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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
ep The fallen emperor
314/324

亡国のしがらみは

帝歴400年12月20日


 レティアが部屋に入り浸るような生活を次第に受け入れ始めたこの頃。

 放課後の会議を抜け出し、俺は街中を適当に歩き回っていた。


 「…………暇だな」


 いつもは口うるさいラクモからの小言が絶えないのが常なのだが、今日は義手足の点検の為離れている。

 レティアは放課後に居残りを食らって、教室内で缶詰めにされ自習されている模様。


 「助けて……問題が分からないよー!」


 と、そんな一文が俺の端末に飛ばされたのがついさっきのことである。

 

 本当に留年するんじゃないのかコイツ?と、頭の中で思っていると不意に後ろから視線を感じた。

 気の所為かと思ったが、俺の後ろをさっきから付け歩く誰かの気配は感じていた。


 「俺に用があるなら、直接話に来いよ?」


 声を掛け、後ろを振り向くと見慣れぬ女生徒がそこに居た。

 レティアと同じ金髪の女、しかし腰ほどまでに手入れの施された真っ直ぐな長髪が目に入る、翡翠のような目をしている人物だった。

 

 「誤解しないでよ、その……。

 どう声を掛ければ分からなかったんだ」


 「別に普通に声を掛ければ良いだけだろ?

 それで、俺に何の用があるんだ?」


 「それはその、えっと………。

 貴方は、ルークスさんで合ってるんだよね?」


 「そうだが、お前の名は?」


 「はい、私は二年のメルサ・ハーヴィーと申します。

 元オラシオン帝国の皇帝一族に仕えていた騎士家系の一つであるハーヴィー家の者と言えば分かりますか?

 その、私、ずっと貴方にお会いしたかったんです。

 オラシオン帝国最後の御子息だと、兼ねてからお伺いしています」


 と、目を輝かせながら俺に詰め寄りその手を握ってくるメルサという人物。

 俺の素性を知りながら、まさか会いたい等と言ってくるような物好きな奴は生まれて初めての経験だった。


 「はぁ………。

 俺はその肩書きで呼ばれるのは嫌いなんだ。

 というか初めてだよ、この生まれ故に恨まれ、疎まれこそあったが、望んで会いに来たのはお前が初めてだ」


 「そうでしたか、すみません。

 不快でしたよね」


 「そこまでは言ってない。

 それで、何の要件があったんだ?

 まさか、本当に会いに来ただけなのか?」


 「えっと、そういう訳ではありません。

 勿論、ちゃんとした要件はあります」


 「で、その要件は何だ、メルサ殿?」


 「単刀直入に申しますと、その………。

 私と結婚して下さい!

 そして、共にハーヴィー家を継いで欲しいのです!」


 「え………?」


 メルサはそう言うと、自分の発言に恥ずかしくなったのか視線を逸らし俯きながら手で顔を覆っていた。

 俺は、突然の事に戸惑いながらしばらく空いた口が塞がる事が無かった


●  

  

 それから俺は、メルサと共に事の経緯を聞く為、近くの軽食屋に入り事情を聞く事にした。

 適当に注文を終え、届いた食い物をつまみながら俺は彼女の家で起こっている事を聞き入っていた。


 「その……、話は帝国崩壊以前の事に遡ります。

 私の父上は、貴方の実の父であった当時の皇帝と親しい関係だったんです。

 それから家が傾いた時に皇帝様が色々と気を利かせて私達のハーヴィー家は愚か当時派閥争いで勢力争いになっていた貴族達の傘下にハーヴィー家を含めた騎士家系を各家に配置し仕事を与えて私達の家を繋いでくれたんです。

 ですが、その帝国が崩壊してその貴族達も騎士家系の多くが滅んだり各国に亡命して散り散りになったりと今でも連絡が取れるのは元々7つ程あった騎士家系の内の三つ程度にしか及びません」


 「で、そんな俺の父親との昔話と、騎士家系とはいえ元騎士家系の娘の一人に過ぎないお前が俺と婚約云々ってところに至るまでに何があったんだ?」

  

 「それは……えっと………」


 と、俺が理由を問い詰めても目の前の彼女が視線を逸らし俯いて、答えそうにない。

 何か言いたくない事でもあるのだろうか?

