僕の天稟は③
2話お読みいただきありがとうございました。
3話目もよろしくお願いします。
「あと少しで着くはずだから、頑張って!」
「はい!」
フィエラにそう言われて僕は勢い良く返事をする。フィエラはきょろきょろ周りを確認しながら、走っている。追手が隠れていないか、注意しながら先行しているのだ。自分もマネしてきょろきょろするが、森の中で雨が降っているため視界が悪く何も分からない。ただ、先ほどは聞こえなくなっていた爆発音が後ろのほうからまた、聞こえてきて体が緊張していくのが分かる。無事につくのを心の底から願っていると、目の前に洞窟が見えてきた。
「ここを抜けた先に協力者がいるわ。」
「本当ですか!?」
「ええ、早くいきましょう。」
フィエラがそう言って、洞窟に入ろうとしたその瞬間だった――――――
「!! 危ない!」
フィエラはそう叫ぶと、突如僕のほうを向き、屈んで僕の足首の部分を思いっきり蹴った。僕の体は宙に一瞬浮くが、すぐ地面にたたきつけられる。突然のことで受け身が取れず、一瞬息ができなくなったが、そんなことはすぐにどうでもよくなった。なぜなら、倒れた自身の真上を火の玉がいくつも飛んで行ったのだ。そして、その火の玉は僕たちが先ほど入ろうとしていた洞窟に直撃した。また最初のように吹き飛ばされたが、今度はフィエラではなく木の幹に勢いよく激突し、衝撃で意識が一瞬飛んだかと、思うと今度は体中を度し難い痛みが襲ってきた。僕は思わず嗚咽する。口からとんでもない量の血が出てきた。
「ネル! 大丈夫!?」
フィエラが駆け寄ってきた。彼女も全身怪我をしていたが、僕よりはましなようだ。彼女は僕の体を触り、容体を確認しているようだった。
「・・・っ! ヤバいわね。」
そう口にすると、フィエラは僕を背中に乗せ、また森の中へ移動し始めた。洞窟はどうやら入り口が崩落し、使えなくなり、僕も大怪我を負ってしまい、敵がすぐ近くまで接近しているであろうことを考えると、突如としてとてつもない不安感が自信を襲ってきた。うまくいっていたのにどうしてだ。朦朧としてきた意識の中でフィエラの声掛けと同時に自分の中から「ね・・・るね・る」と謎の声が聞こえてきたかと思うと、周りがグニャグニャと不安定になってきた。そして、次の瞬間ストンと自分の意識がどこか別の場所に移動したのを感じた。
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「旦那様!! おめでとうございます!! 元気な男の子ですよ!!」
そう女性の声が聞こえてきて、目を開けるとそこは煌びやかな天井だった。自分はどうやらあおむけの状態らしい。体を動かそうとするも、自由に動かない。意識だけがはっきりしている。先ほどの怪我のせいかとも思ったが不思議と痛みは感じない。逆に謎の心地よさと充足感を感じる。
「おお! この子が!」
今度は男性の声が聞こえてきたかと思うと、自分のすぐ真上に男性の顔がにょきっと出てきた。とんでもない大男が来たかと一瞬思ったが、違う。僕が小さくなっているのだ。いや、正確にはどうやら僕は赤ちゃんになっているらしい。先ほどまではボロボロで動けなかったのに気づいたら赤ちゃんになっているのはどういう事だろうか。事態を飲み込めずにいると、体を持ち上げられるのを感じた。持ち上げたのは先ほどの男性だ。僕の顔をじっと見つめているかと思うと、男性はぽろぽろ泣き始めた。それをすぐ隣に見ていたおばあさんがビックリした顔をしていた。
「まぁ! 一国の王が泣いてどうしますか! シャキッとしなさい!」
「ばあや! 今日ぐらい許してくれよ!」
「喋り方が戻ってますわよ! それに泣くぐらい嬉しいのは頑張った奥様の方です!」
「おお! 確かにそうだな! ポルカ! 本当にありがとう! 元気な男の子だ!」
そう言って、ベットの上に寝ている女性に僕は優しく手渡された。僕を抱きかかえた女性の顔は、額汗をかいていたが、とても綺麗で慈愛に満ち溢れているように感じた。
「あなたの名前はネル。可愛い可愛い、私たちの子供よ。生まれてきてくれてありがとう。あなたは愛されて生まれてきたの。」
そして、そっと赤ん坊になっている僕のおでこにキスをすると、何か優しいものが僕の中に入ってきて、僕は意識がまた遠のいてくのを感じた。
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次に意識がはっきりしたのは、また森の中だった。雨は止んでおり、度し難かった体の痛みは大部分がマシになっていた。フィエラの手当ての跡があったから、きっとそのおかげであろう。地面に横たわっていた身体をゆっくり起こす。
「ネル! 意識が戻ったのね! よかった!」
そう言って、周りを警戒していたであろうフィエラが近づいてきた。
「フィエラさん、手当てありがとうございます! もうほとんどいたくないです。いつでも動けます。」
「そう、さすがネルね。常人なら絶対に動けないのに、もう動けるなんて。本当に凄いわ。」
そう褒められると少し照れるが、今はそんな状況じゃないのは分かっていた。フィエラは「落ち着いて聞いて」と話し始めた。
「洞窟の入り口を塞がれて、追手もすぐそこまで迫っているこの状況中々ヤバイわ。」
「どうするんですか?」
「あなたがカギよ。洞窟の入り口は一つじゃないの。実は裏口がある。でも、その詳しい場所を私は知らない。大雑把な場所は見当ついてるんだけど、正確な地点を知っているのはネルだけ。」
「でも、それは記憶があるときの僕であって今の僕は・・・」
「話はまだ続きがあるわ。ネルはね、前言ってたの。その入り口は自分だけが分かるように目印がしてあるって。だから、その目印を今から探しに行くわ。」
そう言った、フィエラの表情は曇っていた。まだ何か心配なことがあるのだろうか。
「ネル、その場所はね、魔物が出るの。だから、その場所に着いたら一時的にあなたの力の一端を解放するわ。あなたの力は魔物除けにもなるし、きっと目印もその力を利用したものだと思うから。ただ、あなたが少しでも力を解放すると、敵も必ず察知する。だから——————」
彼女は次の瞬間覚悟を決めた顔をした。
「私が追手を足止めする。」
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