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お茶会

 青銅鎧の魔物が倒されたのをトリガーに、広間の奥に今まで見えなかった扉が出現した。扉の先にはおそらく下へ続く階段がある。第6層に無事行けそうだ。


「『弾丸回収魔術(バレット・リコール)』」


 レオンが詠唱すると魔物の体を貫通し地面、壁に埋まっていた弾丸が魔術によりレオンのもとへ戻っていく。

 弾丸はへこんだり、傷ついたりした様子は一切ない。

 おそらくこの世界の特別で丈夫な金属でできているのだろう。


 それにしても結構貧乏性な魔術だな。

 昨日からの振る舞いからレオンはなかなかに大雑把な人間だと思っていたが、ダンジョンに入ってからの動きは違う。

 先ほどの戦闘でも、攻撃を放ったのは4人の中で最後だ。

 ギリギリまで魔物の性質を見極め、攻撃を行った。

 もっとも、先に攻撃していればもっと早く済んだかもしれないが。


 そして、この魔術の戦闘スタイルであれば主要な魔物の弱点は把握しているんだろう。

 柄に合わず、魔術、戦闘のスタイルはまめで丁寧だ。


 対して、ミスティア、ローラは結構適当だ。

 ミスティアに至っては戦闘が始まりいきなり氷大魔術をぶっ放した。

 今になって思い返せば、彼女が生成する氷の足場もかなり大雑把だった。

 自分のことを繊細と言っている割には豪快な振る舞いである。

 いや、魔術と日常生活とで必ずしも人の性質が一致する訳ではないのかもしれないが。


「それにしても、相当面倒くさい魔物でしたね。レオンがいなければ、そのあたりの瓦礫に魔術を付与して、全員で瓦礫を持って殴りに掛かるしかなかったです」


 ……やはり魔術・戦闘に関してミスティアは発想が乱暴だ。相当シュールな絵面である。

 とはいえ、レオンがいなければそうするしか無かったのか……?

