表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンドロールには早すぎる~一万回挑める迷宮に棲まう主(まおう)は、マンネリ防止、味変したいと人様のダンジョンに突貫す~  作者: 大野はやと
メイン:エンドロール前

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/190

第32話、魔王、実にらしく回復を織り交ぜて拷問? してみる



「ふぅん。どうやらご主人さまの能力……『イロトラン(硬化不動)』の方も維持されているみたいだ。『イロトラン』を受けた人って、どんな感じなのかな。意識は残っているのかな、触れられたりしたら、感触とかあったりするの?」


『デ・イフラ(幻惑混乱)』が解けていなかったからこその『イロトラン』というか。

騎士風の男改め、職業はシーフらしいナイルくんと対面するも。

案の定彼は躍動感のある銅像めいた立ち姿で固まっていた。

マイダンジョン内ではあまり使うことの少ないカードだったから。

フェアリも受けたものにどのような影響があるのか、興味津津なのだろう。



「ああ、一回自分で使ってみたことあるよ。基本的にそれほど有用なスキルじゃあないから、あくまで興味本位で、だけど。意識は確か、あったはず。ただ、鋼鉄となっているから五感はきかない。それも、よくよく考えるときっついなぁ、精神的に。通常なら、すぐ効力が切れるから、問題なかったんだけど」



俺はフェアリにそう解説しつつ、はっとなる。

まさかずっとこのまま、と言う事はないだろうが。

その事を思い返すと、早く解いてあげなくてはという気にもなって。



「ふむ。だがこの力は敵味方関係なく、あらゆるスキル、ギフトを一定時間受け付けないものだったはずだがの」


自然と効力が切れる以外に、果たしてそれを解く術はあるのか。

そんなチューさんの続く問いかけに、かつてユウキに欲望のままに襲いかかる寸前でかちこちに固まっているナイルくんを目の当たりにして、その時のことを思い出したのか、腰が引けていたユウキが、それでも大丈夫なんだろうな、なんて不安な顔を向けてくる。



「恐らくは、何とかなるとは思う。実際、先にかかっていた『デ・イフラ』は『イロトラン』を超えて発揮していたようだしな。……ちょうど、口も空いていることだし、試してみよう。『ヴァルーノ(万能得)

』の薬っと」



それは、地味に初登場だったりする、単純なダメージや戦闘不能状態を除く、あらゆるバッド、グッドに関わらずステータスの変化をデフォルトに戻すことのできる『ヴァルーノ』の薬。

瓶薬の蓋を開け、その蓋を軽く放って鉄格子の向こうに投げ入れると、すかさず『ウェルスランバー(場所置換)』のカードを追い打ち投擲。


本当は、生きているものとしか場所を入れ替えることはできないのだが。

『デ・イフラ』や『イロトラン』の効力が未だ続いているように。

『ウェルスランバー』のカードもどこかしらパワーアップしていたらしい。

あっけなく、鉄格子を無視して蓋と俺を入れ替えることができて。



みんながそれにリアクションするより早く。

俺は虹色斑に光る『ヴァルーノ)』の薬を、うまいこと空いていたナイル君の口の中へと流し込んでみる。


外からは何をも受け付けないが、内からならば恐らくは。

そんな確信にも近い、期待通り内から染み出すかのように七色の光が、ナイル君の全身へと広がっていって。

それからすぐに、『ヴァルーノ』の薬が無事に効力を発揮した事を示す、星のごときキラキラの上昇気流……そんなエフェクトがナイルくんを包んで。


半分ほど能力を発揮したところで、一度開封してしまうと使いきらなければならないアイテムを無駄にするのもあれなので、そのまま作戦通り残りを自分自身にもかけていく。



するとすぐに、俺の周りにもキラキラエフェクトがかかったので。

うまいこと俺だけ『ルシドレオ(透過透明)』の力から解き放たれ、見えるようになっているはずで。

それに気づいたユウキが、何を!? と声を上げかけたが。

まだみんなには『ルシドレオ』の効果は続いているのだからと、静かにしておいてくれのジェスチャーを取る。



「ふがぅふっ」


それで声を上げて何か文句を言いたそうにしているユウキの口を、限りなく透けたフェアリのぷにぷに触手で塞ぐといった幻視……ではなく、ナイスなアシストを見届けていると、そこでようやく我に帰ったらしいナイルくんが、水中から顔をようやく出せたかのようなリアクションをもってやっぱり声を上げた。



