9.今度こそ、空を飛ぶ方法?
しっかりと眠って起きて、三人はさっそく部屋の中の捜索に取りかかった。
とはいえ、何かしらのめぼしいものといえば、ゴオレムの背後に置かれていた、いかにもな宝箱くらいである。あるはずのない「宝箱です」という看板までが見えるようで、どうにも戸惑ってしまうほどに「いかにも」だ。
「鍵ないよ!」
いつものように止める間もなくカタリナがガチャリと開けると、中からは見慣れない魔法具が出てきた。金銀銅三種類の、ドラゴンの翼を模した魔法具だ。
「――もしやとは思いますが」
「ザール、俺もたぶん同じこと考えてる」
「え、なになに?」
わあ、と歓声を上げて中身をむんずと掴んだカタリナは、掲げてみたり撫でてみたりと好き放題だ。
魔法具は一対の翼の形をしているが、どうやって使うかまでは――
「あ、背中にくっつくよ! かっこいい! それに動く!」
銅色の翼を背中に付けたカタリナが、パタパタとはためかせる。
「やっぱり、こっちが本物の“空を飛ぶ方法”っぽいですね」
「そうだな」
「え、飛べるの!? これで!?」
期待に顔を輝かせたカタリナが、部屋を飛びだそうとする。
ロッサがすかさず「試すのは後だ!」と捕まえる。
「ええ、早く飛んでみたいー!」
「お前、だからってここのてっぺんから飛び降りようと思っただろ!」
「だって飛べるんでしょ? どうせ飛ぶなら高いところがいいじゃん」
「使い方間違ってたらどうするんだよ! 低いところで試してからだよ!」
つまんないとむくれるカタリナをよそに、箱の中を調べていたザールが「書き付けがありますよ」と何やら小さな塊を取り出した。
心臓を模した形に折りたたまれた紙だった。
破けないよう、慎重に広げたザールが、内容に目を走らせる。
「“コレ付けて南の岬にある塔のてっぺんから飛び降りると、対岸に見える大陸へ滑空して渡れます! 本格的には飛べないけど、これで高いところから落ちても安心だね!”――だそうです」
「え? これ付けて海を渡れってことか?」
「海渡るなら、船で良くない?」
ロッサもカタリナも、書き付けを覗き込む。
先ほどザールが読み上げたとおりの文章が書かれている。
「……とにかく、これで落下の心配はしなくてもよさそうですね」
「落下って、崖っぷちで戦うときのことかな? 滑空ってつまり、空中戦は無理だってことだよね」
「高いとこまで登らないと高いところは飛べないってことだしな」
三人とも、ちょっと微妙な表情になる。
期待した本当の“空を飛ぶ方法”がこれだとすると、空を飛んで“死の台地”の上に行くのは無理だろう。
「やっぱり、どうにかして教団から“台地”へ登る道の入り口を聞き出すしかなさそうですね」
「母上たちががんばってくれるといいんだけど」
「あたしたちも、教団見つけたら狩っていこう!」
「それくらいしかありませんね」
“勇者の試練”は他にふたつあるし、まずはそこへ行くことにしよう。
三人はそう決めて、とにかくふたつめの試練を目指すことにした。
* * *
が。
「海が渡れない、ですか?」
塔から一番近い場所にあった町へ戻り港の場所を尋ねると、この大陸から対岸に見える場所へ渡るのは困難だと聞かされた。
なんでも、岩と島の配置で潮の流れが急なのと、岩礁の作る浅瀬のせいで定期船の運行が困難なのだという。どうしても渡りたいなら、近隣の漁師を雇って小舟で島伝いに行くか、いったん東の大陸に出るしかないと言われてしまった。
それに、南の大陸には“死の台地”と邪教団の本拠がある。
南大陸の魔物はどれも凶暴で、この西大陸とは比べものにならないほど荒れて危険で、だから南へ渡るなんて狂気の沙汰だ。
――と町の住人に諭されてしまい、三人は考え込んでしまった。
「レベラゲしてから行かないとだめってことだよね」
