牡丹の華麗なる贈り物 オマケよん!
「あはー!
今頃さ、桜と牡丹の二人は仲良くやっているかなぁ。」
フェリシアにあるゆうりの屋敷。
庭に植えられている中で一番大きな木の枝に座り、ゆうりは離れた場所に見える満開の桜の花を眺めていた。
「……あれだけ大騒ぎをされましたので、此方としましては無事に成功してほしいですね。」
「んん?
それはどっちが?
桜が吃驚する方?
それとも、大騒ぎして君たちを振り回した牡丹が吃驚する方?」
「どちらも、ですね。
あれだけ私たちを振り回したのですから、桜様への贈り物が成功して欲しいと思います。
そして、同じくらい桜様からの贈り物に驚けばいいと思っています。」
不機嫌なバルトルトを宥めるのは大変なんですよ、とブラッドフォードは苦笑する。
「うん、まあ……今回はうちの牡丹がイザベラちゃんもほぼ丸一日捕まえちゃってたしね。
たまにはこういう驚きも有りかな?」
枝に座ったゆうりは両足をブラブラとさせながら微笑む。
「……ゆうり様」
「んー?」
「そろそろ降りてきてくださらないのですか?」
「あー……うん。
もうちょっと此処にいようかなー、なんて……」
木の枝の上に登り、何故か一向にブラッドフォードの元へと視線を向けず、降りてこないゆうり。
「おや、もしかしてなのですが……普段見慣れぬ私の装いに照れていらっしゃいますか?」
「み゛っ?!
ちがっ!違うもん!」
ブラッドフォードの問いかけに、ゆうりは毛を逆立てた猫のようにビクリとする。
「……そうですか?
最初に私を見て以降、此方へと視線を向けて下さりませんよね?」
折角の数カ月ぶりの非番だからとゆうりと過ごすために柊へと頼んでフェリシアへと来たブラッドフォード。
だが、何故かゆうりはブラッドフォードを一目見て逃げるように木の上へと行ってしまったのだ。
「べっ別にブラッドフォードがいつもの騎士服じゃないから照れているとか無いしっ!
白いシャツとか、細身のズボンが似合ってるなぁとか!
身長も高くて、足も長いから、飾りとかなくても格好いいとか!
ぶっちゃけ女の私よりも色っぽいとか!
格好良すぎて直視できないとか!
そんなことは全くもって微塵も!
決して思ってないよっ!!」
アワアワと視線を彷徨わせながら答えるゆうりの脳裏には、普段とは違うブラッドフォードの服装が浮かんでいた。
「……勘違いをして申し訳ありません。
ゆうり様は私のこのような服装はお嫌いなのですね。
不快な思いをさせて申し訳ありません。」
「ちっ、ちがっ!
わ、私は……その……うぅ……」
悲しげなブラッドフォードの言葉に、ゆうりは思わず木の下にいるブラッドフォードへと目を向ける。
「ゆうり様……」
そこには切なげな表情を浮かべたブラッドフォードが、ゆうりを静かに見つめていた。
「…………君さ、ほんとは分かって言ってるでしょ?」
暫し悩んだものの、ヒョイッと重さを感じさせない動きで木の上より降りたゆうりは、ジトッとした視線をブラッドフォードへと向けた。
「おや?
バレてしまいましたか。」
「バレるよ、バレるに決まってるじゃん!
前も言ったけどさ!
私ってば恋愛初心者な若葉マークなんだよ、こんちくしょー!
君と出会うまで異性と付き合った経験とか皆無で!
恋人いない歴数万年な私の羞恥心を舐めないでよ、み゛ゃっ?!」
「やっと捕まえましたよ、ゆうり様。」
頬を染めてからかわないでと怒るゆうりが気が付く前にブラッドフォードは距離を詰める。
そして、その腕の中にゆうりを抱きしめてしまった。
「なっ、まっ……お、落ち着いて、ブラッドフォード!」
「ゆうり様、まだ私は何もしていませんよ?
ただ、愛しい貴女様を抱き締めているだけなのですが?」
「まだって何?!
