等級と貢献度
蒼一とブリ雄は簡易的な査定を終え、結果の記載された紙を引き換えに受付でお金を受け取る。
「残り分はこちらの証憑と引き換えになりますので、明日の夕方以降に忘れずにお持ちください」
「分かりました」
「それでは、こちらが本日分の二万七千円となります」
「そこも訳されてるのかよ……」
「はい?」
「あ、何でもないです」
受付嬢の口から飛び出た馴染みのあり過ぎる単位に思わず零れ出た言葉を誤魔化しつつ、蒼一はカウンターに乗せられた硬貨を胸ポケットへとしまう。
翻訳の所為で単位が円となっているが、その外観は日本円硬貨とは違い裏に国章のある硬貨で、例を挙げるなら国章そのもののデザインはまるで違う物の表に金額、裏に国章というのはシンガポールの硬貨に似ていた。
受付から離れ遠くで待っていたガルフ達の方へと向かうと、ガルフが軽く手を挙げながら声を掛けてくる。
「どうよ、いくらになった?」
「二万七千、これって多いのか?」
「ん-……新兵の基準でならその日の稼ぎとしてはそれなり――あ、でもまだ未払い分があるんだっけか?」
トリシャの話では二割、三割は今日中に渡せるという事だったので、それを考慮しザックリと計算すると日給十万、元の世界の感覚で考えればかなりの稼ぎだが、今日のガルフ達のように死の危険がつき纏う事を考えるとむしろ安いのかもしれない。
「胴体で得するか損するかは分からないけど、多分全体で十万くらいの稼ぎにはなるか?」
「とすれば俺らからしたらかなりの額だな。新兵で受けられる依頼じゃ一万、二万が良いところだし、モンスターの素材を納めずに売ったとしても……まぁその日だけで四万いけば上出来って感じだ」
「モンスターの素材を納める?」
それはどういう意味だと首を傾げる蒼一に、横で話を聞いていたカリルが答える。
「ニーヴァに限らず会社には貢献度があって、依頼を達成したりモンスターの素材を売却せず会社に納めれば貢献度が溜まって、一定に達すれば等級を上げられるのよ」
「等級ってのは新兵とか言ってた奴か?」
「そうね、私達は一番下の新兵でニーヴァの等級だと次は戦士、術師、盗賊、僧侶、薬師のどれかから選択する事になるわね」
「段階だけじゃなくて種類も変わって来るのか?」
「ニーヴァには色々な仕事が集まって来るの。戦闘だけじゃなく治療や生産など様々、だからそれらの仕事を適切な技術を持った者達に振り分ける為に、種類もそれに合わせて用意されているのよ」
例えば三等級の人間しか受けられない生産系の依頼があったとして、等級が一種類しか無ければ今まで戦闘で等級を上げて来たような人間でも生産系の依頼を受けられる事になってしまう。
そんな自分の適性に合わない仕事を選ぶ人間が居るのかと疑問に思うかも知れないが、実際にモンスターとの戦闘で負傷し戦えなくなった者や今までやった事なかったからという興味本位など適正も無いのに受けようとする人間が少なからずおり、その為に等級にも種類が用意されるようになった。
「付け加えるなら戦闘系に分類される戦士や魔術師は段階も他と比べてかなり多い。他は三段階程度だが、戦士は戦士、重戦士、騎士、重騎士、聖騎士と五段階になる。術師の場合は術師、魔術師、魔導師と段階こそ少ないが、術師から派生で死霊術師、召喚師なんかがあって横に広かったりする」
「おぉう……結構複雑なんだな」
当初はAランクやBランクといった分かり易い等級をイメージしていた蒼一は予想外に複雑な等級に混乱していると、それを見かねたルドルフが口を挟む。
「まぁニーヴァは手広くやってるからな。生産専門とか治療専門で売ってる会社と比べるとややこしく見えるかもしれんが、結局のところは自分が進む等級の事だけ覚え解けば問題ないぞ」
「手広くとはいっても依頼の比率自体は戦闘系が八割だけどね」
「まぁ敢えてうちに生産や治療の依頼を出す意味は薄いからなー……今掲示板に張り出されてるのも外部の依頼じゃなくてニーヴァが出してる依頼が殆どだし」
「ニーヴァが依頼を?」
「あぁ、例えば俺らみたいな戦闘職が持ち帰ったモンスターの素材を使って薬を作らせたりとか、怪我した戦闘職の人間の治療とか、外部に依頼するとどうしても仲介費が発生するから可能な限り内々で済ませようとするんだ。それに戦闘職にもニーヴァからの依頼ってのはあって、例えば俺が受けた無茶して死に掛けた新人の保護とかな」
「なるほど」
支出を可能な限り抑えようとするのは会社として当然の事だが、実はニーヴァに所属する者達にとっても有難い事だったりする。
自分達の組織内で薬の調達や治療が出来るというのはいざそれが必要になった時に仲介料を払う必要も無く安く済ませる事が出来るという福利厚生としても機能していた。
逆に専門でやってるところは自分達が手を回していない分野の事になると外部に頼らなければならなくなり、仲介料が発生して高くつくのでそこも会社を選ぶ基準として重要視されている。
ルドルフ達から会社について色々と話を聞き、ガルフに立て替えて貰った五千円を渡してから、ついでにオススメの宿を聞いてから蒼一とブリ雄はニーヴァを後にするのだった。