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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
ep The fallen emperor
323/325

己の宿命と、その在り方は

帝歴401年4月11日


 「本日は遠いヴァリスの地からお越し頂き誠にありがとう御座います。

 モーゼノイス殿、そしてアーゼシカ殿と御二人方の娘さん?ですかね?」


 「私の娘ではあるが、彼女はただの同僚だ。

 今後の仕事に関して、彼女に経験を積ませるべきとこちらで判断した為、同伴させている」


 「なるほどなるほど、ソレは失礼を………」


 ラークの滞在二日目、今日は取引先であるネルケア商会との商談に訪れていた。

 商会代表及び現ラークの教員も兼ねているというタルム・ネルケアが私達を出迎え今回の商談は進んでいく。


 今回の主な目的は、商会傘下の一つにある精密部品に関しての取引が主、主にヴァリスの主要品目である時計産業に必要な部品だそうだ。

 三年後を目処として今後販売される予定の新商品に向けて必要な部品の幾つかをラークに外注、及び流通経路の確保を目的とする為である。

 本来なら全てを国産で賄うモノであるが、他国のとの競争と我が国での技術的困難を極めるモノが散見され、現状世界最高峰の技術力を持つラークの手を借りることになったのである。


 元々は帝国との技術協力及び取引において最大手であったのが、その帝国が崩壊をきっかけにヴァリスでも他国と同様に大きな経済的打撃を受けた。

 その後の後釜として候補に挙がった一つがラークであり、幾つか書簡でやり取りをして今回の話に漕ぎ着けた模様。

 

 何故このネルケア商会が今回の話を引き受けた事に関しては、サリア王国時代に我がカルフ家が商会内に属する生徒達の多くの雇用先を用意していた事だろう。

 無論、私の生存に関しては黙認であるが現在私がヴァリスに居る情報を何処から仕入れたのか存じないが、何とも数奇な縁である。


 「別にその程度は構わない。

 それで今回の取引に付いて何か気になる点は御座いましたか?

 金額及び、流通経路となる物流拠点に関しても既に書簡において情報はやり取りしていたが」


 「いやはや、ソレはもうこちらとしては何の問題はありませんよ。

 少々部品の複雑な設計と材料費が不安ではありますが、これだけの設備投資があれば実用範囲内。

 二年もあれば他の部品と同様に安価に取引出来るようになると予測しています」


 「ほう、思ったより早くに実現出来るのだな?

 私等としては多少の値は張るモノと思っていたが」


 「それは日々、商会に属する生徒達の研鑽のお陰ですよ。

 同様あるいはより精密な製品の開発及び量産化に向けた動き、このラークにおいては実際に社会に出た際に向けての実習てして学生自らが生徒としても商会の社員てしての側面も持ち合わせております故。

 しかし、帝国崩壊以降は生徒の卒業先の進路が先行きが見えぬ状況が長らく続いております。

 かつてのあなた様が管轄下に置いていた企業や商会が無ければ路頭に迷っていた生徒も少なくありませんでしたから」


 「…………」


 「そちらのお話は噂は私共も少なからず把握しております。

 今回の取引において、帝国時代の名残りとして他国との取引の多くは控え、自国中心の経済でしたが生徒達の未来の為、私共は今回のお話を受けた所存ですからね。

 近年は以前までの閉鎖的な動きを緩め他国と連携して今後のラークの運営をより流動化していく動きが見られています。

 この先の国際社会において、これまでのような動きでは成り立たなくなっているのは事実。

 そして、兼ねてからあなた様の手によって救われた先輩達の存在……。

 多くの要因を加味した上で、我々は今回ヴァリスの使者であるモーゼノイス殿からのお話であれば引き受けると判断した所存です」


 「そうですか、こちらとしても以前のようにまたそちらと取引出来るようになるのは非常にありがたい。

 引き受けた生徒達の現状は私も全てを把握している訳ではないが、各企業の成績は帝国崩壊以前を超える業績を維持していると聞いている。

 ラークでの経験が、こちらの活躍に大いに役に立っている事の証明にもなるだろう」


 「それはありがたいお言葉」


 「今後とも改めて宜しく頼みます」

 

