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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
ep The fallen emperor
327/327

責任と覚悟の重さ

帝歴401年4月15日


 午前の授業が終わり昼食の時間、適当に学内の敷地内を歩きながら俺はいつもの面子で昼食を共にと端末を取り出し呼び出してみる。


 結果として

 ラクモは同級生に課題の写しと勉強会。

 シグレとミナモは友人達との先約があるとのこと。


 そして、この手の話に真っ先に来るであろうレティアはというと……。


 「この前の課題で提出忘れがありました。

 教授の監視の元でお勉強です(泣)」


 と、この日は珍しくいつもの人選の誰一人も集まらなかった。

 レティアの補習は恒例なのはともかく、他の奴等も先約や用事があるとは、珍しい……。


 まあ、こんな日もあるだろう。

 いや、ここ最近までだいたい一緒に過ごしていたのが不思議なくらいだろう。


 わざわざ異国の地で学年は愚か組も違うのに身内の集まりばかりだったからな。

 

 「俺ももう少し同年代の友達作りとかしたほうが良いのか?」


 ふと、そんなことを呟きながら手に持ったミナモとラクモ特製の弁当を見る。


 「………」


 脳裏に、俺はこのままの生活を過ごしていいのか?

 そんな疑問が浮かんだ。


 「あれ、珍しい?

 お昼に一人なのルークス?」


 声の方を振り返ると、メルサがそこに居た。

 最近は色々忙しいらしく顔を合わせる機会はそう多く無かったが……

 そして彼女は近くの購買で買ったと思われる昼食を片手にゆっくりとこちらへ近付いてくる。


 「ルークスも今からお昼?

 ラクモ君や王女様とは一緒じゃないの?」


 「ああ、これから適当に飯食う予定だよ。

 他の奴等は今日先約があるみたいでな」


 「じゃあ今一人?」


 「メルサもか?」

 

 「まぁそうだね、というかさっきまでしつこいナンパにあってさ、適当に逃げてきたところなの。

 私、弱い奴等は興味ないってあしらったのにあいつらしつこくてさ……」

 

 「人気あるんだな、お前?

 まぁ、見た目は結構良いからな」


 「見た目はって酷くないルークス?!

 中身も良いよ、わたし!!」

  

 「はいはい、そうだなそうだな……」

 

 「全く、それじゃ今日は一人なんだよね?

 良かったらわたしと一緒にどう?

 飲み物くらいなら奢るけど?」

 

 「そうするかな、俺も暇してたからな。

 じゃ、適当に空いてる場所探すか」


 「それなら、私しか知らない穴場あるんだけど?

 そこでどう?」


 「穴場か………面白そうだな。

 じゃあそこにするか」


 「了解。

 それじゃ、このメルサが君を案内してあげる」

 

 そう言って、俺の前を歩く彼女。

 レティアと同じ長い金髪が視界に入り込む。

 その後ろ姿は確かに周りの目を惹く要素ではあるかもしれないと俺は感じた。


 「…………」


 弱い奴等には興味がない………か。

 

 彼女はそう、確か家のしきたりで自分より強い相手としか結婚が出来ないとのこと。

 相手を見つける為に昨年は闘舞祭に出場。

 その結果、見事決勝トーナメントまで出場し上位八名、通称八席と呼ばられる存在になっていた。


 最後に負けたのは同じ女性、それ以外は愚か特に男相手には負けた事は無かったらしい。


 そして彼女は、過去に俺と関わりがある。

 その思い出に関しては正直、あまり良い印象ではないのだが………。

 

 で、実際の強さに関しては俺より上。

 しかし俺が皇帝の一族であるとの事を知って、最近になって彼女は俺と関わりを持ち始めたのだが……。


 裏があるんだろうな……何かしら……。


 彼女の後ろ姿を見ながら、俺はそう思っていた。

 実力や言動に関して、嘘偽りはない、はず……。

 

 ただ、その腹の内は読めない、よくある悪人的なそういう類いの感じという訳ではないが……。

 本人の気質がそう感じさせているだけかもしれないが


 「ほら、ルークス?

 なにぼさっとしてるの?

