冒険者ギルド
レオンが注文ししばらくして、500mlくらいのジョッキ4つがテーブルに運ばれる。
ビール3、ジンジャエール1のジョッキを打ち鳴らし(乾杯した)、各々口にする。
うん、異世界のビールも悪くない。
少なくとも発泡酒よりは断然美味しい。
ただ、少し苦みが強いか。
ミスティアの方に目を向けると若干涙目で苦そうにしていた。
「それにしてもよぉ、クリス。お前がこんな飲みを誘うなんて、どういう心境の変化だ?てっきりお前は人と距離を取るタイプだと思っていたぜ」
「そうだったのかい?」
「ああ。そりゃあ露骨にゃあ出さないが、一定の壁があるってのかな。お前は上手くやってたつもりだろうが、結構そういうのわかるもんだぜ。俺ぁ少し悲しかったよ」
「うん。ボクもクリス君は人間に興味がないと思ってたよ〜」
何となく察していたが、クリス君は陰キャラ寄りだったのか。僕も現実世界では陰キャラだったが、今は人と関わることが楽しくてしょうがない。現実世界ではまともな人間関係なんて出来そうになかったからな。
「いや、そう見えてたのは若干照れ臭かっただけさ。最近は勇気を持って、なるべく人と関わろうとしてるんだ」
「なるほどな。お前も色々考えてるんだなぁ。まあ、人は変われるってことか」
レオンがしみじみと納得する。
まあ、人が変わったからね。
「お待たせしました〜。クラーゴンの串焼き4本と星屑貝のカルパッチョ、クリスタルフィッシュのお造りになりまーす」
店員(美人茶髪ポニテ巨乳)が料理をテーブルに並べる。見た目はイカの串焼きと貝のカルパッチョと鯛の刺身だ。
「私はねぇ、前のクリスのスタイルも、あんまり嫌いじゃあなかったですよ。ビジネスパーソンみたいな付き合い方も、それはそれで……まぁ、一つのあり方っていうか……ありなんじゃあないんですかぁ?」
ミスティアは酔っ払った様子でカルパッチョを口にする。目がとろけている。彼女のジョッキは1/10(50ml)位しか減ってないが既に効いているようだ。
「ミスティは逆に、壁張ってる風に見えて、実は人恋しくて構ってちゃんなタイプだよね〜」
「そうですねぇ……。ぅん?いや別にそんなこと、ないですよ?私、ほんとに、構ってほしいとか、全然……ひっく……」
「ギャハハ!ミスティアおめぇべろべろじゃねぇか!」
レオンが爆笑している。さっきミスティアを気遣っていた彼はどこに行ったのだろう。
「全然、べろべろじゃ、ないです。んぁクリス、すみません、そこの醤油とってくだしゃい」
「ああ、うん。どうぞ」
「ありがます」
ミスティアは受け取った醤油を醤油皿に足し、鯛の刺身を一口。その後ビールを口にした。
「ぷはぁ〜。ここのおしゃかなはおいしぃでしゅねぇ〜」
……少量のビールでここまで良い酔いっぷりを見せつけられると逆に羨ましくなる。彼女は逆にお酒に向いてるんじゃなかろうか。別に止めなくてよかったな。
「ミスティアのお眼鏡に適って良かったぜ!追加頼むか。すみませーん!」
レオンは先ほどの店員を呼びかける……が来ない。
見渡すと何やら他テーブルの客と揉めている。何かトラブルだろうか。
「いいじゃねえか姉ちゃん。ちょっと俺らと遊ぼうや」
「や、やめてください!離して!」
柄の悪い男が、先ほどの店員の腕を掴んでいる。男は筋肉質で見るからに強そうな風貌だ。腕にはタトゥーを彫っていていかにもな感じである。そしてかなり酔っ払っている。
「日頃、俺らはこのギルドに多大に貢献してるんだ。ちょっと位のサービスは当然だろうが!」
同席の取り巻きもその男を囃し立てている。
「な、なんだあれ」
この異世界にきて、初めて悪人を見た気がする。いや、令和の現実世界でもあんな感じな悪人は絶滅危惧種だが。(もっと陰険で陰湿)
男たちのテーブルの周囲はかなり嫌な雰囲気になっている。怖がり、関わり合いになりたくない様子だ。
「……ちょっと行ってくるわ」
レオンは立ち上がり、揉め事の席へ向かう。
「おいおっさん。そこら辺にしとけよ。一旦、外出て頭冷やそうぜ」
「あ?……なんだぁてめえは」
男は掴んでいた店員の手を離し、レオンに向き直る。
「おめぇ、その格好……良いとこの学生か?はっ。気にいらねぇな。ガキが俺に楯突くんじゃねぇ。この俺を誰だと思ってる」
「知らねぇよ。ただの酔っ払いだろ?」
