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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
ep The fallen emperor
320/324

姫と姫の会遇

帝歴401年4月2日


 「手続きもよし………。

 荷物もちゃんと届いてる………んだよね?」


 一週間後に控えた入学式。

 今年からラークへの入学が兼ねてより決まっていた私は端末と呼ばれる学院から配布された掌程の大きさの板を用いて引っ越し先の場所を確認する。

 

 このヤマト王国第三王女であるシグレ・ヤマト。

 これより控える学院生活に置いて共に生活する先輩方への迷惑にならないよう、精進せねばならない。


 噂によれば、既に入学しているルークス様やラクモの居住地も近いらしい。

 近い内に彼等にも挨拶へと向かわなければならない。

 頭の中で何度も意気込む中、引っ越し先の建物が見えてくる。


 大きな三階建てのお屋敷。

 かつては来賓を迎える施設として機能していたそうだが、今は学院の寮の一つ。

 既に何人か入居しているそうだが……。


 「これ以上はやめろーーー!!!」


 入口前に来て、建物の中から聞こえた誰かの悲鳴。

 声質からして多分男だと思う、というか聞いた事のあるような声である。


 いや、だとしてもあり得ない。

 まさかルークス様があんな女々しい大きな悲鳴をあげているなんて………。


 思考を振り払い、とにかく私は挨拶しようと息を吸い込み声を出す。


 「すみま………」

 

 間もなくして、目の前を異国の給仕服を着た男が横切ろうと私の前を走り抜けようとするも、私を見るなり動きが硬直した。

 そして、そんな変質者染みた男と視線が合う。


 「え………な……なん……なんで………?」


 「あの………ルークス様?

 何をしているんですか?」


 目の前の変質者は、私の憧れていた御方の一人であるルークス様であった。

 何で、そんな服装を思っていた私だったが間もなくして、黒を基調とした服みたいな布切れのソレを持って彼を追ってきたであろう女性二人がやってくる。


 「待ってよ、ルークス君!!

 ほんと、次これ着たら終わりでいいからさぁ!!」


 「そーだよ、頼むからさぁ………。

 お化粧だってお姉さん達がちゃんとやってあげるから問題ないでしょう!!」


 「あぁぁぁーーー!!」


 目の前の私と、追手と思われる女性二人に錯乱状態になりつつあるルークス様。

 何だろう、一体私の知らない間にこの御方は学院で何があったのだろうか………?


 大きな闘いの祭典があったり、世界一と言われるだけのすごい場所のはずなのに………?

 いや、でも世界一と言われるからこそなのか?


 私自身、目の前の状況が飲み込めない。

 思考を整理している中、彼を追ってきた女性陣が私の存在に気付き足をとめる。


 「あー、なるほど………。

 ルークス君、この子と知り合い?

 見た感じ、新入生ぽいけど………もしかして祖国に置いてきた恋人とか、婚約者だったりする?」


 「いやいや違いますよ、千影殿?!

 えっと、というかだな?

 どうしてお前が此処に居るんだよシグレ?」


 「それは私の台詞です!!

 ルークス様、その変な格好はどうしたんですか?!

 ヤマトの誇りある殿方である貴方が何故このような女々しい格好をしているのです!!!」


 「いや、これにはだな色々理由があってだな………」


 と、彼が弁明しようとするも女性の一人が首を振りながらわかってないなというような素振りをする。


 「時代遅れだね、可愛い新入生君。

 いいかい、この女装こそ男にしか出来ない立派な男らしい行為なんだよ?

 このラークじゃ、常識中の常識なんだよ?」

 

 「そうなんですか?!!」


 「んな訳あるかぁぁ!!

 これは別に好きでやってるんじゃない!!

 次の祭りで売り子やるからって着る衣装を確認をって、というかそれバニー衣装………。

 何でそんなの持ってるんです?

 男に着せるって、そんなの何処に需要があるんですか!」


 「えー、勿体ない。

 しっかり私達の需要は満たしてるから無問題だよ。

 それにさ、君それなりに細いから長髪のカツラも被って良い感じに化粧もすれば似合うはずだよ?

 もしかして違うのが良かったりする?」


 「当たり前でしょう!!

 こんなの着せて何させるつもり何ですか!」


 「それじゃ、次は純白のウェディングドレスとか?」


 「何でそんなの着せるんですか?!

 というか何処から持ってくる気です?!」


 「まぁまぁ、というか良いのかな?

