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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第三節 英雄讃歌
311/325

疑念と葛藤

帝歴404年1月13日


 「俺から逃げられると思うなよ?

 必ず捕らえてやる、絶対に……!」

 

 私の目の前に、彼の背中はあった。

 一瞬だけ脳裏に過った、先輩の面影。

 

 失った手足の先から鈍い痛みを感じる中、両者の動きが制止する。

 騒ぎを聞きつけ、次第に宮殿内の兵達も駆け付けてくるのも時間の問題。


 護衛対象であるルーシャ王女に関して言うなら、多少の打撲で後遺症は残らないだろうとは思う。

 一応、加減はしたから大丈夫なはず………。

 

 向こうが真っ先に彼女を狙ったことには驚いたが、私自身護衛任務は初というか、そもそも相手を殺す事が主だった私に守りながらの戦闘はかなり難しい部類。


 無理ではないが、やはり護衛に意識を向けると私の性能を活かし切れず実力の差がそこまで大きくない敵相手には劣勢を強いられるのは必然。

 私の片手、片足を落とされただけで済んだのが奇跡なくらいだ。

 失った手足は、後で魔術でくっつければ問題ない。


 私の事は問題ない、今は………。


 「シラフ先輩………、私……」


 「無理に動くな、アクリ。

 出血も酷い、早く治療に行かせないとな……。

 ルーシャの護衛に関しては、慣れない事をよくやってくれた、君のお陰で命に別状はないだろう」


 「………、気をつけて下さい。

 コイツは液体みたいに姿形を自由に変えられます」


 失った手足の位置を確認し、魔術で適当に寄せ集め無理やり結合する。

 多少の泥や汚れが体内に入るだろうが、この程度くらいなら勝手に身体で分解可能。

 

 すぐに身体を無理やりにでも叩き起こし、私は動けないであろうルーシャの元へと駆け寄った。

 

 「行きますよ、ここはシラフ先輩に任せますので」


 「………私は……」


 「今はいいんです!

 今の私達ではあの人の邪魔になりますから!

 それに、勿論私だってシラフ先輩一人に任せるつもりもありませんよ

 他に増援を呼び、アレの逃げ口を塞がなくてなりませんし」


 そう言って私は彼女を背負い、その場から離れる。

 彼の姿を一瞬だけ捉え、その無事を祈りながら私は彼女と共に中庭から宮殿内へと駆け込んだ。



 ルーシャとアクリの姿が見えなくなり、僅かに安堵したのも束の間、目の前の敵への警戒を強めた。


 得体の知れない黒いナニカ。

 黒く液化した形の定まらない存在。

 アレもホムンクルスなのか?

 いや、だがラウやアクリといった他のホムンクルスとはまるで構造が異なるように見える。


 ホムンクルスでないにしろ、アレをこのまま野放しにするのは危険と言えよう。

 

 「シラフ・ラーニル………貴様!!」


 「………何者だよ、お前?」


 改めて俺は目の前の奴に問う。

 そいつは俺を知っているようだ。

 十剣だから知っているのか、それとも……。


 「クソッ!!

 よくもよくも、私の邪魔をしてくれたなぁぁぁ!!」


 「邪魔だと、当然のことだろう?

 みすみす王女とその友人を傷つけられて黙っている訳が無いだろうに、それが分からないのか?」


 「友人?

 あんな化け物が?

 アレの正体を知ってて王女の側に置いてたとでも?」


 「正体だと?」


 「アレは、あの帝国一と謳われた科学者であるアルクノヴァが生み出した、禁忌の研究とも言われるホムンクルスの製造に加担し生まれた最悪の兵器の一つ。

 第四世代型ホムンクルスの中でも特に秀でたエリートが奴の正体だ?

 それが王女の友人だと、馬鹿な事を抜かすな無能の英雄さん?」


 「彼女はそれでも人間だよ。

 それが違うとしても、アクリが王女の友人である事は事実であり、俺も王女自身も、きっとアクリ自身もそう思っている。

 お前はそれを、踏みにじった。

 それもこの宮殿内で、王女及び彼女に向かって刃を向けたんだ。

 その覚悟は出来ているんだろうな?」


 「覚悟だと?

