それでも何か出来る事を
「ルークス、遅いね……。
私達で先に帰っちゃう?」
自分達の陣地の片付けは粗方終わり、いよいよ帰ろうとしている中、先に客人に連れられたルークス様の帰りを待ちくたびれているレティア様の姿が視界に入った。
こうして暇を持て余している様子ですら画になる美貌に、同性ですら嫉妬を超えて魅了されそうになる。
しかし、彼女が口を開けば食事かルークス様の事かの二択である。
食べ物と恋に焦がれる普通の乙女と言えよう。
その在り方が、何処か私達を惹きつけるモノがある気がする。
「まぁ、あの人の事ですし追って連絡しておく方が良さそうだと思いますよ。
全く、突然、謎の女性にお呼ばれされてルークス様は一体は何をしているのやら………」
暇そうにしている彼女に話しかけ、ついさっき知り合いから貰ったお菓子のお裾分けの一つを彼女に手渡す。
彼女はソレをポリポリと口に頬張ると、一瞬表情が和らいだがすぐに何処か退屈そうな表情に戻る。
食べ物だけじゃ難しいらしい。
「そんなはずありませんよ、ミナモさん。
あの方の事ですから、きっと重要な用事なのかもしれませんよ。
話に拠ればルークス様の身の内を把握している程なのですから、きっと何か理由があるはずですし」
と、私がレティア様に餌付けしていると着替えを終えたシグレ様が私達の会話を聞きつけてやってきた。
あの人と長い付き合いらしいが、私の方があの人とは長い付き合いだ。
そろそろ教えてやってもいい頃合いかもしれない。
彼をよく知る者として、アレに下手な幻想を抱えている彼女が可哀想に思えてくる。
聖人君主よりかは、子煩悩の生意気な感じ。
シグレ様の方がよっぽど真面目である。
「シグレ様は真面目過ぎますよ。
まぁ入学したての短い付き合いですからその内分かりますよ、ルークス様の悪いところは。
あの人のエロ本の隠し場所とか、授業サボってまで行く行きつけのお店とか」
「な、エロ……だなんてミナモさん、破廉恥ですよ!!
全く、ルークス様に限ってそのような物を持つはずありませんよ……。
仮にも私と同じヤマトの末席に立つ者ですよ、民に示しのつかないそのような真似をする訳が………」
「シグレ様はあの人に夢を見すぎなんですよ。
というか、年頃の殿方は大抵一つや二つ持ってるのは当たり前ですよ。
ルークス様の好みは確か、ラクモさん曰く歳上の巨乳が好みだとか。
あの人らしいというか、やっぱり胸の大きい女性がいいんでしょうね結局」
「ルークスは巨乳好きなんだ………」
お菓子を食べながら、レティア様はそう呟く。
悪い方向に変な学習をしなければいいが、というかレティア様に対してもシグレ様は誤解している気がする。
そろそろバレてもおかしくないのに、なんというか奇跡的な空回りで今の状態を保っている。
流石にもう隠し通すのも限界な気がするが、まぁバレるまでは放置で問題ないだろう。
「というか、私達ところで販売していたのはそのエロに分類されるモノなんですけど……。
もしかしてシグレ様、何も知らなかったんですか?」
「なっ……えって……ひゃ!!!!?」
そう言って、顔を赤面させ恥ずかしがる彼女。
あー、シグレ様ってそういうところはウブなのか。
コレは意外、てっきり王族だからお世継ぎ関連で性的なモノには寛容的なものだとばかり思っていた………。
何も知らずにうちの作品の売り子を引き受けていたとは、コレは中々面白いことになってきた気がする。
「ねぇ、それでどうする?
ルークスの帰り、待ってる?」
と、お菓子を食べ終えたレティア様がルークス様を待つべきかを問いかけてくる。
私とシグレ様は顔を見合わせ、少し悩む。
シグレ様は無言で彼を待つべきではと訴えかけてくるが、撤収作業もほぼ済んだ事だし帰った方が良さそうなところである。
私自身として、帰ったらすぐにでも今晩の夕食の用意や売上の集計作業も含んでいるのでさっさと帰りたいのが本音だ。
ルークス様もそこら辺は分かってくれるだろう。
それに、大方あの客人との話はかなり長引きそうな気がするのだが。
「私達は先に帰っていましょうか。
連絡は私の方からしておきます」
「了解、それじゃ私そこのゴミとか捨ててくるね」
そう言ってレティア様は私達の前から去っていく。
「良かったんですか?