 その子の紹介とかさ?

 というかそこの新入生君可愛いね、今幾つ?

 ルークス君とは何処で知り合ったの………?

 ねえねえ……?」


 と、突然私の方へと近づく先輩方。

 頬を指で突いて来たり、頭を撫でてきたり好き放題にされてしまう。

 悪意は無いのだろうが、反応に困りどう対応すれば良いのだろうか……。

 

 「あの………えっと……」


 「おい待て明、その子に馴れ馴れしくするのはだな、流石に問題があるというか……。

 私知ってるというか、あの、だな………。

 お前本当に彼女が分からないのか?」


 「何だよ千影、知ってたのかよこの子の事さ?

 千影、そんな勿体ぶらさず私にも教えてよ?

 ねぇって?」


 「えっとさ、明?

 彼女、ヤマト王国の第三王女だよ。

 つまり、その……さっさと離れないと下手したら不敬罪って一家諸共打ち首にされる………」


 「「……………」」


 その言葉を聞いて、私の身体から彼女の手が離れて間もなくそそくさと神速の如く後退り、額を床に擦り付け杭を打ち込むが如く頭を落とした。


 「申し訳御座いませんでしたぁぁぁぁ!!!

 命だけは、どうか命だけは何卒お許しを!!!」


 「えっいや……私そんな物騒なことしませんよ!!

 というかですね?!、いつの時代の話してるんですかそこの先輩方は?!!

 帝国統治に入って400年も経ってるんですよ、今の御時世で幾ら王族貴族でもこの程度の事で打ち首なんてしませんしなりません!!

 だから頭を上げて下さい!!!

 お願いですから、先輩方ぁぁ!!」


 必死に頭を下げ続ける先輩の方へと私は急いで駆け寄ると手荷物にあった愛刀の一振りの袋が床に落ちる。

 括り付けた紐が緩んでいたのか拾い上げると、カタナの存在が目に入った先輩は身体をプルプルと震わせている。


 「ひぃぇぇぇ、殺されるぅぅ!!」


 「…………」


 対話が成立せず、錯乱状態に近い彼女。

 これ以上は流石に大事へと至る前に対処するべく私は納刀された鞘で彼女を殴り気絶させる。

 

 「ぐふっ……」


 ひとまず落ち着かせ、彼女を一度この場から離れさせると一部始終を見ていた彼等は呆然としていた。


 「シグレ、良かったのか?」


 「仕方なかったんです。

 これ以上騒がれて誤解が重なるよりは遥かにマシですから、それに話もさっさと進めたいところですし。

 それでそのルークス様?

 どうして貴方がこちらに?

 私はその、引っ越し先の住所が丁度此処だったので伺ったまででしたが………」


 「なるほどな、例の入居者はシグレだったのか。

 新入生が新たに入るって事は既に聞いてた、荷物もこちらで預かって既に部屋に置いてあるから確認するといい。

 全く、突然騒がしくして悪かったな」


 「いえ、その……私もまさかこうなるとは思ってませんでしたので。

 それとルークス様、流石にその格好のままでは示しが付きませんので着替えるべきでは?」


 「それもそうだな。

 まぁこれからまた長い付き合いになりそうだ。

 一応、身の回りの事で困ったらお前も顔合わせくらいはしているうちのところのミナモから聞いてくれ」


 「分かりました。

 それでは私は先に部屋の荷物を確認してきますね。

 では先輩方、その倒れているそこの御方については対応をよろしくお願いします」

 

 「了解、下手に騒ぎを大きくしないよう言っておく。

 まぁ、先輩達はもう卒業しているんだがな。

 近くに控える祭りを見物したら、祖国に帰ることになってる、短い付き合いだろうがよろしく頼むよ」


 「そうでしたか、既に卒業の身で………」


 「まぁ、そんなところ。

 その悪かったね、シグレ様……。

 そこの馬鹿も悪気があった訳じゃないんだが、まさか此処まで動揺するとは………。

 まぁこれもいい思い出になるよ。

 あとそうだ、私の名は千影。

 でさっき君が倒したのが明だ。

 じゃあルークス君、それじゃこれから私達とさっきの続きを楽しもうじゃないか?」


 「さっき話聞いてました、千影さん?