 と、向かいに座る彼女の顔を見つめる。

 なんというか、西側諸国特有の顔立ち。

 目鼻がくっきりと、しかしレティアと違って何処か陰鬱というか影のある雰囲気を感じる。


 んー、いや待て……?

 何か前にも似たような事があったような気が……。


 確か、幼い頃に一度だけ家の仕事の都合で社交会に連れて行かれた際に似たような奴に会った覚えがある。

 だがしかし、俺の記憶が確かならソイツは男。

 髪の色や目の色は同じだった気がするが、髪は短かったし俺以上のやんちゃな奴だった。


 アイツ、元気にしてるか………な?


 ふと、かつてのソイツの顔と目の前の彼女の顔が重なる。いや、あり得ない、あり得ないあり得ない。

 え、本気で言ってる?


 コイツが、あの時のやんちゃ坊主?


 俺を馬乗りにして、顔面殴ってきたような暴君が? 

 

 「…………おい、お前………冗談だろ?」


 「えっと………何がですか?」


 「お前、あの時の……?

 あの時俺に馬乗りになって顔面も殴ってきたクソガキか?」


 「あー、その……はい……。

 あの時の子供です、お久しぶりですね?

 あはは……」


 血の気が引いた瞬間だった。

 あり得ねぇ、あの時のクソガキがコイツ? 

 寄りにもよって、何がどうなったらこうなる?


 「いやいやいや、あり得ないだろ!!

 鏡見ろよ、普通ほらもっとこうあるだろ!!

 ほら、その……木刀下げたりとか、厳つい感じでいかにもな見た目をしているとかさ?!」


 「何ですかソレは!!

 私を何だと思ってるんです!!」


 「いや、普通に考えたらお前はそうなってもおかしくないだろ!!

 騎士家系のお嬢様よりかは学園を裏で占めている不良の頭目くらいはやってただろ!!」


 「私そこまでやってないよ!!!」


 と、俺達が騒ぎ始めて間もなく店員から注意され俺達他の客からの視線を気にしながら会話に戻る。


 「おい、ふざけてるだろ?

 何で結婚とかって話になるんだ?

 お前、向こうで何があったんだよ?」


 「ルークスの事は聞いてから。

 向こうでの生活が大変だってこと、だからいっそかつての恩に報いる為にこっちで引き取った方が良かったんじゃないかって話になったんだ。

 ハーヴィー家は、貴方の一族に救われたから」


 「…………」


 「でも、なんかいつの間にか………。

 養子として迎える話から、私の婚約云々ってところに話が広がったみたいでね………。

 私、元々この学園に入学する予定なんて無かったの。

 でも、ここにルークスが居るって話を私の両親が耳に入れて、半ば強制的に入学することになったんだ。

 それで、その家に戻りたくても戻れないの」


 「えっと……それじゃつまりお前は……?」


 「私、そのね………。

 ルークスと婚約が確定されるまでの間、実家から勘当されてるみたいなの………。

 あはは……私どうすればいいのかなぁ…」


 と、かつての悪友は俺にそう話しかけてきた。

 目の前で起きている現実を俺は受け止められない。

 

 とりあえず現状を整理すると。


 目の前に居るのは、かつての悪友。

 俺を馬乗りにし、暴君の如く振る舞っていたクソガキが今やその面影を失い、普通の女の子?になっていた。

 

 彼女は実家が俺の父親に恩があるらしく、その忠誠心と恩が歪み歪んだ結果、自分の娘を婚約が成立するまで家から追い出したとのこと。

  

 うん、俺は関係ないな……。


 「よし、それじゃ会計済まして帰ろうか」


 「待って、置いてかないで!!

 私、どうすればいいの!!」


 と、泣きながら俺にしがみつく彼女。

 いや、力強……!

 なんかこの光景に既視感感じるぞ!!


 「いやいや、俺には関係ない関係ない!

 これはお前の問題だろ!

 ほら、だから離してくれ、な?!!」


 「酷いよ、私真剣に悩んでるんだよ!

 私これからどうすればいいの?!