ルークス様を置いて行こうだなんて」
「いいんですよ、多分長引くと思いますし。
あの人の事ですから、きっと向こうで何か食べてから帰ってくるかもしれませんからね。
昼食届けてくれたラクモさんは、先に向こうに戻って私達へのご馳走作りに励んでいると思いますけど。
あの方が問題ないと申しても手足がまだ不自由ですからね。
だから私も手伝いに向かいたいところなんです。
それに……」
「それに?」
「あの客人、底しれない何かを感じたんですよね。
シグレ様も何か感じませんでした?」
「違和感ですか、確かに不思議な御方だとは思いましたがこれといって違和感は感じませんでしたね。
私やルークス様のように、武に長けた者特有の佇まいとかは特に無さそうでしたし、至ってごく普通の人。
気になる点があるとするなら、ルークス様について色々知っていた点ですかね。
しかし、皇帝は愚か帝国関連について探る人物にしてはかなり若いと感じました。
かの国の崩壊から十数年、にも関わらずあの方をわざわざ求めて訪ねてきた辺りに関しての不信感は拭えないところです。
ミナモさんからも、得体の知れない相手にルークス様を安易に関わらせて良かったのですか?」
「悪意のようなモノは感じませんでしたから」
「その根拠は何処に?」
「んー、女の勘って奴ですかね」
「アテになりませんよ、そんなの……。
まぁルークス様の事ですし、引き際もわきまえているでしょうから問題無さそうだとは思いますけどね。
今更帝国なんかと関わったところでとは思いますからね、帝国なんかより我がヤマトの事の方を案じておりますからね。
案じるよりかは、家族の為に下手な刺激をしたくないのが本当のところでしょうけど」
「自分の事より先に、私達の方を心配しますからね。
今日みたいに、大衆に晒されると分かってても、私なんかの為に無理してくれますから………」
●
喫茶店にて俺はアーゼシカと名乗る、過去の帝国を知る人物と会話を交わしていた。
元々は帝国のノエルとして、生前の俺の実の父に仕えていた八英傑の一人であったこと。
そして帝国末期のあの時に何があったのか………。
そして、話題は気付けば俺の私生活へと変わって……
「そういえば、ルークス君。
君と出会った際に、すぐ近くに居た子ってもしかして君の彼女だったりするのかい?」
聞かれると思ったよ、確かにそう思うかもな。
あの状況で、そう疑われても無理はない。
「俺とアイツはそんなんじゃないですよ。
結構勘違いされますけど、ただの友人です」
「サリアの第一王女と友人か………」
「何かおかしいですか?」
「私の知る彼女は、人前であまり笑う子ではなかったからね。
あの子も少しは変わったのか、それとも………」
「以前にも似たようなことを言ってましたよ。
この前なんかクラウスって人が、レティアの事を笑うのが珍しいとかなんとか………」
「…………そうか」
「アイツが何か知ってるんですか?
公に言えない事が?」
「本人から何も聞いてないのかい?
例の手帳の中身も?」
「手帳………?
あのボロボロの奴の事か?
中身は少し見た事あるが、ボロい以外何か特別な代物ではないだろう?
昔からの愛用品だとか、そういうものだろ?
誕生日とか、そういうさ?」
「違うね、アレはそういうモノではない。
あの手帳は、幼い彼女に私が贈った代物だよ。
アレには特殊な魔術を込めていてね、書かれた内容を長く保存する事が出来る特殊な用紙が使用されているんだ。
防水は勿論、持ち主以外の筆跡は残らない特殊な加工が施されている」
「何の為にそんなモノを?