まだって!」
「それは"まだ"が示す意味を知りたいということですか?」
「ちっ、違っ……んっ……!」
己の腕の中で顔を真っ赤にして、抵抗とも言えない弱い力でブラッドフォードの胸板を押すゆうり。
「ふ、んあっ……やぁっ…………んぅ……」
舌を絡め取られ、呼吸も奪われそうな口付けにゆうりの息は上がり、頬を赤く染めてしまう。
「ゆうり様。
一つ忠告ですが、男にとって本気で恋い慕う女性が他の異性との経験が皆無という情報は朗報以外の何者でもありませんよ。」
ゆうりの赤く色づいた唇を親指でなぞりながら、ブラッドフォードはうっそりと微笑む。
「愛するゆうり様に最初から最後まですべてを教えることが出来る……私以外の男がこのようなゆうり様の表情を知らないということでしょう?」
それは男にとっては、何よりの歓びなのだとブラッドフォードはゆうりの耳元で囁く。
「愛しています、ゆうり様。」
ゆうりを抱き締める力を強め、ブラッドフォードはその首筋を顔を埋めた。
「……………………あの、ゆうり様?
いつもならば、そろそろ"黄金の右手!"と叫ばれる頃合いかと思うのですが……よろしいのですか?」
普段のゆうりならば己の甘い行為を止めるために、そろそろ照れ隠しの拳が炸裂するはずなのだ。
しかし、今日に限って一向にその気配が無いことにブラッドフォードは戸惑う。
「…………らね……」
「……ゆうり様?」
いつもと様子の違う上に、何かを呟いたゆうりの声を聞き取ろうと、その細い首筋よりブラッドフォードは顔を上げた。
「わっ、私だって成長するんだからね!」
己の首元から顔を上げたブラッドフォードの襟元を掴んで、ゆうりは自分に向かって引き寄せた。
「ゆう……っ!」
予想外なゆうりの動きに驚き目を見開いたブラッドフォードの顔に、まるで強敵に挑戦するかのように唇を引き結んだゆうりの顔が近付く。
……最も、ゆうりの顔は真っ赤に染まっていたが。
「……わっ、私は君よりも年上だしっ!
油断していると、私が奪っちゃうからね!」
瞳を潤ませ、頬を染め上げ、重ねるだけのゆうりからの口付け。
「その、ブラッドフォードにはさ、物足りないかもだけど……!
恋人になったばかりの頃よりは、ちょっとは、えっと……恥ずかしいことに、耐えられるようになった、というか……あぅぅ……」
女は度胸とばかりに勢いに任せたゆうりの口付けを受け、なぜか驚きの表情で固まったブラッドフォード。
「……あ、あれ?
ちょっと、ブラッドフォード?
あの、大丈夫?
え?もしかして痛かった?痛い?
ごめっ……」
勢いに任せた口付けで、もしかして痛かったのかとゆうりは慌ててしまう。
「……ゆうり様」
しばし固まっていたブラッドフォードだったが、己を呼ぶゆうりの声に反応して瞬きをして、ゆうりの名前を呼んだ。
「う、うん?
え……あの、ブラッドフォードさん?
どうして私の腰に腕を回すのさ?」
ゆうりは、固まっていたブラッドフォードが動き出したことに安心する。
だが、何故か己の腰に腕を回し始めたブラッドフォードの行動に嫌な予感を覚えた。
「ゆうり様、もう一つ忠告させて頂きます。
……貴女様のことが欲しくて堪らない男に対し、そのような真似は理性にヒビを入れ、欲を煽るだけですよ。」
「ちょっ!ブラッドフォード?!
なんで私を抱き上げるの?!
どこに行こうとしているのさっ?!」
「折角の休みですからね。
邪魔が入る前に、ゆうり様のお部屋で二人でゆっくりと過ごしませんか?
………………流石に初めてが外はお嫌でしょう?」
「……え?
はじめてって……そと?
ふにゃあっ?!
な、ななななっ、なにを……」
「何をと言われましても……ねえ?」
普段にも増してニコニコと甘い微笑みを浮かべたブラッドフォード。
「やっ、まって!
ちょっと待とうよっ!
私たちまだ婚前だしさっ!
別にブラッドフォードとね、そ、そういう行為をすることが嫌ってわけではなくて……いっ嫌ではないけど!
い、まじゃないというか……」
「私を煽ったのはゆうり様ですよ。
自分の行動には責任を持たないといけませんよね?」
ニッコリと微笑むブラッドフォードから、何故かゆうりは無言の圧を感じてしまう。
「う…………ブラッドフォード……」
「はい、ゆうり様」
「…………はじめてだから……君を満足させられるか、わかんないし……やりかたもわかんないから……きらわないでね……」
お姫様抱っこをされたゆうりは、ブラッドフォードのシャツを握り、顔を背けて小さな声で囁く。
「っ……ゆうり様、それは……!」
小さな声で告げられたゆうりの言葉に、ブラッドフォードが驚き、真意を問いかけようとしたその時。
「そこの歩く猥褻物っ!