 こっちこっち、食べる時間無くなるよ!!」


 「はいはい、分かってるって」


 振り返りながら、俺を急かしてくる彼女の姿。

 笑っていた、だがそれは何処か嘘臭くて……。


 目の前の彼女からは作り物の何かを感じていた。



 メルサから案内された場所は、校舎裏にある屋根のついた古びた建物。

 確かここは……結構前から建物の老朽化により生徒は立ち入り禁止になっていた建物だったはず……。

 

 壁面はレンガ造り、ツタに包まれて入口には壊れた鍵が見えており………。


 「おい、マジで言ってるのかよお前?

 ここ立ち入り禁止だろ?」


 「大丈夫大丈夫!

 巡回の先生達が来る時間帯は分かってるし。

 というか、サボりの常習犯が今更その程度の事で真面目ぶるのかな?」


 「別に好きでサボってる訳じゃないんだが……」

 

 「まぁまぁ、とにかく入って入って?

 さっさとご飯食べちゃおう?」


 彼女に背中を押される形で、俺は建物の中に足を踏み入れていく。

 木の床はギシギシと音が鳴り、老朽化の話は本当の様子である。


 少し奥まで歩いたところで、後ろの彼女の足が止まり横の部屋に入っていく。

 釣られるように部屋に入ると、掃除の手が届いた小さな教室が目に入る。

 二つの古い生徒用の机が向かい合わせに置かれていたのだった。


 「…………」


 「どう、結構良い感じでしょ?」


 「確かに、そうかもな。

 なんというか、何処か趣きがある感じがする」


 「そうでしょ?

 じゃ、ちょっと机拭いてて貰える?

 私、飲み物近くのそこで買ってくるからさ?

 何飲みたい?」


 「お前と同じ奴でいい」


 「了解、それじゃ行ってくるね」


 そう言ってメルサは飲み物を買いに教室を飛び出してしまう。

 なんというか落ち着きがない奴である。


 ひとまず、言われた通りに机を軽く拭く。

 

 向かい合わせに置かれた椅子も……軽く拭いて………


 「向かい……合わせ?」


 メルサの他に誰か居るのか?

 まぁ、アイツの友人か先客が残した物の可能性も……


 「…………」


 少し呆然と思考が交錯する。

 何かの違和感を感じて、他に誰か居ることじゃない


 その存在について、彼女は何一つ触れなかった。

 友人なのか、ソレすらも……。


 最初から一人なのか?

 なら、何故向かい合わせにもう一つ置いている?


 俺を誘う前提で、いやまさか?

 何の為に、何か目的があるのか?

 だが、それで何が出来る?

 今の俺に、何かある訳じゃない……。


 だが、目的があるとして……アイツは何を考えて?


 「お待たせ、ルークス!

 先にご飯食べちゃってた?」


 「いや、まだ食べてないよ。

 飲み物だけ買う割には遅かったな」


 「ちょっと向こう混んでてね。

 それじゃ、早くご飯にしよう」


 それから昼食を食べ始めて間もなく、俺の弁当に彼女は視線を向けてきた。

 特別何か珍しいものでもあったのだろうか?


 「ルークスの手作り?」


 「いや、ミナモとラクモがいつも作ってくれるんだ。

 健康に気遣ってのこと、いつまで経ってもガキ扱いされてんだよな俺は………」


 「ルークスがガキって、アハハ!!

 でもいつも作ってくれるなんて羨ましいな、私はそんなに料理得意ってわけじゃないからさ……。

 毎日外食か買ってすぐ食べる物ばかりなんだよね」


 「まぁ、確かに毎日作るのは大変だよなほんと。

 早起きは鍛錬とかで多少慣れてるが、結構キツイ」


 「だよねだよね、冬なんか特にさ。

 ほら、寒くてベットから出れなくてね………。

 小さい頃はそれで寝坊して、両親から凄い怒られたなぁ……。

 ハーヴィー家の者として、その堕落ぶりはなんだぁぁ!!ってもうカンカンでさ」


 「俺も確かに、慣れない頃は寝坊してたな。

 まぁ、お前程厳しい訳じゃなかったが……」

  

