第十一話
「お取り込み中悪いけど」
ちっとも悪びれた素振りもないその声は、するりとナイトと志貴の間に割って入った。
彼は志貴に向き直ると、微笑んだ。
「初めまして、御子姫様」
そう言って優雅に一礼する彼を、まじまじと見つめた。
柔らかそうな金の髪が、ふわりと揺れる。海色の瞳と同じ色をした白が基調のローブに身を包む彼は、昔見たお伽話の魔法使いによく似ていた。
「御子姫・・・?何ですか、それは」
聞き慣れない言葉に、首を傾げる。
「特に意味はありません。あなたの前任の者がそう呼ばれていましたので、つい。その内、お伝えしましょう。・・・少し、昔話を聞いて頂けますか?」
前振りが長くなりますが、すみません。彼はそう前置きをすると、ゆっくり話し始めた。
かつて、その国が『神に見捨てられた地』と呼ばれていた頃---。
ある所に、それはそれは非道な王様がいました。
彼は、自分の思い通りにならなければ済まさないような人でした。
臣下の意見を受け入れようとせず、逆らう者ががいれば一人残らず処刑しました。今では家臣達は皆、彼を恐れ、目も合わせようとしません。
争い事を好む彼は、気に入らないことがあれば隣国に戦を仕掛けいつも国には鉄と血の雨が降りました。
おまけに、北に位置するその国は雪と嵐が吹き荒れます。雲に隠れ太陽の光も届かず、秋になっても作物もろくに育ちませんでした。飢えと寒さに苦しむ民の嘆きは、彼には届きません。
悪行の限りを尽くす王の為に、元は豊かだったその国はみるみる内に疲弊していきました。
そんなある日、一人の青年が王のもとに訪れました。
異国の衣装に身を包み、四人の家来を引き連れた彼は家臣達の心配をよそに一人で王に会いに行きました。
そして、彼らのもとに戻ってきた彼はとんでもないことを言いました。
「今日から私が王になる」、と。
彼と王との間にどんな盟約が交わされたかは分かりません。前王はどこか遠い場所で静かに暮らす、と告げた彼の言葉を家臣達は信じきれない気持ちでいっぱいでした。
ただ、彼の身につけた王家の指輪が、その事実を伝えていました。
その後の、彼と四人の家来達の働きぶりは目を見張るものがありました。
家来の一人、「ナイト」は王の剣となり国を脅かす敵と戦いました。
「ルーク」は国を守る要塞となり、王と民を守りました。
「クイーン」は預言者として王を助け、国を未来へ導きました。
「ビジョップ」は暖かな光で、傷ついた人々を癒しました。
そして、王となった彼は自ら国中を周り、苦しむ人々に手を差し伸べ、蝕まれたその国を少しずつ変えていきました。
常に正しい方向へ国を導いた王のおかげで、国は次第に豊かさを取り戻しました。
ただ一滴の血を流すことなく王となり、国に美しさを取り戻した彼を人々はこう呼びます。
---「東の賢者」、と。