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モンスターの査定

モンスターの素材を買い取りして貰う事になった蒼一とブリ雄は森での成果をカウンターの前に出し、見ていた者達の度肝を抜いた――という事も無かった。

当たり前だが受付はあくまでも受付であって、モンスターの素材を保管する場所ではないのだ。

依頼をする側の人間も勿論やってくるのだからそんな場所でグロテスクな物を出す訳にもいかないし、血や臓物で床を汚されたら堪ったものではない。


という訳で衆人環視の中で成果を見せびらかし"こ、これは!?"というテンプレ展開を逃した蒼一は若干テンションを落としつつ、案内された倉庫までやって来た。

当然だが、受付のあったホールと比べて倉庫の人は少なく、依頼から帰って来たと思われる者達の出入り自体は頻繁だが、モンスターの素材を置いて行ったら直ぐに出て行ってしまうので人の数自体は変わらない。


その光景を眺めていた蒼一がふと近くに居たガルフに疑問をぶつける。


「そう言えば気になってたんだけどさ」

「どうした?」

「皆、小さい袋からモンスターの素材を取り出してるが、あの手の道具って一般的なのか?」


この手のお話のお約束ともいえる所謂マジックバッグ、殆どの場合レアアイテムとして扱われている道具だが、先程から出入りしている者達は皆明らかに手に持った袋の許容量を超えた素材を取り出していくのを見てここでは一般的に普及しているのかと蒼一はガルフに尋ねた。


「あぁ、魔術袋なら俺も持ってるぞ。と言っても新兵の俺らじゃ大した容量の物は買えないけど、普通に雑貨屋とかで売ってるな」

「魔術袋、ね」


直訳にも程があるだろうとかもっと他に良い訳があっただろうにとか、思わずツッコミそうになるのを蒼一が堪えていると、倉庫に居た職員らしき人間が蒼一達に近づいて来る。


「トリシャから聞いたが、お前らが狂気の森からやって来たって二人組か?」

「狂気の森を超えて(・・・)、ですよ。なんで皆そこを省くんだろうな……」

「狂気の森という言葉がそれだけのネームバリューを持っているという事なんでしょうね。細かいところに気が回らなくなるくらいには」

「"から来た"と"超えて来た"は細かくねぇよ」


ブリ雄の分析にツッコミを入れつつ、蒼一は職員へと向き直り挨拶をする。


「俺は蒼一、こっちはブリ雄です。今日は俺達が持ってきたモンスターの素材を――」

「あーあー、そういう前置きは良い、話は聞いてるからさっさと出せ」

「……分かりました。ブリ雄頼んだ」

「畏まりました」


蒼一の言葉にブリ雄が杖を掲げ、てっきり袋からモンスターの素材を取り出すと考えていた者達はブリ雄の行動の意図を理解出来ず、疑問符を浮かべていた時だ。

ブリ雄達が立つ場所から少しだけ離れた位置に黒い穴が広がり、ボトボトとモンスターの亡骸が雪崩のように穴から溢れ出す。


「うおっ!?これは」

「空間魔術とは、また珍しい物を……しかもこの量は」

「あんな袋があっても空間魔術ってのは珍しいのか?」

「そりゃな。魔術袋なんて昔に作られた術式をただ複製して作ってるだけだし、実際に扱える人間はそう多くない」

「術式があるならそれを使って空間魔術を扱う事は出来るんじゃ?」

「蒼一、お前術式を自分で構築するって事した事無いだろ」


物を知らない蒼一に対し、ルドルフは若干呆れた様子で説明する。

人間が使う術式は大まかに三つの部品に分ける事ができ、一つ目は接続と呼ばれる魔力の補給口、二つ目は外輪と呼ばれる補給口より流された魔力を術式内で循環させる為の輪、そして最後が術式の肝となる中核、その魔術の属性や効力について記述された部分だ。


「人間が使う術式はこの三つから構成された物だが、道具等に転写して使う場合はその用途に合わせて構成を変えて構築しなきゃならないんだ」


例えばルドルフ達が魔術袋と呼んでいる道具の場合、常時発動タイプで魔力を注ぐという真似をしない為、接続が存在しない代わりに大気の魔力を自動的に集めて発動するような構成に組み替えてあったり、所有者が魔力を注いで力を発揮する所謂魔剣のような代物の場合は接続は存在するが外輪で魔力を循環させるような真似をせず、発動と同時に即座に解き放たれるよう設計されていたりと人が使う術式とは構成がかなり異なる。