「……あああああぁぁぁっ!? げほっ、ぐほぅっ」

「おぉ、焦らずに落ち着いて。深呼吸するんだ、ほら飲み物も」


正確にはいつも持ち歩いている『携帯食料』に分類される柑橘系のジュースだが。

ナイルくんはそれをひったくるように受け取って一気すると、またしても激しく咽てごほごほしだす。


それでも、この世界にもありそうな低級ポーション程度の回復効果が認められたのだろう。

そうかからずとも、ナイルくんが落ち着いていくのが分かって。



「……んぐっ、ここは?」

「ナイルくんも知っているだろう? リングレイン城の地下さ。落ち着いてきたところで、どこまで覚えてる?」


俺の体験通り、『デ・イフラ』と『イロトラン』の魔王コンボを受けた瞬間から記憶があるのならば。

俺のことも覚えているのではなかろうか。

さすがに探し求めていた魔王的存在かどうかは分からずとも、もう少しでかわいこちゃんが手に入るところを邪魔されて、何も見えない聞こえないのに意識だけそこにあるという拷問にも等しい仕打ちを与えただろう人物であることくらいは理解できているはずで。


俺なら、そんな相手が目の前にいて笑っていたら激高して襲いかかっているところだろう。

当然、典型的なステレオタイプな貴族っぽいナイルくんも、そんな予測の範囲を超えることはなくて。



「お、お前ぇはぁっ! あの女を! 聖剣をどこへやったあぁぁぁっ!! 俺のものだぞぉっ、かえせええぇっ!!」


ふむ。追い詰められれば本性が出るかな、なんて踏んでいたけど。

やはりナイルくんは初めからユウキを、その特別な勇者の証と言ってもいい剣がお望みだったらしい。

ダンジョン攻略、魔王退治はおまけだった……とまではいかなくとも、あわよくば漁夫の利を、なんて思っていたのかもしれない。


そのまま猛然と殴りかかる勢いで向かってナイルくん。

大人しくそれを受けてやる意味もないので、今はチューさんのいないふところから無造作に一枚のカードを取り出して。

中指と人差し指の間で支えつつ、その飛んできた拳にすっと合わせる。


普通の薄いカードであるならばそこで折れるなり弾かれるなりしていたことだろう。

しかし、『イミルゼ(紫雷一撃)』カード……所謂雷系統の魔法が込められたそれは、あっさりとナイル君の拳にめり込み、沈み込み、飲み込まれていく。



「んぎゃあぁっ!?」


瞬間、バチチィッ! とナイルくん自身が放電。

骨が透けて見えるんじゃないかってくらい雷を通してしまったナイルくんは。

小さな悲鳴と煙なんぞ上げて吐いて倒れ伏す。



「まぁまぁ、落ち着いて。【リコーヴァ(治癒回復)】のカードっと。……実はさ、今回は提案に来たんだ。まずは落ち着いて話し合おう。聖剣なら譲ってもいいし」



当然、そこでまたユウキが何か言いたそうにしていたけど。

チューさんのもふもふとフェアリのぷにぷにに防がれてそれもままならない。


まぁ、今俺の所謂ところのアイテムボックスの中に聖剣入っているんだけどさ。

俺には装備できないし、俺のものになったわけでもないんだから、何言ってんのって文句を言いたい気持ちはよく分かる。


でも、そもそもユウキの目的は聖剣を持った勇者になることじゃないだろう?

ナイルくんがユウキの代わりに勇者になりたいと言うのなら、吝かではないじゃんね。


そうしたら晴れて、ユウキは自由だと。

やりたいこと、叶えたいことに対し、何憂いなく向かっていけるじゃないかと。


後でじっくりきっかり話し合うことにして、俺は『イミルゼ)』のカードで意識の飛びかけたナイル君を、すかさず『リコーヴァ』のカードで癒し、面と向かって話せるようにと立ち上がらせて。



「ナイルくんは聖剣が……いや、勇者になりたいんだろう? 剣ならほら、ここにあるから」

「かっ、かえせえええぇぇぇっ!!」


聖剣が目の前にあったら、落ち着きを取り戻して取引に応じてくれるかな、なんて思っていたけど、どうも浅慮だったらしい。


恐らくきっと。

『リコーヴァ』のカードを受けたことも気づいていない様子で。

変わらず叫びながら、またしても向こちらへと向かってきて……。




     (第33話につづく)








次回は、3月15日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