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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
百周目の勇者と異世界転生した私

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11.私と勇者の旅

 あとはラスボス魔王を伸してミッションコンプリートするだけである。


 無事アベちゃんと合流できたしオリさんの死亡ルートも回避できたし、私は既に何もかも勝った気持ちだった。

 だって、勇者ふたり揃えたうえにひとりはスーパーゴリラへ進化済なのだ。どうやったら負けるというのか。


「カシェル」


 踏みつけた女神の“力の御印(パワーシンボル)”を念入りに砕いてダンジョンの片隅に埋めているカシェルに、私は恐る恐る声を掛けた。

 女神マジ絶許の空気を背中に纏わりつかせるカシェルが、私史上で今最も恐しい存在と化している。


「えーと、どうする? カシェル、女神の神官(ミスティック)辞めちゃったわけじゃん? オリさんとアベちゃんがいるって言っても、さすがにラスボス戦はきついと思うんだけど……」

「行きますよ。僕だって弓と剣は訓練してますし、身を守るくらいなんとかなります。それに、魔道具(マジックアイテム)だって用意していたでしょう。そちらで援護くらいしますよ」

「あ、ハイ」


 じろりと真顔で睨まれて、私は思わず頷いた。


「魔王をどうにかしたら、次は女神です。この世界をなんだと思っているのか、きちんと真意を問いただしましょう」

「え……でも女神って、どうやって……」

「サーリスは追跡が得意でしょう?」


 カシェルがにっこりと笑う。

 つまり私が女神の居場所を突き止めろということか。


「やってくれますよね?」

「あ、ハイ、よろこんで」


 笑顔のカシェルに、私は即座に再度頷いた。

 だがしかし、女神の居場所を追跡しろなんて、いったいどうやって?


