第45話 子守の次は……
ミルドレッドの件も、エリアルの件も片付いた。ボクがこの国にいる必要は、もうない。あるとすれば、ブルーノの子守を解消することだろう。
そう思っていた矢先、まさにタイミングを見計らっていたかのように、国王から呼び出しを受けた。ただ場所が謁見の間ではなく、国王の執務室というのが気になった。
「よく来てくれた、魔女ユニティ」
「後始末の他に、王城にまで泊めてくれているんだ。世話をかけっぱなしなのに、これを無視したたらバチが当たるよ」
感謝を口にしているはずなのに、どうしてもいつもの軽口……いや、皮肉が出てしまう。けれど国王は、気にする様子もなく、長椅子に座るよう促した。視線を向けると、そこにはすでにブルーノの姿があった。
やっぱり……話とはそのことか。だからすぐに本題を切り出さず、先に相手の要件を聞くことにした。
「何があったんだい? わざわざボクを呼んだんだ。祭壇のことなんだろう?」
「あぁ。祭壇を破壊したことが、大聖堂側に知られたのだ。といってもこちらは、事前に公爵や宰相と詰めていたから、うまく黙らせたがな」
大聖堂側があぁだこうだ言ったところで、祭壇は王城にあり、一般国民の目に触れることはない。王城に出入りしている者や、働いている者でさえ、なかなかお目に掛かれないのである。
年に一度、建国祭でようやく国民が目にすることができる代物。その建国祭までに直してしまえば、壊れたことを国民が知ることはない。
唯一、大聖堂側が心配しているのは、莫大な修理費だろう。それはカーマイン公爵家が負担する、と約束を交わしていただけに、国王は何も心配していなかった。
「では何が問題なんだ?」
「祭壇が、ただのお飾りではなかった、ということだ」
「簡単に説明すると、代々の贄たちにより、この国が保たれていた、というわけなんだよ」
国王の言葉をブルーノが補足してくれた。それも重要なことを。
「つまり……この国は再び、贄を必要とする国になってしまったってことなの?」
「落ち着け、ユニティ。贄が必要だったのは、我が国の文明や技術が足りなかったからだ。神や見えないものに頼らざるを得なかった。だが、今は違う」
「そうだ。ブルーノの言う通り、我が国はもう、贄を必要とはしない」
「でも問題が起きたんだろう? それでボクを呼んだんじゃないのか!?」
思わずボクは立ち上がった。また余計なことをしてしまったのではないか、という焦燥感がそうさせたのだろう。ミルドレッドの時の光景が脳裏を過る。
「確かに問題は起きた。だが、贄を必要とするほどではない」
「じゃ、なんだっていうんだ」
すると、ブルーノが立ち上がり、ボクの肩に手を乗せた。
「我が国の守護がなくなったんだ」
「守、護?」
「どうやらあの祭壇は、災いから我が国を守るために造られたものだったんだ。その災いが、なんなのかは今調べているところだ。これがただの災害なら、今の我が国の技術でどうにかできるだろう。だが……」
「外部からのもの、という可能性もあるって言いたいんだね」
たとえば、魔物の侵攻か、正体不明の存在による災厄か……どちらにせよ、看過できない話である。
「今すぐに何かが起こるわけではないが、事前に備えておきたいんだ」
「うん。それは分かるけど……それとボクを呼んだ意味って……まさかっ!」
「我が国の技術で対処できるまで、祭壇の代わりに守護を頼みたいのだ」
「ま、魔女は一国に肩入れはできない。してはいけない決まりになっているんだよ。だから……」
「祭壇を壊したのはエリアルとギルバートだが、俺もユニティも共犯だろう?」
さらにいうと、祭壇を壊すように誘導したのはボクだ。エリアルを救うためには、それしか方法がなかったからで……。
あれ? 乙女ゲームはその後、どうなっていたのかな。いや、あれはそもそもゲームだから、その後のことなんか考えないで、ハッピーエンドで終わったのかも。おのれ~、開発者ども。ちゃんと最後まで考えてよ!