それを聞くと男は待ってましたとばかりに得意げに話し始める。
「聞いて驚け。俺は『Sランク』冒険者だ。日頃からA級以上の魔物を討伐して、この町を守っている。Bランクダンジョンだって攻略したことがある」
男は相当な手練のようだ。この店は兼ギルドらしいし、彼はギルド常連の上級冒険者と言ったところか。
「だからこれくらいの接待はうけて当然なんだ。今なら見逃してやるから、とっとと失せろ」
「く……くくく……くっ……くはっ……ギャハハハ!」
それを聞きレオンは最初は抑えていたようだが堪えきれず、吹き出し爆笑する。
「てめぇ、何笑ってんだごらぁ!」
「あぁ〜。いや済まねえ。冒険者ごときが序列でイキってんと見ると滑稽……じゃねぇ。感心しちまって。いやほんと怒らせるつもりじゃあ−−」
男は激昂し、腕を大きく振りかぶってレオンに殴りかかる。レオンはギリギリでそれを躱すと、男の体勢が崩れる。
「っと危ねぇ危ねぇ。『身体強化魔法』」
レオンは呪文を唱える。
あれは確か身体強化の魔術だ。クリスも同じ術式を持っていた。
体勢を立て直した男は再びレオンに襲いかかるが、今度は魔術により身体能力が強化されたレオンが男の溝打ちにブロー、こめかみにフック、顎付近にストレートを凄まじい速さで打ち込む。
「がはっ……」
男は気絶し、その場に倒れ込む。
「う、嘘だろ……。バルガスさんがこんなガキに……」
取り巻きの一人が驚愕する。
また、件の男はバルガスという名前らしい。
「お前らもやるか?」
「い……いや、やめておく」
取り巻き達はバルガスを抱え、店内から急いで出ていった。
店内は一瞬の沈黙の後、拍手と歓声で包まれた。
「すげえぜ、坊主!あのバルガスを一撃でのしちまうなんて!」
「あいつらいつも偉そうにしてたからな。すげえスカッとしたぜ、よくやった!」
レオンは周囲にいた客達に囲まれる。
助けてもらった店員も恋に落ちた瞳で彼を見つめている。
「すごいやレオン君。かっこいいなぁ」
「ダメだな〜。レオン君。一般人に魔術を使うなんて」
ローラが僕と対照的な意見を言う。
校則なのだろうか、どうやら魔術を一般人に振るうのはNGらしい。
そしてSランク冒険者もこのクラスの基準では一般人なのだろう。
「クリスぅ〜。ご飯が無くなりました〜。注文お願いします〜」
ミスティアは皿にあった最後のイカの串焼きを食べ終え、僕に催促する。
どうやら一連のくだりを見てすらいなかったようだ。
♦︎
レオンはあの後観衆に連れて行かれ、戻ってこなかった。
そしてミスティアは一頻りのご飯を食べ、ビール一杯を飲み終わった後、気持ちよさそうに机に突っ伏して寝た。
残された僕とローラは食事をしながら小説の話で盛り上がり、その後会計を済ませ店を出た。
「はぁ……はぁ……。き……きつい……」
僕はミスティアを抱え、宿までの坂道を登る。小柄とは言え、人一人抱えながら坂道を登るのはきつい。
「あれ〜?クリス君、『身体強化魔術』は使わないの?」
「いやあ、宿に杖を置きっぱなしにしてて……」
「えぇっ!?流石にそれは不用心すぎるよ……」
ローラはガチのドン引いた目でこちらを見る。
確かに、杖を置いていったのは我ながら不用心だったかもしれない。他のメンバーがいれば何かが起こっても大丈夫だろうと考え油断していた。今回持ってきた杖は重いしね。
「まぁ。魔術に頼りっきりは良くないからね。いざという時、杖が無くても大丈夫なようにあえてだよ。これは筋トレにもなるしね」
「なるほど〜。杖なしの状況はあんまり考えてなかったよ。クリス君はさすがだね!」
「そうだろう」
ローラのドン引きしていた表情が感心した表情へ変わる。クリスの頭の回転と僕の前世で磨いた言い訳スキルがあれば大抵の非常識は誤魔化せる。
「まあクリス君だったら魔術なしでも、魔力の放出だけで大抵何とかなりそうだもんね〜」
……魔力の放出?
魔術以外に魔法を使う術があるのだろうか。
今度試してみよう。
しばらく歩くと、体感時間は行きよりもかかったが、宿に到着する。
男女に分かれ別部屋を取ったため、ミスティアを女子部屋のベッドに寝かしつけた後、ローラと別れる。
「ローラさん、また明日」
そう言うとローラは笑顔で答える。
「クリス君、また明日〜。今日はいっぱい話せて楽しかったよ!」