わたくしの心より敬愛するムッティを離しなさいっっ!
キャサリン!ドリルヘアーアタックですわっ!!」
「じょいやっさっっっ!!!」
何処からともなく甲高い少女の声が響き渡れば、次いで野太い男の声が轟く。
「っっ?!」
己に向けられた殺気をいち早く感じ取ったブラッドフォード。
抱えているゆうりごと後方へと跳んでよければ、一瞬前までブラッドフォードのいた地面にドリルヘアーが突き刺さった。
「……やはり現れましたか、エアデ様!」
「オーホッホッホッホッホッ!
春の麗しいそよ風と、満開の桜の香りに包まれて!
いつもの如く、わたくし登場でしてよ!」
ゆうりが腰掛けていた大木の枝に仁王立ちして、ズビシッと指を突きつけるエアデこと桔梗。
「そなたも分からぬ男ですねっ!
わたくしの目の黒いうちは!
こともあろうか婚前に恋のイロハをかっ飛ばした破廉恥な真似など許しませんわっっ!!
そのようにムッティも顔を真っ赤に染め上げて嫌がっているではありませんかっ!
花も恥じらい!月も顔を隠す!
儚く麗しき乙女の恋心を前に!
そなたの心に正義は無いのですかっっ!!!」
ビシリッと仁王立ちした桔梗は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるブラッドフォードを指さして吼える。
「…………以前にもお伝えした記憶がありますが、改めて言いましょう。
昨今の愛し合う恋人達は、婚前に口付け以上の行為に及ぶ方々も少なくはありません。
更に付け加えるならば、私は決してゆうり様の御心を無視するような真似は致しません。」
「あはー……桔梗が登場した以上は、早めに諦めて私を下した方が無難な気がするなぁ……」
まるで何があっても離すものかとばかりに、己を抱き締める腕に力をこめるブラッドフォードへゆうりは苦笑する。
「清廉潔白!
花も恥じらう乙女であり、誰もが羨む純真な恥ずかしがり屋さん代表のムッティがっ!
そのような破廉恥な行為を受け入れるなど太陽がコケコッコーと鳴いても有り得ませんわっ!!
皆の者、出あえっ出あえっ!
不埒極まりない色欲退散っ!
わたくし達のムッティを色魔の魔の手より助け、色欲魔へ熱く輝く正義の心を教え込むのですっ!!」
「相変わらず全く意味が分からない上に、色欲魔呼ばわりは酷いと思うのですがっっ?!
第一!私が欲しいのは心より愛するゆうり様だけであって!
それ以外の有象無象になど興味の欠片もありませんよっっ!!」
「大声で何を叫んでんのさっブラッドフォードっ!!」
もしかしたら二人の関係を進めることが出来ていたかもしれない千載一遇の好機を邪魔されたブラッドフォードが桔梗の持論へ反論すれば、ゆうりもブラッドフォードの叫びに突っ込みを入れた。
「ええいっ!問答無用でしてよっっ!
いつもの如くやってお仕舞いなさい、エリザベスっっ! ジョセフィーヌっっ!!キャサリンっっ!!!」
「「「じょいやっさっっ!!!」」」
桔梗の命令に答えた”激・黒鋼漢団”の三体が進み出る。
「くっ……折角ゆうり様と気兼ねなく過ごせる時間が出来たというのに!」
「あー……うん。
ねえ、ブラッドフォード。」
「ゆうり様?」
二人で過ごしたかった、と心を読まなくても分かり過ぎるブラッドフォードの表情を見たゆうりは、クスリと悪戯な笑顔で微笑む。
「たまにはさ、一緒に逃げようか?」
「え……?
ふふっ、ゆうり様と一緒ならばどこまでもお供いたします!」
言うが早いかゆうりは、ブラッドフォードの手を掴んで走り出す。
ブラッドフォードと手を繋ぎ、くるくると逃げ回るゆうり。
そんな二人を追い掛け回す桔梗と”激・黒鋼漢団”の三体。
彼らの追いかけっこは、夕日が沈むまで続くのだった。