 タンタロス様が目を掛けた程度の分際で……」


 「………、お前まさかヴァリスの?」


 「許さない、良くも私の邪魔を!!!」


 その刹那、攻撃の気配を察知し身体が勝手に動いた。

 敵の不定形な液体のそれが刃化して、俺の首を狙って襲い掛かる。

 一度目を、身体が勝手に反応した事で防げたが間もなくして次の攻撃が飛んでくる。

 

 明らかに人間の動きではない攻撃のソレに対応が難しく守りに徹しなかれば厳しい。

 最初の攻撃と違って、その威力は一撃を増す度に重くなり刃を防ぎ続けるのは厳しい。


 このまま時間稼ぎを続けて、増援を待ち奴の退路を断つやり方が正攻法ではある。

 しかし、コイツを野放しにして宮殿の衛兵が対応出来るのか?


 姉さんはともかく、他の兵士の実力は自警団の連中と比べても上澄みの猛者達。

 本来なら真っ先に彼等を頼るべき………。 


 だが、何故だ?

   

 俺は今、奴を今此処で倒さなければならないという焦りが思考を支配している。


 ルーシャやアクリを傷付けた事への怒りだけじゃない、今此処で奴を倒さなければ何か取り返しがつかない事態が起こる気がする。

 

 そんな、曖昧な思考が俺の脳内を占めているのだ。


 「どうした、その程度かシラフ・ラーニル?」


 「…………」


 幸い動きが掴みにくい以外、慣れれば対応可能。

 魔力量もそこまでじゃない、初見殺しに特化したまさに暗殺者のような戦い方。


 向こうもそこまで経験があるようには思えないので、戦術及び個人の技術もそこまで高くはない。

 

 早々に気絶等で無力化したいのは勿論だが、形が液体上という特性が一番厄介と言えよう。

 剣による斬撃や刺突、殴る等の打撃で有効打を与えられるとは思えないからだ。

 

 神器の力で押す場合、俺がその出力を誤れば宮殿そのものが吹き飛び兼ねない。

 他の神器へ切り替えたところで、依然として制御は難しくこの宮殿内の中庭程度の広さで扱っていい代物ではない。


 威力はあるのだが、相変わらず取り回しには難があると言えよう。

 

 この状況下で一番の適任は多分、アクリかラウ。

 アクリは護衛任務がなければ早々に奴を捕らえられたはずだ。

 正直、俺が外れたのが一番の落ち度と言える。


 両人の特徴として魔術に秀でている点と、個人での戦闘技術も両立している点。

 要は、基本的な剣術の他に魔術を多岐にわたって扱えるのが強み。


 俺みたいな火力ばかりの脳筋じゃ、目の前の奴を殺す事はある程度容易だとして、生きたまま捕らえる事は非常に困難と言えよう。

 多少宮殿を取り壊してでも、目の前の奴を捕えたほうが今後のサリアの国益にもなり得るのが個人的な認識なのだが………。


 彼女の発言が真実であるなら、ほとんどこちらの準備も整ってない状態でヴァリスを敵に回す可能性が高い。

 向こうはいつでも国が取れるから関係ないのだろうが、仮にそうなった場合は現状の俺達では勝てない。

 

 「クソっ!!!」


 「っ!!!」


 向こうは当然、俺を殺しに掛かってる。

 いつまで防戦を強いられるのか、増援が来るまで無事耐えられるか少々不安が拭えない。


 このまま防ぐばかりなのも正直納得いかない。

 牽制も兼ねて、一度距離を取るべきか……。

 いや、増援が来てない状態で距離を取らせるのは不味いと言える。


 どうするのが最適解になるのだろう?

 敵が奴個人の場合、このまま時間稼ぎをしているのが一番有効だというのが個人的な一番良い判断。

 王女、あるいはアクリを狙った犯行であり俺が駆けつけた時点では他に仲間を確認することは出来なかった。


 奴の独断の可能性もあり得る。

 しかし、そうでないのならどうだ?