 「そうなの?」


 「実家の家業は雑誌の編集とかそっち系なんだ。

 記事とかの取材で早起きとはあったりするが、武家特有のしきたりはなくてその辺りは甘かったんだ。

 俺が剣を握り始めたのは一番上の兄の影響、あの人の背中を追いたくて始めたのがきっかけだからな」


 「ふーん、ルークスのお兄さんって強かったの?」


 「強さに関しては、そこまで突出していた訳じゃなかったらしいが……。

 あの人の振る舞いやその在り方、あの人が剣を通して示した姿はとても素晴らしいものであった」


 「………、強くないのに?」


 「お前、勘違いしてないか?」


 「何を?」


 「ヤマトの剣術。

 いや俺達がやってきた剣術とメルサや他国のやってきた剣術は根本的にその在り方が違う」


 「どういう意味?」


 「俺達がやってきたのは剣術の中でも剣の道、流派は多様だが強さを目指している訳じゃないんだ。

 剣の道を通して、精神と肉体を鍛える目的がある。

 剣と共に己の人生をより良くする為、強くなる為の技術を磨くことが主ではないからな。

 勝敗にも特に拘りはない、まぁ勝利に拘わる奴も少なくはないが………」


 「ソレ、本気で言ってるのルークス?

 強くなりたいとか、そう思わないの?」


 「強くはなりたいよ、でも強さが全てじゃないんだ。

 それが師匠の方針だからな、強さは鍛錬の過程である程度は身につくもの。

 でも、剣と共に生きる道は己が死ぬまで続くんだ。

 一喜一憂の強さではない、己の生涯を通して剣を通してその道を真髄に至れ……みたいな?

 単純な強さとか弱さとかで簡単に語れるものじゃないんだよ」


 「それじゃあ、ルークスは何?

 強くなりたくないのに、強さを求めてるの?」


 「強さの方向性が違う。

 勝ち負けの強さじゃない、剣と共に生きる為に必要な心の強さを鍛える為だ。

 だから、勝ち負けの為の強さが欲しいが為に俺は剣を握ってる訳じゃない」


 「分からない、だって剣は殺すモノだよ?

 人を殺す為の技術、生き残る為には強さが必要。

 弱肉強食、生き物の本質そのそもじゃない?

 なのに、強さは要らないとか本気で言ってるの?」


 「本気で言ってるよ。

 勿論、勝負に勝ったりするのは嬉しい。

 負けたら悔しい、それは当然だが………。

 でも勝ち負けが全ての為に、俺は剣を握ってるわけじゃないんだ」


 「私には分からない。

 生まれてからずっと強さが全てだって、そしてソレをずっと証明し続けてきた。

 なのに、君がそんなことを言うなんて心外だな」


 「勝手な期待だ、俺自身は大して強くない

 身の程が分かってるからな、でも負けたいわけじゃないのも事実だよ。

 勝たなきゃいけない、強くならないといけない理由も勿論ある………が。

 それでも俺は、強さの為だけに剣を握ってるわけじゃない」


 「…………意味が分からないな。

 強さが全てだろ、剣術に限らず武術はそういうもの。

 それを君は………」


 「まぁ強さが全てだというのも分からなくはない。

 実際、ヤマトの剣術も形はどうあれ強さを求めていたのは事実だからな。

 だがその強さはあくまで剣の技術、相手を殺す為の技ばかりじゃない。

 剣を通して、己の道を探求する……その為の強さだ」



 食事の手が止まっているメルサを気にせず俺はさっさと昼食を食べ終える。

 彼女が買ってきた飲み物も底をつき、腹が満たされると彼女は再び口を開いた。


 「………ルークス」


 「何だ?」


 「今年も、闘舞祭には出るつもり?」


 「………一応、その予定だよ。

 お前も出るんだろ、メルサ?」


 「まあね、私は八席に選ばれてるから。

 選ばれてなくても、当然出るつもりだけど」


 「そうか」

 

 「ねぇ……?」


 「ん、今度は一体何だ?」


 「レティア王女とはどうなの、最近は?」


 「レティアか?

 アレは相変わらず、毎日賑やかな奴だよ。

 ここ最近は同じ王族仲間からなのかシグレと仲良くなってる感じだな。

 食欲も変わらず、良く食べる子だな。

 ミナモとラクモは作り甲斐があるとかで………」


 「そうじゃないよ、君とどうなのかって話。

 二人は付き合ってたりとかしてないの?」


 最近、そういう噂はよく聞く。

 実際のところ付き合ってはいない。

 それなりに仲の良い友人ではあるが、面倒事に絡まれてるのが大半なのでそういう相手として見た事がほとんどない。

 確かに、端から見れば魅力的ではある。

 中身も普段の素行に多少目を瞑れば良物件。

 

 ただ、お互いの立場を考えれば普通に考えて付き合うなんて関係になるとは思えない。


 そもそものところ、向こうがどう思ってるのかだ。

 


 「俺とレティアが?