 これ以上は流石に勘弁して下さいって………」


 先輩方に翻弄されるルークス様の思わぬ光景に、新鮮さを感じる。

 そして私は彼等と一度別れ用意された自分の部屋へと向かうと道中、同居人の一人と思われる女生徒とすれ違った。


 長い金髪に祖国ではあまり見慣れない碧の瞳……。

 しかし、彼女には何処か見覚えがある気がする。


 「…………異国の方ですか?

 いや、でもその顔……何処かで……」

  

 「……貴方は?」

 

 「申し遅れました。

 私は、ヤマト王国第三王女のシグレ・ヤマト。

 今年度からラークへの入学を期に、此処に入居することになった者です」


 「そう、あなたも王族なのね」


 女性のその言葉に、彼女に感じた既視感の正体にようやく気付いた。

 彼女は以前祖国に訪れた異国の王女、レティア様だ。

 サリア王国第一王女、確かラークではルークス様とも親交があって、以前から興味を持っていたヤマトに訪れたらしいが……。


 「あなたも……?

 そうだ、確か貴女様は………2月にヤマトへ来訪したサリア王国のレティア王女ですよね?」


 「ええ、そうね。

 私のことを知っていたなんて、嬉しい限りだわ」


 「いえそんな。

 あの時は公務の都合上直接お会いする機会かが無くて、とても残念でしたが……。

 こうして直接お会い出来るだなんて、光栄ですレティア王女」

  

 「私もこの地で同じ王族に会えて嬉しいわ。

 私の妹も今年からラークに入学するの、あなたと同い年くらいだから、会えた際には仲良くして貰えると嬉しいわ。

 同じ王族同士、今後とも仲良くしましょう」


 「ええ、是非ともよろしくお願いします!」


 気品溢れる立ち振る舞い、対して年齢は離れていないにも関わらずこれほどまでに………。

 同じ王族として、彼女を見習わなければならない。


 「そうだ、シグレさん。

 ルークスを見なかった?

 私、ちょっと彼に用があって探していたのだけど」


 レティア王女の言葉に、私は困惑した。

 不味い、彼女を今のあの姿の彼に会わせてしまうのは問題でしかない。

 いや既に事情を知って見慣れているのかも知れないが一国の王女相手には流石に不味いだろう。


 私は別に構わないが……、というか何故レティア王女が此処にいるのだろう?

 見たところ、丸で普段から此処で暮らしているかのような軽い装い。

 その恵まれた体型が端から見ても分かるくらい、外から見たら思わず視線を集める程、目を引いてしまう部分が開幕見える。

 特に胸、本当にあんなのが実在していたとは………世界は本当に広いのだと痛感する。


 私もあれくらいとは言わずとも、その半分くらいはあればもう少し自身の体型に自信が持てたのだが………。

  

 「シグレさん?」


 「いえ、その何でもありません!

 その……ルークス様は現在、先輩方と取り込み中でして忙しいようです。

 近々行われる祭りの為の準備だとか?」


 「あー、なるほど。

 千影さんや明さんに囲まれてるのね。

 それならいつものことだから、仕方ないか……」


 と、見慣れた事のようでレティア様は彼等の事情を知っていたようである。

 それなりに長い付き合いなのか……、いやそもそもルークス様と親交が深い時点で何かあるのでは?

 まさかとは思うが、御二人は結婚を前提に交際しているのでは?


 ルークス様の義両親が若くして結婚したのもある。

 その影響で既に自身の婚約者として、彼女と?

 いや違う、ならわざわざ王族である彼女と交際するはずあるのか?

 ルークス様自身、その稀なる境遇故に目立つことは避けるくらい。

 特に色恋沙汰等、彼の古い付き合いであるラクモやミナモも知らないくらいの大ネタである。

 

 となると、レティア様から関わっている可能性が一番高いのだろうが………。

 それだと違和感がある、彼の事情を知る者ならまず近づく輩はほとんどいない。

 事情を知らず近づく王族も私の知る限り、私を除いてレティア様が初めてみる御方であろう。

 我がヤマトですら、彼を忌み嫌う者は多い程だ。

 

 なのに何故だ?

 一国の王女、ましては第一王女であるレティア様がルークス様と関わってる?

 いや、恐らく彼女は誰に対しても分け隔てなく慈愛の心を持って接する御方なのかもしれない。

 それこそ、ルークス様の持つ元々の優しい部分やその心意気に惹かれて関わってるのかもしれない。

 

 きっとそうに違いない。


 となると、単に親交が深いだけの友人なのか?

