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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
ep The fallen emperor
316/324

そして近づく、次なる祭典

帝歴401年2月27日


 ヤマトでの帰省も終わり、俺達はいつもの学生生活へと戻っていく、はずだった………。


 「…………えっと、ミナモさん?

 コレは一体……」


 その日の朝、朝食を受け取りに台所へと向かうとそこにあったのは豆腐が一丁と、炊かれた白米。

 おまけにお気持ち程度の漬物数切れ………。

 汁物も一応あるにはあったが、具の中身は豆腐のみ。


 「何、作って貰って文句でもあるんですか?」


 「いえいえ、文句というかそのだな……」


 朝からもの凄い機嫌の悪い彼女。

 体調でも悪いのか額には氷を巻いた手ぬぐい巻き付けているが、多分体調が悪いよりかは日々の過労に少しでも耐える為、頭を無理やり回すべく冷やしていると言ったところ。


 しかし、別に彼女は徹夜をしながら勉強をめちゃくちゃしている訳ではない。

 成績も良い方だし、何より彼女が学院に入学して以降家業として彼女自ら身の回りの家事は基本全て担当すると言ったくらいだからだ。 

 

 が、今日はこの様子を見ると……。

 まぁ去年も同時期は確か似たような事があったな。


 前なんか確か、おにぎり二つと漬物一切れのみなんて事が朝夜一週間続いた事もある。

 

 「あー、今日の朝ご飯は白いね……。

 うん、真っ白!」


 と、最早居るのが当たり前と化したレティアは目の前の朝食に対して率直な感想を述べる。

 確かに、真っ白ではあるんだよ。

 でもね、今それを本人の前で言うのは流石に………。

 

 「………とにかく、今はこれで我慢して下さい。

 夕飯はラクモさんに頼んで良いものにしますから。

 それとレティア様、来るならちゃんと着替えてから来て下さい。

 というか、ですね………。

 また、シャツのところのボタンの位置が上下に一つズレてますから」


 「あっほんとだ……あはは、ごめんごめん」


 そう言って俺の居る前で、自分の服に手をかけ始めようとするとミナモは咄嗟にその手を押さえる。

 

 「ここではやめて下さい!!

 ルークス様が居るんですよ!」

  

 「うーん、別に私は気にしないけど……」


 「そういうことではなくてですね」


 「あーもう。

 俺が向こう向いてるからさっさと直せレティア!

 飯食う時間が無くなるだろ!」


 俺は痺れを切らし、向こうに視線を外し彼女が服を直すまで待機する。

 そして、朝食へと入るのだが………、


 「ねぇ、スプーン無い?

 その、お箸でお豆腐食べるの慣れてないから」


 「少々お待ちを………」


 と、ミナモがスプーンを取りに台所へと席を外す。

 彼女が居なくなると、レティアは漬物を一切れ口に運び少々眠そうにポリポリと漬物をかじっていた。


 「ミナモ、最近ずっと機嫌悪いよね………」


 「まぁ、祭りが近いからな」

 

 「祭り?」


 「前回の闘舞祭が要は生徒の武の祭典。

 そして、次に控えている知の祭典である賢人祭が控えているんだよ。

 賢人祭では、要は生徒の研究成果や文化活動、商業の発展を競い、ラークの発展を世界に知らしめるモノ。

 まぁド派手な闘舞祭と違って、会場は散々として外部の人間の入場も規制されてたりとしてるんだが」


 「それが、ミナモの機嫌と何か関係あるの?」


 「ミナモの部屋に漫画とか雑誌とか沢山あるだろ。

 俺の実家ってさ家業が漫画及び雑誌とかの編集関係の仕事をしているんだ。

 で、アイツはその影響で個人で絵の制作や漫画の制作をやってるんだ。

 漫画や模型とかそういった文化的な作品の展示や販売も賢人祭では行われ、ミナモはその賢人祭に向けての作品制作に追われてるんだよ………」


 「へぇ、じゃあルークスの家って漫画家とかも何人か居るの?」

 

 「そりゃあ、勿論。

 母親が実際にそうだし下で受け持ってるのも何人か居たはずだな………。

 元々は諸外国と渡り合う為、国民の識字率及び学力の向上政策によって打ち立てられた政策の一つ。

 で、うちの家系はその辺りで上手く一山当てて、結構名の知れたところには登り詰めたって感じなんだ。

 そして、母親が今尚現役で編集作家及びうちの売上筆頭として活躍しているんだ。

 ミナモの一族も元を辿れば家業の助手として代々仕えていたみたいなところなんだ。

 だから自然とそういう環境に晒されたミナモは、同じ道を辿ってる訳で………」

  

 「ルークスはどうなの?

