牡丹の華麗なる贈り物 第五話よん!
皆様、ご無沙汰しておりました。
前話を投稿してから一年以上が経ってしまいました。
もしも、未熟な私の物語の続きを待っていて下さった方がいたならば、本当にありがとうございます。
粗筋を纏めていたノートを紛失したり、私生活などがごたついたりと色々有りましたが、また少しずつ更新していきたいと思っております。
どうぞよろしくお願いします。
「取り敢えず、陛下のことは横に置いておき、牡丹様の悩みを解決しましょう。」
「ばるとるとっっ?!
まさか余のことを見捨てるのかっっっ?!」
そうでなければ仕事が進みません、とエリオットの悲痛な叫びをぶった切ったバルトルト。
容赦ないバルトルトの言葉にガーン、という擬音が似合いそうな表情をエリオットは浮かべる。
「陛下、貴方は話を面倒にしますので、しばらく黙っていて下さい。
ブラッドフォード、こういう女性がらみの案件は貴様の得意分野だろう。
さっさとその筋肉混じりの脳みそを隅から隅まで酷使するか、力の限り振り絞って、牡丹様のお気に召すような答えを今すぐに出せ。」
余は王様なのに……と、いじけ始めたエリオットを完全に無視してバルトルトの矛先はブラッドフォードへと向く。
「あのね、バルトルト。
君は勘違いしているようだけど、私は別に女性がらみの案件が得意な訳では……」
普段と変わらず無表情なバルトルトに矛先を向けられたブラッドフォードは、その言葉の一部を否定しようとする。
「無駄口を叩くな、ブラッドフォード。
仕事がこれ以上溜まる前に私は執務に専念したいんだ。
私は私の可愛い天使達との一緒の夕飯には間に合わなくとも、二人が就寝するまでの短い時間だけでも共に過ごしたいのだからな。」
「あらん?
マードレと出会うまでは色んな出会いと別れが盛りだくさんだったのにねん。
女性がらみのことが得意じゃないなんて、ねえ……?」
しかし、ブラッドフォードの言葉が最後まで続くことはなく、無表情なバルトルトと面白そうに笑う牡丹に遮られてしまった。
「……否定できない我が身が辛い……」
過去のことではあるが、完全に否定出来ない身であることを理解しているブラッドフォードは、部屋の隅でいじけるエリオットの横に暗雲を背負って並んでしまう。
「んもうっ!
頼りないわねん!
一応なりとも、妾より恋愛経験豊富なんじゃないのん?!」
頼りにならない幼馴染み三人組に牡丹は眉を寄せて、苛立たしげに整えられた手の爪を噛む。
独身で、婚約者もいない身であるイザークよりは良い案を提示してくれると思っていた三人組。
だが、蓋を開ければ本題もそこそこに脱線してばかりだった。
「ふ、ふふふふふふ!」
しかし、そんな苛立ちを見せる牡丹へ不遜な笑い声を漏らす者がいた。
「あらん?」
「…………」
それは赤銅色のおさげに、セーラー服を見に纏った人物。
「真打ち登場です、牡丹様!
子供溺愛堅物宰相と愛の流離い人(元)騎士団長とは、余は一味も、二味も違います!
この三人の中で一番長く連れ添い、王国一のおしどり夫婦と名高い余の答えならば牡丹様もきっと満足するはずです!」
その人物とは、どよん、とした暗雲を背負うブラッドフォードの隣から復活したエリオットだった。
「…………」
過去の妻である王妃への贈り物の内容を知っているバルトルトは大きなため息をつき、頭痛を覚えたのかこめかみを押さえる。
「……すごく自信が有りそうだし……一応、聞いてあげるわよん。」
母であるゆうりから過去のエリオットの贈り物の一部を伝え聞いている牡丹は嫌な予感を覚えながらも、もしかしたらまともな意見を言うかもしれないと、一縷の望みを託し言葉の先を促す。
「ふふふふふ!
まずは珍しい香りを発する大きな花を用いた豪華な花束など如何でしょう?
特別に作らせた首飾りや耳飾りもおすすめです!
珍しい香りの香水を送ったこともありました!
あとは……可愛いクマの人形もきっと喜んでくれると思います!」
自信満々に己が過去に王妃へと渡した贈り物を並べたエリオットにバルトルトはますます頭痛が強まり、牡丹は頬を引きつらせた。
「……陛下、“珍しい香りを発する大きな花を用いた豪華な花束”とは、遥か南方にある変わった植物や魔物が生息する森に生えている“ラフレシア”、寄生型食虫植物の一種で作らせた異臭を放つ悪趣味な例の花束のことですか?
