第五十八話 求める理由
帝歴403年8月29日
人集りは更に増えていき、この日の祭りは更に盛り上がりを見せていた。
そんな様子に、人混みにあまり慣れないクレシアの顔色に気づいた俺は彼女に声を掛けた。
「流石に増えて来たな……。
クレシア、一度休憩するか?」
「うん、ごめん。
そうするよ」
俺とクレシアは人集りから避ける為に、一度屋台の集中している商店街から少し離れた公園に移動した。
人気が少し空いた公園にたどり着くと、近くのベンチに彼女を案内しそこに座らせると、俺もようやく一息をついた。
「これがこの国の祭りか……。
結構盛り上がっているもんなんだな」
「そうだね、去年もこれくらい賑やかだったのかな。
シラフは自国のお祭りとか行かなかったの?」
「まぁ、それなりには。
そういや小さい頃に、何度かルーシャと一緒に王都のお祭りに行った事があったな。
でも、城からこ護衛が多すぎてそこまで楽しむ余裕が無くて、ルーシャの機嫌が悪くて何故か俺が八つ当たりされた憶えがあるよ」
「それじゃあ?
ちゃんと祭りを楽しめたのは今日が始めてなの?」
「ある意味、そうかもな………。
で、クレシアは俺なんかと一緒で今日の祭りを楽しめたのか?」
「そんな事は無いよ。
一緒に色々な屋台とか回れてとても楽しめからさ。」
「確かに、いつになくはしゃいでいたよな?
いつもの様子とは大違い
俺も護衛をしていた甲斐があるよ。
それじゃあ、もう少しここで休憩しようか?
軽く飲み物買ってくるからここで待っててくれ」
「分かった。
でも、あまり急がなくてもいいからね」
「了解、それじゃあ行ってくるよ」
彼女の言葉に従い俺はゆっくりと飲み物を買いに屋台の方へと足を運ぶことにした。
●
一人残された私は、慣れない人混みで疲れていた。
疲労の溜まった身体を落ち着かせる為に深呼吸をし、人通りの少ない公園の遠くをなんとなく見つめる。
初めて参加した今日の祭りはとても楽しく、気付かない内にいつも以上に体力を使ってしまった。
既に時刻は昼過ぎ辺りだろうか……。
そんな事を思い一度端末を開き時刻を確認すると、既に2時を過ぎていた事に驚く。
時間が経つのが速いとつくづく感じ、今日一日私は思う存分楽しんだと心の底から感じていた。
今いる公園はいつもより人は少ない、恐らくほとんどの人々は商店街か屋台の通りに集まっているのだろう。
そんな中一人の男性に視線が思わず向いた。
帽子を深くかぶり、剣を振っている1人の男性。
恐らく近い内に行われる闘武祭に参加する生徒の一人なのだろうか。
男性の剣はとても精練されており、実力者である事は遠目で見ていても、素人の私にすら分かる程である。
あの人の剣……すごく綺麗……。
思わずそう思った。
彼の剣は一振り一振りがとても力強く、そして剣に対して素人同然の私ですら美しいとさえ感じる無駄のない精錬された動き。
時間を忘れるかのように、男の剣技にに見とれていると、男性が私の視線に気付きゆっくりとこちらに近づいて来た。
引き抜いた剣を鞘へと収め、そして私に話掛けてきた。
「随分と熱心にこちらを見ていたが、何か用でも?」
「いえ……その。
あなたの剣さばきがすごく綺麗だなって思ったので」
「………それは光栄です」
「あの……あなたも闘武祭に出るんですか?」
「いや、……私は出るつもりは無いよ。
あなたもとは?
もしかして君は例の祭りに出場するのかい?」
「いえ……出るのは私の友人です。
今日一緒に来ていたんですけど今、飲み物を買いに離れていて………」
「そうか……」
男性の首に掛けられている物に思わず視線が向く。
私と同じような形の赤い石の首飾りをその人は身に付けているのだ。
その形は私の持つソレにあまりにも酷似しており、ソレを思わず指摘する。
「あの……その首飾りは?」
「ああ、ずっと前にある人から貰った物だ。
何故か未だに手放せ無くて今も持っているんだよ……。
未練がましいとは思うがね」
「そうなんですか……。
大切な人から貰ったんですね」
「そうかもしれないな……。
私はこれで失礼するよ、こちらの剣を褒めてくれた事に感謝する」
「いえ、こちらこそとても見事でした。
あの、あなたの名前は?」
私がそう尋ねると、何も言わずにその男性は立ち去ってしまった。
何処か不思議なその人は何を思ってあの首飾りを持っているのだろう……。
そしてその少し後に二人分の飲み物を持った彼が戻って来る。
「少し遅くなって悪い。
何が飲みたいか聞くの忘れてさ……。
とりあえず2つ買って来たんだけど、どっちが良い?」
「別に何でも良かったよ。
わざわざ御免ね、シラフ」
「それなら良かったが、ほら……」
目の前の彼から飲み物を受け取り一口飲むと、暑さ故かいつもよりも美味しいと感じる。
「さっきの人は知り合いか?」
「ううん、始めて会った人だよ。
公園で剣の素振りをしていて気になって見ていたら、そんな私に気付いて話し掛けて来たの」
「そうか……。
こんな日にも鍛錬を積む人がいるとは、闘武祭に向けて気合いが入っているんだな……」
「でもその人、闘武祭には興味無いらしくて出ないって言ってたよ。
かなりの実力者だと思ったんだけどね……」
「まあ人それぞれだよ。
姉さんだって、俺より遥かに強い癖に出場する気は無いって言ってたからな………」
「そう、なんだ………」
何故だろう……彼の話を聞いて来ると大抵はお姉さんの話が出て来ている気がする。
「ねえ、シラフ。
思ったんだけど……どうしていつも話しているとお姉さんの話がいつも出るの?」
「えっ……どうしてと言われても……」
「シラフがそんな事だからルーシャから小言を言われるんじゃんないの?
