第九話
「どうだ!驚いたか・・・って、ちっとは反応してくれよ」
思わず、ため息が漏れた。
ちら、と盗み見た彼女の表情は見えないが、特に取り乱した様子もない。
突然連れてこられ不平不満どころか、不安な様子一つ見せない彼女に内心、驚愕していた。
「・・・・そう言われても・・」
彼女は、そっと呟いた。
そもそも、剣が喋り始めた時点で諦めはついていたのだが。
驚けと言われて、はいそうですか、とできるものでもない。感性の問題だ、こればっかりは仕方ないのだ。
納得でき、彼女は満足げに頷く。しかし、彼はそうではないようだった。
案の定、抗議の声が飛んでくる。
「俺のせいかよ!・・・てか、ふつーさ、もっとあるだろ。ワタシは今からどうなるのーとか、早く元の世界に戻りたいーとか、黒髪堅物野郎がうぜぇー、とか!」
「・・・ラグナ、うるさいぞ」
低く、嗜める声。
ぎぃ、と扉が開く音と共に数人分の足音が室内に入ってくる。
黒髪の青年の姿を見るやいなや、ラグナと呼ばれた剣は、げっ、と蛙が潰れたような声を出した。
「嫌なヤツがきたぜ」
彼は片眉をあげて、素直過ぎる感想を述べる剣を睨んでいた。
そして、ふとこちらに視線を向けると、何かを言おうと---した。
しかし。
「きゃああああっ!」
悲鳴に近い叫び声。
目の前にいた彼を押しのけると、どん、という衝撃と共に胸に柔らかいものが押し当てられた。
背中に回された腕の感触。伝わってくる熱。
抱きしめられている、ということに気づき、顔に熱が集まってくるのを感じた。
「やめろ、ロゼティア」
強い口調でやめろと言われ、渋々回された腕が解かれた。
はらり、と肩にかかっていた銀の髪が揺れる。
「邪魔しないでよ」
形の良い唇から、不機嫌な言葉が漏れる。
銀の髪に、紅い瞳。
女性らしい、丸みを帯びた体つき。
瞳と同じ色をしたドレスは、色白でスタイルの良い彼女によく似合う。
すっと通った鼻筋と意思の強そうな切れ長の瞳は、ただ美しいばかりでなく気高さを感じさせた。
美しい女性は、くるりとこちらを向き直ると手を取りにっこりと微笑んだ。