“特別に作らせた首飾りと耳飾り”は、目に痛い真紅の革製の犬の首輪のような物に、耳が千切れそうな大きさの人の顔らしき飾りのついた耳飾りと呼べるかわからない物体でしたか?
“珍しい香りの香水”とは、異様に獣くさいと悪臭騒動が起きた大量の香水の原液のこと。
“可愛いクマの人形”とは、何処から見つけてきたのか人の背丈よりも大きい凶暴な表情を浮かべた熊の剥製のことでしたか。」
エリオットの提案した贈り物の数々は、過去に己が実際に妻である王妃に贈ったものだった。
「……よく、まあ……ここまで有り得ない物を贈って、愛想を尽かされなかったな……。」
牡丹と桜の仲をこじらせるために悪意を持ってわざと提案した訳でなく、実際にエリオット自身が贈ったのだということを知った牡丹は何時もの女言葉も忘れてポロリと本音が漏れる。
「愛想云々については王妃の御心が海よりも大きかったことが幸いしました。
普通に考えて有り得ない贈り物の数々に顔を引きつらせながら、悪意がないと分かっているがゆえに笑顔で受け取ったそうです。
もっとも、クマの剥製を渡されてからは私やブラッドフォードに陛下がこれ以上妙なものを贈ることを制止するように厳命が秘密裏に下されましたが。」
騒ぎになった当時を思い出して遠い目をするバルトルトの表情に、牡丹は大変だったのだな、となんとも言えない表情を浮かべた。
「エ、エリザベートは一応喜んでくれたぞ!
ただ、あまり貴重なものや珍しいもの、特製の品はやめてほしいとお願いされた……」
「嫌がらせとしか思えない物を贈られても、相手の気持ちを考えて笑顔で受け取ったのねえん。
桜ちゃんには敵わないけど、エリザベートちゃんは良い子みたいじゃなあい。」
はっきりと伝えられることのなかった王妃、エリザベートの本音を今更ながらに知り、エリオットは衝撃を受ける。
セーラー服をそのままに床に四肢をついて項垂れるエリオットを横目に、牡丹はまだ会ったことのないエリザベートに興味を持った。
「……でも、エリオットの意見は全く、全然、絶対に参考にしないわん。
桜ちゃんも笑顔で受け取ってくれるだろうけど、妾の趣味じゃないし、妾がもらった側だとしても嫌われているかもとしか思わないものん。」
まだ会ったことのないエリザベートについて一旦考えるのをやめた牡丹はため息混じりに呟く。
その牡丹の言葉の内容は鋭い矢となってエリオットの背中に刺さり、くぐもった声を漏らしてしまう。
「……何か二人の思い出など無いのですか?」
エリオットの贈り物を解説後より思考を巡らせていたバルトルトは、良い案が出ないことに落胆した様子の牡丹に問いかける。
「え……?
二人の思い出……?」
「そうです。
例えば……二人の好きなもの、一緒に行った場所、記念日に流れていた曲……付き合うきっかけになったり、思い出の“もの”など。
それを絡めて贈り物としては如何ですか?」
普段通りに鋭い不機嫌そうなバルトルトの視線が牡丹をジッと見つめる。
そのバルトルトの鋭い深い紫色の双眸に、牡丹の脳裏に一輪の花が思い浮かんだ。
「あ……!
アレなら良いかもしれないわん!
けれど、アレをそのまま渡しても能がないから……そうね、そうしましょん!」
バルトルトの言葉で何かを閃いた牡丹は最高に華やかな笑顔を浮かべ、楽しそうに考えを巡らせていく。
「んもう!
やっぱりあの二人よりも貴方は頼りになるわねん!
さっすがだわん!
うふふふふ……お礼を言うわ、バルトルト!
お陰で良い贈り物を思いついたのよん!
ちょっと準備するのに忙しいから、このまま退散させてもらうわあ!」
まったねん!、と嵐が去っていくように掻き消えた牡丹をバルトルトは無言で見送る。
「…………」
牡丹という嵐が消え去った後に残された被害の大きさにバルトルトは目眩を覚えた。
「……二人とも、今すぐに執務を再開する。
十秒待つ、さっさと復活するが良い。」
牡丹の被害を受けた項垂れる幼馴染二人の姿に、バルトルトは大きなため息をつかずにはいられなかったのだった。