「特に厄介なのは中核で人の持つ魔力の質によっては全く同じ術式でも発動したりしなかったりする。そこは個人の魔力の特性に合わせて調節していくしか無い訳だが、そうなるとまずその術式自体をちゃんと理解してなきゃ弄りようがない。さてここで蒼一に質問だが道具用に構成を色々と弄り回された術式から人が使う為に不必要な部分を空間魔術の術式に影響が出ないよう取り除き、接続と外輪を付けた上で自分が使えるよう更に調整するなんて真似をお前は出来るのか?」

「無理だな」

「だろう?」


逡巡する事も無く即答した蒼一にルドルフは自分の説明が上手く伝わった事に子供のような笑みを浮かべる。

蒼一とルドルフがそんなやり取りをしてる間に職員は積み上げられたモンスターの亡骸を簡単に査定していく。


「綺麗に倒してあるのもあれば破損が酷いのもあるし、これは面倒な……そもそも部位毎じゃなくて丸のままの査定なんてどうしろってんだ」

「今までそのまま持ち込まれた事は無かったのですか?」

「ある訳ないだろう。袋の口の大きさを考えてもみろ。小型のモンスターなら兎も角、あれにどうやってこの大きさのモンスターを丸のまま入れるってんだ」

「……確かに、仰る通りで」

「だから基本は素材だけとか、持ち込まれても手足とかが精々だったのに、まさか胴体付きとはな……正直、解体費に素材として使えない内臓や肉の処分を考えると胴体に関しちゃ買い取り以前に処分費で金を取らなきゃならんかもしれん」

「それは困りますね」

「そいつはこっちも同感だよ。この大きさで丸のままの持ち込みなんてこれが初めてだからな。流石に俺だけじゃ決め兼ねるから支部長と相談せにゃならん」

「ただのモンスターの買い取り一つにそこまでするのですか?」

「当たり前だ。少なくとも俺の知る限りうちじゃ前例がない以上、その前例を作るとなれば今後同様の事があればそれに従って対応する事になる。となれば支部長に相談するのは妥当だろう」


一度前例を作ってしまえば後でどんな不都合が出たとしてもその前例を無かった事には出来ない。

故にそれがどんな些細な事であってもそういうところだけはしっかりとする必要があるのだ。


「ま、安心しろ。胴体の件は一旦おいといてそれ以外の部位で査定はしてやる。後日の残り分の精算の時にもしかしたら胴体の処分費で多少損する事はあるかもしれないが、流石に持ち込んだ素材分が吹っ飛ぶような事にはならねぇよ」


胴体の件で予定が狂うのではないかと危惧していたブリ雄だったが、少なくとも当初の予定通り今日中に幾許かの金銭が支払われる事と全体で見ても損する事は無いという言葉を受け、安堵の溜息をつく。


「それで、これだけじゃあ無いだろ?」

「はい?」

「恍けんなよ。ここにあるのはスルク近隣に居るモンスターだけだ。狂気の森を超えて来たってんなら、一体も遭遇せずに森を抜けて来ましたなんて訳は無いだろう?」


本当に狂気の森を超えて来たのならそこで倒したモンスターを見せてみろと職員がブリ雄に言うと、ブリ雄は考える素振りを見せる。

狂気の森なんて場所からやって来たなんてのは嘘っぱちである以上、そこで倒したモンスターを見せろと言われても見せる事は出来ない。

となるとブリ雄が出来る返答としては上手く索敵してモンスターを避けながら来たと言うか、或いは倒しはしたが他のモンスター達に追われて回収する暇も無かったと言うかだろう。

前者は蒼一の世界としての知覚を使えば不可能ではないがそれを何も知らない他人に理解しろというのは難しいし馬鹿正直に説明したところで信じて貰える筈もない。

とすれば後者が一番現実的で同意も得られ易いに違いないが、ここは狂気の森を超えて来たという嘘を事実と認識させる為にブリ雄は一芝居打つことにするのだった。

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