「国王とブルーノの意見も分かるけど、ボクの魔女としての立場もあるんだよ。たとえボクにも非があったとしても、規則を破るわけにはいかないからね」
「なるべくこちらも、対処を急ぐつもりだ。幸い、祭壇が壊れたことで、どのような仕組みだったのかを解明することができるからな。だが、間に合わない、ということもある。そうなった場合、国王として、国民に面目が立たない」
「……つまり、繋ぎとしてボクの守護……いや、加護がほしい、というのかい?」
「そうなのだ。分かってくれるか」
あまり分かりたくはないけど、ボクが蒔いてしまった種でもあるから仕方がない。そうボクが納得しかけた瞬間、国王はさらにおかしなことを言ってきた。
「仮に他の魔女たちに見つかった場合に備え、ブルーノを引き続き、そなたに預けたいのだが、いいだろうか」
「よ、よくないよ! それに子守はもう十分しただろう!」
何が不満なんだ。謹慎だって、必要ないくらい成長したじゃないか。
「子守ではない。人質だ」
「仮にも自分の息子だろう? 本人の目の前で人質って……」
「これはブルーノから言ってきたことだ」
「はぁ?」
ボクは思わずブルーノを見た。
「父上にはすでに、王位継承権を放棄する、と伝えた。一度問題を起こした俺が王になるより、弟の方が相応しいともな」
「理屈は分かるけど……」
なんだか勿体ないような気がした。学園の食堂で婚約破棄を言い渡してきた時のブルーノならいざ知らず、今のブルーノなら……と思ってしまったのだ。
「今の俺は、窮屈な王城にいるよりも、ユニティとこの国を見て回りたいんだ」
「誰も回るとは言っていないけど」
「そうか? 市場を散策している時のユニティは生き生きしていたが」
「あれは、山や森に籠っているだけだど出会えないものが、たくさんあるからで……」
「俺もだ。王城にいるだけでは、この国を知ることはできない。だが、国を回れば、巡り巡って父上と弟の支えになるだろう?」
理屈としては分かるけど……なんだろう、この押しの強さは。最初に子守を押しつけられた時の国王のようだ。
だけどあの時ほど悪くない、と思っている自分がいる。また、ブルーノと共にいられるのだという嬉しさが、心のどこかにあるのだ。
魔女として、特定の者や国に肩入れすることは許されない。だけど人間の寿命は短いのだから、一回くらい反してもいいか。隠れてやっている魔女も、おそらくいるだろう。
「仕方がない。また面倒を見てあげるよ」
子守ではなく、人質になったけどね。それでもブルーノにとっては関係なかったらしい。嬉しそうにしている姿を見ていたら、ボクもどうでもよくなったのだ。
まだまだ手のかかる王子様と、なんだかんだで引き受けてしまう魔女のボク。さて、次はどこへ行こうかな。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
実は主人公の魔女ユニティは、童話の眠れる森の美女の魔法使いと、シンデレラの魔法使いをイメージしました。
最初の祝福や、ピンチを救う、とか。そんな感じですね。
ユニティ自体の性格は、まったく彼女たちとはかけ離れているので、驚かれると思います。
でも、モデルというか、イメージはそちらから取っています。
また、入れ替え話、というのも書いてみたかったんです。
本来なら入れ替えというと、中身ですよね。
けれどこの話は、ユニティが魔法で姿を変えているので、他の入れ替えものとは違くなりました。
これは偏に、私の遊び心ですね。
ユニークな設定を考えるのが好きなんです。
そして重要なのはブルーノ。
第一章から比べると、本当に成長しました。
驚くほどに。
実は、婚約破棄してきた相手と寄りを戻す話を書いてみたかったんですが、ことごとく失敗しまして。
今回、再び挑戦したのが、これでした。
ユニティがサバサバした性格だったお陰でできたような感じです、はい。
一度、一刀両断した後、めげずにブルーノがついてきてくれました。
ジャンルもファンタジーにし、恋愛要素も気薄な中、成長し、ユニティに惹かれ、ヒーローに昇格。いえ、もぎ取った、といっても過言ではありません。
私の執筆では、キャラクターが動いてくれるため、そんな予期せぬ動きもします。
今回のブルーノはまさにそれで、ユニティを追いかけたい、というのも、ブルーノの提案でした。
二人が恋愛に発展するか否は、これからだ、という終わり方でしたが、いかがでしたでしょうか。
私的には、かなり挑戦した作品でした。
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