 話の流れは順調、商談は既に通ったものと見てもいい。

 細やかな日程や予算の調整をまた改めて書類でやり取りする流れも決まり、この後は別の担当者に任せても問題ないだろう。


 商談の話に折り合いがつくとしばらくの間、学院での彼の生活ぶりやラークの近状についての話が続いた。

 私自身はその話に聞き入っていると、蚊帳の外にいたアーゼシカは暇そうにしており、娘に至っては彼女に膝枕をしてもらいながら寝息を立てていた。


 それから小一時間程過ぎると、話も終わりへ向かう。

 こちらとしても有意義な時間を過ごせたであろう。


 お互いに強張った身体を伸ばし、私達は次の目的地へと向かおうとしたのだが……。

 間もなくして、連絡用としてラークで受け取った端末に次の取引先からの日程変更の連絡が届いた。

 向こうの理由としては、担当者の親族の訃報とのことと代わりの人間が今席を外してしまっているとのことらしい。


 「………、参ったな」


 「次の取引先で何か問題が?」


 「替えの担当者が居ないから日を改めたいらしい。

 元々の担当者の親族が亡くなったらしく、その対応に追われてるとのことだ」


 私が頭を悩ませていると、ティターニアが丁度目を覚まし眠そうにしながら、こちらを心配そうに見つめてくる。

 そんな様子の娘を安心させようと、アーゼシカはティターニアの頭を優しく撫でながら私に話し掛けてきた。


 「随分と急な話だな?」


 「しかし、向こうにも都合がある。

 翌日には代わりの担当者が相手をしてくれるだろうがこの後はどうするか……」


 こちらが頭を悩ませていると、何か考えがあったのか目の前のタルム殿が口を開く。


 「時間を持て余したのでしたら、ラークの祭りを見物されてはどうでしょう?

 ここラークでは今日から数日の間、賢人祭というラークの祭典が行われておりますので」


 「賢人祭か……、確か新入生に向けたラークの技術と学問を広める的な催しだったか……。

 我々も勝手に見物して良いもので?」


 「それはもう、何なら是非見てもらいたいモノです。

 外からの客人に向けて、ここラークの宣伝も兼ねて行われておりますからね。

 我々の商会からも幾つか露店を出しておりまして、是非一度足を運んで見てはどうでしょうか?」


 「なるほど、貴方がそれほどまで仰るのなら、祭りの見物も面白そうだな。

 アーゼシカ、君はどうする?」


 「別に良いんじゃないのか?

 予定も潰れた事だし、お互いしばらくの間は自由時間にでもしよう」

  

 「…………」

 

 そう言って、何処か怪しい笑みを浮かべる彼女。

 まさか昼間から酒を飲む気では?

 疑いの視線を向けると、彼女は察したのか首を振る。


 「待て待て、モーゼノイス。

 流石に私も昼間からは酒は飲まないよ。

 というか、このまま仕事先にまだ幼いティターニアを連れ回し続けるのは流石に酷だろう?

 宿に預けるにも、好奇心旺盛なこの子には大人しく留守番出来るか怪しいところだからね」


 「それで、君は私の娘を何処に連れて行く気だ?」

  

 「そうだなぁ、何か暇を潰せるモノが売られてる場所が良さそうだとは思うんだよね?

 タルム殿、そういう訳なので古本市場やそれなりに大きな書店でオススメな場所はありますか?」


 「書店ですか……、幾つかありますがその子くらいのお年頃のモノとなりますと………。

 児童書や絵巻、漫画辺りが良さそうですかね?」


 すると彼は何か心辺りがあったのか、自身の端末を取り出し誰かに通話をし始めた。

 通話越しに女性の声が聞こえ、何度かの応答をしたのち話が一区切り付くと彼は通話を切る。


 「今先程、私の担当している生徒の一人に話を通しておきました。

 その生徒は文芸クラブに所属していましてね、賢人祭で販売する同人作品部門の運営に関わっておりまして。

 娘さんに良さそうなモノを幾つか取り寄せて欲しいと頼んでみました。

 こちらが向こうに到着する頃には、向こうが幾つかの候補を用意してくれるそうなので、これから私が皆さんを会場まで案内します」


 「それは非常にありがたい。

 良かったな、ティターニア」


 「ありがとう、タルムおじさん」


 と、ティターニアは彼の前に立ち恥ずかしそうに小さくお辞儀をする。

 

 「いえいえ、これくらい当然ですよ。

 娘さんも貴方様に似てとてもご立派ですな、将来この子が大きくなってラークに入学してくれる時が楽しみですよ。

 その時は是非とも、こちらから宜しく願いたい」


 彼はそう言うと、娘と視線を合わせるように膝を落としお辞儀している娘の小さな手を優しく握る。


 「ティターニアちゃんだったかな?