 またそんな噂を信じてるのかよ………。

 何度も言うが、俺とレティアはそういうんじゃ………」


 「ならさ、ルークス。

 私と付き合ってよ、結婚を前提にさ?」


 「家のしきたりがあるんだろ?

 そもそも、今の俺はお前より弱い」

 

 「…………」


 そして、この話題である。

 このメルサという女、最初の出会いこそ俺に突然婚約を申し込んできたというのが発端。

 メルサの実家は、かつて皇帝一族に仕えたハーヴィー家であり、兼ねてから俺のことを知っていたのか、養子に迎えたい話から、気付けばコイツの婿候補にみたいな話に発展したらしい。


 正直俺としては、勝手に自分の婚約者を決められるのは気に食わないのが本音。

 理由は単純、自分の意思がそこにないから。


 つまりは……


 「結婚のその気もない奴からの、縁談話を俺が引き受けると思われてるのはどうかと思うが?」


 「その気がないだって………?

 私は本気で……!!」


 「なら、最初の出会いから一度も俺の目を見ていないのは何のつもりだ?

 お前さ、ずっと視点が合ってないんだよ?

 武家生まれのお前が、相手の目を見て話せないなんて事は普通あり得ないだろ?

 それも、人生においての重要な選択になり得る婚約に関して、俺の目を一度も見ていないのはどういうつもりだよ、メルサ・ハーヴィー?」


 「っ………」


 「まだ、言わないといけないか?」


 俺の問いかけに、彼女は視線を下に向ける。

 こちらの言葉がかなり応えた涙ぐんているようにも見える……。

 流石に言い過ぎたかと思い、俺は困り果てたが……


 「ほんと……そう簡単にはいかないか………」


 彼女はそう言うと、目元を服の袖で一度拭う。

 そして軽く息を吐き捨てるとようやくこちらの目を見て口を開いた。


 「目的自体は本当の話だよ。

 結婚云々も一応、両親からの命令で本当にあったことで、勘当云々は少しだけ話を盛ったんだけどさ」


 「じゃ、実際のところお前はどうしたいんだ?」


 「だから言ったでしょ、私は結婚が目的なの。

 ルークスと結婚、あるいは家のしきたりに則って自分より強い男と結婚する。

 そうして、家からの束縛から逃れたいの」


 「家から逃げたい事が目的なのか?」

  

 「そうだね、他の人達がどうかは知らないけど。

 私みたいな武家生まれのお嬢様って、結構色々大変なんだよね。

 跡取り問題とか、普通は長男とか弟が居てくれたら勝手に継いで、私みたいなのはいい感じの縁談話があったらそれに乗ればいい。

 でも、私のところはそういう跡取りが居ないの」


 「つまり、その跡取り欲しさに旧知の俺に白羽の矢が立ったということか?

 でも、強い男でなければならないしきたりがあるならわざわざ俺で無くても良くないか?」 

  

 「そうだね、実際私はそのしきたり頼みで強い男探しをしていたんだけど………。

 両親の望みは君だったんだ、ルークス。

 理由は簡単、君の一族が持つ未来視の力。

 コレをハーヴィー家の元に置き、ハーヴィー家の再興を目論んでいる訳なの」


 「未来視の力………なるほどな……」


 ようやく合点がいった。

 なるほど、確かにこの力の存在を知ってるなら家の繁栄に利用出来るかもしれないと目論むはずだ。

 逸話によれば、数年先も見通す力。

 ただ、俺に実際あるのは一秒程度、長くて数秒先が見える程度の力だ。


 噂で聞くような大層な力を俺は持っていない。

 となると、その事実をコイツに伝えれば………この問題は無事解決してくれるだろう。


 メルサ自身も、対して好みでもない俺に結構をまくし立てる真似をせずに済むのだから、良いはずである。


 「てか、ルークスに未来視の力はあるの?」


 「一応あるにはある。

 ただ、じゃんけんとかほんとのちょっと先の未来しか見えない。

 剣術や戦いで有利だろとか思っても、身体が追いつかない無用の産物だ。

 勝手な期待をしてしまって悪かったな」


 「…………そっか、力自体は本当なんだ」


 「それで、他にも何かあるのか?」

 

 「他だと、そうだなぁ………。

 アーゼシカって人のこと、この間色々と彼女と話をしていたみたいだけど、その人とはどういう関係?」

 

 「今度はあの人と俺が付き合ってるとか思ってるのか、お前?」


 「いいから、答えて」


 「………」


 困ったな、あの人に関しての詳細をコイツに語って良いものだろうか?