 絵とか描ける?」

  

 「俺は……まぁ、合わなくて辞めたんだよ。

 この通り、俺は剣術とかしか取り柄のない者なので」


 「ふーん、そうなんだ」


 と、興味を無くしたのか漬物をおかずに白米を黙々と食べるレティア。

 まぁ食い気しかないコイツには縁のないところ。

 それから間もなくして、ミナモが運んできたスプーンを受け取り、レティアは朝食を無事完食したのだった。  


● 

 

 「うーん、今日は何にしようかな………」


 「あんまり買い食いすると、夕飯食えなくなるぞ」


 その日の授業、いや……正確に言うなら帰省期間中に受けられなかった授業を終えた帰り道。

 いつもの面子である、俺とレティアとそしてラクモは放課後に近くの商店街へと出向き夕飯の買い出し、というか俺とレティアの買い食いにラクモが付き合わされている状況になっていた。

  

 「もう、慣れた光景ですね……」 

 

 「まぁ、あと3ヶ月くらいの辛抱だよ。

 レティアの交換留学もそれくらいで終わる」 

 

 「加えて、ミナモさんの機嫌も悪いですからね。

 まだ例の爆発が来ていないだけ良しといったところでしょうが………」


 「賢人祭が終わるまで、いや印刷所の締め切りを考えれば最大一ヶ月半の辛抱だろうよ。

 賢人祭では、うちのところからの出版物も結構販売する予定らしいからな。

 学生のお遊びの割には結構張り切ってるみたいだ」


 「ラークの規制も年々緩んではいますからね。

 帝国崩壊から既に二十年、それだけ当時を知る現役が退き価値観が変わっているということでしょう」

  

 「価値観が変わるか………」


 「………、あなたはどうなんです?

 こっちは鍛練を続けるのみですが……、あなたは最近少しサボっていますよね?

 心なしか、少し腹も出ている気が?」


 「おいおい、流石にそこまでなまってないぞ?

 だがまぁ、そろそろ気を引き締めないとな………。

 来年度の闘舞祭では、ちゃんと活躍しないといけないしな………。

 国から神器を受け取ってる以上、そろそろ何かしらの成果を見せないと剥奪もあり得る。

 まぁ、今更剥奪したところでってところだが」


 「結果は既に出ているでしょう?

 二年生で学位序列十四位のルークス・ヤマト。

 例年の低学年の成績としてはかなり良い結果と言えるでしょうが………」

  

 「………上の連中を見ても言えるのか?

 確か、シャルナとローゼンだったか。

 片方は西三国の王女、近年軍事的に怪しい動きが見られヤマトでもかなり警戒しているところの王族筆頭。 

 そして、ここラーク出身のローゼン。

 その実力は確かであり、が学位序列一位でありながら生徒としての生活風景の一切が不明。

 正直、アレは怪し過ぎるだろ?」

 

 「言いたい事は分かりますが………」

  

 「で、あとは………メルサかな………。

 暇な時に試合記録は一通り見たが、確かに実力はかなりあるみたいだな。

 全部の試合で手を抜いてる事を見過ごせるなら、そこまで気にしないが……」


 「メルサさんが、そんなに気になりましたか?」


 「そりゃ、帝国騎士と名乗って真っ先に婚約申し込んできた奴をそのまま受け取れる奴が居るか?

