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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
百年目の勇者と拐かされたお姫様

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16.ようやっと

 どんな神でも善き神と呼ばれる神であれば、多少の浄化は可能である。たとえば生ける死者(アンデッド)の不浄であるとか、ちょっとした悪魔の撒き散らす不浄とか、その程度であれば。

 だが、だいぶ薄まったとはいえ、この魔王城にただよう瘴気は浄化を専門にする神でなければ手に余る規模のものだ。

 そして時の神クァディアマルが司るのは時である。時間とか空間とかそういうものに関する分野の神であり、浄化を専門とする神ではない。


 というか、浄化を専門にする神なんて、光の神スラニルフェスくらいのものだろう……カシェルが言うんだから間違いないだろう。

 さすが光の神。

 つまり太陽神。

 紫外線で消毒だ。


 ドラゴン魔王の浄化には、光の神の力そのものの塊である光の玉が必要だった。

 本来なら、先代勇者のアベちゃんの後継が、勇者の剣とかなんとかと一緒に継がせていたはずの光の玉が。

 だが、アベちゃんはオリさんともども故郷に帰ってしまった。様々な勇者アイテムを持ったまま。

 もちろん、光の玉もお持ち帰りしてしまった。


 そこで、カシェルの最高位の秘蹟(ミラクル)の出番である。

 時の神の得意分野は時間とか空間なのだから、祭壇から光の玉をちょろまかすくらいお手の物なのだろう。


 現に、カシェルが最高位の秘蹟(ミラクル)を使った結果、非常にあっさりと、テル坊の実家で祀られていたという光の玉、つまりスラニルの輝きが手に入ったのだから。


 ただ、何も残さず無言で取り寄せてしまえば、向こう――テル坊の実家とその実家が建立したという光の神の神殿はきっと大騒ぎになってしまう。

 よって、先ほどテル坊が大慌てで(したた)めた手紙と交換での取り寄せである。


「僕、カタリナ姫と結婚するって決めましたし、父さんと母さんにも帰らないとちゃんと知らせておかなきゃって思ってたところだったんです」


 うっかりテル坊即位フラグに頭がいってて、冒険は家に帰るまでが冒険だということを忘れていた。テル坊にとっては、いわば不意打ちで異世界転移を食らった状況なのだ。いきなり息子が消えて、ご両親は心配していることだろう。

 今後、テル坊がご両親と連絡を取りたくなった時には、カシェルが使えるということか。なるほど。


 閑話休題。


 そうやって、少々イレギュラーな方法でゲットした光の玉を媒介に、これからカシェルが魔王と魔王城に対してお清めの儀式を行うのだ。

 ここらに残っていた瘴気をきれいさっぱり薙ぎ払えば、魔王もただのドラゴン王に戻れるというわけだ。


 ――魔王は、本来の気弱な性格がちょっと戻ってきたのか、やや挙動不審気味に不安そうな様子を見せていた。

 グリトラがフォローしていたから大丈夫だろうが――これは絶対尻に敷かれるな。


 それから、世界にはびこってしまった魔物は、ここの瘴気が消えて魔王がただのドラゴン王に戻れば、順次消えていく。魔物は濃い瘴気から生まれるのだから、モトを断てばサヨウナラというわけだ。

