魔導列車
レオン、ミスティアと待つこと十数分後、ローラが現れた。
「みんなおまたせ〜」
「ローラ、遅いですよ。出発時刻ギリギリです。遅れたら駅の人に迷惑かかっちゃうじゃないですか」
「ごめんごめん〜」
ローラは合流すると、持っていた手提げ(おそらく本が入っている)を軽く掲げ、僕だけに伝わるアイコンタクトでウインクする。
その仕草に、僕は不本意にもときめいてしまった。
ま、まずい。
油断していると、本当に彼女のことが好きになってしまいそうだ。
インセルモードインセルモード……。
ときめいているところ間も無く、近くで見計らっていたのだろうか、駅員のような男(帝国騎士と似たような赤の軍服っぽい格好)から声がかかる。
「お待ちしておりました、先進魔術学科御一行様。そろそろ魔導列車出発予定の時刻になりますので、どうぞこちらに」
丁寧な感じで案内される。
前回から思っていたが、クエスト中僕たちはかなり丁重に扱われている気がする。
偉い貴族みたいな扱いだ。
僕はそれに若干居心地の悪さを感じるが、他のメンバーはさも当然と言った感じである。
駅員について行き、改札(相当)の階層から階段を降りると、おそらく駅ホームに相当するだろう場所に着く。
そこには魔導列車が待機していた。
魔導列車は元世界の電車と比べると遥かに大きく、幅は1.5倍くらい有りそうだった。塗装などはされておらず灰と銀の中間の色で、青白く光る管が全体にまとわりついている。
列車は、荷物を積んでいる場所・人入りが多い人の乗る場所・そして人入りの少ない、おそらくグリーン車に相当されている場所と明確に区分けされていた。
僕たちは列車先頭の、グリーン車相当の方に案内される。
列車の中に入り、4人掛けボックスシート前に辿り着いた所で、ミスティアがはっと思い出したように声を上げる。
「あ! 申し訳ないですが、私はここの席です。異論は認めません」
割り込むようにしてミスティアは窓際、列車の進行する向きの席を確保する。
「お前、毎度のことながら本当に神経質だな」
「神経質じゃありません。繊細と言ってください」
ミスティアはふんっと言った感じでレオンに反論する。
乗り物酔いに弱そうだったから、景色を見て紛らわせたいのだろう。
「じゃあ俺も窓際もらいっ」とレオンはミスティアの対面に座ったので、自然と僕はレオンの隣、ローラはミスティアの隣に座った。
席の乗り心地は結構良い。
車内を見渡すと、普通よりも上品な格好をした客がポツポツと乗車しているのが見えるのでやはりここはこの世界のグリーン車相当なのだろう。
着席後すぐに、魔導列車は動き出す。
振動は思ったよりは無く、駆動音もあまりしない。
列車が走り少しして、ふと、ミスティアの足元脇にある、小袋が目に留まる。
そういえば彼女は酔い止めを買っていた。飲まなくていいのだろうか。
「ミスティアさん、さっき買った酔い止めは飲まなくて良いのかい?」
「あ! そうです。早く飲まないと」
普通に忘れていたみたいだ。
なんだかこの子、少し抜けている気がする。
ミスティアは小袋から、液体が入った小瓶を取り出す。
そしてふたを開け一口で飲んだ。
「んっぷはぁ。うう、ちょっと苦いです」
若干涙目になっている。
一つ一つの仕草が小動物的で、なんだか癒されてしまう。
見た目的にはアイラよりも幼く見えるし、彼女は何歳くらいなのだろうか。
「……クリス、私の方をじっと見てどうしたんですか? 顔に何かついてますか?」
「え!? い、いや何も無いよ。顔にも何もついてない」
「そうですか?」
きょとんと不思議そうに僕を見る。
やってしまった。こう近い距離で、あまり人のことをじろじろと見るのは良く無いな。
授業中、クラスメイトの人となりを一刻も早く把握するため、人間観察を沢山していたのだが、その癖が出てしまった。
そもそも『僕』は壊滅的に対人経験が乏しい。
視線を含めた人との距離感、間など、一つ一つ学んでいかなくては。
「クリス君クリス君!」
ローラは手提げの中から本を取り出すと、にこにことした表情で僕に差し出してきた。
昨日話した恋愛小説である。
「あ、ありがとう」
「読み終わったら、感想聞かせてね!」
恋愛小説か……今まで全く読んだことが無い……未知の領域だ。
そもそも小説を読むのなんていつぶりだろう。元の世界では小説なんて一切見なかった。映画、アニメ、ゲーム、漫画とある中で、敢えて小説を読む気が僕には起きなかった。
もっとも、この異世界にはアニメやゲームなんて無さそうだ。物語エンタメを楽しむには小説で妥協するしかないのかもしれない。
僕はローラから本を受け取る。
すると、ミスティアはそれを見て少し驚いたような顔をした。
「……? ミスティアさん、どうかしたのかい?」
「……いえ別に。よく列車で本なんか読めるなぁと思っただけですよ」
彼女はそう言って窓の方に顔を向けた。
♦︎
列車に乗っておよそ5時間。
辺りはすっかり暗くなり、窓際の2人はすやすやと寝ていた。
乗車中僕とローラはずっと各々小説を読み耽っていて、僕は今ちょうど『ウソキミ(噓つきの君)』の第一巻を読み終えた。
本をパタンと閉じ、膝の上に置く。
「……あ! クリス君読み終わった? どうだった!?」
正直微妙だった……。
陰キャラの僕に恋愛小説はハードルが高く、全く主人公に感情移入出来なかった。
しかし馬鹿正直に感想を言ってしまうと、彼女の心象も良くないだろう。適当に濁すか。
「いやあ、すごい面白かったよ! 主人公が文化祭の準備中本音を明かして、それが相手に受け入れられるシーンとか、すごく感動した。 登場人物の振る舞いとか考え方とか、すごいリアリティがあるし、完成度高かったなぁ」
なんとなくの模範解答的感想を言った。
一応僕はこの小説を読んで無いわけでなく、しっかりとすべて読み込んだ。
だからこの小説のやりたいことだったり、受けポイント的部分は外していないと思う。
「クリス君……ホントにそれ思ってる~? 適当言ってな~い?」
……ギクリ。
やはり彼女は鋭いというか、人間をかなり見ている感じがする。
――間も無くエリム駅に到着いたします――
ちょうどいいタイミングで列車内でアナウンスが鳴る。
今回の目的地は『エリム湾近郊』。つまりこの駅が下車駅だ。
「も、もうすぐ到着みたいだ。二人を起こそうか」
「ん~そだね~」
ローラは僕に何か言いたげな表情だったが、僕がそう言うと切り替えて、ミスティアを起こし始める。
僕もレオンをゆすって起こした。
しばらくして列車が停止し、僕たちは魔導列車を降りる。