 絶対裏があるだろ、アイツ……。

 でも、悪い奴って訳じゃないんだよな、メルサは……。

 まぁ、俺個人がそう見てるってだけで傍から見たら凄い悪い奴に見えるかもしれないが……」


 「ハーヴィー家について、何か分かったんです?」


 「それなりにはな………。

 確かに、ハーヴィー家は元帝国騎士家系の一つだったのは事実らしい。

 でもな、俺の調べによるとアイツの家って帝国崩壊の二年前に地下街の内戦に巻き込まれて既に滅亡していたんだよ。

 だから、帝国騎士家系としてのハーヴィー家は本来存在していないはずなんだ」


 「ソレはつまり、彼女は嘘を付いてると?」

  

 「かもしれない。

 どんな理由があるか知らないが、少なくとも俺に対して帝国の名前をちらつかせながら近付いた時点で厄介な案件の可能性は非常に高い。

 一応当時の記録では、帝国崩壊時点で国内では二つの派閥に分かれて既に内戦状態にあったらしい。

 その派閥争いにおいての片方、要は皇帝支持派の残党が俺の存在を耳にして使者としてメルサを遣わせたって説とかはどうだろう?」

 

 「帝国の残党ですか……」

  

 「俺の中では現状一番あり得そうとは思ってる。

 でも、今更過ぎないか?

 仕掛けるなら、それこそ俺が幼い頃にでも誘拐して傀儡政治の材料として利用するって手を使う方が向こうとしても一番使いやすかったはずなんだ。

 今になってやるには、正直時間をかけ過ぎてる」


 「なるほど、確かにそう見えますね」


 「何故今になってなのかが分からない。

 とにかくだ、全てを知りたければあの祭りで勝てばいい話なんだからな」


 「でも、今のルークスでは勝てないでしょう?

 神器もそうですが、自身の力の制御がままなりませんからね?

 自分にはそういう能力はないので、どういった感覚なのかは分かりませんが」

 

 「まぁ、それはそうなんだよな………。

 祭典期間中の連戦連戦で、何度もコレに頼ってしまうと最悪、目玉が吹っ飛ぶかもしれない。

 かといって勝ち進んだ結果、力を加減して勝てる相手でもなくなるというな……」


 と、俺はラクモに答えると自分の右目を抑える。

 自身の本当の父親も同様に一族が代々持っていたという特殊な異能の一つ。


 ラプラスの目と呼ばれる未来を見れる能力らしい。


 俺なりの解釈としては、なんというか顕微鏡を使うようか動作を脳内で処理して片方の目に意識を集中させると、目の前に数秒先の未来が見えるといった具合。


 逸話によってはもっと先の未来も見れるとのこと。

 同様の能力が西諸国が信仰しているラグド教の最高指導者である教皇一族が持っているらしい。

 この力を用いて、帝国は世界全土を支配し四百年近い統治を可能、同様に教会も西諸国の支配を確立した。


 こう聞けば、便利で凄い能力なのだが………。

 実際に使う身としては、正直扱いに困る力だ。


 「………この前アレを取ったのが……。

 祭典終わってすぐの時だったか?」

  

 「そうでしたね、その時に医者からはなんと?」


 「次同じようにやったら、目玉を取ると脅された」


 「脅しではなく、有り難いご忠告でしょう。

 そんなに、例の力を使うのが大変なんですか?」

  

 「大変というか、前にも言ったろ?

 使い過ぎると目の中に魔水晶が生成されてしまうらしいからな。

 小さい頃は涙と混ざって勝手にポロッと取れたんだが、今は目の中にガッツリ生まれてる。

 で、そのまま使い続ければ目玉が魔水晶になって、最悪は脳組織に魔水晶が及んでそのまま………」


 「………厄介な力ですね」


 「その代わり、じゃんけんに負けた事がないけど」

  

 「割に合ってないでしょう、ソレ?」


 「そうだな、何もじゃんけんに負けないってだけの力ではないんだ。

 使い方さえちゃんとすれば、今度の試験の出る問題も分かるかもしれないし……」   


 「それやり始めたら流石に殴りますよ?」


 「冗談、冗談、その手を一回下ろせ。

 とにかく、使い方と使い所は考えないといけない。

 コレに神器を合わせれば、今度は負けないだろ?」

 

 「でも、事実負けたでしょう?」


 「いや、アレは単に神器の力に慣れなかったというか、そもそも鍛練サボったのもあるし……。

 てか、相手が悪かったんだよ、そもそも」


 これ以上の余計な詮索を避けたかった俺は、ラクモから視線を逸らしレティアの方へと視線を向ける。 

 まだ何買うか決まらないのか、それともアレもコレも食おうとしているのか………。

 それとも、端末内の残高を使い切ったのか?