 学院卒業したら私帰るところないんだよ!!」


 「大丈夫大丈夫、お前なら何とかなる!!

 自分を信じろ、な?!!」


 「無責任なこと言わないでよ!!」


 「無責任って、ていうか婚約が問題なら別な奴と結婚すればいいだろ?

 見合いとかすれば、今のお前なら結構簡単に見つかるはずさ、な?!」


 「ハーヴィー家には掟があるから……」


 「掟?」

  

 「自分より強い相手としか婚約してはならない。

 だからその、私はその掟に従って抜け道を見つけたのはいいんだけど………」


 「強い相手ねぇ………」


 なるほど、騎士家系ならありそうな話だ。

 元とはいえ、そんな掟が帝国亡き今も未だ機能しているのは不思議に思えるが………。


 「学位序列6位………」


 「え………?」


 ん、コイツ今なんて言った?

 学位序列、6………位? 


 「今年の戦績だよ、うん……。

 私、代わりの婚約者を見つける為に例の祭典に出場したのはいいんだけど……そしたらこの結果だった。

 決勝トーナメントで、同性の相手に敗れるまで無敗。

 あっはは………、不朽の戦姫だって私の二つ名……」


 「………」


 まじかよおい、俺より順位が上かよコイツ。

 

 本気で言ってる?


 「あー、私どうすればいいのかなぁ……。

 お願いだから助けて頂戴、ルークス!」


 「そんなこと急に言われてもな………。

 俺にはどうにもならん、そもそも出会って早々何とかしてくれは流石にキツイとは思うぞ?

 文化圏の違いだとしても、流石に無理がある」


 「でもさ、ルークス。

 サリアの王女様とは仲良くしてるんでしょ?」


 「アレはなんというか成り行きだ。

 お前とは違う、てか何でそれを知ってるんだよ?」


 「え、そりゃあ……。

 毎日のように腕を組んで歩いてたら……ね?

 二人って付き合ってたりするの?」


 「いやいや、違う!

 アレは彼女なりのスキンシップか何かだろ!?

 それこそ、文化圏の違いか何かだろう?」


 「まぁ……サリアでも腕を組んで歩く男女の関係は珍しくはないけどさ………。

 アレって家族とか、恋人とか………ある程度親しい関係じゃないとまずやらないよ、うん………。

 特に、王侯貴族なら他の派閥との火種に成りかねないから見えるようにするのは、好んでしないというか……」


 「…………」


 おいおい、まじかよ……。

 てか、そんなに有名になってるの俺とアイツ?

 嘘だろ……流石に?


 「えっと、それじゃあそもそも二人って付き合ってる訳じゃないの?」


 「だから違うって言ってるだろ!

 ほら?、あの王女、あの見た目だから結構他の男に声を掛けられたりするだろ?!

 だからほら、そいつらから離れる口実が欲しかったりするんじゃないのかな、なんて………?」


 「………、さっきと回答変わってない?」


 「とにかく、俺とアイツはそんなんじゃない」


 「ふーん………。

 それじゃあ今あなたの横でつまみ食いしてるのは?」


 と、何とも意味深にそう告げる彼女。

 そして俺は、彼女の言葉で何かを察し恐る恐る視線を向けると頼んでいた団子をリスの如く口を膨らませながら食べているレティアと視線が重なった。


 「っッース、ーだい終わったよ!」

  

 多分、『ルークス、課題終わったよ!』

 とコイツは言ってるであろう。

  

 元気いっぱいなのは良いことだが、飲み込んでから喋ってくれと心の中で思う。

 それ以上に真っ先に思ったことは………。


 「何で此処に居るんだよ、レティア!!」 


 「ーや、ーんわしようとおもっしゃたけど………」


 「せめて、飲み込んでから喋ってくれ!!」


 と、俺が痺れを切らして指摘すると急いで口の中の物を飲み込もうとする。

 しかし、何となくこの後の事を予想していた通り彼女は喉に詰まらせて苦しそうにしていた。


 「っ………!?!!」


 「あーもう、しょうがないなぁ!!

