第五十九話 弱さを隠して
日が暮れ始め、室内は夕日に染まっていた。
「それじゃあ、今日の打ち合わせは以上でよろしいでしょうか。
誰か他に連絡のある方は居りますか?」
「それじゃあ私から、明日は医療班を交えての打ち合わせとなります。
なので今日配布した資料をしっかりと確認して下さい。
闘武祭まで残り僅かとなっていますので、よろしくお願いします。
「他に何かありますか?
無ければこれでお開きにしますが」
何も無い事を私が確認し終えると
「それでは今日はこれで終了します。
明日も会議がありますので欠席は控えるようにお願いします。
それでは解散、明日も頑張りましょう」
会議を終わると私は体を伸ばす。
祭りの日なのにこうして仕事に明け暮れるのは何処か寂しいと感じていた……。
会議が終わると、私以外のほとんどの人はさっさと部屋から出てきて行く。
そんな中、私に話掛ける女子生徒がいる。
同じ組で同じく生徒会の者である彼女だった。
「ルーシャ、今日はあの人と夜の花火に行くの?」
「あの人って?」
「シラフ君だよ?
ほら、二人って結構学院で噂されているじゃん。
姫様と騎士の禁断の恋……かなりいいと思ってるんだよね?
で、実際のところどうなのルーシャ?」
「えっ……。
私と彼はまだ……というか、そんなんじゃないよ!!
彼は私を含め王家に忠誠を誓う騎士なのよ。
それ以外の、それ以上でも………何でもないの!
絶対にそうなんだから……うん!」
「そうなんだ……。
でも、ルーシャ?
彼にいつもお弁当作って貰っているんでしょ?
毎日一緒に登校してさ、私も結構目撃してたし結構楽しそうだったよね」
「目撃したとしてもそんなんじゃない……。
全くみんなしてあいつの事でからかうんだから……」
「でもさ、ルーシャ?
今日はいつもより何処か上の空だったよね」
「そうだった?」
「うん……。
いつもは真面目に聞いてしっかりと意見をするのに……。
今日に限って、というか最近はずっと外を見てる。
もしかして、彼と何があったの?」
「だからそんなんじゃ……」
「ソレに、その騎士さん。
最近他の噂を聞くよ……一部の生徒の間で話題なんだけど、人殺しだとか、無能の騎士だとかさ……。
私は信じて無いけどね」
「……。その、ありがとうね」
「別にいいよ、ルーシャには勉強教えて貰ってもらったりとか………。
私、ちょっと抜けてるからね。
毎日のように、君には世話になっているとの」
「だったら、自分の力でちゃんと課題に取り組みなさいよ」
「はーい。
それじゃあまた明日ね、お姫様」
「うん、また明日」
彼女を見送り、一人残された私は外を見る。
席から立ち上がり、窓に近付き開ける。
外の風が入り、気分が少し楽になる……。
人殺し……確かに任務の中でそういう場面に立ち合う事はあるらしいが……。
恐らく、噂というのは彼の過去を知る一部の貴族階級の者達が流した物かもしれない。
でも彼を人殺しとさせたのは、私達サリアの人間である事が事実だ。
外からは祭りの賑やかな声が聞こえる。
遠くからでも、その盛り上がりは伝わってくる。
今日が休みなら私は彼と祭りを一緒にまわっていたりしていたのだろうか……。
何処か胸が苦しくなる。
最近、シラフと共にいると必ずこの胸に何かが刺さる感覚に陥る……。
彼の過去を知ったあの日から……そして昨日に至っては一人であの部屋で過ごした。
彼は私の親友に招待されて、私は一ヶ月振りに一人でその部屋を過ごしたのだ。
今までは、一人で暮らしていた部屋。
その部屋は今では一人には広すぎると感じてしまう。
私はいつの間にか彼と過ごす日々が当たり前だと感じてしまっていたんだと……。
そして、一人考え……気付いてしまった。
私は彼にふさわしくない主なのだと。
私が彼を愛する資格は無いのだと……。
シファ様から聞いた彼の過去、それに私は動揺しあろう事か彼に怒鳴り散らしてしまった。
彼は気にして無いと言ってくれるが、私は彼の優しさに甘えてしまう、そんな自分に嫌悪感しか覚えない。
「私は……」
「会議、終わりましたか姫様?」
後ろから声が聞こえ、思わず振り返る。
扉の前には私の親友を連れた彼が立っていた。
「どうして、校舎にいるの?
