第十二話
『---北の王よ。貴殿の望み、叶えましょう』
『それは誠か?しかし、そのようなことは可能なのだろうか』
『ご安心を。必ずや果たしてみせましょう。万が一嘘をつくようなことになれば、この首を差し出してもいい』
『・・・分かった。では、東の賢者とやら。主は何が所望だ。言ってみろ。どんなものでも用意してやろう』
『では、望みが叶えられた暁には、私をこの国の王に』
『ふはははは!面白い奴だ。この国の王座を欲すか。・・・いいだろう、これを受け取れ。あれは最早、私には不要だ。好きにするがいい』
王が去った後、賢者が連れてきたのは一人の少女だった。
ただ一言、かの王との盟約だと告げると賢者は彼女を南方にある塔に住まわせた。
少女は不思議な力を持っていた。
それによって、彼女はたくさんの奇跡をもたらした。それがどのようなものであったかは、語るまでもあるまい。
奇跡は受け継がれた。
国に諍いごとが起こるたび、少女は姿を現した。そして、事が終われば彼女は不思議と何処かへ姿を消す。
後の人々は、彼女を「御子」と呼んだ。
* * * *
「・・・ほんとに私ですか?」
一縷の望みをかけた言葉は、一同の頷きによって儚く散った。
突拍子もない話だ。
彼の話を要約すると、どうやら私はこの世界の重要人物で何だかよく分からないが凄い力を持っているらしい。
自分はただの高校生で、凄い力どころか平均的な能力もあるかどうか。
ふと、視線を奥の方に反らせば、先ほどの銀髪の彼女が手を振っているのが見えた。その瞳に少なからず込められているものに気がつくと、再び彼女から視線を外し目を伏せた。
期待されるのは、苦手だ。自分にはそれ応えられるだけの力がないことを知っているから。例え、上手く結果を出せても後に残るのは形容し難い虚しさ。
目のやり場に困った。
苦し紛れに窓の方へ目を向けると、黒い神の青年が壁に体を預け腕を組んで窓の外を眺めているのが見えた。
こちらを向いた拍子に、闇色の瞳と一瞬、視線が交わるがそれはすぐに逸らされ再び窓の外に向けられる。
一瞬だけ見えた。早すぎてしっかり見ることはできなかったけれども。
その瞳に映っていたのは、期待はもちろん、落胆とも侮蔑とも違うもの。言うなれば、波一つ立たない水面のような。静かな、でも冷たいのとはまた違う。焦らなくていい、と言われている気がして少しだけ身体が楽になるのを感じた。
「すみません。私、ただの高校生なので---」
自分の世界のこと。生活のこと。思いつくままに素直に話した。まだ混乱している頭は、言いたい事をなかなか言葉にしてくれない。時々、途切れたり詰まったりした言葉はお世辞にも綺麗とは言い難かった。それでも、彼らは静かに聴いてくれた。
「だから、私には」
無理だ。と、言おうとした矢先、ぽんと頭の上に手が置かれる。言葉を遮って見上げると闇色の双眸がこちらを見下ろしていた。
「好きにすればいい」
手が、ゆっくりと離れる。彼はくるりと踵を返すと、彼女に背を向け歩き出した。
入り口の前まで来て、彼は急に足を止めた。
「・・・・だがな。務まるのもおまえだけだ。代わりは、どこにもいない。覚えておけ」
背を向けたままそう言い残すと、彼は扉の向こうに消える。
「・・・ごめんね。あいつの言うことは気にしなくていいわ。だいたい」
「・・・・・ます」
話なんて、耳に入らない。
気がつけば、思ったことを口にしてしまっていた。
「え?」
「・・・私、やります」
今度は聞こえるように、はっきりと。真っ直ぐ、前を向いて。
辿り着いた場所は案外暗くて、踏み出すのが怖かった。何も見えずに怖くて立ちすくんでいると、『それ』は優しく・・・ではなく存外乱暴に背中を押した。
とん、と一歩踏み出してみると周りは少しだけ明るくなった。
一歩踏み出す勇気をくれた何かは、彼女の背中を押すとさっさと逃げてしまっていて。ありがとう。とお礼を言おうとした頃にはすっかり姿は見えなかった。
「よろしくお願いします」
・・・代わりはいない。そう言われて嬉しかったのは秘密だ。