 仮にだ、奴の今回の襲撃が表向きの騒動だと仮定。

 

 本来の目的が別にある場合、王女の暗殺未遂によって注意はそちらに向き、得をするのは誰だ?

 ヴァリスの連中が、アレを単独を仕向けて別の目的に向けて動いているのか?


 囮として利用し、その裏で何かをしようとしている。


 本来であれば、王女とアクリが殺された。

 あるいは、アクリが奴を殺しつつ今回の騒動が大きく広まり彼女の存在が広く認知される。


 奴自身も言っていただろう。

 アルクノヴァのホムンクルスだと。


 つまり、ヴァリスの連中はアルクノヴァ関連の騒動について何かを知っていた?

 広まる事を恐れたのか?

 結果として、俺達がアルクノヴァ及びその施設を潰したことになっているが……。

 奴はそれを知って、アクリを狙ったのか?


 ヴァリス王国とアルクノヴァは何らかの理由で敵対、あるいはお互いを認知していた。

 しかし、結果としてアルクノヴァ及び彼等の施設が破壊されて、その研究も中止になった。


 残ったのはヴァリスだ。

 つまり、その上でヴァリスはアクリをアルクノヴァの残した存在を消す為にわざわざ動いたということ。

 それが本当に彼女の独断での事でなければの話だが。


 まさか、リンを殺した存在と繋がっていた、あるいは何か関係があるというのか? 

 いや、ラグナロク側からは既にその仲間の誰かがリンを手に掛けたと言う発言を聞いている。

 つまりだ、ラグナロク側にリンを殺した存在は居る。

 しかし、現に目の前の奴の発言からヴァリスはアルクノヴァを敵視していた旨の可能性があった。


 リンを殺した存在とヴァリスが関与している可能性は極めて低いはず。

 しかし、わざわざアルクノヴァが残した彼女を、いや違うな……、他に奴等は俺を狙っているとも言っていた。


 タンタロス、ヴァリスの黒幕とも言える存在は俺の生まれに深く関与しているどころか意図して俺を誕生させたのだ。

 しかし、火災の一件で俺は姉さんに引き取られた。


 ヴァリスもそれを想定していたのか?

 

 違う、ヴァリスは姉さんを敵視していた。

 ラグナロクも同様、いや理由は違えどある程度距離を取っていたのは事実。

 しかし、ラグナロクは俺の家族とも何らかの形で関与していたのだ。


 その結果として、あの火災が起きた。

 火災に関与したはサリアの王族及び、俺の一族を敵視していたサリアの勢力達であること……。


 何だ?、何かが引っかかる………。

 何かが欠けている気がする。


 何故、ラグナロクは俺の一族に関与出来た?

 いや、ヴァリスが関与していたならラグナロクは既に奴等に向けて何かしら警戒していたはずだ。

 現に、俺達に協力を求めたのだ。

 ラグナロクとヴァリスは確実に敵対している。

 向こうも恐らく同じように、ラグナロクを警戒したはずである。

 サリアの王族は姉さんの傘下にあり、火災の一件に関して結果的に俺を引き取った。


 ヴァリスとカルフ家は繋がっていた。

 しかし、ラグナロクもカルフと繋がっていた。

 そして、俺の事を姉さんに託したように、サリアの一部勢力もカルフと繋がっていた。

 

 しかし、あの火災は起こったのだ。

 何かがあった、何か彼等の予期せぬ何がカルフ家に起こっていたということ。


 ラグナロクはリンを殺した。

 ラグナロクは俺の家族を手に掛けた。

 

 しかし、元々殺そうとしたのはサリアの王族及びその関係者である。

 火災後間もなくヴァリスは俺の父やその娘の身柄を保護し、利用しつつも彼等を匿っていた。


 ラグナロクは何故、一族を殺す必要性があった?

 しかし、結果的には失敗した。

 それどころか今に至るまで、ラグナロクは一族唯一の生き残りであったはずの俺をわざわざ生かし続けていた。

 姉さんを恐れたのか?

