君に逢いたくて
帝歴404年1月13日
「ここまで何の手掛かりも無しか……」
王都にて聞き込みやら様々な目撃情報を頼りに私はシファの捜索を続けていたが見つからない。
銀髪の似たような人物には何人か行き着いたが、当然別人であり途方に暮れる。
現状として、シファ無しでヴァリス王国と正面衝突するとなれば勝ち目はない。
あの弟が何かの拍子に祖国を裏切る可能性もある。
その際、私はどうするべきだろうか?
当初の目的はカオスを倒すこと。
関連するラグナロクの殲滅。
しかし、どうやらその組織の実態は複雑である。
こちらが今現在最も警戒するべきヴァリスとカオスは敵対関係にあるということ。
ヴァリスとサリア王国、いや正確に表現するならヴァリスは何らかの目的の為にサリア王国を利用している可能性が高い。
私の目的がカオス及びラグナロクを倒すことであるなら、ヴァリス王国と手を組んでも何ら問題はないはず。
しかし、安易に納得出来ない私がある。
「ヘリオス………か」
赤髪の女。
シファ程にではないにしろ、かつて刃を交えたあの妖精と似たようなものを感じた。
忌々しい力であると感じたが、魔力の波長はあの弟と非常に酷似している。
加えて、その名は奴の神器と同じ名である。
「…………」
「ラウ様?
ラウ様ですよね!?」
思考を巡らせる中、私の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。気のせいだろうと、思ったが声の聞こえた方向を振り向くと翡翠のような長い髪のドレス姿で着飾った女が私の元に駆け寄っている様子が目に入った。
「お前は確か………」
「私です、シトリカですわ!
お会いしたかったですわ、ラウ様!!」
「シトリカ、か………」
王都で唯一の知人と言える、グローバリサ家の人間。
シトリカ・クローバリサと出くわした。
「はい、シトリカです!!
貴方様に覚えて貰えてとっても嬉しいです!!」
「…………」
と、何とも一方的な感情を寄せられ周囲の人間の視線が私達二人へと向かう。
そして、遠目からこちらを監視している彼女の家の護衛の何人かと視線が合った。
「また家出か、シトリカ」
「いえ違います、お父様の商談を抜けて少しだけ外の散歩に出掛けていたのですけど……。
こうして出会えたのも何かの運命!!
きっと私達は、出会うべくして出会う運命の二人なのですわ!!」
「…………暑苦しいな、相変わらず」
「貴方様は相変わらずですね。
そういえば、お連れのシン様がお見えになりませんが?」
「向こうで色々あって、彼女は実家に帰省した。
現在は、サリア王家の推薦の下でラークに通っているが………」
「わざわざラークに通っているんですか?
そう言えば、第三王女の護衛役にシファ様が同じく通っている誰かを推薦したとか、何とか……。
もしかして、それがラウ様ですの?」
「そういう話で通っているならそうだろうな」
「まぁ、何と素晴らしいのでしょう!
シファ様、いいえ王家のお墨付きを貰えるなんてやはりラウ様はとても素晴らしい御方ですわ!!」
そう言って、何度も抱きつく彼女に鬱陶しさを覚え離そうとするが踏みとどまり、念の為彼女にもシファの行方を聞いてみた方が良さそうか?
もっとも期待はずれの可能性の方が高いが……。
「シトリカ、一つ質問がある」
「はい、何でしょう?」
「シファの行方を知らないか?
訳あって、彼女を探しているんだが……」
「シファ様をですか……。
そういえばここ数日、姿を見て居りませんね。
第一王女の婚約に関して、あの御方の御姿を見かけないのはおかしいですわ………」
「そうか、見てないか」
「…………、あの御方と何かありましたの?」
「いや、何もない。
これ以上引き留めると、先程からこちらを観察している君の護衛に迷惑が掛かるだろう。
以前のように、問題を起こされては面倒だからな」
「あはは、そうですわね。
あの、よろしければこれからその……。
今宵は婚約前夜の記念舞踏会があるのですけど……。
その、一緒にどうでしょうか?
着ていく衣装は勿論、参加費用も全てこちらでご負担しますわ、ですから……えっと」
「そう言った物は、苦手なのだが……。
第一、私は今回の結婚式の見物もしない予定だ。
シファからの面倒事が関わっている」
「そう……ですか………。
そうですよね、お忙しいんでしたよね………。
申し訳ありません、無理を申してしまって……」
残念そうな表情で、彼女は私からゆっくりと手を離していく。
再び捜索に向かわなければならない。
踏み出そうとした瞬間、視線の先に何かが視界に入り込む。
銀髪の女……、見覚えのある影が人混みにまみれて消えていくのを……。
「っ………シファ!?」
人混みをかき分けるように、私はその影を追い求め続けた。
何度も、何人かとぶつかり揉まれながらも影との距離は次第に縮まっていく。
気付けば人混みを抜け、薄暗い住宅街に出ていた。
「待つんだ、シファ!!」
「…………」
長い銀髪の後ろ姿のソイツは歩みを止めた。
私の声に、反応して………。
「…………シファ。
そうか……やはり生き……」
「…………。」
手を伸ばしかけたが、その手は止まる。
何かが違う、見かけは私の知る彼女そのものだが何かが違うのだ。
私は誰に声を掛けた?
「……………。」
何だコイツは?
シファじゃない、姿や背格好、魔力の波長は同じ。
にも関わらず、グリモワールの観測結果は、彼女と何も一致しないのだ。
「ようやく気付いたんだ、ラウ?」
一歩下がる、また一歩下がる。
何だ、コイツは?
「…………何者だ?」
グリモワールの観測結果には。
ErrorErrorErrorErrorErrorErrorErrorError
ErrorErrorErrorErrorErrorErrorErrorError
幾度となく示されるその文字列に、困惑を隠せない。
何だ、コイツは?
私は一体、誰に語りかけている?
ゆっくりとソイツは振り返る。
顔が無かった。
目の位置には虚ろな黒い斑点があるのみの、謎の存在が私の前に立っていたのだ。
「私が分からない?」
「……………。
シファではないな」
「そうだね、私は彼女じゃない」
「もう一度、聞く。
お前は何者だ?」
「本当に私が分からないの、ラウ?
この姿じゃ、私が分からない?」
「質問に答えろ!」
私はすぐさま、武器を構えた。
拳銃と錬成し、目の前のソイツに銃口を向ける。
「フフフ、無駄だよ?
本当は分かってるのに、まだ分からないの?」
ErrorErrorErrorErrorErrorErrorError
ErrorErrorErrorErrorErrorErrorError
ErrorErrorErrorErrorErrorErrorError
再度グリモワールで観測するも、結果はこの文字列の返答のみである。
何だ、コイツは?
私を知っている?
私は知らない、だが奴は知っている。
何処で知った、何処で関わった?
私は知らない、私は知らない。
たが、奴は知っている。
私を知っている。
「残念、時間切れです」
不意打ちに視界がソイツが伸ばした手によって塞がれる。
すぐに振り払い、反撃を仕掛けようとするも姿は何処にもない。
アレは始めから何も無かったかのように忽然と消えていたのだ。
「また会いましょう、ラウ。
今度は、あなたから会いに来るのを待ってるよ」
何処からともなく聞こえる声に、得体のしれない悪寒を感じた。
アレは一体何者なんだ?