探り合い
蒼一とブリ雄の二人はルドルフ達の協力で無事にスルクの街へと入り、ニーヴァに報告に戻るというルドルフ達とそのまま行動を共にしていた。
その理由は道中で狩ったモンスターの換金と街へ入る為の税金をガルフに変わり払って貰ったのでそれを返す為である。
「俺としてはソーリャを僧侶に見せるより安上がりに済んだ訳だし、別に構わないんだけどな」
「気持ちは有難いけど、こっちは街に入るのに協力する対価としてソーリャを治療した訳だからな。金まで貰えないさ」
「街に入るのに協力するって意味では肩代わりじゃなくてそのまま普通に払ってしまっても問題ない気がするんだが……まぁ新兵の俺らからしたらそこまで金に余裕がある訳じゃないし、貰えるもんは貰うけどよ」
そんな事を話しつつ、ルドルフ達の先導でニーヴァに向かう一行、ローブ姿のブリ雄は兎も角、作業着を着た蒼一はかなり目立っており人目をかなり集めていた。
(これはアレだな。ギルドに到着したら絡まれるテンプレがあるな)
視線を肌で感じつつ、そんな呑気な事を考えている間に目的地であるニーヴァのスルク拠点へと到着する。
外観は石造りのしっかりとしたもので、ニーヴァの所有する建物である事を示す紋章が両開きの扉の上に掲げられていた。
「いかにもって感じだな」
「何だその感想は?」
「俺の知識じゃギルド――あーそっちで言う会社の建物ってのはこういうもんだってイメージがあるんだよ」
「イメージ?」
「そこは伝わらないのな……印象って言えば伝わるか?」
「あぁなるほど、印象な。そういう印象があるって事は誰かから聞いたり本を読んだりしたのか?」
「まぁそんな感じだ」
ガルフとそんな会話をしつつ、一行は扉を潜りニーヴァの建物内へと足を踏み入れる。
チリンチリンと鈴の音が響き、建物内に居た何人かが視線を入り口に向け、先頭からルドルフ、ガルフ、イリョーシュ、カリル、ソーリャ、ドリントと視線が移動し、最後尾を歩いていたブリ雄と蒼一でその視線がピタリと止まる。
視線が向けられた瞬間、"これは"とテンプレ的な展開を想像した蒼一だったが視線が集まるだけで絡むどころか声を掛けてくる者も居らず、蒼一達はルドルフ達の後に続くようにカウンターに並ぶ。
「ルドルフさん、お帰りなさい。今日はどうでしたか?」
「見ての通りだ。危うく死に掛けた新人共を連れ帰って来た。一昨日に出したドザードの群れに関する情報、ちゃんと下の方まで伝わって無かったみたいだぞ」
「何時もの掲示板に張り出してはおいたんですがね……皆さん依頼の掲示板の方ばかり見て、そっちを見ない人が多いんです」
彼らみたいにと、ルドルフと話ていた女性がガルフ達に視線を向け、そんな視線を向けられたガルフ達はバツの悪そうな顔をして俯いていた。
「こうして無事に帰って来たんだから、勘弁してやってくれ」
「ルドルフさんは甘いんです。私だって好きで憎まれ役になりたい訳じゃありませんが、そこで優しさを見せた結果彼らが死んでしまっては、そんな優しさに何の価値も無いんですよ」
「そりゃあ……そうだけどな」
「ルドルフさんも優しいだけじゃなく、時には厳しく接してください」
自分の半分程度しか歳を重ねていない年下の女性に怒られるルドルフの姿は娘に叱られる父親のようで一見微笑ましくも見えるが、その内容は他人の生き死にを左右する重要な物なのでそれを微笑ましいと思う者は誰も居ない。
「それでドザードの群れの討伐証の方は?ニーヴァの方で依頼を出していたので、事後にはなりますが達成とする事も出来ますけど」
「あーそれが、大した金にならんし剥ぎ取るのも面倒だったからな……何とかならねぇか?」
「なりませんね。私に出来るのは個人的な感謝の気持ちと労いの言葉をかけるくらいでしょうか。タダ働きご苦労様です」
ピシャリと言い放たれた言葉にルドルフが肩を落とすも、すぐに気を持ち直して顔を上げる。
「でもコイツらを連れ帰ったんだから、そっちの依頼は達成で良いんだよな?」
「えぇ、ガルフさん達から話を聞いて、その内容次第ですが」