 いや違う、姉さんの存在がいかに大きな障害であろうとリンを殺す為にラグナロクが尖兵を送り込んだように可能であったはずだ。

 幼い子供であった自分なら、尚更容易だったはずである。

 

 故に明らかにおかしいのだ。

 何故、わざわざ一族を殺す必要性があった?

 リンや家族を殺そうとしたのに、何故俺だけは生かされたんだ?


 いやもしくは、別に目的があったのか?


 俺達一族ではなくリンを殺した事が関係していた?

 アルクノヴァはとラグナロクとは始めから敵対していたのだから合点はいく。

 ヴァリスも同様だ。


 では何故、俺の家族をラグナロクは殺す必要があったのだろうか?

 いや、そもそも前提が違うのでは?

 そもそも殺す必要が本当は無かったのではないのか?


 ヴァリス及びラグナロクにとって本当に邪魔な存在だったのはリンたったのではないだろうか?


 要はアルクノヴァはリンの存在が彼等に何かしらの有効性があることを認知していた?

 有効性があるから、アルクノヴァは彼女を生かしておいていたのではないのだろうか?

 

 あるいは、リン自身がラグナロクとヴァリス両方に取って知られたくない情報か何かを握っていたのではないのだろうか?


 この2つの可能性が最有力か?

 

 この仮説のいずれかが真実だとしてアルクノヴァはそれを知っていたのかのが重要と言えよう。

 

 しかし、仮に知っていたのなら、既にどちらかの組織と手を組んでいた可能性がある。

 ヴァリスとラグナロク、両方を敵に回すよりは片方と組んで上手く片方を潰すように動いていたはずだ。

 ラーク及び帝国時代の名声があるなら、実力のある彼をどちらの勢力も欲するであろう。

 

 彼自身も単独で何とか出来るとは思ってはいないはず、それこそ他勢力には姉さんがいた訳だから尚のこと。

 故に研究施設を持っていた訳である。

 手を組めるなら、使える手段があるならどんな手段や対策も取っていたはずなのだ。


 故にアルクノヴァ自身は、彼等の知られたくない情報か何かをリンが握っていた事を知らないまま、彼等を敵に回していた可能性の方が高いと言えよう。

 リン自身の力と自身の権力で上手く守れていた人物の可能性が高い。 

 あるいは、知れたくないが為に敢えて俺達に負ける道を選ばざるを得なかったのか………。

 

 しかし、一番の鍵を握っていたのはリンの可能性が一番高いと言えよう。

 そして、例の施設で彼女に最も近く生き残っていたのは先程狙われていたアクリなのだ。


 リンを狙った理由は何だ?

 

 「絶対に殺してやる、シラフ・ラーニル!!

 私の邪魔をよくも、よくもォォォ!!」


 「いい加減に大人しくしろ!!」


 左手に嵌めたもう一つの神器に力込め、反射的に奴の攻撃を迎撃する。

 防戦一方だったはずの俺から放たれた不意打ちに、奴の反応が僅かに遅れる。


 炎と共に、数多の鎖が辺りを包むように出現すると俺の意図するままに奴の身体を抑え込んでいく。


 「無駄なことを!!」


 当然、液体の身体をした奴を捕らえるには難しい。

 が、しかし奴の攻撃の手が完全に止まり回避に思考が回ったのが好機となった。


 奴の足元が地面から離れ、液体が宙に浮く。

 瞬時に鎖の拘束を取りやめ、再び最初に扱った腕輪の方へと魔力を込め直す。


 「アインズ・………」


 同時に、腕に力を込め燃え盛る武器が現れると全身の魔力を腕に集中させ、炎の熱が激しい光を放ち始める。


 「っ!!?」


 「クリュティーエ!!!」


 殺さない程度に威力は落とした。

 これで無力化出来れば良い、しかし目の前から奴の気配は依然として感じる。

 手応えはあったのは確かだが……


 「…………っ!!」


 すぐさま俺は衝撃に紛れて背後からの攻撃を捉え振り払うも、僅かに腕に傷が入り込んだ模様である。

 