 本当にそうなのか?

 友人とはいえ、年頃の異性相手に?


 私が言える立場ではないが、私から見てのルークス様は尊厳する師匠のような御方。

 その境遇は関係なく、未熟も未熟な幼い頃の私が変われるきっかけをくれた尊敬する御方だ。

 人生の師とも言える御方だろう。


 やはり彼女も似たようなものなのか?

 気になるくらいなら、直接聞いてみよう。


 「あの、レティア様?

 少し伺っても宜しいでしょうか?」


 「ええ、構わないけど?

 何が聞きたいのかしら?」


 「学院では兼ねてから親交があるとのことですが、ルークス様とはどのような関係なのですか?

 その、少しその辺りの事が気になったもので………」


 「私とルークスの関係?

 端的に言うなら、この学院で初めて出来た異性の友人が彼なのかな?」


 「学院での最初の友人がルークス様だったと?」 


 「そうよ、今私は交換留学で西のオキデンス区からこの東のオリエント区に来ているのだけど、向こうで過ごしていた頃から、友人関係というのが上手く作れなくてね。

 私が王族だから王女として、その施しを受けたい人達は集まってくれるのだけど、対等な友人関係はそう簡単には出来なかった。

 でも、ルークスはそんな私を受け入れてくれたの。

 交換留学も本来何処の地区に派遣されるかは決められないところを、無理して彼の居るこの地域に変えて貰ったりしてね」


 「………」


 「だから、ルークスは私にとってとても大切な……。

 大切な……」


 と、そこまで言い掛けて彼女の口が止まる。

 ふと、何かに気付いてしまったかのような様子。

 いや、まさかとは思うが自分の発言でルークス様に対する想いをようやく自覚したという感じに見えなくもない気がする。

 先の発言からして、そうとしか思えない。

 でも、羞恥の様子ではなく困惑していた。


 華奢なその手の平を広げて、自分の顔の表情を必死に隠そうとする。


 「私、そっか……だから……」 


 「………、レティア様?」


 「ごめんなさい。

 ちょっと取り乱してしまったみたいね」

 

 「いえ、構いませんよ。

 その、レティア様………?

 もしかして、今の今まで自覚してなかったりしたんですか?」


 「でも、私なんかじゃ迷惑になるよきっと。

 お互いの為にもね」


 「どういう意味です?」

 

 「ううん、やっぱり何でもない。

 私、彼に用があるから失礼するわね。

 それじゃ、夕飯の時にまた会いましょう。

 ミナモさんの手料理はとても美味しいからね」

 

 そう言って、レティア様は私の前から立ち去ってしまった。

 その表情は暗く、何処か思い詰めた様子。


 二人の間には一体何があるのだろう?

 ルークス様は、レティア様のこの様子について何か知っているのだろうか?

 ルークス様のことだから、きっと何かは察しているだろうが深くは詮索していない可能性が高そうというのが個人的な見解。


 お相手であるルークス様に問題があるとするなら、そもそもレティア様自ら彼に関わらないのが普通だろう。

 王族の立場として、その辺りの風当たりを気にするなら尚の事。

 自身の発言からも、立場に関係ない彼の立ち振舞い惹かれて交友関係を持っていたことは明らかだからだ。


 それじゃ、レティア様に何か問題があるのか?

 元々決められている婚約者が存在している辺りが一番妥当な考察だろう。

 一国の王女や貴族として、既にそんな相手が幼少から決まってることは珍しい事ではない。


 私自身、国の跡取りを決める婚約者に相応しい存在になるべくして、幼少から厳しい教育を受けていた。

 このラークへの入学もその一環の一つであり、私個人として別の目的があるにしろ、将来の婚約が無関係であることはあり得ないからだ。 


 でも、レティア様に決まったお相手が居たなら尚更、自身の立場を考えて異国の殿方の屋敷に上がり込むような真似をするのだろうか?

 世間知らず、ましては幼い子供じゃあるまいし……。


 「………」


 結局、今考えても仕方ないのこと。

 そこまで気にするくらいなら日を改めて、あるいは場所を変えて直接聞けばいいだけだ。


 今は自分のやるべき事をしよう。

 そして私は自分の部屋へと入り、届いた荷物の整理を始める事にした。


 入学早々、準備を怠る訳にはいかない。

 私にはやるべきことがある。


 この学院に居るであろう、友の四肢を奪った不届き者を滅する為にも………。

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