 「………、今度は何やってるんだ、アイツ?

 悪い、ちょっと様子見てくるわ」


 「畏まりました、夕飯の買い出しには自分一人で行きますので王女のことはお任せします。

 しっかりと面倒を見てください」


 「了解。

 そうだ、今日の夕飯は何の予定なんだ?」


 「無難に魚の塩焼きですかね、魚の種類は良さそうなものにします。

 それに合わせて、副菜は適当に………」


 と、今晩の予定を伝えてくれるが、懸念点が一つ。


 「あの、それで、肉は……」


 俺の問いに、呆れたのかラクモはため息を吐き捨て、眉間にシワを寄せたのだった。


 「明日はお肉しますから、今日は我慢して下さい。

 ついでに、今晩からしばらくはそちらに泊まって食事の用意を手伝います。

 ミナモさんにはいつもお世話になっていますからね。

 こういう時くらいは、助け合いをと……」

  

 「そうして貰えると助かる。

 じゃあ、後は頼むわ」


 ラクモにそう告げ、アイツがこれ以上機嫌の悪くなる前に俺はレティアの方へと向うことにした。


 全く扱いに困る奴ばかりだな……。



 真夜中に端末で呼び出され、待ち合わせ場所へと向かうと一人の男の姿が視界に入ってきた。

 普段は賑やかな商店街が近く、日々の鍛練の後に店で冷たい飲み物を買うのが楽しみなのだが、今日は鍛練で来た訳ではない。


 「こんな夜遅くに呼び出すなんて何の用です?」


 「済まないね。

 君が忙しいのは分かってるが、こちらも色々と手が込んでいてね、動かせる人員に困っていたんだ」 

 

 「それでも、他の子達に頼めば良いでしょう?

 これ以上、無闇に彼との接触を続けると例の能力に感知されて、余計な詮索をされかねませんから」

  

 「………なるほど。

 では、さっさと用件を伝えるとするよ。

 四月に入ると、新入生及びラークへの支援者に対しての歓迎と宣伝の一環として、賢人祭が行われると耳にしている。

 しかし賢人祭に紛れて、こちらとしては良からぬ怪しい動きが見られている。

 こちらが警戒しているのが、素性が不明のヴァリス王国の研究者の一人であるアーゼシカ及び同国の黒騎士モーゼノイス。

 かの二人対しての監視として使者を出したまでは良かったのだが………」 


 「彼等との連絡が途絶えたと?」


 「そういうこと、だから困った。

 で、丁度彼等が視察するであろう現場に近いのが君だったから、二人がラーク滞在期間中は彼等の監視を頼んで貰いたいんだ。

 一応、君のご両親からは許可を貰っている。

 無理と判断するなら勿論構わないが……」


 「了解しました、可能な範囲で対応します。

 怪しい動きがあればすぐに連絡しますが、こちらの安全が保証され兼ねます。

 既に何人かの使者が消された以上、例え私でも無事で済むかどうかは……」


 「それに関しては、コレを君に与えるよ」


 そう言って男が取り出したのは、灰色の腕輪。

 金属製ではあるが、何処か異質な雰囲気を感じる。


 「コレは一体?」


 「天冥の腕輪、神器の一つさ。

 銘はウラノス、とても強い力を持っている特別な品。

 こちら調べだと、君の一族なら多分使えるはずさ?

 試しに触ってみるといい」


 男に催促され、私はソレにゆっくりと手を触れる。

 腕輪と触れ合った瞬間、濃い空を模したかのような深い蒼の光が放たれる。


 「………、選ばれたって事でいいんですか?」


 無事、神器との契約が済んだ事を確認すると男は私に腕輪を手渡し離れていく。


 「そうだね。

 それじゃ後はよろしく頼むよ、メルサ君」

 

 「了解しました、カオス様」


 そして、用件が済むと彼は煙を巻くかのように、瞬く間に消え去ったのだった。



  

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