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9/逃げた先には

「痛い! お尻が燃える!」


落ちてから10秒。サシャは叫び跳ねる。

トラップに引っ掛かり、落とし穴に落っこちて3秒程でお尻は地に着いた。しかし問題はその角度にある。80度程の斜め坂、あるいは滑り台を滑ると言うより転がり落ちる。

サシャは小刻みにジャンプをして着地に失敗して、滑り台を流れた。


「治せるから、普通に滑って加速しすぎたら強引でもブレーキかける方がいいぞ」


アルクは痛みや怪我を諦めてトラップに身を任せている。


2人の終着点であろう光が一瞬見えた、と思えば勢いのまま既に外へと投げ出されていた。


「≪超回復≫≪超回復≫≪超回復≫」


アルクは直ぐに起き上がって周りに何も居ないことを確認して、2人分の傷を回復する。


「色々ごめん。行けるか?」

「ええ。行けますとも」


サシャもアルクも疲労が溜まってきたが状況は休ませてはくれない。


方向や高さの感覚がなくなったなか、進んでいく。

最下層のモンスターはやはりいくらか強くサシャは庇われがちになった。


歩む2人が目指すのは下層に降りた際の目標の一つにあったセーフティ。レベリング用のキャンプ地点の捜索だ。


それは運良く降りてから半日程で見つかった。

今までの洞窟サイズとは比べ物にならない大広間。入り口で2人は視線を奥の壁に、壁に付けられた大きな扉を見て決して奥には進もうとしなかった。


「……オォォォ!」


「でっけー扉の間から雄叫びついでに変なオーラまで漏れてんじゃん」

「これ、ダンジョンボスの部屋よね? 逃げる?」


近づけば扉が開き、十中八九負ける試合に招き入れられるだろう。しかし、アルクが魔力の流れを見るにここはセーフティで間違いはなく、今の距離なら扉も反応がない。


何より、最終地点は目の前の部屋だ。

“イレギュラー”が来る前にレベリングを行い、ダンジョンボスに挑んで勝つ事が今の指針。

ダンジョンボスの部屋とセーフティが直ぐに見つかった事、その距離が目と鼻の先にある事、“イレギュラー”がおそらく上層に居る事、こんな幸運は見逃せない。


「いや、ダンジョンボスの扉前でキャンプにした前例はあったはずだ。折角のセーフティなんだ、とにかく休もう。近づき過ぎない様にな」

「……オッケー。体力回復したらレベリングして、勝てそうならダンジョンボスに挑む。そうよね?」

「ああ、そのつもりだ。寝れそうなら寝な」

「うん。あんがと」


ダンジョンボス部屋前でキャンプ。

荷造りした鞄から薄い布を出してかぶり、サシャが深い眠りにつく。

アルクは扉と入口に目をやり、しばらく緊張していたが特に何も起きず、一晩位たつとサシャが起きた。


「おはよう。起きててくれてありがとう。しばらく寝て頂戴」

「言ってなかったか、魔族に睡眠はなくてもいいんだ」

「嘘でしょう、それ」


サシャのジト目を無視して鞄の調理器具と僅かな食糧を渡した。


「何か作ってよ」

「……わかったわ」


それから、何の問題もなく3時間程たった。手持ちの食材を食べ尽くしたが気力体力は回復してた2人。

気分は上々である。


「ちょっと一狩りいこうぜ」

「そうね!」


セーフティを見つけるまでの道中で食べれそうな魔物に目星は付けていた。


ここはセーフティだから魔物も入ってこない。近くで戦えば不足の事態が起きても直ぐにセーフティに逃げ込める。


“イレギュラー”を除けばここは絶対領域、ダンジョン内で最も安全な場所だ。


「“イレギュラー”でもなきゃここは無敵要塞と言って良い」

「“イレギュラー”は当分来ないわよね?」

「上層に顔を出した筈だし、いかに素早くても落っこちた俺らの近くには居ないだろ。流石に」

「単純な距離的に厳しいって訳ね!」

「流石にな! 縄張りの異物に気付いたとして、どうやって来るのかって……、落とし穴が閉じてなかったらそのまま降りれるのか?」

「それフラグじゃないわよね?」

「冗談よせよ、流石に当分は来ないって!」



「…………ォォォォン!!」



ドッ、と冷や汗が吹き出した。


フラグは十全に機能した。

大きな遠吠えが骨の髄まで恐怖を染み込ませる。

相当近い距離だ。“イレギュラー”はスピードタイプで鼻のきく狼、直ぐにこの部屋に向かって来かねん。


「サシャ近いぞ。走って逃げよう」

「ええ! でも何処に逃げるつもりかしら」


「ボス部屋の扉は絶対に壊れないらしいぜ?」


2人が一気に走り出す。10歩も走れば部屋の中央。扉まであと半分の距離になると自然と扉が少しずつ開かれる。


ドガッ!!

血走った目で2人を睨む翼を持つ黒い狼が、“イレギュラー”が部屋に転がり込んだ。


「逃げろ逃げろ逃げろ!!」

「早く、早く開いて!!」


“イレギュラー”は大きく息を吸って、頬を膨らませて溜めの動作を取る。


「ブレスか!?」

「≪サンダー≫!!」


サシャの音速の魔法がブレスを放つより早く“イレギュラー”に当たると、口の中が軽く爆発して一瞬怯んだ。


その隙に扉のうっすら開いた隙間に滑りこむ。アルクとサシャが入るとどういう原理か扉は閉じた。


絶対無敵のセーフティから逃げ出す。

挑めば十割死ぬ“イレギュラー”に追われて転がるように、万が一に勝てないダンジョンボスの居る部屋へと2人は逃げ込んだ。





「三億……!」


鞄の隙間に詰め込んでいた宝石を全て扉の向こう側に置いてきた事をアルクは悔やんでいた。


ほんの一瞬、扉の先で震えるゴブリン帝を見るまでの間だけ。

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