手癖やモノの扱いが酷いだけで、普通はそこまでの事はしないだろう?」
「アレは彼女そのものと言える代物。
彼女生きた証が、アレには刻まれている」
「どういう意味だよ?」
「………隠す程でもない。
サリアの第一王女はかつて、ある病に伏していてね。
例の伝染病もだが、それと併発して彼女の脳内は重度の魔力中毒に侵されてしまった。
その治療の為に、同様の病を患っていた私に声が掛かって彼女の治療に携わった経緯がある」
「治療?
あんた、医者かなんかだったのか?」
「ノエルとしての本業は医者だったんだ。
魔導工学やホムンクルス関連も、医学のついでに学んだ知識からだが………。
とにかく、私は彼女の治療を担当して色々と手を施してきた訳なんだよ………」
「ふーん、まぁ結果としては成功したんだろ?
今のアイツを見ればわかるが………」
俺の返答に、目の前の彼女は表情を曇らせる。
「違うのか?」
「半分は成功、一命は取り留めた。
とにかく、生きる事はなんとかなったんだがね」
「何が問題だったんだよ?」
「治療の結果、彼女は脳で記憶が保てない身体になってしまったんだ」
「は?」
「冗談なんかじゃないさ。
脳機能のほとんどが仮死状態みたいなものでね。
魔力中毒の進行と中毒状態になった脳組織の摘出には成功したのだが、その代償が大きかった」
「でも、生きてるだろ?
レティアは目の前で元気に生きている」
「そうだね、彼女は生きている。
彼女の体内に保持している魔力が脳組織の代わりに機能しているんだ。
つまり、彼女の体内の魔力は彼女の記憶そのものと言えよう」
「でも、目の前で生きてる。
あんなに元気に、なのに何が問題なんだ?
医者じゃない俺には、何が何だか分からないんだが」
「人の皮膚は約一ヶ月、血液なら四ヶ月前後で全てが入れ替わると言われている。
一般的な人間の話ならね、では魔力はどれくらいで変わると思う?」
「魔力は確か………人にもよるが魔術を扱わない一般人なら三年くらいだった気がする」
「そうだ、三年だ。
つまり彼女は自身の記憶を三年程度しか記憶を保持出来ない。
当人の記憶は愚か、歩くことやしゃべること、食べることの運動機能を含む全てをだ………。
加えて、それも長くは続かない、私も以前に両陛下には彼女は成人までは生きられる保証はないと伝えている。
当然、本人にも忠告はしたのだがね」
「は?
たった、三年……?」
彼女の言葉に驚きを隠せない。
つまり、レティアはこれまでに何度か記憶を全て失って今に至るまでを繰り返して、また忘れているということ……。
「私自身、この身体が長生き出来ないのもこの魔力の代謝に適応出来ないことが主な理由だ。
彼女も似たように、魔力そのものが生命維持に関わっている。
元より、強い魔力が集まるような場所や人気の多い場所は避けるべきなのだが…………。
全く……あの子は」
「………、今は何年目なんです?
その、魔力の周期的には?」
「………、私の記憶違いでなければ今回が三回目の二年半を先々月辺りに超えたくらいだったはずだ。
だが、全ての記憶を失う訳ではない。
しかし、何度も繰り返せばいずれその綻びが身体に現れてくるだろうよ。
今はまだ、楽しく学生生活をやっていれるのだろうがそう長くは保たない」
「…………そうですか」
「君は彼女をどうしたい?」
「可能なら助けたいです」
「出来ないなら、どうする?」
「………、それでも助ける道を探したい」
「何故助けたい?
