第百八話 何故に彼女は
ふと、目が覚めた……。
何故か動悸が激しく上がっていた。
目の前の状況理解が追いつかず、錯乱状態。
落ち着かず、俺は半狂乱にも似た状態だったが暴れそうになる俺を優しく誰かが抱き留めてきた。
「大丈夫、落ち着いて……
まずは落ち着いて、深呼吸を……」
「はぁ………はぁ…………」
徐々に落ち着きを取り戻し、ようやく精神が安定してくると俺を抱き留めてくれた存在を認識する。
何故か姉さんがそこに居たのだった。
「ここは一体……。
それに試合は……確か……」
「試合は大丈夫、今度もシラフが勝ったんだよ。
でもね、その後に突然倒れてここに運ばれたんだ……。
ここは中央都市のこの国で一番大きな病院だよ」
「また……俺は倒れたんですね……」
「でも……これまでとは違う理由だよ。
今回はその魔力の大半を短時間で大量に消費した影響によるものみたいだし。
似た症状でシグレって人も、隣の病室で寝かされているよ」
「そうですか……」
落ち着きを取り戻し、俺は姉さんに促されるまま再び病院のベッドに寝かしつけられる。
「今日くらいは絶対安静だよ。
試合終わったその日に目が覚めた事には驚いたけど、全くいつも心配かけるんだからさ……。
ルーシャなんて、あなたが戦ってる様子に終始心配ばかりで私まで動揺しちゃったもの……」
「あはは……心配かけましたね。
でも見ていたんですね……俺の試合……」
「当然でしょ、シラフの晴れ舞台だからね?
それにさ、ようやく神器の力を扱えるようになったみたいだね?
ここまで随分時間掛かったよね、本当に………」
そう言って寝ている俺の頭を優しく撫で小さな子供扱いする彼女。
全く、俺はいつまで経ってもこの人から見れば子供なんだろうと再認識させてくる。
ルーシャ達にこの場を見られたら、羞恥心のあまりに毛布にくるまって数日家から出られないだろう。
しかし疲れ切ってる俺には反抗出来る体力もないようでされるがままになっていた。
「どうでしょうね、まだよく分かりません。
俺はあの時、負けられないってだけで奮い立っていただけだと思います。
同じ事をもう一度すれば倒れるのがオチですよ。
炎はやっぱり、怖いみたいなので」
「そっか……。
でも……おめでとうシラフ、いい試合だったよ。
本当によく頑張ったね」
「ありがとう、姉さん」
それから沈黙が続いた。
しばらくして俺は姉さんに話を切り出す。
「姉さん、ルーシャ達は今どうしている?
そもそもあの会場には来れないんじゃ無かったのか?」
「あー、うん、そうだね。
ルーシャは向こうで私と一緒にシラフの応援をしていたんだけどね?
シラフは今回になって突然神器を使ったもんだから。
心配だって事で念の為、私だけをこっちに向かわせたんだよ?
あなたの事を一番に心配していたみたいだからさ?
よかったね、良い主を持ってて」
「そうか、分かった。
それとさ、もう一つ聞きたい事があるんだ……」
「ん、……何かな?」
「そろそろ、聞こうとは思っていたんだ。
俺の本当の家族についての話をさ……」
「っ……。」
「分かってる……色々と話しづらい事なんだろ。
国にとって何か色々と悩みの種みたいな存在で、昔から俺の本当の家の事で、姉さんにも迷惑かけていたみたいだし……
一応、前にも何度かその話を振ろうとは思ったんだ。
でも、その度にいつも暗そうな顔をしていた」
「シラフ……その、えっと……」
「いつかは話してくれる。
姉さんは俺にそう言ったから、俺は待ってるつもりでいたんだ、本当にそのつもりだったんだ」
「うん……。」
「なんでだろうな……。
俺さ、そろそろ知らないといけない気がするんだ。
なんか、色々とあって学院に来てから余裕が以前よりも無くなって、自分の過去と向き合わないといけないじゃないかって、そんな気がするんだよ……。
ほんと、何故か分からないんだけどさ……。
たださ、最近あまりに沢山あの光景を夢で見るんだ。
どうしてかな、本当に………」
「…………」
「俺、怖いんだよ……。
今も俺は、何か大切な事を忘れたままのうのうと生きているんじゃ無いかって……。
失った人達を忘れてしまってるじゃないかって。
本当の家族の顔さえ、親の顔さえ覚えてないんだ。
でも、俺は過去の炎が怖くて………目を背け続けて」
「シラフ……私は……」
「姉さん……。
お願いだ、俺に話してはくれないか……?