 ほら飲み物ならあるから!!」


 俺は自分の頼んでいた飲み物を彼女に渡し、すぐに彼女はそれを飲み込むとようやく喉の詰まりが治まったのか安堵の息を漏らす。


 「ふう、ありがとうルークス。

 危なく死ぬところだったよ……」


 「一国の王女が、放課後に団子を喉に詰まらせて死ぬとかくだらな過ぎるから、流石にやめてくれ………」


 「あはは、ごめんごめん。

 それでさ、ルークス?

 今度の帰省私も付いていきたいんだけどいい?

 大丈夫、ちゃんと両親からは許可取れたからさ」


 「いや、お前がこっちに来るのはもはや外交の一行事でしかないだろ?

 お忍びで旅行に来ましたとかじゃ済まないだろ?

 来たところで、ヤマトのお貴族やら王族やらとの接待や対応に追われておしまいだ」


 「えー、私はほらいつもルークスにはお世話になってるからそっちの両親に会ってちゃんとお礼とかしたいなぁって思ってたのに……」

  

 「お前な、ソレだと嫁入り前の挨拶になるだろ!

 こっちの両親に変な誤解されたらどうする気だ!

 お前の事だ、余計な事を喋ってあらぬ誤解をされるに違いない……」


 「大丈夫大丈夫、私外面だけは完璧だから!」


 と、自信満々に豪語する彼女。

 何とも偉そうにそう語る様子に若干の苛立ちを感じるも、最早呆れるとしか………。

 というか、コイツ気付いてないのか?


 「そういう事じゃなくてだな……。

 というかお前、その言葉向かいの席をの事を見てからちゃんと言えよな?」


 「え…………?」


 と、ようやく俺の向かいに座るメルサの存在に気付いたのか、彼女の存在に気付いた途端顔色が俺の目にも分かるくらい変わった。

 それこそ、見てはいけないナニカを視界に入れてしまったような感じである。


 「あー、その………。

 ルークス、この方は……?」


 うわ、まじかよ。

 最早弁明のしようがないこの状況で、いつもの外面を使い始めたぞコイツ………。

 もう素直諦めればいいものを、ここに来てそのスタイルを貫くとは……。

 

 そして先程まで向かいで喋っていたメルサはというと、ついさっきまでのレティアの言動や行動全部に言葉を失い目を丸くしていた。

 そりゃそうだろうな、外面だけはまぁ完璧の彼女が目の前で子供のような幼稚な言葉と行動に溢れていたのだから……。

 

 俺だって最初は同じ感想を抱いたよ、うん。


 と、少し間を空けて彼女の質問がようやく脳内で処理されたのか俺より早く口を開き自己紹介を始めたのである。

 

 「はじめまして、サリア王国第一王女であるレティア・ラグド・ザリア様……。

 私は、元オラシオン帝国の騎士家系の一つであるハーヴィー家の次女、メルサ・ハーヴィーと申します」


 「そう、メルサさんと言うのね。

 ご丁寧にありがとう、ルークスとはどんな用件でご一緒していたのかしら?」


 と、レティアの奴はやはり外面スタイルを貫く模様。

 まぁ一応王族だから、その体は貫くつもりか。


 そして俺が直接口を挟むまでもなく、メルサは彼女の質問に答えたのだった。


 「そうですね………。

 私は、この度次期ハーヴィー家を継ぐ者として彼を迎える為の挨拶に伺ったんです。

 つまり、私は彼と結婚します」


 「この方と結婚するの、ルークス?」


 「しないしない!!

 俺はそんなの決めてないし、勝手に婚約する形で話を進めないでくれ!!

 というかだな……、メルサ?

 お前の今抱えている問題の場合、親に勘当されたから誰かしらの婚約者を立てて、親を無理やりにでも納得させるしかないって事だろ?

 でも、両親を納得させる為には家の掟に準じた相手を探さないといけない。

 で、それが現状のお前だとかなり難しい。

 だから当初から婿候補になった俺に声を掛けて助けを求めたってのが正しい解釈だろ?」


 「別にいいんじゃない?

 いっそ、私とルークスと直接結婚した方が親も納得して話が早いんだしさ?」

 

 「俺の方がたまったもんじゃないんだよ!

