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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第百七話 限界の先で

 戦いは終盤を迎えつつあった。

 先程までいとも容易く断ち切られたはずの彼女の刃は俺の一撃を幾度受けようとその刃はあまりに強靭で俺の剣と激しい衝突を幾度も繰り返していた。


 「「はぁぁっ!!!」」


 衝突の度に激しい煉獄が会場全体に放たれる。

 その衝撃に、会場を保護する結界にひび割れが生じ、崩壊の兆しが見えつつある。

 それでも戦いは止むことはない。


 目の前の剣士に勝ちたい。

 負けたくない、その意志の強さが俺達を突き動かし続けていた。

 限界なんて、とうに超えていた。

 それでも、この身体は、この意志は剣をまた一つ、また一つと振るい続ける。


 「シラフ!!!」


 「シグレ!!!」


 両者鬼気迫る勢いで鍔迫り合いへ。

 そして、この一撃で遂に会場を保護していた結界がガラスの破片をまき散らすように、魔力の結晶が辺りに散らばりながら散乱する。


 炎の光がその欠片を散乱させ、星の煌めきを思わせるような輝きを辺りに放った。


 「っまだ!!!」


 先に、この均衡を崩したのはシグレだった。

 剣が離れ、俺の態勢が崩れたのを見計らい燃え盛る刀を振るう。

 直後、カタナから炎が消え去った。

 

 「っ?!!」


 正真正銘、彼女に訪れた唐突なる限界だった。

 呆気に取られる彼女の隙を見逃さず、俺も勝負を付けるべく剣をふるった。

  

 その時、俺の剣からも炎が消えた。


 両者、共に本当の限界を迎えたのだ。

 魔力が底をつき、咄嗟にお互いが間合いを取り直す。


 「私は負けない!!」


 「あなたを超える!!!」


 共に限界を迎えた身体。

 残された力を振り絞り最後の一閃が放たれた。

 

 「…………。」

 「…………。」


 そして、長かった戦いに決着がついた瞬間だ。

 お互いが振り返る。

 この結果に悔いはない。


 全力、いやそれ以上をこの戦いに出し尽くしたから


 「悔いはありません」


 「ええ、こちらもです…………」

 

 「敗北を認めます。

 あなたの勝ちです、シラフ・ラーニ………ル………」


 宣言間もなくして、目の前の剣士はその場でゆっくりと倒れていく。

 

 長い戦い幕引き。

 学院の歴史に残るであろう、彼女の勇姿に観客達から今回の戦いを称え盛大な歓声が巻き起こった。


 俺は剣を元の腕輪へと戻し、救護部隊の駆けつける彼女の元へと向かった。

 救護部隊は俺を俺を最初は跳ね除けようと一蹴しようとするが、俺の存在に気付き意識が戻った彼女は彼等を抑え、俺が彼女に近づけるように計らったのである。


 「良い戦いでした、本当に……」


 「俺も、そう思います。

 あなたのお陰で、俺はまた少し強くなれました」


 「そうですか………。

 色々、気になる事がありますね。

 シラフ?

 近い内に、今度は私から個人的にあなたに話をお伺いに向かってもよろしいですか?」


 「それは勿論構いませんが……。

 一体、俺なんかに何の用があってのことです?」


 「その時、直接伝えますよ」


 そう言ってシグレは僅かな微笑みを浮かべると事切れかのようでその場で意識を失った。

 そして彼女はそのまま救護部隊の彼等の手によって連れ去られてしまう。

 そして俺も勝利の余韻を噛み締めつつ、この場を去ろうと動き出した瞬間……。

 

 「あれ……。」


 目の前が暗転した。

 


 目の前は炎に包まれていた。

 忘れるはずのない、何度も何度も思い返した過去の記憶の一幕だ。


  あなただけは守るよ。

  例え死んでもあなただけは……。


  例えもう会えなくてもいい

  私はずっと見守っているから


  私を助けたあなたを私は絶対に忘れないから

  傍にいれなくて御免ね、■■■……。



 あの日の光景を俺は見ていた。

 自分の家が炎に包まれたあの日のこと。

 

 その中で何度も誰かの声が響いて来る。

 燃え盛る、かつての我が家の光景……。

 苦しむ人々の怨嗟の声達。

 忘れるはずがない、忘れてはいけない。

 今も俺を苦しめ続けている過去の記憶である。


 うっすらと、誰かの姿が露わになる。

 紫の瞳が特徴的な謎の少女だった。


 少女は俺に何かを話し掛ける。

 涙を流し、俺に何かを訴えかけてきた。 


 私を恨んでくれても構わない……。

 私のせいであなたを傷付けたのは変わらないから……。

 

 私は近くにいてはいけないんだ。

 あなたを苦しませてしまうから……。

 

 だからごめんね、■■■………。


 またいつか、何処かで会えるから………

 

 さよなら……もう一人の契約者。



 懐かしい声だった。

 でも、誰だろう?


 あの少女は誰だ?


 忘れてはいけない人だったはず。


 かつての家族か、それ以外か?


 分からない、思い出せない。


 彼女は何者だったんだろう?

 どうして泣いていたのだろう?


 どうして?


 どうして俺だったんだろうか?


 どうして俺だったんだよ、■■■■。


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