める。

 どこかに突破口はないものか――


「とにかく、回復とバフは絶対封じないとダメで……そうなるともう一度同じ戦術でってなるんだけど、私もカシェルも警戒されまくってるし」


 チ、と小さく舌打ちをした後、もう一度、戦場をぐるりと見回した。

 余分な雑魚援軍は封殺した。あとは御大である邪女神一柱のみ。


「あー……他対一ならやっぱヒマワリか。正攻法が一番ってことか」


 そうと決まればと、サーリスは早速弓をしまった。「サーリス?」と訝しむカシェルに「オペレーション・ヒマワリ!」とだけ告げて、前線へ向かって走る。

 カシェルも、はあと小さく溜息を吐いて、武器を抜いて後に続く。


「ザールくん、君以外の全員でヒマワリしたら、即魔力中和叩き込んで」

「え? でも、あまり広い範囲はできないですよ。それに、魔法が何も効かなくなると、回復とか……」

「そのためのヒマワリだから! 中和優先で絶対切らさないでね」


 ザールが唖然とするのに構わず、サーリスとカシェルは前線で邪女神を相手にするふたりのところへと走った。そのまま素早く邪女神を囲むように回り込む。


「カタリナちゃん、女神のことなるべく押さえ込んで。鎖の本領発揮して」

「うん」


 サーリスの指示にカタリナが頷く。


「ロッサくんはカタリナちゃんカバー! 私とカシェルも入るから!」

「はい!」


 四人で四方を囲んだが、まだ油断はできない。

 何しろ、邪女神は飛べる(・・・)

 そこに、ザールが魔力中和の魔法を叩き込む。


「なんか重いー!」

(おもり)捨てろよ!」


 不満を零すカタリナに、輝きを失った勇者ゴリラの剣で邪女神を薙ぎながらロッサが返す。魔力中和の効果は劇的で、さすがの女神の回復も効果を顕さない。

 女神が表情を歪め、ギリリと首の鱗を鳴らして周囲を睥睨する。

 ばさり、と背の破れた翼を広げて――


「カタリナちゃん、女神抑え――」

「えっ」


 宙に逃れる前動作だと思ったのは間違いだった。

 地上に立ったまま、女神はその尾と翼で自分の周囲を薙いだ。思ったよりもずっと強い力にはじかれて、四人はたたらを踏んで後退(あとじさ)ってしまう。

 その隙を見て、女神は空へ逃れようとして……カタリナの鎖に阻まれた。


「邪神化でパワーも盛ってるのかあ。カタリナちゃんグッジョブ! さすがテルちゃんの子孫!」

「あたし、えらーい!」


 サーリスが小剣を構え直した。カタリナも体勢を崩しながらも逃すまいと、女神の脚に鎖を巻き付けていた。飛び立とうとした女神の位置めがけて、ザールはまた中和の呪文を飛ばす。