君は、彼女のただの友人なんだろう?」
「俺はレティアの努力を見てきましたから。
アイツなりの、不器用な姿で頑張ってるところとか。
俺は何度も、アイツの近くで見てきましたから。
だから、助けたいって思っています。
その努力を無駄にしたくはないので」
「そうか………。
まぁ、私も彼女をこのまま見殺しにするのは惜しい。
元はノエルの責任だが、私も手を尽くす。
一応、治せる可能性はなくはないが………」
「本当なのか?」
「だが、あくまで空論に過ぎない。
失敗する可能性が九割以上、そもそも出来る人間がこの世に存在しない」
「でも、方法はあるんですよね?」
「…………、私の思いつく限りで二つ程。
一つは、今の私を見ればわかるように別の身体に移植するという方法だ。
だが、目の前の私と話してわかるように私はノエル本人ではなく、アーゼシカという存在にノエルとしての記憶が存在している状態なんだ。
だから、厳密にレティア王女本人を救える方法とは言えない代物、あくまで最終手段と言ったところだ。
そしてもう一つは、ある道具を用いた方法だ」
「道具だと?」
「ノエルが生前に研究していた曰く付きの代物でね。
他者の記憶を保存し、ソレを外部から読み取る事が出来る代物。
記憶の箱と、私は呼んでいたが………。
今の私が生前のノエルの記憶を持っているのも、その記憶の箱の仕組みを利用したものだからな」
「それで、その箱は今何処にあるんだ?」
「よく覚えていない。
私自身、全ての記憶が鮮明というわけでもなくてね。
ずいぶんと昔、母から貰ったものだというのは覚えているのだが………。
ノエルは、その後間もなくして両親から勘当されていてね、両親が死ぬまで顔をろくに合わせる事もなかったんだ。
アレが私の元に一時的にあったのは事実、しかし今何処にあるのか所在は不明
だが、その箱を用いれば彼女を救える可能性がある」
「一つ気になったが、例えそうだとしてだ。
記憶の箱の存在を知って、当時の彼女に何故使わなかった?
救える可能性があった、しかし病に伏していた当時レティアには使わなかった、あるいは使えなかった。
その理由が分からない」
「確かに、箱の存在を知っていた過去の私なら箱を当時の彼女に使っていただろうな。
そうなると、私は敢えてソレを使わなかったのか………
使わない、あるいは使えない理由があった。
手元の有無に関わらず、箱の再現程度は何度か試みるはずだろうし………。
幾ら手元のゴタゴタがあるとはいえ、彼女の治療はあの当時の最優先事項……無視出来る問題ではないな」
「箱に何か致命的な欠陥があったのか?
少し前に言ってた、もう一つの肉体への移植と似たようなものだとか?」
「いや、アレはそういうものではなかったはずだ。
持ち主の記憶を記録し、保持する代物。
私はそれで、彼女の記憶を箱に一時的に保管し必要な時に取り出せる経路を彼女の体内に新たに構築する手法を取ろうとしている。
コレなら、彼女の体内の魔力に保管された記憶そのものが魔力の代謝によって喪失する可能性を低減出来る」
「低減?、完全な治療ではないのか?」
「完全な治療には、仮死状態の彼女の脳組織の蘇生が必要なんだ。
私はあくまで、彼女の脳機能の代用として魔力が機能するように置換したに過ぎないからな。
そして、箱そのものも魔力を用いて動く代物。
要は記憶を保持する為に、他の記憶を微量ながら消費してしまう。
故に、完全な治療は別の方法がまた必要になる」
「………、なる程……」
目の前の彼女なあくまで俺が理解出来そうな範囲で色々と説明してくれているのが見て取れる。
言ってる事の理解は出来るが、実際に必要な技術というのがどれだけ常識から逸脱しているのか。
そして、代替案とはいえ現在まで日常生活を不備なく送れているレティアの様子をみる限り、目の前の彼女の実力は相当なものだろう。
その彼女が治療は難しいと言っている程なのだから、俺に出来る事は皆無と言えよう。
こればっかりは、俺にはどうしようもない。
返答に思い悩み、ため息が僅かに溢れるとアーゼシカは再び口を開いた。
「しかしだ、こちらからも可能な限り手を尽くしてみるとするよ。
仮死状態の脳の蘇生……、一応魔力がまだ機能しているのなら脳組織自体はまだ死んではいないことになる。
詳しい検査は改めて必要になるだろうが、少なくとも生理機能は問題なく機能している。