 元帝国の八英傑の一人、ノエル・クリフト。

 その人の記憶を本人の死後、ホムンクルス?だかに移したのがアーゼシカである。

 

 外部に言っていい内容か少々悩ましい話題。

 帝国滅亡の当事者、俺の両親を知る生きしょう……いや、一度死んでるから違うのか。


 本人も、実際のところノエル本人と明言していいのか怪しいところらしいからだ。


 「……両親の知人らしい、色々あって」


 「両親……それは皇帝の方の?」


 「まぁ、そんなところ。

 話の内容に関してはまぁつまらない世間話だよ。

 帝国が滅んでこんなことがありましてから始まってみたいな、長い長い話だったんだ」

  

 「……そう、なんだ」


 「知りたいのはそんなことか?

 そもそも、何が彼女について特別気になる事でも?」


 「怪しい存在かもしれないって警戒していたんだ」


 「怪しい存在?」


 「詳しいところは私も分からないけど。

 なんというか、得体の知れない存在だった。

 背景にあるヴァリス王国の存在もそうだけど、良からぬ動きがなかったか気になってね」


 「ヴァリス王国ってそんなに不味い国なのか?」


 「私調べの知識だけど……、60人。

 この数が何かわかる?」


 「数だけ言われてもな……」


 「ここ8年余りで音信不通、連絡が取れなくなったいわゆる貴族家系の代表者の数。

 他の国なら数人出ただけでも、結構問題になる話。

 でも、あの国に関してはこの数になっても大きな問題になってないらしくてね。

 まぁ、連絡取れなくなったのが元々あまり良い噂を聞かない人達だったらしいんだけど……」


 「嫌われ者でも、音沙汰がないのは不自然だと」


 「そういうこと。

 偶然にしては出来すぎてる話だからね」


 「てか、そんな情報何処から仕入れるんだよ?」


 「他派閥の情報は常に入れるように心掛けてるの。

 外交とか、そういう部分って女の仕事ってところあるからさ?

 で、男は国や主に従って力を振るうっていう感じでしょ?私のところとかは、特にそういう感じだからね」


 「なら、お前がわざわざ強くなる必要はないだろ」


 「そうだね、本来ならそのはずなんだけど。

 家のしきたりというか、色々あって私も強くならないといけなくなったの」


 「………それで今度は結婚と……」


 「そういうこと、私の方も面倒事ばかりでしょ?

 まぁとにかく、アーゼシカって人は現状保留。

 詳細が分からない以上なんともならない………」


 「そんなに気にしなくても良いだろ?

 自分達の今の生活に影響する訳じゃないからな」


 「卒業してから厄介な相手になるかもしれないよ?

 何なら、今は問題なくても祖国に対して将来危険な存在になり得る可能性もある」


 「ソレを言えるなら、目の前のお前も俺にとっては同じくらい警戒に値する存在だ。

 俺に結婚を申し込む以前に、その辺りを考えなかったのかよ?

 アーゼシカの方を警戒しておいてさ?」


 「ソレを言われると厳しいかもね、あはは………」


 「だろ、だったらもう少し肩の力を抜け。

 今すぐ問題になる話じゃない。

 それに仮にそうだとして俺達にどうか出来る問題でもないんだ。

 そんなに数年先の脅威を真剣に考えてるなら、今この瞬間の学院での日々をもう少し勤勉に過ごしてみろ。

 その方がもっと有意義かつ効果的じゃないか。

 幸いにも、この学院国家は生徒が主体の自治国家だ。

 生徒が国の運営の中枢に関わっている、将来国を動かす立場にある人間が、動かす為の教育を実際の都市運営から直接学べるくらいだからな。

 本気でその辺りの道をやりたいなら、ソレを志してやる方が現実的じゃないか?」


 「………確かに、その通りだね。

 はぁ、別にそこまでというかなんというか………。

 まぁ、君の言う通りなんだろうけど……。

 生徒会だとか、その辺りに入れば自治に関わるところに入りやすくはなるだろうけど……。

 アレって確か、4年生以降じゃなかった?