 立ち直ったカシェルとロッサが、すかさず追撃を加える。


「なんでこんなのが“創世の善き女神”なんだよ!」


 たまらず、といった表情で、ロッサが叫ぶ。

 その言葉に女神が反応し、腕を伸ばす……が、カシェルが剣で弾いた。


『今はそんなこと言ってる場合じゃないわよ』


 ゴリラソードに冷静に窘められて、ロッサは顔を顰めたる。カタリナが棘付鎖(スパイクトチェイン)を振りかぶり、もう一度女神を捕らえ直す。


「でも、女神様がこの世界作ったんでしょう? 女神様は、あたしたちのこと、ずっと嫌いだったのかな」

「カタリナ、気をつけろ!」


 女神が身を捩る。カタリナは全身に力を込めて鎖を構え、対抗する。

 中和フィールドのおかげで女神自身の加護(自己バフ)も消えている。だからカタリナの素の力でもなんとかなったけれど、そうでなければ厳しかった。


 ――ふと、世界樹の言葉を思い出した。


 あの時預かった白い花と緑の葉が付いた小さな枝は、大切にカタリナのポケットにしまってある。そのポケットから、ほんのりと温かさを感じる。


「世界樹が、女神様は本当は優しいって言ってたのに、今、全然優しくない」

「戦ってるんだからあたりまえだろ」


 何言い出してるんだという顔で、ロッサが返す。


「なんでこんな風になっちゃったんだろ。あの時の世界樹みたいに、真っ黒に汚れちゃってる」

「悪堕ちってそういうことなんだよ。いいから、手を緩めるな!」

「でも」


 女神の身体を覆う黒い鱗が、ぬるりと光った。

 城の教会にある女神の像は、もっと神々しくて、美しくて、優しげで……あの世界樹の言葉はほんとうにそうなんだと思える姿だった。

 今の女神には「禍々しい」という言葉がぴったりだ。


 “悪堕ち”って何なんだろうと、カタリナは考える。

 嫌な感情が行き過ぎて、悪いことしか考えられなくなって、善いことが何もできなくなると“悪堕ち”するのだと、以前何かで聞いた。

 でも、善神をそんな悪に落とすほどの嫌な感情なんてあるのだろうか?


 あの世界樹が、今の女神を見たらきっと悲しむだろう。

 世界樹みたいに、女神もまたきれいにすることはできないのか。

 きっと、世界樹だってそうして欲しいと願うはずだ。


「ロッサ」

「なんだよ――あっ」


 女神が吼えながら、また翼を広げてぐるりと回った。

 叩き付けられる翼を、ロッサがとっさに構えた剣で振り払う。カタリナはうまく避けつつ、女神に巻き付けた鎖でバランスを取る。


「ちょっ、ドラゴンでもないのに翼コンボとかやめてよねー!」

「チッ」


 サーリスも悪態を吐きながら両手の小剣でうまく防いでいる。カシェルも舌打ちしつつ、それでも体勢を崩さないように耐えた。


「ねえ、ロッサ。女神様って浄化できないの?」

「はあ? ……痛ッ!」


 思わず視線をカタリナに向けたロッサが、女神から手痛い一撃を食らう。

 なんとか剣を取り落とさず済んだ……と考えたところで、『しっかりしなさい!』とゴリラソードに叱咤されてしまった。


「よそ見するからだよぉ」

「お前が変なこと言うからだろ!」


 だってえ、と、また鎖を振るって女神を抑え込むカタリナが口を尖らせた。


「女神様、黒くなっちゃってるでしょ? だから、あの世界樹みたいにきれいにできないかなって」

「はあ? 世界樹と女神は違うだろ」

「でも、黒いのは一緒だよ」

「そもそも、世界樹は悪堕ちしてたわけじゃないし」

『あんたたち、戦闘中だってのに余裕ね』

『舐めた真似を……どこまでもわたくしを愚弄するのか!』


 激高する女神の伸ばした腕を弾きながら、ゴリラソードが呆れる。


「だって、女神様、ほんとうは優しかったって、世界樹が言ってたよ」

「優しい女神が、世界を捨てて真っ先に逃げ出しますか?」


 表情の抜け落ちた顔で、カシェルがちらりとカタリナを見やった。

 神話に語られている女神像などすべて偽りだったのだ――カシェルは、そう考えている。この世界を創ったのだって、あくまでの自己満足のため。自分を讃える自分に追従する者だけを集めた、自分だけに心地良い世界……本来、女神が目指して創った世界はそういうものだった。

 そんな自己中心的な女神が、善神であるわけがない。

 カシェルはそこまで考えている。


「たぶん怖かっただけなんだよ。あたしだって、武器が全然効かない相手と戦うの、怖いもん」

『わたくしを馬鹿にするのか!』


 女神がカタリナを狙う。「図星かよ」とロッサが小さく呟いた。


「でもカタリナ、浄化するなら俺が抜けなきゃいけないんだけど」

「大丈夫だよ。その分あたしががんばるから!」


 また根拠もなく“大丈夫”って……。

 は、と小さく息を吐いて、ロッサは覚悟を決めた。


ようやっと続き書けました。

あと2〜3話くらいで完結予定です。


DQ3R版、仕事が忙しすぎてなかなか進まないんですが、ようやく火山まで来ました。

公式が出してくる新イベントととの解釈違いとかサイモンへの解釈の一致とか、そんなもろもろに悶えたり燃えたりしながら生きています……が、仕事、そろそろもうちょっと暇になっても良くね????なんでこんなクソ忙しいの????


とりあえず、1&2が出るまでにはDQ3とロマサガRo7クリアしたいです……

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