身体強化魔術(フィジカル・ブースト)』と併用すれば実際可能そうではある。血みどろの戦いになりそうだが。


「いやまあ、タネさえ分かれば大した魔物じゃあ無かったな」


 3人は特に勝利の感傷に浸る間もなく、先に進み始める。


 ……なんだろう、結構な死闘を繰り広げたと感じたのは僕だけなのだろうか。


 思えば3人とも、戦闘中焦るそぶりみたいなものは感じられなかった。

 あの魔物がどんな特性だろうが、どんな能力を持っていようが最後に勝つのは自分たちだと。

 そんな余裕が感じられた。


 先の戦闘で僕は自分でも驚くくらい戦えていて(クリスの体に染みついているのだろうか)、攻略の道筋みたいなのは引けたとは思う。

 しかし、彼彼女らは僕がいなかったとしても攻略法にたどり着き、難なく魔物を倒すような気がする。


 ♦


 6階層以降魔物が1、2階層よりも段違いで強くなった。3、4階層を飛ばしたことによるギャップもあるのだろうか。

 再召喚されたフェンリルだけでは苦戦するようになり、僕たちも戦闘に参加することになった。


 フェンリルはローラのサポートを受けながら前衛で戦闘を行いヘイトを買う。

 小粒な魔物に対してはレオンが弱点属性の弾丸一撃で仕留める。

 大柄な魔物に対してはミスティアの氷柱魔術で体に大穴を開ける。

 僕は魔防壁により魔物の攻撃を防ぐ。


 そんな役割分担で7階層の終わりまでたどり着いた。


「み、みんな、そろそろ休憩にしないかい?」


 そのタイミングで僕は休憩を切り出した。

 魔力的、肉体的には疲弊していないが精神的にかなりきている。

 現実世界でぬるい生活をしていた僕にとって、「魔物と戦う」こと自体が初めての経験で精神をかなり消耗するのだ。


「そうですね。小腹もすいてきましたし、おやつタイムにしますか」


 と言ってミスティアは魔術により氷の豪華なソファと豪華なテーブルを生成する。

 テーブルの上には氷のグラスも生成し、水魔術により水が注がれる。

 休憩を提案し施しを受けた身としておこがましいが、もうちょっと魔力を節約するべきじゃないか、と思うくらい立派な出来栄えだ。


 そして僕以外は慣れたように、お決まりといった感じでソファに座る。

 僕もそれに倣い座る。ソファは冷たいが高硬度で、溶けて濡れる心配はなさそうだ。


 各々、帝国騎士からテントでもらった携帯食を取り出し、口にする。


 見た目としてはパンとクッキーの中間に近い。

 僕も一口口にする……カロリーメイトの味だ。


 食べながら、ミスティアがそれとなく話題を切り出す。


「そういえば、クリス。今日のクリスの戦闘についてですが--」


 ……まずい、僕の戦闘についての指摘だ。さすがにいつもの戦いぶりと違いすぎるのか。ボロを出さないよう、最小限に立ち回っていたのが仇になったか。


「ちょっと、飛ばしすぎじゃないですか?」


「え……?」


「そうだぜ。いくらお前の魔力量が多いといってもよ、お前の役割はバックアップなんだ。極力魔力は温存すべきだぜ」


 逆だった。僕は頑張りすぎていたらしい。


「う~ん、確かに。クリス君、いつもよりボク達に相当気を遣ってるよね」


「そ、そうかなぁ。そんなことないと思うけど」


 中ボスについては、ミスティア・ローラの攻撃が初め通用しなかったこともありそれなりに危機感を持って頑張っていた。

 だが、道中に関しては気は張っていたものの魔防壁を適当に張っていただけだ。

 これでトータルで見て、飛ばしてる扱いなのか……?


 ……バックアップとは言うが、クリスは弱いからバックアップなのか強いからバックアップなのか。

 普通に考えれば、もし強いのであれば出し惜しみせず使っていくべきだ。

 だが、この『Sクラス』の目線ではどうか。

 弱者の目線では目の前の課題に多くのリソースを使ってしまう。

 しかし強者の目線では、既知の目の前の課題ではリソースを抑え、未知に警戒し多くのリソースを蓄えておくのが世の常だ。


「ダンジョンの雑魚はともかく、ボス級はダンジョン固有の未知の魔物なんだ。さっきの魔物じゃないが、俺たち3人じゃ通用しない場合だって万が一にはある。そうなったら、お前だけが頼りなんだぞ。クリス」


 やはり、クリスは「強い」側に評価されている。


 そしてレオンはダンジョンのボスについては最大限警戒している。

 にもかかわらず中ボス戦ではレオンも、他二人もあの状況で焦っている様子はなかった。


 ……もしかしてだが、クリスの存在がそうさせているのか?

 自分たちがやられたとしても、クリスがいればどうにでもなると、そう考えているのか。


「う、うん、そうだね。ちょっと今からはセーブするよ」


 驚愕の真実に気づき僕は動揺する。

 心を落ち着かせるため、ガタガタ震える手で氷製のグラスを持ち、水を飲む。


 ……うん、キンキンに冷たくてとてもおいしい。


「クリス……?どうしました?手が震えていますが」


「えっ!? いやなんでもないよ。ちょっと冷たくて、寒くなっただけさ」


 グラスを置き、氷のソファから立ち上がり、寒がりアピールをする。


 ミスティアは自分の魔術でそうさせたと勘違いし、何とも言えない表情になっている。少し悪いことをした。


「ちょっと体温めるために、先行って待ってるよ」


 そういって僕は荷物を担ぎ、第8階層へと続く階段へ向かう。

 動揺がばれないよう少しでも距離がとりたい。


「待ってクリス君! いくらクリス君でも一人行動は危ないよ!」


 そんな思惑とは裏腹にローラが心配し声をかけ引き留める。


「大丈夫大丈夫! そんなに先には進まないから--」


 そう言って足を踏み込んだ瞬間、その足のほうに体が引きづりこまれる。

 地面と思って踏み込んだ先は空となっていて、僕は落下してく。

 次第に後ろから聞こえるローラの声が小さくなっていく。


「あ」


 どうやら落とし穴に落ちたようだ。


 

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