 出会ってすぐに見ず知らずの相手と結婚しろだなんて、普通納得出来るのかお前!」


 「そりゃあまぁ難しいかもだけど、別にルークスと私は初対面じゃないでしょう?

 前に会ったのは随分前だけど」


 「とにかく、俺はお前との結婚には納得してない」


 「なるほど、そういうことですか」


 と、話の内容を理解したしてないのか、妙に分かったような神妙な顔付きうんうんと頷くレティア。

 本当に分かってるのか、コイツ?

  

 「レティア、お前本当に分かってる?」


 「大丈夫、流石に状況は理解したから。

 つまりメルサさんは、両親を納得させる為に誰かしらの婚約者を用意しなければならないんですよね?

 家の掟があるそうですが、ソレはどのような?」


 「家の掟では、自分より強い者でないと婚約者として相応しくはないという者です。

 今年度の祭典では、学位序列6位の成績。

 敗退となった相手も本年度卒業となる同性のシャルナ・フーレイに敗れ、私の婚約者候補は今年度も見つからずといったところです」

 

 「でしたら、私から候補の御方を何人か紹介しましょうか?

 希望に添えるかは分かりませんが、私の知り合いの伝を辿ればある程度実力のある殿方を何人か紹介できるかと………」

 

 と、レティアは珍しくまともな返答を返した。

 正直俺は驚いたが、彼女は外面こそ完璧だったな。

 つまり、ある程度決まったような相談事に関しての返答やら方法はすぐに反応できるのだろう。

 実際に行動に移せるかは知らないが、知り合いに頼む辺り自分からわざわざ動く必要もそこまでないところ。

 まぁ一応、同性として同様の悩みを持つ相手から相談を受ける事が多かったのか………。


 いや、ならそもそも何でコイツにはそういった者が居ないんだ?

 第一王女ともなれば普通そういった相手が既に用意されているものだろう。

 にも関わらず、特定の相手が居る素振りはない。

 俺の方に来て連日泊まりに来ているくらい、あるいは文化的に相手がその辺りに寛容なのか………。

  

 あるいは本当に相手が彼女には居ないのか?


 本当にそんな事があり得るのか?

 年が同じではないが、祖国であるヤマトにも同様に特定の婚約者が居ない奴は居るには居るが……。

 アレは、ある意味国の行方を左右する相手を選別する為に彼女を巡っての競争をしているようなもの。


 だが、レティアはその必要がない。

 自分が文武を鍛える必要もないどころか、サリア王家は王族の子であろうと、本来はあり得ない放任主義の様子。

 あるいは、俺と彼女の関係を誤解して相手がいない。

 それとも、俺に敢えて近づかせてヤマトの情勢を探ろうと考えているのか?

 いや、レティアの生活ぶりをみる限りそんな事が出来る程賢そうとは思えない………。 

 

 「本当ですか、レティア様!!

 そうして頂けたら本当に有り難いです!!」


 と、メルサは彼女からの前向きな返答に喜びを露わにしていた。

 当然と言えば当然だが、ひとまず彼女の問題は解決しそうではある事に俺は安堵の息を漏らす。

 

 まぁ、少しばかり気になる事が増えたが、機会があれば直接レティアに聞けばいいだろう。

 学院での時間はまだまだ余裕がある、だから気になった時に聞いてみれば答えが返ってくるはず。

  

 とにかく、勝手に自分の婚約者が決められる事が避けられただけ良しとしよう



 この時の俺は正直あまり気にもしなかった。

 よくある、この身に降りかかった面倒事の一つ。


 昔出会ったメルサとの再開、そしてレティアの振る舞いにから感じた違和感。


 この時限り、いや続いてもせいぜい数ヶ月か、長くても年内で片が付くくらいのことだろうと思っていた……。

 

 だが思えば、この出来事から俺の人生はようやく動き始めたと言えるのかもしれない。

 

 何故、帝国は滅んだのか……?

 何故、両親は俺一人を残して現在の義両親の元へと預けられたのか………。

 

 そして何故、レティアは俺と関わり続けるのか?

 

 その答えを知る時が、刻一刻と近づいていた。

 

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