魔術で無理やり動かす事も不可能ではないが、魔術によって最悪脳組織が焼け死ぬ可能性があるからね。
過去に何件か検証して、その実例は見てきたから分かるが……」
「要は脳が機能していないのが一番の問題なのか?」
「そうなるね。
少し詳しく言うなら、彼女は主に後頭部の脳組織が機能していないことになる。
額側、前頭葉と言われる部分は空間認識や感情の理解の機能に作用している。
当時彼女の治療に当たった際は幸運にも魔術の認識に重要な空間認識機能がまだ機能していたこと、加えて常人よりも優れた能力があったことが重なり、私はその空間認識に関わる機能の半分を魔術の中心回路に割り当て彼女の脳組織の代用として機能するようにした。
その後、過去に摘出した魔力中毒に侵された後頭部の脳組織に関しては外部で治療し後に移植を案の一つにしていたのだが、完全な治癒には至れずそのまま私は死亡したが……」
「つまり摘出した当時の脳組織は、まだ何処かに保管されているのか?」
「一応はな、確かノエルの師であるアルクノヴァにその旨を伝えて、検体の一つとしてラークの医療組織へと預けることにしたんだ。
その後に関しては、私の記憶が正しければ後に摘出された脳組織の管理をラークの医療組織を統括しているノワール殿へと引き継がせたらしいが………」
「つまり、彼女の脳の一部が現在ラークに存在しているんだな?」
「だが、それがあったところで魔力中毒の汚染が無くなった訳じゃない。
仮に戻せたとして、上手く機能するとは思えないが」
「今のラークの医療技術で、彼女と同様の症例に対しての治療は可能なのか?」
「………、どうだろうな……。
第二次黒炭病の治療法の確立が終わった今、それに類ずる彼女と同様の症例があるとは思えない。
しかし、検体として保管はされているだろう。
後世の治療法の確立の為に保存されているはずだろうが今の彼女に戻すなんて真似は出来ない状態。
仮に脳組織の再生を試みるなら、やはりホムンクルスの技術の応用が必要になるだろう」
「………」
「先に挙げた記憶の箱に加えて、ホムンクルスの技術を組み合わせる。
元より、臓器移植の新たな可能性としてホムンクルスに利用価値が生まれるのではと思った事があるからね。
両手足、及び内臓に関しては幾つかの検体を用いて成功はしている。
心臓から骨に至るまで、魔力の代謝に関しても患者の代謝に問題なく適合は出来る。
が、脳組織となると話が変わってくる。
最初に言った通り、私がそれに近い存在だからね」
「つまり、箱を用いたとしても今のレティアではない別人になる可能性があるってことか?」
「そもそも、今の彼女はあと半年程度しか保たないだろう。
すぐに治療を行おうにも、まだ確実性に欠ける。
仮に今後、彼女の完全な治療法が見つかったとしても今の彼女に使えるようになる事はあり得ない。
最低でも1年、あるいはそれ以上………。
最悪の場合、彼女が死んで数十年後にやっとの場合も想定出来る」
「どうしようもないっていうのか?」
「ああ、今の我々には手の施しようがない。
私からも善処はする、しかし残念ながら今の彼女には間に合わないだろう」
「………」
「そろそろいい時間かな。
今日はこのくらいで切り上げよう。
また何か聞きたい事があれば連絡して欲しい。
ラークにはあと2週間程滞在予定だ、それまでの間なら対応は出来る」
「分かりました。
今日は色々とありがとうございます。
帝国の事とか、両親の事とか……。
レティアに関しては正直、なんとも言えませんが……」
「こちらこそ、私も色々話せて楽しかったよ。
君がこうして元気に過ごせているなら、あの時君の母上を逃がして正解だったのだろう」
「…………」
「彼女は生前、よく言っていた言葉がある。
良き学びは良き人々を生み良き人々は良き国を生む」
「よきまなび、ですか?」
「そうだ。
君の父上が、彼女に興味を持った要因の一つ。
新たな国の在り方、その可能性を模索していた当時の皇帝陛下に一つの答えを唯一提示したのが、君の母上であるヒイラギ様であった。
善き学び、つまりは多くの人々が共に学ぶこと。
学ぶ事で、人はより豊かな思想を持ち良き人へと成長していく。
そして、良き人が集まることで、良き国は生まれるのだと」
「なるほど……」
「君は今、良き学びが出来ているかい?」
「良き学びを正直出来てるとは思えません、でも」
「でも?」
「俺はきっと良き人達に巡り会えている。
そう思います」