二人は今日もお屋敷に居るはずじゃ……」
「訳あって、祭りの見物をしてたんだ。
そして、夜に花火があるって言うからさ。
こうして迎えに来たんだよ」
「私が提案したんだ。
ルーシャもお祭り行きたいでしょ?」
「二人共……」
「ルーシャはもちろん来るだろ?」
「ええ、そうね、当たり前でしょ?
私をちゃんとエスコートしなさいよ、シラフ」
開けた窓を閉めると私は二人の元へと歩み始めた。
二人には私の一人寂しい姿を見せる訳にはいかないのだから……。
●
オキデンスにある、街一帯を眺められる高台に私は一人ぽつんと立って居た。
自分以外に人影は無く、闇に染まったその場所に背後から誰かが近付いてきた。
「そこに居るのは何者です?
何故此処に居るんですか?」
「随分と棘々しい物言いですね、あなたは」
声を掛けた男は深く被った帽子を取り素顔を見せる。
私はその姿を見て驚いた。
目の前に居たのは、既に亡き彼の姿なのだから………。
「あなたは……まさか?
いや、違う……あなたは一体………」
「……ハイド・ラーニル。
お前の変えた未来から来た者だと言えばいいか」
「っ!」
「あなたから見れば、俺はいつ振りにあなたと話すんでしょうね」
「どうして、未来のあなたがいるんですか?」
「君が未来を変える事に失敗したから俺は、俺達はここにいるんだよ。
あなたの力だけでは不十分だったそうだからな」
「…………そうでしたか。
私、結局失敗したんんだ。
本当、馬鹿ですね私………」
彼の告げた言葉に私は落ち込むしかなかった。
「ああ、そうですか………。
私、失敗したんだ。
無駄だったんだ。
私がやろうとしたことは、結局………」
「そう深く落ち込まなくてもいい。
あなたに、俺達は助けられたんだ。
それに……一応確認したが俺達以外に人影は無い
君のこちらに素顔を見せても問題は無いはずだろう?」
私はフードを取り目の前の男に顔を見せた。
既に失った本来の姿では無いが、それでも彼は分かるのだろうか?
「よく頑張りましたね、シルビア様」
「っ……はは、そうですか……。
そうですか、私……私………」
やり遂げたんだ、この人の為に……。
約束を果たせたんだ、私………
目の前の彼は………私が………。
いや、当然だろう。
ソレを、覚悟して私はここに来たのだ。
ならば受け入れよう。
しかし、今だけは………彼の元に居たい……。
私は気づけば、彼に抱き付いて泣いていた。
みっともない程の泣き顔を晒し、それでも彼にこれまでの苦悩を喚き散らす。
「私、ずっと怖かったんです……。
今日まで、今までずっと一人で……。
私、誰にも頼れなくて。
あの人に言われた通りに私はラウさんを訪ねた……でも今の私を知らないあの人相手に私は何も出来なかったんです。
私、私……私はただ、あんな未来からみんなを救いたかっただけなんです
その為に私……ずっとずっと一人で………!!」
「分かってるよ。
だから、あなたが俺達をここに呼んだんだ。
今度は必ず上手くいく………今度は一人では無い。
俺が仲間を連れて来た、こっちも駄目だったけどさ。
今度は必ず上手くいくよ」
「はい……」
「俺達が最悪の運命に終止符を打つ……。
その為に、君の力を借りたいんだ。
頼めるか?」
「勿論です。
あなたを守るのはこの私です、シラフ先輩。
でも……今は少しこのままでいさせて下さい。
私の未来ではあなたはもうこの世にいませんから。
私の知るあなたではなくても、今はあなたの温もりに触れていたいんです」
「分かったよ」
「はい」
「シルビア様、俺は俺達のやろうとしている事は間違いだと思ってる」
「………」
「でも、俺はみんなが生きていたはずの世界を守りたいんだ」
「それがあなたの願いなら。
私もその願いの為に戦います」
私も抗おう。
今度は絶対に彼を、この人を守る。
今度こそ、私達は世界に勝てると信じて。