 「私を甘く見るな、シラフ・ラーニル」


 そう言って、奴は俺の腕に刻まれた傷を嘲笑する。

 傷は浅いが出血は思った以上、傷口がもう少し深かったら本当に不味かっただろう。

 

 が、既に充分過ぎた。


 「………そうでもない。

 これで良かったんだよ、時間稼ぎにはな」


 「っ?!」


 奴が何かに気付いたその瞬間、その足元に淡い青の光を放つ魔法陣が出現。

 そして、取り囲むように小さな魔法陣が更に幾つも出現すると奴の身体を光の鎖が拘束していく。


 「どうやら間に合ったようだな、シラフ」


 「思ったより早かったな、ラウ」


 振り向いた先に、ソイツは居た。

 何処か呆れつつも、余裕の風格を漂わせる彼の姿に現在の状況だからこそ頼り甲斐を感じる。


 「現在、衛兵等は来賓の誘導と増援に向けて動いている。ルーシャ王女、及びアクリの身柄はクラウスに預け安全を確保した。

 シラフ、何故奴はここに居る?」


 「どうやら、アクリに因縁を付け狙っていたらしい。

 俺をタンタロスのお気に入りだとの発言から推定して、ヴァリスの関係者と思われるが。

 ラウ、お前の方からも分からないのか?」


 「奴の名はサイ・フレンゼ。

 ヴァリスのアーゼシカが生み出したとされるホムンクルスらしい。

 アクリは以前にも、同様に彼女に狙われていたようだが………」


 「彼女……?」


 「シンと酷似した姿をしていた。

 性別があるのかは不明だが、奴は女だった」


 「なるほどな………」


 顔を僅かに見合わせ、互に捕えたサイ・フレンゼという人物へと視線を向ける。

 ひとまず、解決するのも時間の問題。

 奴の処遇に対しては上に身柄を引き渡せば俺達のやるべき事も終わるだろう。


 「シラフ、このまま事が済めば奴の身柄は騎士団に明け渡す事になるのだろう?」


 「そうだろうな、何か問題でもあるのかよ?

 俺達に出来るのはここまでだろう?」


 「ラグナロクからの連絡として、騎士団内部いや中枢である騎士団長のシルフィード含めた幾人かがヴァリスへ加担しているらしい」


 「本気で言っているのか?」


 「この状況で冗談を言えるとでも?

 ともかく、奴の身柄はこのまま騎士団に引き渡すとしても、一時しのぎで完全な解決はしないのだろう。

 ヴァリスの勢力は依然として残っている、長と思われる人物は私でも手に余る実力がある。

 問題解決の為、ラグナロクと手を組まざるを得ないのは仕方ないが………」


 「この国の守護者である騎士団は、この国の敵か」


 「お前はどうするつもりだ?

 この戦い、どう転んでも我々の勝ち目は薄い。

 素直に軍門に下り、向こうと上手く交渉をするべきであると私は思うのだが……、私の見立てでは敵にそこまでの甲斐性があるとは思えない。

 しかし、何かしらの信念の元で動いてるのは事実、ヴァリス王国という国の統治を形ながらも管理しているのだからな」


 「話の分かる相手ではあるとでも?」


 「私は少なくともそう見ている。

 我々に対して聞く耳を持つかは別だがな」


 「………」


 「とにかくだ。

 今後の方針を改めて考えるべきではあるだろう。

 奴の身柄を明け渡し次第、対策を練る。

 シファの姿もない中、この国を守れるのはお前の力の使いどころに掛かっているのだからな」


 奴がそう言って間もなく、宮殿内の兵達が集まりそのまま奴の身柄は俺達の予測通り騎士団へと明け渡された。

 大きな抵抗をする意思もなく、そのまま大人しく彼等に連れて行かれていく意気消沈とした姿にラウの言葉が真実であるのかもしれないと俺は渋々と受け入れざるを得なかった。


 正しさとは何なのか?

 あのまま殺す事が正解だったのか?


 この選択は正解だったのだろうか?

 

 


 

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