お姉さんの事ばかりのシスコンってさ?」
「いや、別にシスコンって訳じゃ……。
アレはほら、癖というか、何というか?
俺が目標にしている人だからさ………」
「目標?」
「そう、目標。
俺は小さい頃から姉さんの背中を追い掛けて俺は生きているからさ、自然とその人と比べるような事をしてしまうんだ。
いずれは、姉さんを超える強さが欲しいって思ってるし………」
「強さ……か。
それじゃあどうして、シラフはさそんなに強さに拘るの?
この前の時みたいな無理をして、下手したら自分が死ぬかもしれないのにさ……。
私、ああいうのはさ、もう控えて欲しいって思ったから」
「ああ……いや、その、悪いな色々心配させて。
でもさ、なんというか……。
…………、姉さんとルーシャ達には言うなよ」
「うん?」
意味有りげな含みのある言葉を言い、彼はそのまま私に言葉を告げる。
「俺は、俺は小さい頃から救われて来たんだ。
あのルーシャと姉さん、あの二人には特に……。
昔の俺は弱くて力も無かった。
昔の事が原因で、炎を見ただけで吐いたりもしてそれでからかわれたり陰口やいじめもあったりな。
でもさ、騎士団の稽古で彼等を指導する姉さんの姿を見て思ったんだ……。
守られてばかりは嫌だって………。
俺はいつか、いや絶対に姉さんと並ぶくらい強くなって彼女を守れるような存在になりたいって……。
俺に居場所をくれたこの人を、守れるようにって。
ルーシャに対してもさ……。
俺、前に言ったろ?
俺が未熟な頃にあいつは俺を騎士として認めてくれたって……。
だからさ……俺が強くなる事で彼女を必ず守り抜く立派な騎士になりたいだ。
一応、ルーシャ本人からは俺を騎士として認めてくれてるけど、それだけじゃ足りない。
彼女だけが認めてくれる騎士としてではない。
俺が、彼女以外からもサリア王国の民全てから心の底から誇れるような騎士になりたいんだ。
守る為には強さがいる。
奪われない為に、もう二度と何も失わせない為に」
「…………。」
「俺はら二人に俺は救われた。
もちろん、リンにも……。
だからこそ、俺は強くなって彼女達を守れる存在になりたいんだ。
今は俺が弱いせいで心配を掛けているけどさ、いつかは頼られる存在になりたいって思ってる。
だから、焦るんだよ。
わかっていても、無理だとわかっても1日でも早く俺は強くなりたいから。
彼女達に、認められたいから………」
「シラフ……」
「どうしてだろうな……。
クレシアとは何故か話せるんだよ……。
正直、会ってまだ一ヶ月程度なのにさ、
あとそういや、クレシアは例の幼なじみについて何か分かったのか?
ルーシャからは最近あまりそんな話を上手く聞けて無いからさ………。
近状はどうなのかなって気になって」
「あ………うん。
ええと、その……ね……。
幼なじみはもう亡くなっていたらしいんだよ。
ずっと前に……」
「……そうか……、悪いな」
「ううん、シラフは悪くないよ。
それにその、私ね……近い内にその人のお墓参りに行こうと思ってるんだ。
私にとってその人は、あなたにとってのお姉さんやルーシャみたいに大切な人だからさ……。
だからね私、私は私自身の言葉で彼にお別れを伝えないといけないって思ってる。
それが私に出来る覚悟とケジメだから」
「お別れを伝えるか……。
出来るよ、クレシアなら必ずさ。
俺でも、一応は騎士になれたんだ。
クレシアだって必ず果たせる。
絶対に出来ると思う、いや出来るに決まってるさ」
「うん、そうだよね」
「さてと……。
それじゃあ休憩はそこら辺にして……次どうする?」
「えっと……。
夜にはさ結構大きな花火があるんだ。
だから、出来ればルーシャと一緒に行きたい。
夜だったら多分ルーシャも予定空いていると思うから、どうかな?」
「それは良いかもな。
それじゃあ次は校舎の方に行こうか。
確か図書室なら休暇中でも使えるはずだからな。
ルーシャが終わるまでそこで待っていよう」
「うん。
それじゃあ行こうか、シラフ」




