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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二章 炎の覚醒編 序節
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第二十九話 暗躍するモノ

帝歴403年7月19日 

 

 その日、例の試合の見物終え私は帰路を辿っていた。

 日は既に落ち、辺りは街頭の光のみが道を照らしている。

 王都サリアと比べ治安は比較的良いのか、街には浮浪者の類いはほとんど見当たらず、ゴミはあまり落ちていない。

 学生の街という事が影響しているのか、あるいは清掃事業が盛んなのか……。

 

 加えて、本日の試合について。

 出会った当初から警戒していたシファの実力の一端を直接垣間見れたのは大きいだろう。

 彼女の対戦相手であったラノワという人物、あの者が扱った力はシファに及ばずとも同質の力だと言える。

 試合の最中、両者に因縁があったのか口論になったのが気になったが、それをねじ伏せるかのようにシファの方から口止めを促したように見えた。

 が、あれ程騒げば今後目立つことは避けられないだろう……。


 ここに来てから間もないが、興味深い物事が色々と目に付く、しばらくは飽きる事は無さそうだろう。

  

 「上手く学院には来れたようですね、ラウ?」


 こちらを待ち伏せていたのか、路地の間から声を掛けられる。

  

 「面倒事があったがな………。

 まあいい。

 丁度、お前とは一度話をしておきたかったところだ」


 声の方向を振り向くとフードを被った人物。

 サリアに滞在していた頃、私達へとある依頼をした者がそこにいた。  

 背丈は私よりも低く、声から恐らく女性なのは分かっていたが、よくわからない人物である。


 ただ、この人物は私に先日の海賊騒動の一件を私に教えた人物なのである。

 王都に滞在中、この女が私に知らせていなければ船での一件は解決は困難だっただろう。

 

 「そうですか。

 それで、私に聞きたいことは何です?」

 

 「お前の素性の確認。

 そして私達への依頼について。

 これが分からない以上、報酬がどんなものであろうとその依頼を引き受ける事は出来ない。

 あの試合で確信したが、流石の私も手に負えないぞ」

 

 「シファ・ラーニルを殺す事は出来ないと?」 

  

 「今の実力では、まだ奴を倒せない。

 いや、彼女を殺す以外に利用した方が好都合だ。

 それが、お前にとってどんなに不利益な事かは知らないが……。

 現状、敵対することは避けたい。

 加えて、今回の学院に編入した際にサリア王国側から色々と条件を加えられている。

 幾つか細かいルールはさておき、関係するのはシファ・ラーニルが学院滞在中は協力する事。

 この点を満たすのに、わざわざ殺す意味はない。

 彼女の存在が非常に危険である事は肌身で感じたが」


 数時間前の試合が頭に過ぎる。

 推定でも、私の98倍弱、つまり最低でも約100倍。

 ソレが今回使用した彼女の魔力量である。

 観客の何人かは失神あるいは、体調不良を引き起こし試合後は救護の対応に運営が慌ただしかったのは今にも鮮明に覚えている。


 当の本人は他人事のように平気な様子。

 相手の方は戦意喪失に加えて、全身に重度の打撲を負っている模様。

 生きているだけマシに思えるが、彼女に生かされたと表現した方が正しいだろうが………。

 

 「私の素性に関しては今は言えません。

 しかし、シファ・ラーニルを殺す依頼においてあなた方の利点はお伝え出来ます。

 それは私にとっても同じ事ですから」


 「…………」


 「彼女を殺す事、それがあなた方の目的に近づく方法の一つであるということ。

 そして、私の復讐の為に彼女の死が必要です」


 「復讐か……。

 彼女が一体、お前に対して何をしたんだ?」


 「今は話す必要はありません」


 「話にならんな、依頼の件も今の現状から正直受ける利点はない。

 船での騒動を事前に知らせたことは感謝する。

 しかし、それとこれとは別だ。

 何の恩義か知らないが、お前の目的や素性が不明である以上、私はお前の依頼を受けることは出来ない」


 「………そうですか。

 相変わらず頭が堅い人ですね、あなたは。

 次の機会があれば会いましょう、その時になれば伝えられる事があるかも知れませんし……」

 

 「………」


 フードの者が立ち去るのを見送ろうとすると、彼女は何かを落とした。

 金属製のようなモノが音を立てて落ち、銀色の懐中時計のようなものが朧げに視界に入り込んだ。

 ソレを私に見られた事に勘付くと、焦りを感じたのか急いでソレを拾った。


 僅か数秒の出来事に過ぎない。

 彼女にとって、知られると困るモノなのだろうか?


 他にも目立つものがあるとすれば左腕にあるモノ、そしてフードから覗かせる耳に付けられた装飾品。


 僅かにでも見られた事による動揺を隠せない様子が気になり、私はそれを言及した。


 「それは見られては困る物か?」


 「………」


 彼女はただ黙っている。


 無言の肯定、つまり困る物である事は確実だろう。


 しかし、フードの人物は、落ち着いた口調で淡々とソレについて話し始める。


 「今見た物と同じ物。

 それと同じ物を先……、シラフ・ラーニルが持っています」


 「持っている……?

 何故、お前がそう言えるんだ?」 


 「さあ、何ででしょうね?

 まぁ、いずれ分かりますよラウさん」 

 

 「…………。」


 「何も言わないんですね。

 私について気になる点は他にもあるのでしょう?」


 「聞くだけ無駄だろう。

 手足のソレと僅かに見える耳のソレについてもな」


 

 「………。

 やっぱり、隠せないようですね。

 相変わらずですよ、あなたはいつもそういう人です。

 変なところで、いつも察しが良いんですから」


 そう言い残すと彼女はそれ以上に何も告げる事なくそのまま私の元から立ち去った。

 気になる点は色々と多い、


 しかし分かった事がある。

 私と彼等はある程度の関わりがある事。


 それだけは確かなのだろう。


 あの女が何者なのか?

 何故、私と同じモノを持っている?

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