 もっとも、魔王がいなくなった後でも少量の瘴気は自然発生するため、弱い魔物は残ってしまうのだが。




「じゃあ、カシェルよろしく!」


 魔王戦から数日。グリトラの協力も得て、光の玉以外の儀式に必要な、清めた泉の水やら何やら全部をようやく集め終わった。

 清めた祭壇にずらりと並べたその品々を前に、カシェルはいささか緊張した面持ちですうっと息を吸い込む。


 カシェルは時の神の神官(クロノマンサー)だが、この儀式で祈るのは時の神だけでない。もっとたくさんの善き神々なのだとか。

 生まれ変わっても宗教には無頓着だった私には、いまいちピンと来ない。


 ちなみに、ここに光の玉を安置しておくだけでもじわじわ浄化することは可能だ。しかしその場合、浄化が終わるまで何百年もかかってしまう。

 よって、今回は却下だ。

 何百年とか、エルフの感覚から言ってもちょっと長過ぎである。


 カシェルが粛々と祈り始めた。我々も姿勢を正し、(こうべ)を垂れる。


 儀式は半日から一日くらいはかかると聞いている。

 二百年ほど生きてきた私ではあるが、この手の儀式に参加するのははじめてだ。

 前世で見かけた神社の祈祷とか厄払いみたいだなと考えながら、カシェルの祈りの言葉を聞くが、何を言ってるかはさっぱりわからない。

 神社の祝詞とかお寺のお経ならちょっとはわかった。

 だが、この世界の祈りに使われる言葉はそういうのとは違う、特別な、魔法語のような言葉である。聖職者でもなきゃ理解できない言葉なのだ。


 鈴を鳴らしたり聖水を振りまいたり枝を掲げたり……途切れなく祈りの言葉を唱えながら、カシェルはあっちに行ったりこっちに来たりを繰り返す。

 残念ながら魔法の才能には恵まれなかった私にも、あたりにただよう空気が爽やかさを増してきたことが感じられた。

 ついでに、ドラゴン魔王の鱗の黒さが、ちょっと薄くなってきた。

 そして、それに反比例するように、光の玉の輝きは薄れていって――


 パン、と何かがはじけるような感覚が来た。

 この魔王城を取り巻いていた何かが、はじけ飛んだような感覚だ。


 ドラゴン魔王の鱗がいっきに輝く白さに変わる。

 どことなく薄暗かった城内にも、光が満ちた。

 カシェルが安堵したような表情で祈りの言葉を締めて、大きな吐息を漏らす。

 グリトラは、魔王改め竜王がかつての鱗の輝きを取り戻したと、感涙にむせび泣いていた。竜王自身は「すがすがしい気分だ」とか言ってはいるが、たぶんグリトラの雰囲気に流されているだけだ。そういう顔をしている。


「ようやっと、エンディングだね!」


 残っているのは、お城へ戻って王様に報告してお姫様と結婚するエンディングだけだ。大団円をこなし、めでたしめでたしで締めるのである。


 若干の懸念事項は、この魔王城自体がどうやら瘴気の集まりやすい場所となっていることだ。その対策として、光の玉は王様へのお土産にはできず、ここに安置しなければならない。

 光の玉の浄化パワーを、ここに集まる瘴気への対策にするのである。


「でもさ、この玉だいぶくすんで薄ぼんやりになっちゃったけど、大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。光の神(スラニルフェス)の化身は、昼間つねに我々の頭上に輝いています。その光にさらしておけば、光の神の力はつねにこの玉に補充されるんですよ」

「そんな太陽発電みたいな仕組みだったんだ……」

「はつでん?」


 カシェルの説明に、私はまた何かひとつ世界の神秘を失った気がした。だが、太陽の光さえあればこの城は安全ということだから、良しとしよう。


「であれば、我らが継続してこの城の主となり、スラニルの輝きを守護しよう」

「そうだな、背の君よ。妾もともに、その守護を担おうぞ」


 元魔王の竜王とグリトラが、ドラゴンの誇りにかけてと請け負ってくれた。

 もうこの城を根城にする魔王は現れないだろう。ゲームでも、ここが再び魔王城になることはなかったし。


「じゃ、対外的にはふたりも協力してくれたから魔王を倒せたってことにしようよ。元魔王とか説明するとなんかいろいろうるさそうだし」

「ですね。人間は結構疑り深いですからね」

「そういうわけで、ガリルーはよろしく頼むよ!」

「任せてください」

「では勇者ゴリラたる人間よ、これを受け取れ」


 呼ばれたテル坊は、竜王とその妃グリトラから盟約の証だという特別な鱗を受け取った。この鱗がある限り、竜王のつがいは勇者ゴリラの味方であると、そういうことらしい。

 ゲームじゃそんなシーンなかったけど、公式設定を当たるとそういうことがあったんだろう。

 たぶん。


 そして、勇者の城への帰還だが、この輝く二頭のドラゴンが送り届けてくれることになった。

 魔王を打ち破った勇者ゴリラと光のドラゴンの凱旋である。

 きっと、ものすごく絵になるはずだ。

 ゲームのドット絵じゃ、あんまりサマにならないけどね!


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