第30話、ダンジョンマスター、ジョブチェンジしてアイテムマスター解説員になる
そんなこんなで、ひと悶着ありつつも。
能力、ギフトの複数同時行使していながらも『ルシドレオ(透過透明)』の効果が未だ切れていないことを確認しつつ。
そのまま目をつけていたそれほど高くない場所にあったバルコニーへと辿り着く。
当然のように鍵はかかっていたが、人の気配はなかったから。
すかさず今度は『アノロゥ(凡鍵開錠)』のカードを使用する。
下層の、通常では入れない場所にあるレアアイテムをゲットする。
これも、『異世界への寂蒔』においては目的のひとつではあるけれど。
そこまで辿り着けないことが多く、『アノロゥ』のカード自体使用頻度が少なくて倉庫の肥やしになってものであったが。
問題なく効果を発揮し、軽い音を立てて勝手に鍵が空き扉が開かれていく……。
「わかってたことだけど、何だか色々便利すぎないか、ジエンの能力って。ジョブ的に言えば魔王……じゃなくてアイテムマスターみたいな感じだっけ」
「うーん。ジョブ、職業か。使えるものは落ちてるものでもなんでも使う感じだしなぁ」
こう言うのなんて言えばいいんだろうな。ステータスの欄には魔王とダンジョンマスターがあるから結局その辺りなんだろうけど、ダンジョンアタックにもってこいすぎるからして、ユウキが言ってるのも悪ない気がするな。
どうやらこの世界じゃあ、勇者と魔王って職業と言うより召喚された場所によって変動する役割みたいだしな。
俺がアイテムマスターなら、ユウキが聖騎士、フェアリが聖女、チューさんがふところマスコットって感じだろうか。
……なんてことはあくまで俺の中での妄想であって、口には出さなかったけれど。
「アイテムマスター、素敵な響きだな。魔王って呼ばれるより断然いいかも。おぉ、そうだ。そんなマスターからの忠告だ。今使っている『ルシドレオ』のカードは攻撃を受けても解けることはないけど、看破系統の力を持つものには見破られる可能性はある。加えて、先程まで話題にも上がっていた制限時間は……ダンジョン内じゃないので正直よくわからんのだけど、基本的にダンジョンであるのならば、ワンフロアにいる限りはもつはずなんだけど、ここではそのルールも通じない可能性もある。
故に念の為に『ランシオン(幻影変化)』のカードも使って維持しておこう。もし、いきなり『ルシドレオ)』カードの効力が切れるようなことがあれば、攻略失敗とみなしてすぐに『セシード(内場脱出)』のカードで離脱するから、そこんとこよろしく」
「……まぁ、わしらはともかくとして、ユウキどのは顔も知られているだろうしの。仕方ないの、うん」
気をよくしてと言うか、ニノウデと頭……ではなく、首後ろから背中にかけて『ランシオン)』を再度かけ直したことにより感じる、むずむずする重みに対して気を紛らわせるつもりのものだったが、首筋から聴こえてくるチューさんのそんな近距離呟きに、より一層むずむず、ゾワゾワ感が増す始末。
思わずみんなをゆっくり下ろしてから、逃げ出したくなるのをなんとかこらえ、そのまま歩き出す。
「……ここは、使っていない客間か何かかな」
「誰もいないくてついている、ってわけじゃないのか」
「まぁな、ここはダンジョンではないけど、敵性を目視して、城型のダンジョンだと認識したらマップ表示が可能になるんだ。そうなれば、敵性、味方、そのどちらでもないもの、お宝、罠などの把握は容易だったんだが」
実際問題、敵性と鉢合わせても、そこにいると分かって看破の魔法の類を使わなれない限り見つからないだろうが。
念には念を入れて、『異世界への寂蒔』攻略の際はたまたま拾った……手に入れた時にしか使わない、強制的にマップを展開する『ルクブーロ(地図視化)』の本をこっそり使用する。
それによると、地上部分は三階建て、地下部分も三階層まであるらしい。
ダンジョンで言うならば一階層がそれなりに広く、いつくものフロアが整然と並ぶタイプのものだな。
フロアに侵入し、窓などを考えなければ行き止まり(宝部屋)の多い、逃げ場の少ないダンジョンと言える。
ダンジョンのことばかり考えている、ダンジョン大好き人間であると見せかけて。
仕方がないとはいえ、くっついて離れようとしない三人のことを自身で誤魔化しているにすぎなかったが。
その流れで思い出したのは、一度相対した敵性とそうでないもの、初遭遇なものとで区別がつけられる、ということだった。
「ふむ。と言うことはここに足を踏み入れた時点で、ユウキの元パーティメンバーの位置も分かってしまった、ということじゃな?」
「おぉ、そうだな。ええと……うん。どうやら彼らは地下一階の小さめのフロアに一人一人隔離されてるっぽいね。他の人が来ないうちにさっさと『呪い』解いちゃうか」
自分から言うのもあれだが、『イロトラン(硬化不動)』と『セシード(幻惑混乱)』のコンボは凶悪極まりないのは確かなわけで。
さっそくとばかりに向かうけれども、心の準備ができたかね、とばかりにうっすら輪郭が透けて見えるユウキを伺ってみる。
「正直トラウマっつーか、あんまり会いたくはないのは確かだけど、せっかくここまで来たしな。さっさとやることやっちゃおうか」
俺による、俺のための専用どエム仕様なダンジョンに足を踏み入れたことで、鍛えられていない俺以外のものはかなり精神を摩耗したことだろう。
ダンジョンの負荷に耐え切れず、ユウキを襲い追いかけるまでに至った経緯など知りたくもないが。
ユウキにしてみれば耐え難い苦痛であったに違いない。
しかし、そんな当のユウキは体力的に満身創痍でも、心が負けてしまっている様子はなかった。
そういった意味でも正しくユウキは俺(魔王)に相対するものとして、ダンジョンの挑戦する資格が十分にあったのだろう。
正直な言葉ほどには参った様子もなく、俺の手を引っ張るようにして客室の扉を慎重に開け放ち、誰もいないことを確認すると、目的の地下まで先導せんとばかりに歩き出す。
その際、不意に『ルシドレオ』の効力が切れてしまうかもしれない可能性に考慮しながら。
そんなユウキについていって……。
(第31話につづく)
次回は、3月8日更新予定です。