「平たくいってそうですね」
「試練て、北の大陸の端っこにもあっただろ? そっちから回ってみるか?」
旅に必要なあれこれを買い足した後、宿に戻った三人は大雑把な地図を出してこれから向かう場所を検討する。
あの書き置きの「南に渡る手段」は冗談でもなんでもなかったのかと思いつつ……けれど、聞き込んだ話からすると、何も考えずに南に渡るのはあまり良い選択とは言えなさそうだとザールは考える。
試練をこなす順番に指定はなかったけれど、北から回るほうが良さそうだ。
「――北周りで行きましょう」
「そうだな、俺もそれがいいと思う」
「南の魔物、興味あるけど……」
ちょっとだけ行ってみたいなあというカタリナの言葉はまるっと無視して、ザールとロッサは北回りで行くことに決めてしまった。
「北の試練なら高飛びの翼で火輪の国へ飛べば、それほど日数もかからずに行けますから、そちらを先にしましょう」
「うまくクリアしたら、そこから南下してフォルケンセの森の島を経由して南大陸に入れるんじゃないか?」
「念のため、ここの町も“記憶”させておきましょうか」
「そうだな」
「ねー! あたしのこと無視しないでよ!」
はいはいとおざなりに相手をされたカタリナはまたむくれるが、日を置かずに勇者の試練に行けるならまあいいか、と気を取り直したのだった。
思い立ったが吉日とばかりに、三人はさっそく準備を整える。
試練にひと月くらいかかっても大丈夫なように、特に食料をしっかりとだ。
荷物はずいぶん増えたけれど、どうせ試練の場所まで行けば一カ所にキャンプを張ることになるのだ、何も問題ないだろう。
ここである程度そろえた後、火輪の国でもう一度足りないものをチェックして……あれこれと段取りを考えつつ、三人はふたつめの“勇者の試練”、北大陸の最西端にある、“虎の穴”を目指した。
到着した勇者の試練“虎の穴”は、やはり洞窟だった。
入り口はなんの変哲も無く、大型獣か何かの巣穴のような様子だ。だが、獣の気配は感じられず、最奥には勇者ゴリラの紋章があった。
三人は顔を見合わせて頷くと、その勇者ゴリラの紋章を思い切り押す。
すぐ重たい音を立てて、本当の入り口が開いた。
「ねえ、なんで“虎の穴”なんだと思う?」
奥を覗き込みながら、カタリナが言う。
「さあ? 虎の巣穴だったんじゃないか?」
「南ならともかく、このあたりに虎はいないはずですけどね」
虎狩りできるかな、と言いながらカタリナがゆっくりと中へと踏み込んだ。
『虎だ! 虎だ! お前は虎になるのだ!』
いきなり響き渡った声に、「え!?」と驚きつつも、カタリナは身構える。ロッサもとっさに杖を掲げ、ザールはその後ろで呪文詠唱の準備に入った。
そのまま油断なくじっとあたりを警戒して――
『はーい、勇者の試練場“虎の穴”にようこそ! ここでは戦闘シチュのパターンを重点的に特訓するから、がんばっていこうー!』
三人は、困惑に顔を見合わせた。
「戦闘シチュって?」
「シチュエーションのことでしょうか」
「それでなんで虎の穴で虎になれなんだ?」
おそらくは、ここも勇者を育てし者サーリスが作り上げた場所なんだろう。前回の“勇者の試練”で聞いたものと同じ声だったから。
「考えるに……いつも同じ条件で戦えるわけではないから、考えられる状況すべてに慣れるための特訓場、ということでしょうか」
「俺もそうとしか思えないな」
「シチュエーションってどんなのかなあ? 強いやつ出てくるかな?」
前回のように、とにかく力を上げていけばなんとかなるわけではなさそうだ。
さすが勇者を育てし者、女神の使徒サーリスか……と、三者三様に、この“虎の穴”の奥を見つめた。
「虎の穴」の出展は、もちろん、某書店ではなくタイガーマスクのほうです