本当の家族の事を教えてくれないか?」
「怖くないの……?
自分の過去を知る事が……」
「怖いに決まっている。
でも……背けているよりはましだと思う。
向き合わなきゃならないんだ。
失ったこそ、二度と失わない為に俺は知らないといけないんだ。
向き合わないといけないだよ。
だから俺は………俺の家族の事を知りたいんだ」
「そう、分かった……。
私の知る限りの事だけどそれでもいい?」
「……構わないよ、それでも」
「分かった。
聞きたく無かったらいつでも止めていいから……」
「分かりました……」
そして姉さんは少し間を開けて語り始めた。
「あなたの過去については、一度ルーシャ達には伝えているの。
以前、あなたが倒れた時に、流石に色々勘繰られて理由を問い詰められちゃってね」
「そうですか……。」
「その部分もちゃんと伝えるけど
これから話す事はルーシャ達にも伝えていない事。
あなたの両親から時が来た時に話す事も含めてね」
「俺の両親から?」
「そう。
今年で十年目だよね。
私の方に引き取られて十年、次でもう17歳かぁ。
本当に大きくなったよね、シラフは」
「はい……。
本当に姉さんには感謝しています」
「今から14年くらい前かなぁ?
あなたの両親と一度話す機会があったの……。
まだ小さな子どものあなたにも会ったりした。
あの頃のシラフは今よりもう少し素直で可愛かったかな?」
「…………。」
「えっとね。
あなたに何らかの神器の素質があるのは、私も一目で分かったんだよ。
魔力量だけで言えばかなり逸材。
それもそのはず、あなたはかつて五大名家と言われたカルフの跡取り息子だったの。
カルフ家にはかつて、今あなたのもつ腕輪の契約者存在しそれ以前からとカルフ家は国の重役として代々サリア王国を守る大きな柱の一つだった。
まだ二歳程の子どもが背負うにはあまりに重苦しい肩書きなのかもしれないけど」
「そうだったんですか……」
「うん、でここで一つ問題?
あなたの両親は、あなたの生まれ持った神器の素質についてどう思ったと思う?」
「嬉しかったんじゃないですか?
当然サリアにとってとても栄誉ある事ですし。
喜んで当然でしょう?」
「残念ながら不正解。
あなたの両親は、あなたの神器の所有に関して私に直談判してまで阻止しようとしたんだよ」
「なっ……どうしてです?
普通なら喜ばしい事でしょう?
何故王国の名誉である神器の選定を断る真似を、俺の両親は?」
「それはね、あなたの先祖には神器使いがいたから」
「なら、なおさらおかしいですよ。
どうしてそれで、神器に選ばれる事を拒むんです?」
「あなたの先祖は、神器の度重なる使用で死んだの。
あれは、あの時代でも珍しい死に方だったわね」
「なっ……。」
「シラフ、神器の力はとても凄まじい物なのは分かっているよね?
その力はとても強大で、一国の軍隊のそれに等しい。
でもね、使い過ぎれば体に負荷が掛かって命を削る行為そのものなの。
コレに関してはあなたが十剣に加入する前に、ちゃんと伝えたことなのは覚えてるよね?」
「はい、勿論です」
「そう、だからあなたの先祖は、神器の力を使い過ぎて亡くなったの。
その事が原因であなたの家系では神器に選ばれるという事があまり良い物では無いと思われていたよのね。
で、息子であるあなたに同じ事を繰り返したくないみたいでね。
無理を承知で私に直談判をしてきたわけ」
「…………。」
「10年前、確かあの火事の一週間くらい前かな。
あなたの父親にまた会う機会があったの。
その時が私の見た彼の最後の機会だった。
近い内に、神器の素質を調べる為に国から使者が派遣されるという事を私はその時初めて知ったんだ。
私はちゃんと控えるようにとは、伝えたはずなんだけどあなたをよく思わない勢力なのか、あるいはカルフの権威をより強くしたい勢力の妨害が話はどんどん勝手に進んでいたみたい。
で、その時に私はあなたの父親に頼まれたの。
あなたが神器を使って無理をしないように出来る限りでいいから守って欲しいってね」
「父親に頼まれたから……?
それが俺を引き取った理由ですか?」
俺の言葉に対して、姉さんは静かに首を振る。
「どうかな。
半分はそうかもしれないね、
でも本当の理由は違うのかも。
とにかく今は話を続けましょうか……」
それから彼女は昔を懐かしむように、当時の事を語り始めたのだった。