という事でガルフ達はカウンターの前に呼ばれ、一人一人ルドルフに助けられた時の事を細かく説明し、五人の話を聞き終えた受付嬢はその内容を紙に記してからそっとペンを置く。
「この内容なら救援依頼の方は達成で問題無いでしょう」
「そっか、いやぁタダ働きになんなくて本当に良かったぜ。これで一切金が入って来なかったら今夜の酒代をどうやって捻出しようか考えてたところだ」
「その時は飲まなきゃ良いんじゃないか?」
「馬鹿野郎!酒は命の水だろうが!飲まなきゃ生きていけねぇんだよ!!」
後ろでずっと話を聞いていた蒼一が冷静にそうツッコミを入れるも、ルドルフは意味不明な理論でそのツッコミを突っ撥ねた。
蒼一も酒は好きな人間だが、流石に命の水と断言する程の酒好きではなく、そこまで断言したルドルフに呆れた視線を向けていると、受付嬢が蒼一とブリ雄を呼び付ける。
「じゃあ次はそっちのお二人ね。こっち来て」
「あ、はい」
「初めまして、私はニーヴァで事務仕事をしてるトリシャよ」
「俺は蒼一です」
「私はブリ雄です」
トリシャは顔を二人に向けたまま器用に会話の内容を書き取りしていく。
「蒼一にブリ雄……ね。一応五人の話で貴方達に関する事も聞いてるけど改めて質問するわ。貴方達はあの狂気の森の奥からやって来た、それは本当?」
狂気の森の名前がトリシャの口から語られた瞬間、ザワリとニーヴァ内の空気がどよめき立つ。
これはトリシャがわざと大きな声で聞き耳を立てていた者達全員に聞こえるように発言した為だ。
何故そんな真似をしたのかと言えば、そうする事でニーヴァ中の視線を蒼一とブリ雄に集めさせ、二人にプレッシャーを与えるのが目的だった。
「はい、正確に言えば別にミーノファルスの奥深くに住んで居た訳ではありません。あくまで森を超えた先に住んで居たのであって、そこは誤解無きようお願いします」
「……へぇ」
狂気の森を超えて来たなんて十人中十人が戯言だと切り捨てるような荒唐無稽な内容をこれ程の視線を集めた状態で堂々と言い切った事にトリシャが関心したように吐息を漏らす。
その一方でそれを傍で見ていた蒼一とルドルフ達は青い顔をして二人のやり取りを見守っていた。
蒼一はボロが出ないかという不安で顔を青くし、ルドルフ達はトリシャの挑発的な態度にブリ雄がキレて暴れないかという不安で顔を青くする。
そんな外野の不安など露知らず、二人は会話という名の腹の探り合いを繰り広げていく。
ブリ雄は迂闊な事を喋らされる前に本題に入ろうとし、トリシャは言葉巧みに会話を誘導して長引かせ綻びを見つけようとする。
「――という訳でしてね。こちらでモンスターの買い取りをして頂きたいのですよ」
「なるほど、ただ外部の方ですと買い取り依頼という形になりますので書類は勿論、お時間を頂く事になります。今日はもう遅いですからね……今日のところはお話だけでまた明日改めて来て頂いた方が――」
一行に終わる気配の見えない二人の会話、依頼を終えて受付に並ぶ冒険者の背後から無言のプレッシャーに堪え兼ねたガルフが二人の間に割って入った。
「あの、トリシャさん!無理を承知でそこをどうにか出来ないですか?。二人にはソーリャを助けて貰いましたし、それに立て替えた金を返して貰う約束してるので俺達としても早い方が嬉しいんですけど」
新兵であるガルフ達にしてみれば金はあって困る事は無い。
しかし立て替えた金額は是が非でも返して欲しいという程の大金でもないのでそこまで急ぐ理由は無いのだが、そう言えばトリシャも無碍には出来ないだろうという打算があっての事だ。
「……分かりました。ただ満額直ぐにというのは流石に無理ですので、大まかに査定してその二割、いえ三割程度までなら即日お支払い出来ます。残りは後日という形で依頼金を差し引いた金額でお渡しする事になりますが」
「それで問題有りません。蒼一様もそれで宜しいですね?」
「え?あ、おう」
終る気配が見えないと思っていたら何時の間にやら話が纏まり、完全に気を抜いていた蒼一は曖昧にそう返し、モンスターの素材を買い取りして貰う運びとなるのであった。