 とはいえ、今のカシェルに逆らうほど私は無謀じゃない。あとで考えよう。


「――サーリス殿、カシェル殿、その……大丈夫か?」

「もちろん大丈夫ですよ。まずは少し休憩を取って、回復したらさっさと魔王を滅殺しに行きましょうね」


 私ではなくカシェルがそう応える。オリさんも返す言葉が思い付かなかったのか、ただこくりと頷いた。




 私とアベちゃんの仲間である弓使いくんが、魔王までの進路で斥候(ツートップ)を担当した。たしか、エストラスだったか。発音しづらい名前じゃなくて良かった。


「あ、そこ、落とし穴あるから踏んじゃダメ」

「ああ、本当だ」


 踏み出そうとするエストラスを制して、私は床に大きくバツ印を付ける。

 落ちてもちょっと痛いだけだし、下の階層から戻ってくる手間が掛かるくらいでたいしたことはない。

 だが、気分はよくないのがここの落とし穴だ。


「――サーリスさんも、もしや先見ができるとか? エルフの魔法かなんかで」

「え? 先見? いや、そんなんできないよ?」

「さっきからずっと、まるで先を知ってるみたいに歩いてるから、アヴェラルみたいに先見ができるのかと思って」

「は? アベちゃんて先見なんてできるの? そんな設定あるの?」


 設定? とエストラスが困惑する。

 アベちゃんは勇者の息子だ。オリさんのようにゴリラ方面の伸び代はすごいけど、そんな感覚系の方向のチートはなかったはずだ。


「――アヴェラルは過去に体験したからだって言ってるから、正確には先見じゃないかもしれないけど」

「体験?」


 周囲を調べて警戒しながら、私はエストラスに先を促す。


「過去に同じことを何度も繰り返して来たから、この先何があってどうすればいいか全部わかるんだって。さすが勇者様だな」


 は? と間抜けな声を上げて、私はアベちゃんを振り向いた。

 まさかアベちゃんも私のような転生組だというのだろうか。それも、ゲーム主人公転生キメちゃったほうの。

 ――それにしては言動がそれっぽくなかったし、私の言動への反応も今ひとつ薄かったけれど。


 ともあれ、何度も繰り返してきたというなら、つまり何度も魔王を倒して世界を救ってきたということだろう。


「それなら心強いね」


 うん。つまり魔王の攻撃方法とかもわかってるってことだ。

 事故死もさらに減らせるだろう。

 その辺の話はあとでじっくり聞くことにして、今はそう考えることにした。



 * * *



 そして、いよいよ魔王である。

 影との戦いよりいくらか楽な気持ちで、私たちは再度作戦を確認する。

 魔王戦でキツいのは、強力な範囲攻撃魔法とこっちの全バフ無効化である。

 毎ラウンドちみちみと重ねてきたこっちの攻撃バフも防御バフもいっぺんに剥がしてしまう“闇の霧”は、下手な攻撃魔法よりよほど脅威だ。

 何しろ、攻撃を後回しに回復と並行で防御の立て直しに手を取られるのだから。


「カシェルが女神と善性の解釈違いで物別れしなきゃ、もうちょい楽だったんだけどなあ。言っても仕方ないけど」


 ぶつくさ愚痴を溢す私に、エストラスが「アレ、本当に女神の声だったのかね?」と首を傾げる。


「女神の封印解いた時、オリヴァル様は来なかったって言ってたんだよ。だからてっきり、オリヴァル様は結局女神の解放には行かなかったんだとばかり」

「それねー……あの女神、パワーがクソの割にプライドだけは高かったから、オリさんに下僕化断られて根に持ってたんだろうね。

 善神なんて、実のところフカシだったりしてね。アレを善神と認めたら、私の中の善の定義が腐りそうだし」


 ぼそぼそ話す私にエストラスが小さく指を立てた。

 私はピタリと言葉を止めて扉の向こうを探ることに集中し、エストラスは扉の周辺を探ることに集中する。

 こういう構造物を調べるのはエストラスの方が得意で、気配みたいなものを探るのは私の方が得意だからと決めた分担だ。


「いるね。間違いなく向こう側に。たぶん、予定通り魔王だけだ」

「こっちも特に仕掛けなんかはない。このまま蹴り開けて突入しても問題ないよ」


 よし、と後ろに待機していた皆に合図を送る。兼ねてから決めていた配置についたところで、オリさんと勇者が扉を大きく開け放った。


「魔王よ、この勇者オリヴァルとアヴェラルが、貴様の――」

『ようやく来たか。勇者とやら』


 ゲーム同様、扉を開けると同時に一斉に明かりが灯る。

 照らし出された大きな大きな城の謁見の間の一番奥、数段上がった場所に置かれた巨大な玉座に、魔王は泰然と座っていた。

 まるで、実写映画でも見ているかのようだ。


 魔王がパチンと指を鳴らし、私は「ん?」と顔を顰めた。

 ゲームでもアベちゃんの先見でも、ここで魔王以外との戦闘はなかったはずだ。罠みたいなものでのお出迎えもなかったはず。

 なのに、なぜ何かの合図のように、魔王は指を鳴らしたのか。


『我を倒しに来る勇者は、ひとりのはずだった。なのに、ここにはふたり――少々、公平感に欠けるとは思わないか?』

「魔王が、今さら何を言うか!」

『それゆえ、我もひとつ申し出を受けることにしたのだ。この世界の――』


 いきなりふわりと、空中から白い影が現れた。

 柔らかな衣を纏い、長く美しい金緑の髪を緩やかに靡かせた――


『産みの女神を称する者との共闘とやらを、な』


 創世の女神セレイアティニスの姿だった。


「――は?」


 私より先に低く低く声を発したのは、カシェルだった。

 カシェルの目は完全に据わっている。


「女神よ……未だ世界と人々を苦しめる魔王と、まさか手を組んだというのか?」

『――この世界はわたくしの作ったわたくしのものだと述べたはず。お前のような異分子を排除するのが先だと、わたくしが判断したのよ』


 オリさんがぎしりと歯軋りをする。こっちは怒り心頭という表情だ。

 アベちゃんはぎゅっと眉を寄せて何かを考えているようだ。たぶん、この想定外の事態を受けて、どう戦うべきかを考えているのだろう。

 私だって、まさか女神が魔王に肩入れするとか予想していなかった。女神の善悪の判断基準とは、いったいどうなっているのか。


「やばいな……女神の能力(アビリティ)まではさすがにわからないや。カシェルが前に使えた秘蹟は全部使えると判断して、あとはなんだろう……」


 女神の教義とか権能から推測するしかない。

 考えながら、オリさんを鍛えてゴリラにしといてよかったと、心の底から自分の先見の明に感謝する。

 ただ、アベちゃんは、ちょっと聞いた感じだと魔王戦ギリいけるくらいのレベルで来ていると思われる。女神魔王連合には、少し力不足かもしれない。

 なら、オリさんをメインに据えてうまく動かないと。


「作戦名、“ヒーラーから潰せ”で。

 魔王は回復が使えないから後回しでいいよ。まず先に女神を潰すのが最優先。女神の神官(ミスティック)は防御回復関係の秘蹟が得意だから、女神もそうだと考えたほうがいい」


 どんだけヒットポイントがあるかは知らないけど、神だろうが何だろうが、戦場に出てきて背景でもない相手なら絶対倒せるはず。


「アベちゃんが魔王を抑えて、オリさんが短期戦で女神を潰すでどうかな」

「――わかった」

「僕も女神に行きますよ」

「え」


 有無を言わせず、カシェルがオリさんのそばに付く……が、あんた一体どうするつもりだ、とかぐだぐた問いただしている暇はない。

 カシェルだって馬鹿じゃない。何か考えているんだろう。

 マジックアイテムの管理もカシェルがやってたんだし。


「万一があってもフォローは厳しいからね」

「わかってます」


 マジックアイテムを入れた袋を腰に結び付けて、カシェルがキッと女神を睨み据えた。これは相当怒っているらしい。

 当たり前か。


 アベちゃん側も、方針は決まったようだった。

 オリさんが悠々と正面に立ち、全員が武器を抜く。


「そこまで堕ちるとは、呆れ果てた女神だ。貴様がいったい何を捨てたのか――魔王と共に、奈落の底で思い知るがいい!」



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