 君のお父さんはとても素晴らしい御方だ。

 君もいずれは、お父さんのような素晴らしい御方になれるさ。

 君が将来、お父上のような立派な御方になれる未来を楽しみにしているよ」


 「うん、パパみたいな立派な人になれるように……。

 わたし、がんばる……」


 「そうかそうか、頑張りたまえ。

 モーゼノイス殿、貴方の娘さんはとても立派に成長してくれますよ」

 

 「そうだな。

 心の底からそうだと私は願っているよ」



 「さぁて、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!

 昨年度、例年比の三倍を売り上げ!!

 今まさに流れに、乗りに乗っている、話題沸騰の超大作の第二弾!!

 剣の果てを求めて第ニ巻!!絶賛販売中だよぉぉー!!」


 「さぁ、買った買ったぁぁ!!」


 と、大きな立て看板を持って、大声で売り込みをしているメイド姿の先輩方二人。

 そして、その少し後ろには実際に店頭で商品の受け渡しをしているミナモとシグレの姿。

 

 お揃いの何処から新調したのか分からない、多分フリルの付いたミニスカート?的な衣装、頭には犬の耳を模した髪飾りを付けて取引をしている。


 二人の先輩方の客引き、昨年度から元々あった話題性も相まって午前中ながら本日分の在庫の売り切れも近くなっていた。


 「凄いね、先輩方?」


 「確かにそうだな、うん………」

  

 と、彼等の活躍ぶりを眺めながら現在入れ替わりの休憩をしている俺とレティア。

 先輩とミナモ達が、売り込みを兼ねて独自の衣装を身に纏っている以上、俺達も何かしらの衣装を着ている訳なのだが……。


 「うーん………これちょっと胸キツイ……」

 

 そう言いながら、目の前の女は上に羽織っていた純白の上着を机に立て掛けて胸元のシャツに指を掛けながら、うちわで自らの首元を扇いでいた。

 普段の長い金髪は何らかの方法でカツラの中にしまい、普段とは違う薄焦げ茶の髪。

 傍目から見れば完全に中性的な印象を受ける男装姿である。

 

 「人の目があるから、ソレやめろ」


 「大丈夫大丈夫、今の私は男の子だからね?」


 「そういう事じゃなくてだな」


 「えー、別にいいじゃん?

 というか、その服で暑くないのルークス?」


 「暑さくらい、まだ耐えれる。

 だが、祭りが終わるまでこの姿か………」


 俺はため息を吐きながら、机に置かれた飲み物を手に取り口に含む。

 そして、机の横に置いてある先輩御用達の携行式化粧箱にある立ち鏡に自分の姿が映り込んだ。


 長く伸びた明るいブロンド髪、そして親譲りの深い蒼の目と先輩二人が面白がって施した女化粧が融合した事により、自身とはかけ離れた女の姿がそこにはあった。

 衣装に関しては、レティアが先輩に頼まれて取り寄せたという俺の採寸に合わせた青が特徴的な高価なドレスを着させられている。

 

 値段に関しては本当に高いらしい……。

 というか、本当に何でこんなことに………、


 「ルークス、その姿似合ってるのに嫌なの?」

 

 「男の俺に似合ってるって言われてもなぁ」


 「私は男の人っぽくなれるのは新鮮で楽しいけど?」


 「そうは言ってもなぁ………」

  

 先輩二人の悪ノリに乗せられた俺達二人は、例えるならお姫様と王子様って辺りの見た目であろう………。

 普通逆だろ、しかし面白みに欠けるとの事で俺とレティアの性別を入れ替えた衣装を用意したらしい。


 勿論、本人だと分からないように変装を兼ねた完璧な化粧と衣装の細工が施されている。

 どんな技術を使ったか知らないが、正直俺も驚いているくらいである。

 

 「うーん、此処に白馬とか在れば完璧だよね?」


 「お前、馬に乗れるのか?」


 「乗れない」 

  

 「乗れないんかい………」

  

 「ほら、そこはなんというかルークスが馬に乗りながら私を抱えて颯爽とさ?」


 「どんな絵面だよ、ソレ?」


 「悪くないと思うんだけどなぁ………」


 「良くねぇよ、全く………」


 「ねえ、ルークス?」


 「今度は何だよ」


 「ルークスのお母さんってさ?

