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中ボス

 ミスティアの得意魔術は氷(水)魔術のようだ。

 氷を生成して、空中を越える、罠を塞ぐ(越す)などしてダンジョン制作者が意図しない楽なルートを作ることが出来る。もっとも、魔力には限りがあるため、無限にズルすることは出来ないだろうが。


 ミスティアも、ダンジョン攻略に適した魔術師と言えるだろう。



 生成された氷の橋を僕たちは渡る。足元が冷たく、滑りやすいが、崩れる気配はない。ミスティアの氷は非常に強固で、僕たちの体重をしっかりと支えている。


「にしても、おっかねえ落とし穴だな。崩落の中心部にいたらお陀仏だったな」


「普通だったら、そうですね。でもこのパーティにはクリスがいますから。いざとなったら何とでもしてくれますよ」


 確かに、クリスの魔術のラインナップであれば何とでもなりそうだが、今は魔術を使い慣れていない「僕」が使い手だ。過剰な期待をしないでほしい。ダンジョンに入ってからこの体の頭の回転の速さで、なんとか付いて行ってはいるが(何もしていないが)、正直かなりテンパっている。


「僕も、いざとなったらみんなを頼りにしてるからね」


 頼む、地図生成だけで僕の役割は終わってくれ。


「そういえばローラ、フェンリルは下で死んじまったのか?」


「いや、そんな簡単には死なないよ〜。離れてたらあんまり意味ないから『魔導生命体還元(サモン・リバース)』で魔力を回収しようと思ってるけど……。ぬ?」


 ローラは何かを察知したのか、怪訝な顔になり立ち止まる。


「……う〜ん。今、途絶えちゃった。これもしかしたら下に、()()()()。クリス君、『地図生成(マップ・リアージュ)』でこの下、確認してくれないかな?」


「……分かった」


 奈落に向け、『地図生成(マップ・リアージュ)』を使う。

 入り口と同様、杖が奈落の底を照らし、構造が杖上に投影される。


 そして、ローラが察していたことが分かった。


「うん。これあれだね、下は中ボスフロアだ」


 ♦︎


 僕たちは壁に氷の足場を螺旋状に生成しながら、奈落を下っていく。2階層から5階層への、とんでもないショートカットだ。


 しかし、結構なミスティアのハードワークになりそうだ。


「ミスティアさん、魔力は後どれくらい持ちそうかい?」


「まあまあですね。これを下りきると6割って所です」


 結構あるな。これだけの物量氷生成をしたら、相当魔力を持って行かれそうなものだけど(僕は魔術初心者なので基準はよく分からないが)。

 さすがは『Sクラス』と言った所なのだろうか。


「場合によっては最終ボス、お任せになってしまうかもしれませんね。賑やかし位はできる魔力は残しておきますが」


 賑やかしって……。

 その役割は僕がやりたい。


 ミスティアが戦線離脱し、僕の役割が多くなる事は避けたい。

 5階層以降はなるべく、『氷結晶場生成魔術フリーズ・ステージ)』を使わないよう誘導するか……。


「それよりまずは中ボスだろ。フェンリルがやられるって事は、そこそこやりそうだぜ」


 道中、フェンリルは魔物を圧倒していた。

 そしてフェンリルは『Sクラス』であるレオンから一定の評価を得ている。少なくともディザスタードラゴンより、はるかに格上の存在なのだろう。そのフェンリルが敵わない中ボス。今までのように余裕綽々では行かないかもしれない。


 ……大丈夫だ。魔防壁と治癒魔術の詠唱だけは一昨日、何度も練習した。死にはしないはずだ。




 螺旋状の氷の足場を下っていき、しばらくすると下の方に、如何にもボス部屋っぽい広間が見えてくる。


 中心部には青銅の鎧を身に纏った巨大な人型の魔物が腰を下ろしていた。

 遠目にもその威圧感ははっきりと伝わり、体長はおそらく3メートルを超えるだろう。また、黒く荒んだ大きな大剣を携えている。


 僕たちが中ボスフロアに降り立つと、青銅鎧の魔物は立ち上がり大剣を構えた。

 即戦闘開始なようだ。


「一先ず、私から行きますね」


 先行してミスティアは杖を掲げ詠唱する。


「『氷柱発射魔術(アイシクル・ジャベル)』」


 彼女の魔法陣から今までよりも高濃度な氷晶が生成され、巨大な氷柱を形成していく。そして青銅鎧の魔物に向かって凄まじい速さで発射された。


 青銅鎧の魔物はそれを避けることなく、構えていた大剣で防ぐ。氷柱が大剣に接触した瞬間、そこに一瞬の青い光が発生する。その光に目を奪われた次の瞬間、氷柱は反転し、こちらに向かって飛んできた。


 考えるよりも先に、いや、この体自体に染み付いていたのだろうか、反射的に僕は詠唱する。


「『防壁生成魔術(レイヤー・ウォール)』」


 瞬時に僕の目の前に魔防壁が生成され、氷柱と衝突。壁は破れることなく氷柱を防いだ。


「なるほど、魔法反射ですか。少し迂闊だったかもしれません。すみません」


 あまり焦った様子もなく、ミスティアは特に心の籠もっていない謝罪をする。


「有りがちだけど厄介なんだよね〜。取り敢えず、物理主体の子を召喚するね。『魔導生命体巨人召喚(サモン・ギガンテス)』!」


 ローラの詠唱により、魔法陣から青銅鎧の魔物と同じくらいの大きさ、筋骨隆々青肌の巨人が召喚される。圧倒的存在感。青銅鎧の魔物に負けず劣らずの威圧感を放っている。


「いっけ〜ギガ君!」


 ローラの掛け声で、巨人は青銅鎧の魔物に突進する。

 そして大きく振りかぶり青銅鎧の魔物に殴りかかるが、大剣で防がれる。

 拳が大剣に接触した瞬間、赤い光が発生し、巨人は逆に自分が殴られたかのように吹っ飛ばされた。


「え〜〜!物理攻撃も反射されるなんて初めてみたよ〜」


 物理攻撃も魔法攻撃も反射される。

 となると、あの大剣を掻い潜って攻撃を当てるしか無いか。


 例えば2方向から一斉に魔法を発射すれば、一方は反射されたとしても、もう一方は直撃させられるんじゃないか。


 思考する暇もなく、青銅の鎧を纏った魔物が僕たちに斬りかかってくる。

 それに対し今回は防壁を使わず、僕たちはそれぞれ別の方向へと散開して避けた。

 標的を失った大剣は深く地面割いている。攻撃力も丸……と。

 

 避けた先の立ち位置がちょうど、僕とミスティアが青銅鎧の魔物を挟む形となった。


「ミスティアさん!さっきと同じように氷柱で攻撃してくれないかい?僕もこっちから攻撃するから!」


 大声で呼びかけると、ある程度考えは同じだったのか、意図を察しミスティアはすぐに詠唱を始める。

 同時に僕も『火球発射魔術(コロナ・ジャベル)』を詠唱し、氷柱と火球が双方向から青銅鎧の魔物へ放たれる。


 火球は先ほど同様大剣に接触し、反射。

 氷柱は思惑通り、大剣で防がれることなく鎧本体に接触した。だがしかし、そこでも青い光の発生とともに氷柱は反射された。


 反射を想定していた事もあり、僕とミスティアはある程度余裕を持って反射した魔術を避けられた。


 大剣はブラフかよ。

 この魔物、全身どこに接触しても反射を行えるようだ。


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