第十話
長らくお待た整理しました。
今回は騎士さま視点です。
面白くない。
誰にも聴こえないように呟くと、今度は無言でロゼティアと彼女を引き剥がした。
「ちょっと、何するのよ!?」
案の定、聞こえてくる抗議の声を軽く背中で聞き流す。
突然のことに、何が何だかといった様子でこちらを見返す彼女にそっと近づいた。
「大丈夫か?」
彼女の元気そうな様子を見て、少しだけ安心する。
ベッドに寝かされた彼女と会ったとき、息が止まりそうだったのを覚えている。意図せぬ胸の高鳴りと、その中に投じられた一抹の黒い影。
この感情の名は、何と言うのだろうか。期待と不安。喜びと悲しみ。相反する様々な感情が混ざり合って、心に犇めき合っている、という表現がしっくりくる。きっと、抱いている感情は一つではない。そう思うと、血が頭に登ってくる感覚がする。
それを認めたくない彼は、整理が出来なくて分からなくなっているのだろう、と勝手に結論付けた。
「・・・・・はい」
視線が、こちらに向けられる。
瞬間、長い黒髪がはらりと揺れた。
瞳は仮面に隠れて見えないものの、おそらく色は黒。自身に宿す色と同じ色。あれ程までに疎ましく思ったその色も、彼女が纏うのならば美しいと思ってしまう。
『私、キミの色好きだわ。夜と同じ、透明で綺麗な色』
かつて、自分に言われた言葉を思い出す。赤を纏ったその面差しは、目の前にいる彼女とは似つかぬものだったが、どこか懐かしく思う。
「ナイト」
自身の呼び名に、後ろに少し意識を向けた。
彼に名はない。かつては違う呼び名で呼ぶ者もいたが、今では便宜上、彼の役職名で呼ばせている。
「お取り込み中悪いけど」
本日二度目の邪魔に、彼---ナイトはため息をついた。