 今のルークスと姿似てたりするの?」


 と、レティアは端末を手に取りながらそんな質問を投げかけてきた。


 「いや、似てないだろうな。

 あの人と俺は一滴たりとも血は繋がってないからな」

 

 「繋がってないって………?」


 「………、知らないのか?

 いや、そもそも俺がレティアに自分の事を言ったこと無かったよな」


 「うん、でも何か色々事情はあるんでしょ?」


 「まぁ、そんなところだ。

 俺は養子なんだよ、正確に言うなら親族の遠い親戚の養子ってところだ。

 昔滅んだ帝国は知ってるだろ?」


 「あー、うん、それがどうかしたの?」


 「いや、うん………というか知らないのか?

 レティア、俺の事を本当に全く知らないで関わっていたのか?」


 「知らないって言われても、ルークスは私の大切なお友達で、色々と親切で面倒見の良い優しい人って感じで?」


 「…………そういう事じゃなくてだなぁ………」


 と、恥ずかしげもなくそんな事を言うコイツの言動に頭を抱えた。

 いやまぁ、そこもある意味コイツの良いところではあるんだろうが………。


 「それじゃあ、ルークスの言ってることは何なの?」

  

 と、純粋に心辺りがない彼女に俺は呆れ半分、諦め半分でその辺りの説明をすることにした。


 「帝国最後の皇帝となったハルク・オラシオン。

 その婚約者であったのが、現在除名となっているシグレの腹違いの姉である大和ノヤマトノヒイラギ改め、ヒイラギ・ヤマト第一王女。

 そして俺はその二人の間に奇しくも生まれた、曰く付きの子供なんだよ。

 俺がヤマト王国の王族で中途半端な王位継承権を持ってるのはコレが理由なんだ」

 

 「つまり、ルークスは…………」 


 「世が世なら、俺は本来オラシオン帝国の現皇帝になっていたかもしれないんだ。

 しかし、帝国滅亡と同時に当時はだな………。

 まぁその、俺まだ腹の中にいた頃だ。

 その時の母親が亡命先に向かったのが祖国であるヤマトで、遠い親戚であった今の義両親の元を訪ねた訳だ。

 しかし、母親は帝国由来の魔力中毒から俺を守る為に自らの魔力と体力を使い果たすと、自らの命を引き換えに俺を生んだとのこと」

 

 「…………」


 「んで、残された俺はこの通り。

 中途半端な王位継承権と、帝国の再興を企むかもしれない危険因子、加えて何らかの利用価値があるとして周りから好奇の目に晒されている。

 俺が色々と鬱陶しいと感じてるのが、この特殊な出生が影響してるって訳だ。

 それでも神器の力を得るきっかけや、ラクモやシグレと関わるきっかけもあったりと、こうして学院で適当にやり過ごせる生活をしていたりと……。

 まあ全てが悪い方向に働いてる訳ではない」


 「だからルークスは、私が貴方の経歴を知らない事に不思議を感じたんだ」 


 「そういうこと。

 というか本人が実際に知らなくても、レティアの一族であるサリア王家なら俺の存在に関して何もかもをお見通しのはずだ。

 だから、わざわざ俺に関わってきた最初こそ俺はお前をかなり警戒していたよ」

  

 「それって、もしかして?

 私がルークスに近づいたことが、サリア王家が貴方に対して何らかの探りを入れようとしてないかってこととか?」

 

 「そういうことだな。

 でも、レティアのその口ぶりもそうだが違うんだろ?

 とにかくだ、俺はこういう事情で学院ではそこまで目立って動けないんだよ。

 目的があって闘舞祭とか、代表生徒代理及び補助として手を貸すことは多少あっても俺自身の意思でわざわざ大きく目立つ真似はしない、いやしたくないんだ」


 「じゃあ何で、手伝ったりしたの?