 学院の教師一人以上の推薦と、生徒側からも結構な数の支持者を集めなきゃいけなかったりさ?」


 「学年自体に制限はない。

 要は顔と名前、そして本人の活動を売る為の足掛けとして生徒会に入るって奴等が多い。

 生徒会は基本的に4年生までの組織、4年生から卒業までに生徒官僚、代表生徒っていう役職に就く。

 4年生以降に官僚や代表になれなかったら出世街道から外れたってことで勝手に離脱していくだけ。

 名簿とか見ればわかるが、4年生以上も普通に居る。

 ただ代表生徒ともなれば、他国でいう市長や知事と同程度の役職だからな。

 代表生徒に最短で成れる限界は2年生から。

 実際になった奴は指で数えられるくらいだが」


 「そうなんだ………。

 私でも今から頑張れば成れると思う?」


 「………、出来なくはない。

 さっき言ったろ、顔と名前が認知され学院内での活動が周りから評価されて、教師からの推薦と生徒達からの支持を集められればいい。

 実際、闘舞祭の八席から代表生徒になった例も幾つかあるくらいだからな」

 

 「じゃあつまり?

 現八席として顔と名前は公に知られている私は……、

 教師からの推薦と生徒からの支持を集められればいいってこと?」


 「まぁそういうことだ。

 段々現実味を帯びてきただろ?」


 「言われて見れば確かに………。

 あ、でもこういう治める立場の人って普通は私みたいな女性は厳しいんじゃない?

 やっぱり男系の伝統が根付いていそうだからさ?」


 「規則では性別の縛りはない。

 実際、女でも代表生徒、生徒官僚になった奴はいる。

 まぁ数は少ないが………」


 「名前を挙げるなら、例えば誰?」


 「………、そうだなぁ……」


 メルサの問いに俺は頭を悩ませる。

 過去に代表生徒や官僚生徒の制度について学んだ際に、頭の隅に置いていた例外の人物。

 

 当時の俺は、まさかここであの人の名前が出てくるとは思わなかったのだが………。


 もう一人名前を挙げるなら、この間広報部の挙げた本年度の代表生徒になり得る人物十選という記事。

 ここに載せられていた唯一女性で代表生徒の地位に就くであろうと期待を寄せられている最有力候補の存在がいる………。


 「あくまで俺が一番印象に残ってるのが二人。

 一人はラーク建国以来、女性で尚且つ最年少の二年生で代表生徒に就いた人物……。

 もう一人は、今現在代表生徒に最も近い候補者」


 「私の知ってる人?」

 

 「知ってる人だよ。

 というか、候補者に関しては直接合ってる」


 「え、それほんと?!」 


 「一人は、俺の実の母親であるヒイラギ・ヤマト。

 俺も実際に名前が載っていて驚いたが、学院内でのあの人は当時は相当有名人だったらしい。

 実の父親である当時の皇帝と出会うきっかけになったのが、当時のあの人が代表生徒として活動していた際の先進的な政策に興味を持ったことがきっかけらしい。

 記録を見た限り、本当にあったのか怪しいとすら思ったのが本音だが………」


 「ルークスのお母さんが……、なるほど……。

 確かに私も知ってる人の一人だね、そんなに凄い人だったんだ………」  


 「帝国末期の短い期間でしか活動してないからな。

 帝国が滅んで歴史の影に名前が消えてしまったようなものだが、今尚生きてればまた変わっていたかもしれない。

 これまでの帝国の根本が大きく変わるような、それに俺自身にとっても……」


 「…………。

 それで、もう一人の候補者って?」


 「候補者に関してはあくまで生徒内のコミュニティによる予想が出ているんだよ。

 この間、端末のお知らせにも載っていた記事に、次の代表生徒になり得る人物が十人紹介されている。

 一応、去年の記事も確認したが過去に紹介された十人は全員代表生徒になっている。

 要は、今あの記事に載ってる人物はほぼ確実に次の代表生徒になる人達ってことだよ」


 「なるほどね、それで誰なの?」


 「それはだな………」

 


