第34話 魔女への想い(ブルーノ視点)
林でゴロツキを倒した後、ユニティに別行動を提案されたが、意外と嫌な気分にはならなかった。ヴァルクの時は宿屋だったからか、置いていかれると焦ったのに不思議である。
おそらくユニティが、俺を邪魔に感じなくなったからだろう。それはそれで嬉しいが、所詮そこまで、と思うとやるせない。エリアルの件が片付いたら、そのまま王城に返す気でいるに違いないからだ。俺はまだ、共に過ごしたい、と思っていてもだ。
すぐそこには王城がある。どちらかというと、焦燥感はそっちの方だった。
「……ーノ殿。ルーノ殿!」
「あっ」
「ようやく気づいてくれましたか」
俺は今、ユニティがエリアル、いやカシルと「できれば二人だけで話したい」ということで、ギルバートの家に再び世話になっていた。それがどれくらいの時間なのかは、お互いに分からないからか、自警団にゴロツキの身柄を預けた後、他愛ない会話で帰路についた、というわけである。
ルーノという偽名は、元々王都で遊ぶために、自分の名前から捩ったもの。だから郊外とはいえ、王都である以上、偽名で呼ばれることには慣れているはずだったのに……妙にしっくりこない。
城から出て、王子という身分でなくても、ルーノと名乗っていた時と同じように、皆、気さくに接してくれるからだろう。ユニティは勿論のこと、カーマイン公爵夫妻からはもう、俺に対する敵意を感じない。
それを作ってくれたのは、間違いなくユニティなのだ。色々と乱暴ではあるが。不思議と惹きつけられる魅力があった。
「あの、お茶はいかがですか?」
「構わないが、今の俺は客としているわけじゃない。時間つぶしのために厄介になっているだけだ。だから気を遣わないでくれ」
「そんなわけにはいきません!」
ギルバートは荒々しく、カップをテーブルの上に置いた。その態度に驚いていると、なぜか真面目な顔で真正面に座られてしまった。
けれどギルバートは、戸惑う俺の態度などまるで見ていないかのように話し始めた。
「林で見た、カシルとユニティ殿。あの二人はどのような関係なのでしょうか?」
あぁ、抱き合っていたからな。同性とはいえ、好きな人が親兄弟以外と抱き合っていれば、気にならない方がおかしい。
俺の場合、ユニティの性格を知っているから、むしろアレを見てホッとしたほどだ。
「正確なことは知らないが、家族というか、親戚みたいなものだと、俺は思っている。カシルの幼い頃からの知り合いみたいだからな」
「そ、それほどの……だから助けに行った俺よりも、ユニティ殿を選んだ、ということなんですね」
「どうだろうな。この街に来た時、カシルの家を訪ねたが、俺たちを見たのにもかかわらず、去って行ったんだ。立場としてはギルバート殿と変わらないと思うぞ」
「そうは思えません。ユニティ殿の態度を見ると、カシルとは家族や親戚以上の関係に見えたし……」
不安なんだな。カシルの異変にいち早く気づいたのが自分なのに、横からかっさられた嫉妬心。相談してくれないもどかしさ。
でも一番嫌なのは……。
「ならどうして行動に移さなかった? 俺が言わなければ、カシルは林で、あの男たちに酷い目に遭わされていたんだぞ」
「っ!」
「分かっている。踏み込み過ぎれば、嫌われるんじゃないかって思っているんだろう? 俺も……今更どんな顔してアピールしたらいいのか、分からなくて、動けないんだ」
「ルーノ殿……」
「すまない。今のは忘れてくれ」
何を俺は口走っているんだ。目の前に好きな人がいるのに、何もできずにいるギルバートを見て、今の自分の状況と照らし合わせてしまった。
最初はただの嫌がらせだった。カーマイン公爵令嬢に成りすまし、周りを欺いたのにもかかわらず、処罰も何も受けていないあいつが許せなかったのだ。だから後を追った。
恥をかかされたから、何か弱味を掴もうという下心もあって。
だけど本当のユニティは、言動や態度とは裏腹に、弱い存在だった。人を欺き、運命を弄んだ割に、不器用な側面を見せる。
超人だと思っていた魔女に感じた、人間味あふれる行動の数々。力があるのに使わないとこなど、生き辛そうだな、と感じてしまう。そんな時、役に立ちたい、と思ってしまうのだ。不本意にも。
「だから逆に、カシルを凄いと感じるんだ」
「凄い、ですか?」
「まず行動力があるだろう? ユニティからギルバート殿を追って、この街に来たと言っていた」
さすがに貴族令嬢、しかも公爵令嬢だったことは言わない方がいいだろう。
「えっ、カシルが、ですか!? ど、どうして……」
そこまではユニティから聞いていないが、おそらくギルバートのことが好きだからだろう。女が身分を捨ててまで男を追う理由は一つしかない。だが、そこまで俺がいうのは野暮だろう。
「そこはカシルに聞くんだな。女をここまで動かしておいて、自分は待っている、なんてせこいことはしないだろう?」
「っ! た、確かに、ルーノ殿の言う通りですね。俺、カシルが襲われるかもって現実味を帯びた時、どうしようもない焦りを感じました。実際、それを目撃した時は、もうあの時の自分を殴りたいほどで。ルーノ殿に言われなかったら、今頃カシルは、と思うとさらにです」
「それは結果論でしかないが……間に合って良かったと、本当に思う」
俺は……どうだろうか。最初から好意を向けられている相手に尋ねるギルバートとは違って、俺の場合は、底辺だ。いや、マイナスからの出発だ。
いくら偽の婚約者であっても、浮気はよくなかった。今思うと、箒で叩かれるのも無理はない。信用すらされていなかったのだ。今のような信頼――といってもいいのか分からない――関係になって、初めて分かる現状。
「そもそもギルバート殿には聞く権利がある。林でカシルを助けたのは、まぎれもなくギルバート殿なのだからな。自信を持て」
「は、はい!」
まるで城にいる騎士のような返事に、ギルバートの素直さを垣間見たような気がした。他人に対して、まだ物を言えた立場ではない俺の言葉を鵜呑みにするのだから。
いや、この素直さが羨ましいと思ったのだ。俺も進まなければ。まだ共にいてもいい関係になるための一歩を踏み出すために。