 売り子はミナモを助けたいって事の責任としてみたいだけど、わざわざ舞台で戦ったり、代表生徒の一人として会議に出向く必要は無いんだよね?

 なら、何で私と初めて出会った時のように表舞台に上がっていたの?

 私には、サリア王家としてサリアの王族として、相応しい姿を示す為……。

 でも、ルークスは違う………。

 私みたいに威光や名声を重ねる必要はない、むしろしたくないのに、それをわざわざ自分からしたのはどうしてなの?」


 声を振り絞るかのように、彼女は俺に問いかけた。

 そう思われても仕方ない。

 

 いや、当然の事だろうが……理由は既に言ってるようなものなのだ………。

 

 「表舞台に上がったのは、ただの過程に過ぎない。

 例えば、初めてレティアと会った際は、こちらからの代表生徒二人の出席を求められた際の数合わせとして、俺が相方の生徒として出席した

 ソイツ、会議の数日前に色々と役目を押し付けられて、泣きそうになるくらい困っていたところを放っておけなくてさ、仕方なく俺が手を貸していたんだ。

 資料と必要な質疑応答の内容は向こうに全部メモとして渡して、俺は数合わせで会議当日はのんびりしていたってところなんだ」


 「つまり、ルークスは?」


 「王族云々を抜きに、ルークスという人間は困ってる人達を見捨てられないみたいなんだよな、コレが……。

 ミナモも、ラクモも、シグレも、そして目の前のレティアも同じだ。

 俺が皆そうやって色々と手を差し伸べて繋いだきた関係って事なんだよ。

 だから、そうだな………。

 俺は富や名声よりも、今俺の目の前で困っている人達を助けたいってだけなんだ。

 その過程で、望まぬ表舞台に上がろうと、その目的の為に必要なら俺は何だってするかもしれない。

 勿論、ある程度自分の立場は弁えた上でな。

 だから、俺は俺に出来ない無理なことはしないよ。

 でも、俺に出来るならこの前のミナモみたく手を差し伸べて助ける選択をしたいんだ。

 コレが俺の、ある種の行動原理って奴だな。

 それは多分、レティアが姉妹の手本として威光や名声を求めるのと同じようなモノだろうよ」


 「そっか、凄いねルークスは………。

 でも、じゃあどうして助けたいと思ったの?

 目の前の誰かを見捨てたくないって、困ってる人達を助けたいって、どうしてなの?」


 「難しい質問だな……。

 勝手にそうしたくなるっていうか、反射的にそうしてしまうというかだな………。

 上手くは言えないが、それが俺にとって当たり前だったからな………。

 誰かに助けられてきた事が当たり前なら、俺自身も誰かを助けられるようになりたい。

 それが、答えってことでこの件は納得してくれ。

 そろそろ交代の時間だ、あんまり長居してるとサボってるって思われるだろう?」

 

 俺は椅子から立ち上がるも、慣れないハイヒールに足下がふらつく。

 しかし、それを支えようと咄嗟にレティアから伸ばされた手が俺の手を掴んだのだった。

 

 「おっと………」


 「大丈夫、ルークス?」


 「ああ。

 悪いな、レティア………」


 「私もルークスを助けられるようになりたい。

 私、ルークスにはいつも助けられてるからさ」


 「十分助けられてる。

 だから余計な事はしなくていい。

 勝手にはしゃいでモノを壊されたらたまったものじゃないからな」


 「ひどい!!」


 「とにかく、早く向こうと交代しよう」

  

 しかし、レティアは掴んだ手を離そうとしない。

 一度振り解こうとするも、すぐに掴み返す。


 「…………レティア?」


 「今はお姫様でしょ、ルークス姫?」


 「コイツ………」

  

 お互いの格好を見合わせ、改めて自覚する。

 何を企んでやがるんだ、レティア?

 

 「行きましょうか、姫様?」


 少し声を低くして、それっぽい仕草をしてくる。

 見た目は完璧なのが、何とも言えない感情を沸き立たせる。

 レティアのファンクラブの奴らが居れば卒倒する者達も出てくるであろう、風格を醸し出していた。

 

 見た目や外面は完璧、流石である。

 加えて妙に様になるのが余計に腹が立つ。

 そして俺は、このままレティアに手を引かれて先輩達からの好奇の視線に晒されるのだった。


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