第31話、魔王、息を吸うように使ってしまうカードを自重しようと思い至る
すっかり夜も更けた時分だとはいえ、巡回の兵士などはいるだろうと予想されたが。
どうやら、そんな兵士たちの中に『看破』に類するような力を持っていて、常に警戒しつつそれを使用している者はいなかったようで。
ぶつかりそうになったユウキがテンパって危ない場面はあったものの。
これといって大きな問題も、『ルシドレオ(透過透明)』の効果も切れることもなく、地下一階へと辿り着いた。
(地下一階は牢屋だったのか。ここにも監視がいるな。ナイルのやつはきっとあそこだろ)
ユウキが立ち止まり指し示したのは、地下の入口から見て対面の突き当たりにある、一番頑丈で大きな牢屋だった。
よくよく見ると、確かにそこだけ兵士、看守が二人いて何だか居心地悪そうに時折その牢屋の奥を見据えている。
(ふむ。あの騎士はナイルって言うのか。魔法使いやヒーラー風の人もいるのかな)
(あぁ、すぐ隣の牢屋にいるみたいだな。ってか、ナイルのやつは貴族の出らしいけど、職業としては盗賊だぞ。一応ダンジョンアタックにスカウトは必須だからな)
思えば初めて名前を聞いた気がするけど。
何だかんだいってパーティメンバーとして思うところがあったりするのだろうか。
(どうする? 『呪い』的なもの解いて、話をしてみるかい? ここは俺のダンジョンじゃないし、恐慌混乱状態も含めて『イロトラン(硬化不動)』を解くことは可能だろうけど)
(あぁ、そっか。あの時のナイルは魔王さまのダンジョンにやられておかしくなっていたのかもしれないのか。それならお願いしたいところだけど)
お人好しで真っ直ぐなユウキならば、そう言うだろうことは折込み済みで。
それならそれで準備が必要だと。
俺に任せろ、とばかりに頷いてみせると。
早速手始めに取り出したるは、単体用で副作用もない、『レッツェン(催眠封動)』のカード。
レア度はそこまでではないが、とにかく有用でモンスターのテイムや、バトルを楽しみたい時以外は、とにかく重宝するカードである。
その効果は分かりやすくも単純で強力。
魔法的な力を跳ね返すスキルや装備、魔法でも使っていない限り、ほぼ確実に眠らせることができるカードだ。
一枚につき効力を発揮できるのは一対象のみだけど、この世界に来て手始めに百回ほど『異世界への寂蒔』挑戦した時に持っていた、フロア全体に催眠ガス(目が覚めた時に元気になって一ターンに二回行動ができるようになる副作用つき)を撒き散らす、『プレッツェン(広範催眠)』の本と併用して使いどころを考えていくのがミソで。
俺は、特にユウキに対してそんな解説をしつつもカードを6枚、おもむろに投擲する。
奥に居る二人以外、まばらに散っていた看守たちは、さしたる抵抗もなく、取り立ててダメージもなく、それぞれの特徴をもって崩れ折れるように眠りについて。
「相変わらずの、理不尽さじゃの」
「あれ、受けたことあるけど、本当に気づけば眠ってしまうんだ。結構気持ちはいいけど」
「な、なにっ!? ジエンお前っ。ダメだぞそんな、眠らせてだなんてっ」
「何を勘違いしてんのか知らんが、フェアリは回復のエキスパートだけど、素の攻撃力も高いからな。混乱等の バッドステータスを受けてしまった時のために、被害を最小限にとどめてるだけだからな?」
「お、おぉぅ。わかってた。オレ、分かってるから!」
ちっとも分かっていない様子で、まだ準備ができていないというのに奥へ駆け出して行ってしまうユウキ。
慌てて追いかけると、ナイル君のいるだろう牢屋の手前で、うぅっとなって立ち止まる。
「なっ、ビミィとジック!? な、何してんだ、これっ」
だから言わんこっちゃないと。
ユウキの後ろまでやってきた所で、未だ『デ・イフラ(幻惑混乱)』の効力は切れていなかったらしく、亡者のごとき呻き声が聴こえてくるのが分かる。
それは、奥のどん詰まりにある牢屋、その両脇、ナイル君のいる部屋に……いや、ナイルくんに近づきたくて、近い方の牢屋の部屋と部屋を遮る壁に、潰れよとばかりに張り付いて唸り声を上げている、ヒーラー風の男と、魔法使い風の男のものだろう。
背中越しに、その異様さに対するユウキの恐怖心が伝わってきたので、俺はさっさと『レッツェン』のカードを亡者のごとき二人に投擲する。
「あっ」
「取り敢えず、正気に戻すには後回しで。壁にぶつかり続けてるのだけ、止めておこう」
「あ、そっか。ありがとう」
「いや。そもそも彼らがこうなってるのは俺のせいだからな」
効力が切れる前に、ダンジョンから弾き出される形となったからか。
効力切れがなかったりするのか。
改めて、未だに続いている『デ・イフラ』の力に、正しくも魔王と思われてもおかしくないそら恐ろしいものを覚えたけれど。
恐らく、『デ・イフラ』の効力を受けた当人が、その身代わりとなる力から解放されることによって、
ビシィとシックとやらが囚われているものも、解けることだろう。
ダンジョンで言うなら、を受けたものをモンスターたちがひたすら攻撃するようになる。
その対象が『デ・イフラ』のカードをナイルくんが受けた時にいた者のみだったのは、せめてもの救いであっただろうか。
もし、際限なく『デ・イフラ』の効力が広がっていたら、この街の人の多くがナイルくんに夢中になって大混乱に陥っていたはずで。
今後は無闇にやたらに使わないようにしよう、などと内心で思いつつ。
そのまま俺たちは、ナイルくんの元へと歩みよっていって……。
(第32話につづく)
次回は、3月11日更新予定です。