 「全く、日頃からたるみ過ぎですよ。

 仮にも王族でありながら、課題を忘れることを何度も何度も………」


 昼休みの7割以上が過ぎた頃、ようやく課題が終わり目の前の教師と一緒に昼食を取っている。

 小さな優しさからなのか、私の分の飲み物と食後の軽いデザートまで買ってきていた。


 「ごめんなさい、最近色々と忙しくて。

 課題の他にも、予算関連と書類とか急ぎでやって欲しい提出遅れの会議書類の確認と質疑の返答の整理とかもう頭が混乱してて……。

 一応、みんな頑張って書いたものだからさ。

 明日会議なのに、今朝に渡してきた子も居たからさ。

 居残りと午後の授業終わったら、その資料の確認とか承認とかね………。

 みんなよくこなせるなぁ、あはは………」


 ミナモとラクモが用意してくれたお弁当を食べながらそんな事を言うと目の前の教師は呆れながらため息混じりに口を開く。


 「提出期限を過ぎた物は無視すればいいでしょうに。

 他の方々なら仮に遅れて出されたとしても、次の会議に回す等して処理していますし……。

 それに自分だけでこなさずとも他の方々を頼ればよいでしょう?

 最近よく一緒に居るルークス・ヤマトとか?」


 教師から彼の名前が出た事に少し驚く。

 まぁ確かに、ルークスとはほぼ毎日一緒だから確かに頼れる相手としては見れるだろうけど……。


 私としては………


 「うーん、ルークスに仕事の方はあまり頼りたくはないんだよね。

 勉強とか課題とかはたまに不味い時には見てもらっているけど………。

 この仕事はほら?、公務の一環みたいなものだから無闇に外部の人達を頼る訳にはいかないし………。

 それにルークスもたまに生徒会や委員会から仕事の手伝いをしているみたいだからね」


 「…………、よくやれますよね、貴方は………。

 事情に関しては、王国政府からある程度の事情は聞いてはおりますが………」


 「入学する時から言われてた条件だからね。

 当時の記録を確認した限りだと、生徒会へ入ることを始めとして幾つか卒業までにこなさないといけない課題があるからね。

 生徒会へ入る事は当然として、在学中に生徒官僚及び代表生徒に選ばれることもあるからね。

 成績に関しては特に言われなかったけど、生徒会の業務が思ったより多くてね………」


 「当然ですよ、学業と両立は勿論ながら一人でこなせる量ではありませんから。

 その為に、生徒官僚や生徒会組織との連携ありきでこなすのです。

 幾ら優れた王であろうと、全ての政治を一人でまとめる事はまず不可能でしょう」


 「そうだね、お父様もお母様も毎日忙しくしてたから一人では無理だろうなっていうのは、記録からなんとなく察せるけど………。

 それでもね、私は自分で極力応えたいって思ってる。

 みんな頑張って用意してくれた成果だからさ、ソレをちゃんと私が自分の声で応えて、伝えなきゃいけない。

 組織の長を務めるなら、それが当然だろうから……」


 「あくまでそれは理想像でしょう?

 現実的に考えれば、不可能だとわかるはずです」


 「不可能かは、やってみなきゃ分からない。

 少なくとも私は、出来るって信じて進んでここまで来たんだからさ?」


 「………無理はしないで下さいよ。

 その身体で目指すにはあまりに無謀が過ぎますから」


 「無謀じゃないよ、これから実現させる現実だから。

 代表生徒、この交換留学が終わったら正式な引き継ぎを終え次第就任するだろうし……。

 あとはどうやって更に増える仕事をこなすかだね。

 学年も繰り上がって前任者からの引き継ぎがどれくらいあるか、他にも私みたく新たに就任した生徒官僚がどれくらい居るか………」


 「………」


 「私が前に立ち続けるのがそんなに不安?」


 「不安に思わない方がおかしいでしょう?

 でも、今更引き下がる訳ではないのでしょう?」


 「そうだね、うん。

 私はやるよ、最期まで……。

 私がレティアとして立ち続けられる限りはね。

 王族としての務めよりかは、兄様達や妹達にとっての手本として在りたいの。

 彼等の未来に私が居なくても、私の遺した道が彼等の未来に少しでも礎としてなってくれるなら………。

 これまでの私の生きた意味はあるんだと思うの。

 だから大丈夫だよ、私は出来るから。

 私はねみんなが誇れるようなサリア王国第一王女、レティア・ラグドサリアという理想の指導者をその最期まで演じ続けるから」



 帝歴401年度、ラーク代表生徒最有力候補。


 オキデンス第三学年、レティア・ラグド・サリア


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